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第1話 パーティから追い出された
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「レイド、すまないがもう君とはパーティを組めない。出て行ってくれないか」
ここ冒険者たちが集う都市フルニク。その宿屋の一角。もちろん駆け出しの冒険者が使うような安宿ではない。一泊銀貨30枚。安い宿なら一ヶ月は住めるような場所だ。
その宿の相部屋で、二人の男がいた。一人は青黒いローブと皮鎧を着た男。ベッドに腰を掛け、もう一人の男を睨んでいる。銀髪の三白眼。目つきは悪いが、非常に整った顔立ちをしており、所謂近寄り難いタイプの美形だ。
もう一人は金属の鎧に身を包んだ男。金髪の長い髪が首に掛かりそうな程であり、こちらは甘い顔立ちをしていることもあり、どこか母性を刺激されるタイプの美形である。両者極端な男が二人向き合った状態。
「……なぁ。なんでだよ。おかしいだろうがよぉ!!!」
「すまない」
銀髪の男レイドは吠えた。
レイドの怒声に金髪の男アルトは頭を下げたまま顔を上げない。
俺は混乱していた。
なんでこんな事を言われないといけない?
「俺達上手くいってただろ! なぁ覚えてるか、オークの群れに襲われた時の事だ」
「ああ。覚えてるとも」
「俺がお前らを守るために、オークたちの群れに飛び込んでいったな」
オークの群れを討伐する依頼を受けた。だが、オークの数は優に数百匹。当然上位種であるオークキングもいた。しかしそれは序章でしかなかった。
「もちろん覚えているよ、レイド。あのオークの群れが突然発生した理由は元々オークの住処があった場所に上位の地龍が現れたからだったね」
「そうだ。オーク共と戦いながら俺はその地龍とも戦い、お前たちを守った!」
中々の激闘だった。迫りくるオークの群れを魔法で倒し、さらには巨大な地龍と戦う。実に胸躍る戦いだったと言える。
「ああ。君のお陰で僕たちは助かった」
「そうだろう。そういえば、沼地にいった時の事を覚えてるか?」
「もちろんだ」
「あの時、古代遺跡を見つけて旧時代のゴーレムが襲ってきた時があっただろう。あの時も俺は遺跡の殺人トラップとミスリスゴーレムたちと戦ったな」
遺跡に搭載された防衛機能を掻い潜り、襲ってくるゴーレムを倒し、全部素材として持ち帰った。中々いい金になった。あの日の豪遊は忘れられない。
「レイド。あの遺跡は今じゃ禁止区域になっているらしいよ」
「そうなのか? ミスリル取り放題だろうに」
「普通はミスリル製のゴーレムを倒す手段はないからね」
勿体無いものだ。確かに硬いが倒せない敵じゃない。金がなくなったらまた狩りに行こうと思ってたんだがな、残念だ。
「そういえば、盗賊退治の依頼の件。覚えてるか?」
「もちろんだ。貴族の馬車を襲った盗賊を退治するっていう簡単な任務だったからね。……もっとも、実はその山賊が隣国の騎士達で、なにやら秘密文書のやり取りをしていたなんて思いもしなかったけさ」
「あぁ、あの時ボコボコにした騎士団長の奴覚えてるか? 何が重大な協定違反だよ。先に国境越えて賊まがいのことしてたのはてめぇらだろうがよ、ってなぁ?」
ここはラトリーシャ王国の最北端の都市なんだが、ここから北方には何年も戦争を繰り返しているハンス王国という国がある。
数年前のゴタゴタで停戦協定を結び最近は平和になっているが、元々ラトリーシャとハンスは犬猿の仲であり、しょっちゅう戦争をしている。いつか停戦協定を破り、また戦争が起きると思っていたが、まさかラトリーシャ国の貴族とハンス国の貴族が共謀しており、なにやら悪巧みをしているようだ。もっとも、そのやり取りに使っていた書類も、ハンス国の騎士団団長、他数百名の部下も全員捕縛し、国に渡したから問題ないだろう。
「いやぁ楽しかったよな。――なのに、なんで解散なんだ!」
「……解散じゃない。申し訳ないが、レイド。君にパーティから出て行ってほしい」
「だからどうしてだよ!! 俺は必死にお前たちを守っただろ!? 金だって手に入ったはずだ! なんでだよ……俺たちの絆は嘘だったのかよ。一緒にデカくなろうって約束したあの日の酒は嘘だったのかよぉ!!!」
俺は絶望していた。気のいい奴らだと思っていた。なのに、俺だけ追い出すなんて、どうしてだよ。
「レイド。君のせいじゃない。僕たちが君に付いていけないんだ。――なぁレイド。今君が語ってくれた思い出を忘れるはずが無いだろう。なんせ――君とパーティを組んだのは3日前なんだぞ! 酒を飲んだっていうが、あれはパーティを組んだ初日の話だろう!」
ここにきてアルトは溜まった物を吐き出すように声を上げた。
「……時間なんて関係ないだろ?」
そう、俺がアルトたちとパーティを組んだのは3日前だ。でも、時間なんて関係ない。俺たち誰よりも濃く濃密な時間を過ごしたはずだ。
「濃密なんてものじゃないんだよ、レイド! 3日。そうたった3日だ。なんで君とパーティを組んでたった3日で上位の地龍と戦い、未発見の古代遺跡を発見し、ハンス王国の企てを止めるなんて事になるんだ!!」
「お、俺のせいじゃ……」
「そうだ。分かってる。君のせいじゃない、レイド。でも、君とパーティを組んでからずっとそうだ! 正直付いていけない。地龍に足を食われた時も、ゴーレムに腹を潰され、骨と内臓が飛び出した時も、騎士達に矢で針ねずみのように矢を射られた時も、全部君が持っている最上級ポーションで治癒してくれた。そして、迫りくる敵は全部君が倒した! そうしなければ僕たちは間違いなく、いや確実に死んでいた。――もう無理だ。無理なんだ。すまないレイド」
そういって泣き出したアルトを俺は責めることが出来なかった。静かに肩を叩き、静かに部屋を後にした。あぁ、屋内なのに雨が降ってやがる。今日の雨は少し塩辛いな。
そうして俺はパーティを追い出された。
ここ冒険者たちが集う都市フルニク。その宿屋の一角。もちろん駆け出しの冒険者が使うような安宿ではない。一泊銀貨30枚。安い宿なら一ヶ月は住めるような場所だ。
その宿の相部屋で、二人の男がいた。一人は青黒いローブと皮鎧を着た男。ベッドに腰を掛け、もう一人の男を睨んでいる。銀髪の三白眼。目つきは悪いが、非常に整った顔立ちをしており、所謂近寄り難いタイプの美形だ。
もう一人は金属の鎧に身を包んだ男。金髪の長い髪が首に掛かりそうな程であり、こちらは甘い顔立ちをしていることもあり、どこか母性を刺激されるタイプの美形である。両者極端な男が二人向き合った状態。
「……なぁ。なんでだよ。おかしいだろうがよぉ!!!」
「すまない」
銀髪の男レイドは吠えた。
レイドの怒声に金髪の男アルトは頭を下げたまま顔を上げない。
俺は混乱していた。
なんでこんな事を言われないといけない?
「俺達上手くいってただろ! なぁ覚えてるか、オークの群れに襲われた時の事だ」
「ああ。覚えてるとも」
「俺がお前らを守るために、オークたちの群れに飛び込んでいったな」
オークの群れを討伐する依頼を受けた。だが、オークの数は優に数百匹。当然上位種であるオークキングもいた。しかしそれは序章でしかなかった。
「もちろん覚えているよ、レイド。あのオークの群れが突然発生した理由は元々オークの住処があった場所に上位の地龍が現れたからだったね」
「そうだ。オーク共と戦いながら俺はその地龍とも戦い、お前たちを守った!」
中々の激闘だった。迫りくるオークの群れを魔法で倒し、さらには巨大な地龍と戦う。実に胸躍る戦いだったと言える。
「ああ。君のお陰で僕たちは助かった」
「そうだろう。そういえば、沼地にいった時の事を覚えてるか?」
「もちろんだ」
「あの時、古代遺跡を見つけて旧時代のゴーレムが襲ってきた時があっただろう。あの時も俺は遺跡の殺人トラップとミスリスゴーレムたちと戦ったな」
遺跡に搭載された防衛機能を掻い潜り、襲ってくるゴーレムを倒し、全部素材として持ち帰った。中々いい金になった。あの日の豪遊は忘れられない。
「レイド。あの遺跡は今じゃ禁止区域になっているらしいよ」
「そうなのか? ミスリル取り放題だろうに」
「普通はミスリル製のゴーレムを倒す手段はないからね」
勿体無いものだ。確かに硬いが倒せない敵じゃない。金がなくなったらまた狩りに行こうと思ってたんだがな、残念だ。
「そういえば、盗賊退治の依頼の件。覚えてるか?」
「もちろんだ。貴族の馬車を襲った盗賊を退治するっていう簡単な任務だったからね。……もっとも、実はその山賊が隣国の騎士達で、なにやら秘密文書のやり取りをしていたなんて思いもしなかったけさ」
「あぁ、あの時ボコボコにした騎士団長の奴覚えてるか? 何が重大な協定違反だよ。先に国境越えて賊まがいのことしてたのはてめぇらだろうがよ、ってなぁ?」
ここはラトリーシャ王国の最北端の都市なんだが、ここから北方には何年も戦争を繰り返しているハンス王国という国がある。
数年前のゴタゴタで停戦協定を結び最近は平和になっているが、元々ラトリーシャとハンスは犬猿の仲であり、しょっちゅう戦争をしている。いつか停戦協定を破り、また戦争が起きると思っていたが、まさかラトリーシャ国の貴族とハンス国の貴族が共謀しており、なにやら悪巧みをしているようだ。もっとも、そのやり取りに使っていた書類も、ハンス国の騎士団団長、他数百名の部下も全員捕縛し、国に渡したから問題ないだろう。
「いやぁ楽しかったよな。――なのに、なんで解散なんだ!」
「……解散じゃない。申し訳ないが、レイド。君にパーティから出て行ってほしい」
「だからどうしてだよ!! 俺は必死にお前たちを守っただろ!? 金だって手に入ったはずだ! なんでだよ……俺たちの絆は嘘だったのかよ。一緒にデカくなろうって約束したあの日の酒は嘘だったのかよぉ!!!」
俺は絶望していた。気のいい奴らだと思っていた。なのに、俺だけ追い出すなんて、どうしてだよ。
「レイド。君のせいじゃない。僕たちが君に付いていけないんだ。――なぁレイド。今君が語ってくれた思い出を忘れるはずが無いだろう。なんせ――君とパーティを組んだのは3日前なんだぞ! 酒を飲んだっていうが、あれはパーティを組んだ初日の話だろう!」
ここにきてアルトは溜まった物を吐き出すように声を上げた。
「……時間なんて関係ないだろ?」
そう、俺がアルトたちとパーティを組んだのは3日前だ。でも、時間なんて関係ない。俺たち誰よりも濃く濃密な時間を過ごしたはずだ。
「濃密なんてものじゃないんだよ、レイド! 3日。そうたった3日だ。なんで君とパーティを組んでたった3日で上位の地龍と戦い、未発見の古代遺跡を発見し、ハンス王国の企てを止めるなんて事になるんだ!!」
「お、俺のせいじゃ……」
「そうだ。分かってる。君のせいじゃない、レイド。でも、君とパーティを組んでからずっとそうだ! 正直付いていけない。地龍に足を食われた時も、ゴーレムに腹を潰され、骨と内臓が飛び出した時も、騎士達に矢で針ねずみのように矢を射られた時も、全部君が持っている最上級ポーションで治癒してくれた。そして、迫りくる敵は全部君が倒した! そうしなければ僕たちは間違いなく、いや確実に死んでいた。――もう無理だ。無理なんだ。すまないレイド」
そういって泣き出したアルトを俺は責めることが出来なかった。静かに肩を叩き、静かに部屋を後にした。あぁ、屋内なのに雨が降ってやがる。今日の雨は少し塩辛いな。
そうして俺はパーティを追い出された。
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