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ゲームの中とこの世界の違い
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考えてみれば、納得がいく気がした。部屋がたくさんあったのは、豪邸というわけではなく、寮だからということか。
ゲームの中では、主人公の住む家についてはなぜか一切出てこなかった。主人公は、いつの間にか学園にいて、次の日になればまた学園からスタートするのだ。学園生活を主に舞台にしたゲームであるだけに、深くこだわってこなかったけれど、不自然といえば不自然だ。
「寮って……なんで家族で寮に住むの?」
単純な疑問を私は口にしただけだった。けれど、二人はそれぞれに怪訝な表情を浮かべた。
「この国ではほとんどの人がどこかの寮に住んでるよ? 僕だって、藤咲寮に住んでるし」
「そうですわ。当たり前のことじゃありませんの?」
突然転生した私と違って、元々この世界の住人の二人は、事も無げに言う。そういえば、桐亜の記憶にあったようななかったような……。いや、確かなかった! 『寮に住んでいる』という事実は、桐亜にとっては自然なことすぎて、何の疑問にも思わなかったのだろう。『家』イコール『寮』という事実自体を桐亜は認識していなかった。
え……? ということは、待って? 学園に併設されている寮に住まなくても、私は寮に帰るしかないの!? プライバシーがなさそうと思って却下した『寮』に住むことは、変わらないの!?
「えっと……この国では、寮が普通なの?」
そう尋ねると、二人は口々に言った。
「あったりまえじゃん!」
「とーぜん、ですわ!」
当たり前、当然……私の脳にはそれを理解するのにちょっと時間が必要だった。というか、理解できない……。なんで寮が『普通』なの? そういうものなの!?
「寮が普通って、おかしいでしょ? 普通は一人ひとりそれぞれ帰る『家』があるもんじゃないの?」
私は声を絞り出すように言った。信じられない! 『寮』でこの先ずっと生きていくなんて!
「まるで外国人みたいなことを言うね、桐亜ちゃん。それに、なんか性格変わった? いつもの桐亜ちゃんらしくないけど」
蘭那の言葉に、「私らしいって何よ」とも返せず、私はただ黙った。まったく……何なのよこの世界は……。ゲームの中の世界だとしても、理解できないことが多すぎるでしょ。
「まあいいや、帰れないなら、僕と一緒に帰ろうよ、桐亜ちゃん。道なら知ってるからさ」
「……ありがとう」
まったくの不本意だけど、『百合寮』とやら以外に私の帰る場所はなさそうなので、蘭那の案内に頼ることにした。それにしても……蘭那という存在がなければ、私はどうなっていたのやら……。幼馴染という存在は、これ以上にないほどのありがたい存在かもしれない。
「あ、待ってくださいな、桐亜さま。せっかく同じクラスになったのですし、連絡先を交換しませんこと?」
そう言って、茜李さんとやらは、まるでスマホのような見た目の何かを取り出して、指で操作していた。……スマホ? いや、普通こういう魔法の世界のゲームの中には登場しない代物じゃない?
「え? スマホがあるの? この世界……」
思わず呟いた私を、怪訝な目で見つめる二人。
「スマホ? それと、世界って何のことですの?」
「桐亜ちゃん、これは携帯通信、通称ケーツーだよ?」
『携帯通信』と来たか……!! なんだそれは……!! 知らないぞ、知らない子ですね、それは。『フラワリング・パラドックス』の中には出て来なかったぞ……!!
「まさか、ケーツー持ってないとか、使えないとか言わないよね? しっかりしてよ、桐亜ちゃん」
信じられない……という目で蘭那に哀れまれた……。そもそも、自分がケーツーとやらを持っているのかすらわからない……。『桐亜』の記憶は……。
ゲームの中では、主人公の住む家についてはなぜか一切出てこなかった。主人公は、いつの間にか学園にいて、次の日になればまた学園からスタートするのだ。学園生活を主に舞台にしたゲームであるだけに、深くこだわってこなかったけれど、不自然といえば不自然だ。
「寮って……なんで家族で寮に住むの?」
単純な疑問を私は口にしただけだった。けれど、二人はそれぞれに怪訝な表情を浮かべた。
「この国ではほとんどの人がどこかの寮に住んでるよ? 僕だって、藤咲寮に住んでるし」
「そうですわ。当たり前のことじゃありませんの?」
突然転生した私と違って、元々この世界の住人の二人は、事も無げに言う。そういえば、桐亜の記憶にあったようななかったような……。いや、確かなかった! 『寮に住んでいる』という事実は、桐亜にとっては自然なことすぎて、何の疑問にも思わなかったのだろう。『家』イコール『寮』という事実自体を桐亜は認識していなかった。
え……? ということは、待って? 学園に併設されている寮に住まなくても、私は寮に帰るしかないの!? プライバシーがなさそうと思って却下した『寮』に住むことは、変わらないの!?
「えっと……この国では、寮が普通なの?」
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「あったりまえじゃん!」
「とーぜん、ですわ!」
当たり前、当然……私の脳にはそれを理解するのにちょっと時間が必要だった。というか、理解できない……。なんで寮が『普通』なの? そういうものなの!?
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私は声を絞り出すように言った。信じられない! 『寮』でこの先ずっと生きていくなんて!
「まるで外国人みたいなことを言うね、桐亜ちゃん。それに、なんか性格変わった? いつもの桐亜ちゃんらしくないけど」
蘭那の言葉に、「私らしいって何よ」とも返せず、私はただ黙った。まったく……何なのよこの世界は……。ゲームの中の世界だとしても、理解できないことが多すぎるでしょ。
「まあいいや、帰れないなら、僕と一緒に帰ろうよ、桐亜ちゃん。道なら知ってるからさ」
「……ありがとう」
まったくの不本意だけど、『百合寮』とやら以外に私の帰る場所はなさそうなので、蘭那の案内に頼ることにした。それにしても……蘭那という存在がなければ、私はどうなっていたのやら……。幼馴染という存在は、これ以上にないほどのありがたい存在かもしれない。
「あ、待ってくださいな、桐亜さま。せっかく同じクラスになったのですし、連絡先を交換しませんこと?」
そう言って、茜李さんとやらは、まるでスマホのような見た目の何かを取り出して、指で操作していた。……スマホ? いや、普通こういう魔法の世界のゲームの中には登場しない代物じゃない?
「え? スマホがあるの? この世界……」
思わず呟いた私を、怪訝な目で見つめる二人。
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「桐亜ちゃん、これは携帯通信、通称ケーツーだよ?」
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「まさか、ケーツー持ってないとか、使えないとか言わないよね? しっかりしてよ、桐亜ちゃん」
信じられない……という目で蘭那に哀れまれた……。そもそも、自分がケーツーとやらを持っているのかすらわからない……。『桐亜』の記憶は……。
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