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学園とこの世界について
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そのときだった。私の耳元で、ささやく声があった。
「火に向かって手をかざして。僕が助けてあげる」
誰の声なのかわからない。初めて聞くその声に、賭けることにした。火に向かって手をかざすと、声は言った。
「水のイメージだよ、桐亜。炎を消す水をイメージするんだ」
その声に、私の脳裏で、ただの水ではなく、水を司る竜が暴れるイメージがひらめいた。その途端、炎に対してかざしていた手から、大量の水とともに、竜が発現した。水竜は、あっという間に炎を取り囲むと、くるくる回りながら水を振りまいた。炎はたちまち消え去った。
「あはっ。やだぁ。まさか本当に消しちゃうなんてね。まあいいわ」
気が付くと教室は水浸しだった。炎は消えたけれど、私も、教師も、生徒たちも、教室にいたみんながびしょ濡れだった。水の竜は消えていた。
「桐亜さん、見事ね。許してあげるわ」
濡れた長い髪をかき上げながら、教師は告げた。でも、そんな教師に私は怒りが込み上げてきた。
「許す許さないじゃないです! この教室を炎で焼き尽くしたらどうするつもりだったんですか!? みんなが焼け死ぬって、そんなの……」
自分のどこにこんな激しい感情があったのだろうと思うほどに、私は憤っていた。言葉にならない怒り、息苦しい胸、身体の全てが奮い立っていた。
「あー、そんなの、本気じゃないに決まってるでしょ。あの火は見せかけだけ。本当に焼くわけないじゃない」
とんでもない教師だ。こんな教師が魔法を教えているというのか。ゲームには、こんな教師のことは出てこなかった。『私』の『人生』はゲームとは別物だということだろうか。
でも、この世界に魔法が存在すること、それを学園で学んでいくことなどはゲーム通りだ。
「さて、じゃ、授業にしましょうか。桐亜さん、席に着いて」
教師がそう言った途端、水浸しだった教室の空間は、カラッと乾いた。さっきから気になっていたのだが、魔法を使うのに、『呪文』は必要ないようだった。ロールプレイングゲームなんかでは、いや、そもそも『フラワリング・パラドックス』のゲームの中では、魔法を使うときには『呪文』を使っていたのに。私も先ほど初めて魔法を使ったのに、『呪文』は使わなかった。
いや、それはおいとくとして……。何事もなかったかのように授業を進めようとする教師に腹が立つ。腹は立つのだけれど、私は素直に席に着くことにした。
「桐亜ちゃーん、こっちこっち」
声をかけられてその方を見ると、蘭那がいた。蘭那は手を振って、私を呼んでいる。同じクラスなのか……。『クラス・マグノリア』は魔法のエリートクラスなのに、蘭那がいるということは……。蘭那も魔法のエリートということだ。
「火に向かって手をかざして。僕が助けてあげる」
誰の声なのかわからない。初めて聞くその声に、賭けることにした。火に向かって手をかざすと、声は言った。
「水のイメージだよ、桐亜。炎を消す水をイメージするんだ」
その声に、私の脳裏で、ただの水ではなく、水を司る竜が暴れるイメージがひらめいた。その途端、炎に対してかざしていた手から、大量の水とともに、竜が発現した。水竜は、あっという間に炎を取り囲むと、くるくる回りながら水を振りまいた。炎はたちまち消え去った。
「あはっ。やだぁ。まさか本当に消しちゃうなんてね。まあいいわ」
気が付くと教室は水浸しだった。炎は消えたけれど、私も、教師も、生徒たちも、教室にいたみんながびしょ濡れだった。水の竜は消えていた。
「桐亜さん、見事ね。許してあげるわ」
濡れた長い髪をかき上げながら、教師は告げた。でも、そんな教師に私は怒りが込み上げてきた。
「許す許さないじゃないです! この教室を炎で焼き尽くしたらどうするつもりだったんですか!? みんなが焼け死ぬって、そんなの……」
自分のどこにこんな激しい感情があったのだろうと思うほどに、私は憤っていた。言葉にならない怒り、息苦しい胸、身体の全てが奮い立っていた。
「あー、そんなの、本気じゃないに決まってるでしょ。あの火は見せかけだけ。本当に焼くわけないじゃない」
とんでもない教師だ。こんな教師が魔法を教えているというのか。ゲームには、こんな教師のことは出てこなかった。『私』の『人生』はゲームとは別物だということだろうか。
でも、この世界に魔法が存在すること、それを学園で学んでいくことなどはゲーム通りだ。
「さて、じゃ、授業にしましょうか。桐亜さん、席に着いて」
教師がそう言った途端、水浸しだった教室の空間は、カラッと乾いた。さっきから気になっていたのだが、魔法を使うのに、『呪文』は必要ないようだった。ロールプレイングゲームなんかでは、いや、そもそも『フラワリング・パラドックス』のゲームの中では、魔法を使うときには『呪文』を使っていたのに。私も先ほど初めて魔法を使ったのに、『呪文』は使わなかった。
いや、それはおいとくとして……。何事もなかったかのように授業を進めようとする教師に腹が立つ。腹は立つのだけれど、私は素直に席に着くことにした。
「桐亜ちゃーん、こっちこっち」
声をかけられてその方を見ると、蘭那がいた。蘭那は手を振って、私を呼んでいる。同じクラスなのか……。『クラス・マグノリア』は魔法のエリートクラスなのに、蘭那がいるということは……。蘭那も魔法のエリートということだ。
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