11 / 15
学園とこの世界について
4
しおりを挟む
そのときだった。私の耳元で、ささやく声があった。
「火に向かって手をかざして。僕が助けてあげる」
誰の声なのかわからない。初めて聞くその声に、賭けることにした。火に向かって手をかざすと、声は言った。
「水のイメージだよ、桐亜。炎を消す水をイメージするんだ」
その声に、私の脳裏で、ただの水ではなく、水を司る竜が暴れるイメージがひらめいた。その途端、炎に対してかざしていた手から、大量の水とともに、竜が発現した。水竜は、あっという間に炎を取り囲むと、くるくる回りながら水を振りまいた。炎はたちまち消え去った。
「あはっ。やだぁ。まさか本当に消しちゃうなんてね。まあいいわ」
気が付くと教室は水浸しだった。炎は消えたけれど、私も、教師も、生徒たちも、教室にいたみんながびしょ濡れだった。水の竜は消えていた。
「桐亜さん、見事ね。許してあげるわ」
濡れた長い髪をかき上げながら、教師は告げた。でも、そんな教師に私は怒りが込み上げてきた。
「許す許さないじゃないです! この教室を炎で焼き尽くしたらどうするつもりだったんですか!? みんなが焼け死ぬって、そんなの……」
自分のどこにこんな激しい感情があったのだろうと思うほどに、私は憤っていた。言葉にならない怒り、息苦しい胸、身体の全てが奮い立っていた。
「あー、そんなの、本気じゃないに決まってるでしょ。あの火は見せかけだけ。本当に焼くわけないじゃない」
とんでもない教師だ。こんな教師が魔法を教えているというのか。ゲームには、こんな教師のことは出てこなかった。『私』の『人生』はゲームとは別物だということだろうか。
でも、この世界に魔法が存在すること、それを学園で学んでいくことなどはゲーム通りだ。
「さて、じゃ、授業にしましょうか。桐亜さん、席に着いて」
教師がそう言った途端、水浸しだった教室の空間は、カラッと乾いた。さっきから気になっていたのだが、魔法を使うのに、『呪文』は必要ないようだった。ロールプレイングゲームなんかでは、いや、そもそも『フラワリング・パラドックス』のゲームの中では、魔法を使うときには『呪文』を使っていたのに。私も先ほど初めて魔法を使ったのに、『呪文』は使わなかった。
いや、それはおいとくとして……。何事もなかったかのように授業を進めようとする教師に腹が立つ。腹は立つのだけれど、私は素直に席に着くことにした。
「桐亜ちゃーん、こっちこっち」
声をかけられてその方を見ると、蘭那がいた。蘭那は手を振って、私を呼んでいる。同じクラスなのか……。『クラス・マグノリア』は魔法のエリートクラスなのに、蘭那がいるということは……。蘭那も魔法のエリートということだ。
「火に向かって手をかざして。僕が助けてあげる」
誰の声なのかわからない。初めて聞くその声に、賭けることにした。火に向かって手をかざすと、声は言った。
「水のイメージだよ、桐亜。炎を消す水をイメージするんだ」
その声に、私の脳裏で、ただの水ではなく、水を司る竜が暴れるイメージがひらめいた。その途端、炎に対してかざしていた手から、大量の水とともに、竜が発現した。水竜は、あっという間に炎を取り囲むと、くるくる回りながら水を振りまいた。炎はたちまち消え去った。
「あはっ。やだぁ。まさか本当に消しちゃうなんてね。まあいいわ」
気が付くと教室は水浸しだった。炎は消えたけれど、私も、教師も、生徒たちも、教室にいたみんながびしょ濡れだった。水の竜は消えていた。
「桐亜さん、見事ね。許してあげるわ」
濡れた長い髪をかき上げながら、教師は告げた。でも、そんな教師に私は怒りが込み上げてきた。
「許す許さないじゃないです! この教室を炎で焼き尽くしたらどうするつもりだったんですか!? みんなが焼け死ぬって、そんなの……」
自分のどこにこんな激しい感情があったのだろうと思うほどに、私は憤っていた。言葉にならない怒り、息苦しい胸、身体の全てが奮い立っていた。
「あー、そんなの、本気じゃないに決まってるでしょ。あの火は見せかけだけ。本当に焼くわけないじゃない」
とんでもない教師だ。こんな教師が魔法を教えているというのか。ゲームには、こんな教師のことは出てこなかった。『私』の『人生』はゲームとは別物だということだろうか。
でも、この世界に魔法が存在すること、それを学園で学んでいくことなどはゲーム通りだ。
「さて、じゃ、授業にしましょうか。桐亜さん、席に着いて」
教師がそう言った途端、水浸しだった教室の空間は、カラッと乾いた。さっきから気になっていたのだが、魔法を使うのに、『呪文』は必要ないようだった。ロールプレイングゲームなんかでは、いや、そもそも『フラワリング・パラドックス』のゲームの中では、魔法を使うときには『呪文』を使っていたのに。私も先ほど初めて魔法を使ったのに、『呪文』は使わなかった。
いや、それはおいとくとして……。何事もなかったかのように授業を進めようとする教師に腹が立つ。腹は立つのだけれど、私は素直に席に着くことにした。
「桐亜ちゃーん、こっちこっち」
声をかけられてその方を見ると、蘭那がいた。蘭那は手を振って、私を呼んでいる。同じクラスなのか……。『クラス・マグノリア』は魔法のエリートクラスなのに、蘭那がいるということは……。蘭那も魔法のエリートということだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く
秋鷺 照
ファンタジー
断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。
ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。
シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。
目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。
※なろうにも投稿しています
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる