乙女ゲームの主人公に転生したのに攻略対象がデレてくれません!! 

桜水城

文字の大きさ
上 下
11 / 15
学園とこの世界について

しおりを挟む
 そのときだった。私の耳元で、ささやく声があった。
 
「火に向かって手をかざして。僕が助けてあげる」
 
 誰の声なのかわからない。初めて聞くその声に、賭けることにした。火に向かって手をかざすと、声は言った。
 
「水のイメージだよ、桐亜きりあ。炎を消す水をイメージするんだ」
 
 その声に、私の脳裏で、ただの水ではなく、水を司る竜が暴れるイメージがひらめいた。その途端、炎に対してかざしていた手から、大量の水とともに、竜が発現した。水竜は、あっという間に炎を取り囲むと、くるくる回りながら水を振りまいた。炎はたちまち消え去った。
 
「あはっ。やだぁ。まさか本当に消しちゃうなんてね。まあいいわ」
 
 気が付くと教室は水浸しだった。炎は消えたけれど、私も、教師も、生徒たちも、教室にいたみんながびしょ濡れだった。水の竜は消えていた。
 
「桐亜さん、見事ね。許してあげるわ」
 
 濡れた長い髪をかき上げながら、教師は告げた。でも、そんな教師に私は怒りが込み上げてきた。
 
「許す許さないじゃないです! この教室を炎で焼き尽くしたらどうするつもりだったんですか!? みんなが焼け死ぬって、そんなの……」
 
 自分のどこにこんな激しい感情があったのだろうと思うほどに、私は憤っていた。言葉にならない怒り、息苦しい胸、身体の全てが奮い立っていた。
 
「あー、そんなの、本気じゃないに決まってるでしょ。あの火は見せかけだけ。本当に焼くわけないじゃない」
 
 とんでもない教師だ。こんな教師が魔法を教えているというのか。ゲームには、こんな教師のことは出てこなかった。『私』の『人生』はゲームとは別物だということだろうか。
 
 でも、この世界に魔法が存在すること、それを学園で学んでいくことなどはゲーム通りだ。
 
「さて、じゃ、授業にしましょうか。桐亜さん、席に着いて」
 
 教師がそう言った途端、水浸しだった教室の空間は、カラッと乾いた。さっきから気になっていたのだが、魔法を使うのに、『呪文』は必要ないようだった。ロールプレイングゲームなんかでは、いや、そもそも『フラワリング・パラドックス』のゲームの中では、魔法を使うときには『呪文』を使っていたのに。私も先ほど初めて魔法を使ったのに、『呪文』は使わなかった。
 
 いや、それはおいとくとして……。何事もなかったかのように授業を進めようとする教師に腹が立つ。腹は立つのだけれど、私は素直に席に着くことにした。
 
「桐亜ちゃーん、こっちこっち」
 
 声をかけられてその方を見ると、蘭那らんながいた。蘭那は手を振って、私を呼んでいる。同じクラスなのか……。『クラス・マグノリア』は魔法のエリートクラスなのに、蘭那がいるということは……。蘭那も魔法のエリートということだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。

ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい! …確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!? *小説家になろう様でも投稿しています

乙女ゲームの主人公に転生した……筈なんだけど?

ひなクラゲ
恋愛
 私は乙女ゲームに転生した主人公…… の筈なんですけど〜〜  何だかおかしい!  本当にここは乙女ゲームの世界なんですか!?

乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした

ひなクラゲ
恋愛
 突然ですが私は転生者…  ここは乙女ゲームの世界  そして私は悪役令嬢でした…  出来ればこんな時に思い出したくなかった  だってここは全てが終わった世界…  悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...