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死んでもないのに乙女ゲーム世界に転生しました
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私の頭の中には、これまで生きてきた『桐亜』の記憶が残っていて、この世界に馴染もうとするのには障害はなさそうだった。
この世界は、社会主義が理想的に発達した社会構造となっていて、家柄や性別で人生が左右されることのない、平等で公正な世界だった……らしい。そのため、個人の名前だけが大事にされ、家柄を示す姓や苗字というものは廃止されていた。同名の人間が紛らわしいときには、生まれた地名などによって区別される。いや、そもそも、一人ひとりの名前が個性的で、名前がかぶるということはほとんどなかった。
それにしても……『フラワリング・パラドックス』の登場人物に苗字がない理由が、そんな裏設定にあったなんて、全然知らなかった。もちろん、公式サイトでもそんなことは一切記載がないし、ファンブックにもそんなことは語られていなかった。ただ単に呼びやすいから、名前だけなのだと思っていた。ちょっと変わった乙女ゲームだなとは思っていたけれど。
そんなことを考えながら歩いていると、学園にたどり着いた。学園には寮も併設されているが、近所に住んでいる生徒は家から通うこともできた。私は家から通おうと思った。そんなに遠くないし、寮ってなんかプライバシーがなさそうで怖い。門限も厳しそうだし、寮に入るメリットを感じなかった。
残念ながら、あんなに急いで来ても入学式開始には間に合わなかった。途中から講堂(日本の学校なら体育館が一般的だけど、学園には立派な講堂が建造されていて、全校が集まるようなイベントには講堂が使われるらしかった)に入っていくのもためらわれたから、入学式は諦めることにした。(サボることにしたともいう)
仕方ない。私は転生に気付いたばかりで、学園までのルートなんて覚えてなかったから、人に尋ねてやっとたどり着いたんだから。桐亜の記憶にも、学園までの道の記憶はなかったし。幸い、家から割と近かったけれど。
入学式が開かれている間、私は中庭のベンチで『フラワリング・パラドックス』の攻略対象についての記憶を整理していた。授業用に用意してきたノートに、名前と学年などを書き込む。まず、6人の攻略対象は、それぞれ1年生、2年生、3年生に2人ずついる。そして、私の本命――7人目の攻略対象、柊季は2年生だ。私が目指すのは、もちろん秋季とのベストエンディングに決まっている。それに、ゲームではないのだから、最初から柊季を狙っても構わないはずだ。いやむしろ、本命なら狙うしかないだろう。人生は一度しかないのだから。
攻略対象についてあれこれ考えていたら、近付いてきた人物に気付かなかった。その人物は突然現れた。
「わっ!」
その驚かす声に、びくっと身体が反応した。心臓が飛び跳ねて、死ぬんじゃないかと思った。
「な、なに!? 誰!?」
振り返ると、そこにはかっこいい……という表現よりは可愛いと言った方が相応しい、同年代の男の子がいた。
桐亜の記憶によれば、幼馴染で仲の良い同級生だ。そして、『フラワリング・パラドックス』では、攻略対象の一人だ。
「ら、蘭那……!!」
「ふふふ、びっくりした? 桐亜ちゃん」
この世界は、社会主義が理想的に発達した社会構造となっていて、家柄や性別で人生が左右されることのない、平等で公正な世界だった……らしい。そのため、個人の名前だけが大事にされ、家柄を示す姓や苗字というものは廃止されていた。同名の人間が紛らわしいときには、生まれた地名などによって区別される。いや、そもそも、一人ひとりの名前が個性的で、名前がかぶるということはほとんどなかった。
それにしても……『フラワリング・パラドックス』の登場人物に苗字がない理由が、そんな裏設定にあったなんて、全然知らなかった。もちろん、公式サイトでもそんなことは一切記載がないし、ファンブックにもそんなことは語られていなかった。ただ単に呼びやすいから、名前だけなのだと思っていた。ちょっと変わった乙女ゲームだなとは思っていたけれど。
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桐亜の記憶によれば、幼馴染で仲の良い同級生だ。そして、『フラワリング・パラドックス』では、攻略対象の一人だ。
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「ふふふ、びっくりした? 桐亜ちゃん」
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