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I can’t imagine my life without you.

◆ 14 ◆

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「う、ぁ……ッ!」

 ぐじゅ、と。同じタイミングでふたりの鼓膜を震わせる淫猥な水音。その音に合わせて零れ落ちた自分の上擦った声が脳髄へと直接絡み付いてくるような錯覚に、未来は小さくかぶりを振った。自分のものとは思えないほどの甘ったるい声が信じられず、未来はぎゅうと目をきつく閉じる。

「どろっどろじゃん」

 微かに揶揄うような熱が籠められた瞬哉の声が未来の耳元に落とされた。聴覚も嗅覚も、なにもかもが鋭い瞬哉にとって、未来の肉体から薫り立つ情欲の甘い匂いは底知れぬ中毒性を持っていた。彼女の白い肌を構成するひとつひとつの細胞から香る深みのある匂いが瞬哉をその行為に没頭させていく。
 未来の泥濘をなぞっていた瞬哉の指先が、蜜を滴らせてひくつく秘された泉にそろりと押し入った。

「っ、シュ、んッ……!」

 切なくくぐもった声と堪えきれない吐息が未来の唇から漏れ出ていく。初めての侵入者に未来の未熟な媚肉がためらいながら伸縮を繰り返す。滑り込む異物に未来は痛覚を研ぎ澄ませ身構えるも、痛みは全く感じなかった。その代わり、暗がりの通り道がそろりと押し広げられていく独特の感覚に、瞬哉の長くしなやかな指が自分の胎内へと潜り込み、自分の全てを犯していく――そんな不埒で生々しい想像をしてしまい、くらくらと視神経までもが麻痺していくように思えてぎゅうと眉根を寄せた。
 瞬哉はうねるような蜜壁の動きとその狭さに眩暈を感じながらゆっくりと未来のすぼまりを掻き回す。根元まで差し込まれた己の指に絡みつくビロードのような手触りの粘膜。瞬哉はひどく口の中が渇く感覚に飢餓感のようなものを覚えた。痛みすら感じるほどに勃ち上がった雄茎を勢いに任せての奥深くまで埋めてしまいたい衝動を、瞬哉はごくりと喉を鳴らすことで飲み込んだ。奥まで埋めて、心ゆくまで掻き回したい。荒い呼吸音が瞬哉の滾る欲望に火を灯す。

(堪え、ろ……)

 10代から10数年生活を共にし、片時も離れたことがないふたり。当然、互いに異性経験がないことも知っていた。瞬哉の指を包む秘襞の硬い弾力がそれを雄弁に物語っている。瞬哉は契約ボンドの詳細を知っているとはいえ、一般的に破瓜の際には強い痛みが伴うという知識も朧気ながらに持ち合わせており、少しでもそれらを緩和させようと獣へと変貌しそうな自分を必死で抑えていた。自分から欲するまでに蕩けさせ、理性も本能も、感情も心も、なにもかもを溶かし尽くして――それから、だ。

「力、抜け……ミク。息、止まってんぞ」

 瞬哉は片手でゆるりと未来の頭を抱え込み、その額へと唇を落とす。全身の肌感覚が痺れているような違和感を懸命に耐えていた未来は、鼓膜に染み込む瞬哉の言葉に無我夢中で従いはぁっと息を吐いた。酸素が肺に流入し、霞がかった意識がわずかにクリアになる。ふと未来が気がつけば、横たわって楽な体勢であるはずの自分の全身が強張っていた。そろそろと浅く呼吸を繰り返すと緩やかに全身が解れていく。未来は戸惑いながらきつく閉じた瞼を開き、そっと視線を上げた。
 未来の思考にひりつくような飢餓感が流れ込んでくる。喉が渇いた。欲しい。欲しい、お前が欲しい――瞬哉の強烈な獣欲に、未来の下腹の最奥がずくりと蠢いた。その欲にあてられた未来は恍惚とちいさく吐息を落とし、「全部シュンにあげる」と囁いた。
 どろりとほころびかけた官能の甘さを残した瞳が瞬哉を射抜く。その刹那、未来が囁いた言葉に瞬哉の中枢が大きく疼いた。瞬哉の心を惑わし魅了する未来の瞳。わずかに残った思考は残滓を残し端から融け落ちていく。瞬哉は埋め込んだままだった指を動かしながら親指の腹でいびつな期待に膨らんだ未来の秘核をそろりと撫でた。

「ひ、ぁっ!」

 弾かれたように未来の背がぐんっとしなり、黒髪が弧を描く。神経が集中する塊に直に触れられ、未来のまぶたの裏がチカチカと明滅を繰り返した。内壁をゆるやかになぞられているだけだというのに、鋭い刺激が未来の腰を駆け抜け背筋をさかのぼり、脳天へと突き抜けていく。
 瞬哉は鋭敏な反応を返す彼女の背を支えるように未来の背中に腕を回し、内側と外側を余すことなく刺激しながら未来の汗ばんだ首筋を舐め上げた。その動きに合わせて戦慄く隘路からどぷりと蜜が溢れては瞬哉の指へと絡まっていく。

「は、あぅっ、そ、れっ……!」

 優しく、それでも妖しく蜜奥を掻き回すぐじゅんという淫猥な水音とともに未来の下腹から徐々に熱い何かがせり上がり、次第に彼女の背筋が弓なりに反っていく。肌の上を熱い感覚が走り、ぶわりと脳天へ到達する。

「あっ、ふ、ンっ、――っ!!」

 堪えきれない嬌声とともに高みへとのぼった未来の身体は一気に硬直する。高い場所で弾けた白さが未来の全身に甘い衝撃となって広がり、彼女の全てを支配した。数秒ののちに未来の身体が弛緩し、操者を失ったかのようにくたりと彼女の身体がベッドへと沈む。その動きに合わせて豊かな黒髪が真っ白なシーツの上に広がり、汗ばんだ未来の肌に貼りついた。

「ミク」
「は、あぁっ……んっ……」

 瞬哉は絶頂の余韻で激しく脈動を繰り返す蜜窟からゆっくり指を引き抜いた。くぱくぱと収縮を繰り返す淫穴と瞬哉の指先に繋がった透明な蜜糸がふつりと切れる。彼女の名前を呼んだ瞬哉はぼんやりとした未来の視線をわざと己へとひきつけ、とろりとした香蜜で湿る指先を自らの舌で拭い取っていく。
 甘い――そんな瞬哉の言葉がガイディング状態にある未来の脳内に直接響いた。まるで未来へと見せつけるかのような瞬哉の行為に、未来は込み上げた羞恥から脳髄が沸騰するかのような錯覚を抱く。眦に涙を浮かべた未来は息も絶え絶えに瞬哉へ懇願した。

「や、やめて、くださ……」
「やめねぇ。抱け、っつったのはミクだかんな」

 瞬哉は未来がやめてほしいと指した己の行為を意図してセックスそのものに挿げ替える。嗜虐心に駆られ歪んだ笑みを浮かべそう口にしながらも、瞬哉は眼前に広がる光景に喉を鳴らした。力を失いぐったりと晒された未来の肢体。頂点に上り詰める快感を覚えた身体は揺り返しのような波に攫われるように時折ぴくりと跳ねている。快楽に溶けた漆黒の瞳がひどく蠱惑的で――恐ろしいほどに、美しい。この世のものではないような情景にぞくりと寒気がするほどに。
 蕩けた未来の瞳に見つめられているだけで吐精してしまいそうだ。悦びを滲ませた亜未の表情から、艷めく唇、紅く染まった肌、白魚のような指先、絹のようにやわらかな和毛にこげ、甘く香り立つ躯体まで。未来の全てを舐めるような視線で辿った瞬哉の欲望に呼応するかのように、張り詰めた瞬哉の猛茎がゆっくりと質量を増していく。湿り気を帯び役目を果たしていないショーツを瞬哉の無骨な手が未来の肌から引き剥がした。
 これまで何度夢の中で未来を組み敷いたか。妄想の中で、何度嬌声をあげさせたか。自分が与える快楽に足を取られて溺れていく彼女の姿を何度想像したか――そんな言葉を瞬哉は心の中で落とした。

「なっ……」

 その瞬間、未来は勢いよく顔を赤らめた。瞬哉と未来は今もまだガイディング状態にあるため、互いの感情や言葉は筒抜けだ。双方が契約状態に無ければある一定の範囲から先は互いに触れられないが、今は違う。契約を交わした効果で何もかもが互いの心になだれ込むのだ。もちろん、瞬哉が心の中で独り言ちたはずのそれらすらも。
 瞬哉の心の内の暴露に未来は目を伏せて視線を逸らす。初めての絶頂の感覚に支配され、達したばかりの肉体はひどく重くて指先ひとつ満足に動かせない。その上で瞬哉から積年の劣情をダイレクトにぶつけられ。これはなんなのだ、センチネルとガイドのパートナー契約にこんな効果があるなんて聞いていない――激しい混乱と強い羞恥にまみれた未来を見おろしたままの瞬哉はくつりと喉を鳴らす。

「知ってっか? ミク……契約ボンドしたセンチネルとガイドの……相性の話」
「えっ……え、あっ!?」

 舌なめずりでもしそうな勢いで笑んだ瞬哉は熱い手のひらで未来の太ももを左右に開いた。瞬哉の影の合間から落ちる天井の照明を受けてぬらぬらと光る淫泉。瞬哉は堪らず物欲しげに痙攣を繰り返す場所へと透明な液が滴る己の剛直の先端を押し当てる。とろとろに柔らかくなった泉の淵に屹立した雄槍が挿入はいるか挿入らないかの絶妙な動きを繰り返した。クチクチといやらしい粘着音がふたりの鼓膜を犯す。

「あっ、んぅっ、それっ、やっ、やだっ、やですっ……!」

 開かれた未来の身体の中央に添えられた猛々しく主張する赤黒い楔。それが彼女の視界に飛び込んできている。これが、今から自分の胎内ナカへ――ふたたび未来の頭の中は不埒な想像で埋め尽くされていく。
 じれったいほどの絶妙な快楽に堕ちて蕩けた未来の表情を見遣った瞬哉は、込み上げる嗜虐心を噛み締めことさらに未来の羞恥心を煽り立てるがごとくぬちぬちとその行為を繰り返す。

「俺らの何もかもが混ぜ合わさってんだ。感情も、心も、魂も。俺らは元から相性いーんだ。それで契約してっからな……身体だって、相性がいいンだ、ぜッ……!」
「ふぁ、あああッ!?」

 何かを堪えたような苦しげな瞬哉の言葉とともに瞬哉はわずかに腰を引いた。そのままゆっくりと淫熱の奥へと埋めていく。あてがわれた熱杭が未来の肉壁を押し広げていった。ゆっくりと、それでも確実に。瞬哉と未来の身体が、熱が、混じり合っていく。
 瞬哉の張り出した肉傘が、ずるずると花襞を擦り上げ圧倒的な悦楽を未来へと与えていった。はじめての睦みあいだというのに未来の体内には苦しみも痛みもどこにも存在しなかった。あるのは途方もないくらいの多幸感と、これまでとは違う強烈な快感。甘さとも痺れとも言えない、それでも不快ではない感覚が未来の思考を決壊させた。
 未来ははくはくと酸素を求めて頭をのけぞらせる。圧倒的な質量から与えられる甘い毒のようななにかが、未来の全身に広がって――麻痺、していく。
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