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I can’t imagine my life without you.
◇ 7 ◇
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吸い込んだ先の肺に広がる甘い毒のような香りが瞬哉の頭蓋の内側を犯していく。だが、灼熱の液体が首筋を滑っていく感覚が瞬哉の思考を強引に現実に引き戻す。
「二度は聞かん。答えろ」
よろめいた瞬哉の喉元に背後から小ぶりなナイフを突きつけているのは一見人の良さそうな優男だ。柔らかく笑んだ顔と吐きだした言葉がこれほどまでに一致していない人間も珍しい。
呼吸をするたびに酩酊するような感覚が瞬哉の思考を乱す。背後から聞こえてくる音楽は重低音強化が入っているのだろうか、まるで収まらない地震のように瞬哉の体幹を軋ませる。それでも、瞬哉はノイズが走る脳内でそっと現状を分析する。
背後の男は手練れだ、と瞬哉は一瞬で感じ取った。何かの武術を嗜んでいるか、ミリタリー出身のはみ出し者か。突きつけられたナイフの冷たい切っ先は、肌を絶妙に裂く角度を保っている。このナイトクラブに出入りする俳優が大麻所持で逮捕されたことで売人側の警戒心も高まったはず。となれば、この男は売人たちが雇っている用心棒ではないだろうか。見慣れない顔がひとりでこの場所に足を踏み入れることを防ぐような。飛んで火にいる夏の虫、と言わんばかりに瞬哉は内心でほくそ笑んだ。
(ガチでビンゴだな、これは)
手練れとはいえ、この男は運が悪い。捕らえた相手が潜入捜査をしていた瞬哉でなければこの行動は正しかった。しかしながら男は悪手を打ってしまった。このタイミングで瞬哉を脅しにかかるということは、この先に一般人には知られてはならないものがあると白状していることとほぼ同意義。未来が上手く潜り込めたのは僥倖といえよう。猛烈な甘い香りに鈍る思考でもそこまで考えた瞬哉は、弾き出した判断に従い怯えたように小さく肩を震わせた。
「っ、酒……飲みすぎ、て」
瞬哉は精一杯の掠れた声で返答した。ノアに依頼された今回の任務は『ジル』の逮捕ではない。売人グループの情報を掴むこと、だ。訓練で体術を叩きこまれ、腕が立つ瞬哉にとっては背後から刃物を突きつけられていたとて正直どうにでも出来る範囲。しかし、ここで瞬哉の正体に勘づかれては非常にまずい。何も知らない一般人を装い身柄を解放してもらうことを瞬哉は優先することにした。
(フロアに戻ったら大人しくしとかねぇとな……)
背後の男には顔を覚えられたはず。今夜はもう情報収集のためにフロアをうろつくことは控えるべきかと結論付けた瞬哉は、あたりにそれとなく気を配り酒を飲みすぎて具合を悪くした挙句にこちらに迷い込んでしまった、という情けない男を演じる。
「こ……たえ、たろ……頼む、これ」
声帯を震わせ、瞬哉は今にも泣きだしそうな声色で首元を指差し懇願する。主演男優賞でも受賞できそうな俳優顔負けの演技だ。
委縮したような瞬哉の言葉に、瞬哉の背後の男はゆるゆると口の端をつり上げた。
***
未来の頭の中ではガンガンと警鐘が鳴っていた。ちらりと見遣った遠くのテーブルでは半透明のピルケースにカラフルな錠剤が詰められ、乱雑に積み上げられている。未来は顔に精一杯の笑みを貼付け、ここは鮮やかな桃源郷と怨念が渦巻く地獄の狭間のようだ、と、心の中で呟いた。
「あれね。さっき言ってたイイやつ。いわゆる媚薬ってやつだね。飲むと女の子はちょ~っと触られただけでイキそうになるんだって。あれが欲しかったんでしょ、メグちゃん。……エロい子、俺大好き」
先ほどの男は未来が告げた偽名を彼女の耳元で艶やかに紡ぐ。クスリによる快楽は甘やかで、退廃的なそれだ。眩く明るい場所に昇らされ、次の瞬間には黒く澱んだ場所に堕とされ這い上がれなくなる。未来は目の前に広がる光景でそれを瞬時に理解した。
任務前の打ち合わせで朝比奈はクラブのイベントに乗じて売人グループが情報交換をしている、と言っていた。そして、必要であれば買うことも選択するように、と。それは、今日のこの日にクスリの売買が行われている現場に出くわす可能性も排除できないということだ。
(……まずい)
熱気の中に自らを溶け込ませた未来は、声をかけてきた男をひっかけ情報を引き出すだけのつもりだった。未来がひっかけた男は幸か不幸かどうやらキメセクの常習犯だったらしい。
『ねぇ、お兄さんって、ここの常連さん?』
『ん? まぁ、そこそこ出入りしてるかなー。でもナンパしたのはメグちゃんが初めてだよ』
『え~、嘘っぽぉい』
『ほんとだって~』
『絶対嘘~。だってめちゃくちゃ手馴れてそうだもん』
未来はクスクスと演技の笑みを浮かべ、そっと目を瞬かせる。瞬哉の前でもこんな風に笑顔で話せたならばどんなにいいだろうか、と、一瞬だけ想いを馳せた未来の胸の奥は、自らの意思に反してぎゅうと締め付けられた。
『……私、ちょっと教えて欲しいことがあって、ね? お兄さんが私が欲しい答えを持ってたら一緒に遊んであげる』
未来は声をかけてきた男にしなだれかかり、瞳を潤ませた。そこそこ出入りしている、とこの男は言った。ならばクスリの噂くらいは耳にしたことがあるのではと踏んだ結論だった。
ここだとアレが手に入る。友人からそう聞いた――そんな風に口から出まかせを告げると、男の顔色が変わった。そしてその男は捕食物を目の前にしたかのような薄ら笑いをニタリと浮かべ、アバンチュールな一夜を過ごそう、とDJブースの奥にある、この隠し部屋へと未来を引っ張っていったのだ。
「今回は俺が『ジル』さんに払っといてあげる。気持ちイことしよ。そこの裏口から俺のオススメのホテルに出れるんだ」
「え~、アレ高いよね? お兄さん払ってくれるの? すっごい助かる~」
「お兄さん、じゃなくてソウイチ、ね。ソウちゃん、でもいいけど」
未来の肩を抱き、彼女の顔を覗き込む男の瞳は欲にまみれ、仄暗く燃えていた。腹の底から込み上げてくる生理的な嫌悪感を未来は必死に抑え込む。
(これは、本当にまずい。しくじった)
売人グループの洗い出しがノアに依頼された今回の任務だ。このままこの男に従っていては自らも昏い闇の底へと堕とされてしまう。かといってこの男の手を薙ぎ払ってしまえば任務失敗だ。この男は裏口から外に出る気でおり、瞬哉や龍騎・蓮からは未来の挙動が確認できなくなる。普段の任務と違い、インカムはつけていない。どうしたものかと笑顔を貼り付けたまま思案を続けていると、未来の隣の男は上機嫌に部屋の隅に陣取ってグラスを呷る男に歩み寄った。
その男――『ジル』に対し、未来が抱いた第一印象は『酷薄』の一言だ。彼岸を喰らいながら何千年も燻ぶり続ける……鬼のような。
年頃は瞬哉と同じくらいだろうか。冷酷な瞳をして、それでもなお人の良さそうな微笑みを湛えている。表情と瞳が釣り合っていない――天と地ほどの落差に未来は背筋が凍るような感覚を抱いた。
「ジルさん、こんばんは。ひとつ頂戴」
「おぉ、ソウか。久しぶりだなぁ」
ニコニコと笑みを浮かべたジルと呼ばれる男は未来へ視線を向ける。未来の心の内を見透かすようなジルの視線。ありったけの気力を振り絞り、小さく会釈を返した未来はその視線をしとやかに躱す。
「お嬢さん。これ、初めて?」
「……は、い。友人からめっちゃイイって聞いてぇ」
未来は緊張と好奇心を混じらせたような表情を作り、心の中に盾を作る。ジルはそんな未来の様子に「そっか」と小さく呟き、ゆっくりと未来へ近づいていく。
「コレね、女の子の身体と媚薬の種類に相性があるんだ。俺は全世界の女の子に、み~んな気持ちよくなってほしい。一番合う媚薬に出会ってほしいんだ。俺にはその子とコレの相性がわかる。だからね、ちょっとだけテストさせて」
「……テスト?」
クスリと身体の相性などあるのだろうか、そしてそれが他人にわかるものなのだろうか、と、未来は素で首を傾げた。クスリは化学成分を混ぜ合わせたモノでしかないはずだ。薬効による強制的なホルモンの過剰分泌によって深層意識の覚醒化を図り、高揚感を抱かせ一時的に五感を鋭敏にする作用機序でしかないはず。そしてそれは服用した本人にしかわからないものなのでは。
ジルは手を伸ばし、自らの手のひらをゆっくりと未来の頬に触れさせた。カチリ、と、未来の脳内が小さな音を立てる。
(――――ッ!?)
沼の底に淀んだ瘴気のようなモノが未来の感情へなだれ込む。先ほど未来が感じた何かが音を立てるような感覚。未来はガイド同士が能力を高め合うために行う訓練で幾度もそれを経験している。状況が全く飲み込めない未来だったが、息を飲むことだけは必死に堪えた。
目の前の男も『能力者』、なのだ。そう理解すると同時に、未来の中になだれ込んできた黒い靄に思考が絡まる。
読心能力を持つガイド。その能力はセンチネル、もしくはガイドに対してしか効果を発揮しない。けれど、能力を覚醒させた人間はもれなくノアに所属することになっているはずだ。だというのに、どうしてこの男はノアの一員ではないのだろうか。未来は激しく混乱した。
「……ねぇ、お嬢さん」
ジルが未来へ向かって嫣然と微笑んだ瞬間。ダンッと激しい音をたて、入り口の扉が勢いよく開いた。
「二度は聞かん。答えろ」
よろめいた瞬哉の喉元に背後から小ぶりなナイフを突きつけているのは一見人の良さそうな優男だ。柔らかく笑んだ顔と吐きだした言葉がこれほどまでに一致していない人間も珍しい。
呼吸をするたびに酩酊するような感覚が瞬哉の思考を乱す。背後から聞こえてくる音楽は重低音強化が入っているのだろうか、まるで収まらない地震のように瞬哉の体幹を軋ませる。それでも、瞬哉はノイズが走る脳内でそっと現状を分析する。
背後の男は手練れだ、と瞬哉は一瞬で感じ取った。何かの武術を嗜んでいるか、ミリタリー出身のはみ出し者か。突きつけられたナイフの冷たい切っ先は、肌を絶妙に裂く角度を保っている。このナイトクラブに出入りする俳優が大麻所持で逮捕されたことで売人側の警戒心も高まったはず。となれば、この男は売人たちが雇っている用心棒ではないだろうか。見慣れない顔がひとりでこの場所に足を踏み入れることを防ぐような。飛んで火にいる夏の虫、と言わんばかりに瞬哉は内心でほくそ笑んだ。
(ガチでビンゴだな、これは)
手練れとはいえ、この男は運が悪い。捕らえた相手が潜入捜査をしていた瞬哉でなければこの行動は正しかった。しかしながら男は悪手を打ってしまった。このタイミングで瞬哉を脅しにかかるということは、この先に一般人には知られてはならないものがあると白状していることとほぼ同意義。未来が上手く潜り込めたのは僥倖といえよう。猛烈な甘い香りに鈍る思考でもそこまで考えた瞬哉は、弾き出した判断に従い怯えたように小さく肩を震わせた。
「っ、酒……飲みすぎ、て」
瞬哉は精一杯の掠れた声で返答した。ノアに依頼された今回の任務は『ジル』の逮捕ではない。売人グループの情報を掴むこと、だ。訓練で体術を叩きこまれ、腕が立つ瞬哉にとっては背後から刃物を突きつけられていたとて正直どうにでも出来る範囲。しかし、ここで瞬哉の正体に勘づかれては非常にまずい。何も知らない一般人を装い身柄を解放してもらうことを瞬哉は優先することにした。
(フロアに戻ったら大人しくしとかねぇとな……)
背後の男には顔を覚えられたはず。今夜はもう情報収集のためにフロアをうろつくことは控えるべきかと結論付けた瞬哉は、あたりにそれとなく気を配り酒を飲みすぎて具合を悪くした挙句にこちらに迷い込んでしまった、という情けない男を演じる。
「こ……たえ、たろ……頼む、これ」
声帯を震わせ、瞬哉は今にも泣きだしそうな声色で首元を指差し懇願する。主演男優賞でも受賞できそうな俳優顔負けの演技だ。
委縮したような瞬哉の言葉に、瞬哉の背後の男はゆるゆると口の端をつり上げた。
***
未来の頭の中ではガンガンと警鐘が鳴っていた。ちらりと見遣った遠くのテーブルでは半透明のピルケースにカラフルな錠剤が詰められ、乱雑に積み上げられている。未来は顔に精一杯の笑みを貼付け、ここは鮮やかな桃源郷と怨念が渦巻く地獄の狭間のようだ、と、心の中で呟いた。
「あれね。さっき言ってたイイやつ。いわゆる媚薬ってやつだね。飲むと女の子はちょ~っと触られただけでイキそうになるんだって。あれが欲しかったんでしょ、メグちゃん。……エロい子、俺大好き」
先ほどの男は未来が告げた偽名を彼女の耳元で艶やかに紡ぐ。クスリによる快楽は甘やかで、退廃的なそれだ。眩く明るい場所に昇らされ、次の瞬間には黒く澱んだ場所に堕とされ這い上がれなくなる。未来は目の前に広がる光景でそれを瞬時に理解した。
任務前の打ち合わせで朝比奈はクラブのイベントに乗じて売人グループが情報交換をしている、と言っていた。そして、必要であれば買うことも選択するように、と。それは、今日のこの日にクスリの売買が行われている現場に出くわす可能性も排除できないということだ。
(……まずい)
熱気の中に自らを溶け込ませた未来は、声をかけてきた男をひっかけ情報を引き出すだけのつもりだった。未来がひっかけた男は幸か不幸かどうやらキメセクの常習犯だったらしい。
『ねぇ、お兄さんって、ここの常連さん?』
『ん? まぁ、そこそこ出入りしてるかなー。でもナンパしたのはメグちゃんが初めてだよ』
『え~、嘘っぽぉい』
『ほんとだって~』
『絶対嘘~。だってめちゃくちゃ手馴れてそうだもん』
未来はクスクスと演技の笑みを浮かべ、そっと目を瞬かせる。瞬哉の前でもこんな風に笑顔で話せたならばどんなにいいだろうか、と、一瞬だけ想いを馳せた未来の胸の奥は、自らの意思に反してぎゅうと締め付けられた。
『……私、ちょっと教えて欲しいことがあって、ね? お兄さんが私が欲しい答えを持ってたら一緒に遊んであげる』
未来は声をかけてきた男にしなだれかかり、瞳を潤ませた。そこそこ出入りしている、とこの男は言った。ならばクスリの噂くらいは耳にしたことがあるのではと踏んだ結論だった。
ここだとアレが手に入る。友人からそう聞いた――そんな風に口から出まかせを告げると、男の顔色が変わった。そしてその男は捕食物を目の前にしたかのような薄ら笑いをニタリと浮かべ、アバンチュールな一夜を過ごそう、とDJブースの奥にある、この隠し部屋へと未来を引っ張っていったのだ。
「今回は俺が『ジル』さんに払っといてあげる。気持ちイことしよ。そこの裏口から俺のオススメのホテルに出れるんだ」
「え~、アレ高いよね? お兄さん払ってくれるの? すっごい助かる~」
「お兄さん、じゃなくてソウイチ、ね。ソウちゃん、でもいいけど」
未来の肩を抱き、彼女の顔を覗き込む男の瞳は欲にまみれ、仄暗く燃えていた。腹の底から込み上げてくる生理的な嫌悪感を未来は必死に抑え込む。
(これは、本当にまずい。しくじった)
売人グループの洗い出しがノアに依頼された今回の任務だ。このままこの男に従っていては自らも昏い闇の底へと堕とされてしまう。かといってこの男の手を薙ぎ払ってしまえば任務失敗だ。この男は裏口から外に出る気でおり、瞬哉や龍騎・蓮からは未来の挙動が確認できなくなる。普段の任務と違い、インカムはつけていない。どうしたものかと笑顔を貼り付けたまま思案を続けていると、未来の隣の男は上機嫌に部屋の隅に陣取ってグラスを呷る男に歩み寄った。
その男――『ジル』に対し、未来が抱いた第一印象は『酷薄』の一言だ。彼岸を喰らいながら何千年も燻ぶり続ける……鬼のような。
年頃は瞬哉と同じくらいだろうか。冷酷な瞳をして、それでもなお人の良さそうな微笑みを湛えている。表情と瞳が釣り合っていない――天と地ほどの落差に未来は背筋が凍るような感覚を抱いた。
「ジルさん、こんばんは。ひとつ頂戴」
「おぉ、ソウか。久しぶりだなぁ」
ニコニコと笑みを浮かべたジルと呼ばれる男は未来へ視線を向ける。未来の心の内を見透かすようなジルの視線。ありったけの気力を振り絞り、小さく会釈を返した未来はその視線をしとやかに躱す。
「お嬢さん。これ、初めて?」
「……は、い。友人からめっちゃイイって聞いてぇ」
未来は緊張と好奇心を混じらせたような表情を作り、心の中に盾を作る。ジルはそんな未来の様子に「そっか」と小さく呟き、ゆっくりと未来へ近づいていく。
「コレね、女の子の身体と媚薬の種類に相性があるんだ。俺は全世界の女の子に、み~んな気持ちよくなってほしい。一番合う媚薬に出会ってほしいんだ。俺にはその子とコレの相性がわかる。だからね、ちょっとだけテストさせて」
「……テスト?」
クスリと身体の相性などあるのだろうか、そしてそれが他人にわかるものなのだろうか、と、未来は素で首を傾げた。クスリは化学成分を混ぜ合わせたモノでしかないはずだ。薬効による強制的なホルモンの過剰分泌によって深層意識の覚醒化を図り、高揚感を抱かせ一時的に五感を鋭敏にする作用機序でしかないはず。そしてそれは服用した本人にしかわからないものなのでは。
ジルは手を伸ばし、自らの手のひらをゆっくりと未来の頬に触れさせた。カチリ、と、未来の脳内が小さな音を立てる。
(――――ッ!?)
沼の底に淀んだ瘴気のようなモノが未来の感情へなだれ込む。先ほど未来が感じた何かが音を立てるような感覚。未来はガイド同士が能力を高め合うために行う訓練で幾度もそれを経験している。状況が全く飲み込めない未来だったが、息を飲むことだけは必死に堪えた。
目の前の男も『能力者』、なのだ。そう理解すると同時に、未来の中になだれ込んできた黒い靄に思考が絡まる。
読心能力を持つガイド。その能力はセンチネル、もしくはガイドに対してしか効果を発揮しない。けれど、能力を覚醒させた人間はもれなくノアに所属することになっているはずだ。だというのに、どうしてこの男はノアの一員ではないのだろうか。未来は激しく混乱した。
「……ねぇ、お嬢さん」
ジルが未来へ向かって嫣然と微笑んだ瞬間。ダンッと激しい音をたて、入り口の扉が勢いよく開いた。
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