【R18】召喚聖女はイケおじ神官上司を陥落させたい

春宮ともみ

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召喚聖女はイケおじ神官上司を陥落させたい

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 羽根ペンを持ったままのあんは、聖書の挿絵を描く手を止め、ぼんやりと窓の外を眺めていた。日が落ちてすっかり暗くなった景色の中に、白い粒がちらつき始めている。
 もうそんな季節か、と、ほぅと息を吐くと、その拍子にテーブルに灯している蝋燭の火がゆらゆらと揺らめいていく。

 ――遅いな……。

 杏が心の中でひとりごちた瞬間、暖炉の薪がパチリと音を立てた。と同時に、ぎぃ、と蝶番の音が鳴り、木製のドアからフードを被った金髪の男性がひょいと顔を覗かせる。

「アン。まだ描いていたのかい?」
「あ……クロードさま」

 ふわりと笑ったクロードの表情に、杏はどきりと心臓が跳ねるのを感じた。その感覚を取り繕うように慌てて姿勢を正し、手に持っていた羽根ペンを置いて席を立った。

「お帰りなさいませ。議会はいかがでしたか?」

 黒いキャソック姿のクロードに駆け寄りながら、ずっしりとした彼の手荷物を受け取る。こんな時間まで議会が長引くことは初めてのことだったので、きっとなにかあったに違いない。そう思って尋ねたものの、杏の予想に反して彼は目尻の皺を深くしながら笑い、首を振ってみせた。

「うん? まぁ、いつも通りだったよ」

 そう言いながら肩をすくめる彼の仕草には気品があり、言葉遣いにも育ちの良さを感じさせるものがあった。それもそのはず、彼はこの国の教会のすべてを総べる大神官であり、現時点で、国王や魔術師団長に次ぐ権力を持っている。

「公爵や伯爵たちは相変わらず私のことを煙たがっているようだね。まぁ、仕方ないさ。私ももう歳だからね。早いところ後任の神官を任命しろと急かしてくるから」

 脱いだローブを杏が差し出したハンガーにかけたクロードは、ゆっくりと前髪をかきあげた。その拍子に、どこまでも澄んだ彼の青い瞳があらわになる。いつものような穏やかな口ぶりだったが、クロードのその口調からはどこか疲れを感じさせた。
 クロード・フィッシャー。年齢は確か四十代の後半に差し掛かっているはずだ。中年でありながらすらりとした細身の体躯を持ち、引き締まった身体をしている。長い手足と金色の髪、そして美しい青眼は見るものを魅了する。

「私が元いた世界では、クロードさまはまだ若い方なのに」

 四十代なんて、あちらでは働き盛りの年代だ。けれど、この世界では隠居を求められる年齢らしい。クロードは体調を崩したりすこともなく元気そのものなので、実に理不尽だ。杏が元いた世界の常識と、この世界の常識は、ひどくかけ離れているようだった。
 なんとも納得がいかず、むぅ、と頬を膨らませる杏を見遣り、クロードは困ったような笑顔を浮かべた。

「もう君も……召喚されて十年になるんだったね」

 そう言って彼は椅子を引き、ゆったりとした動作で杏が座っていた席の正面に腰掛けた。その拍子に、クロードの首から下がっている十字架の刺繍が入った臙脂色のストラが、ゆらりと揺らめく。
 クロードはそのままテーブルに肘をついた。彼の頬に添えられたてのひらに思わず杏の視線が奪われる。
 しなやかだったクロードの指先に節くれが目立つようになった歳月を思うと、杏はなんとも言えない感情に包まれてしまい、思わず視線を彷徨わせてしまう。

「そう、ですね……あっ、ワインいれますね」

 胸の奥に生まれた感覚から視線を逸らすように、杏は踵を返して、戸棚のワインボトルに手を伸ばした。
 十年前。突如としてこちらの世界へと召喚された杏は、この教会の聖堂で目を覚まし、自分が聖女であることを聞かされた。
 聖女――男性の場合は聖者というらしい――の役目とは、この教会の中で神に祈りを捧げることで神の加護を受け、世界の秩序を保つことなのだそう。
 その当時、この世界には聖者・聖女が生まれてこなかったのだとか。そんな時は異世界から該当者を召喚するということを歴代繰り返していたそうだ。
 杏のケースでも、当時の神官が召喚を行うことを決め、儀式を行った、らしい。
 らしい、というのは、杏はその当時の神官に会ったことがないからだ。異世界から人間を召喚するということは、杏が召喚される数年前に、人道的な意味合いから――この世界にも人道的という概念があることに驚くが――議会で禁止とされていたそうで、禁忌を犯したこの神官は王の手によって【処分】された、というのは風の噂で聞いた。
 元の世界に戻る術を持たない杏はこの世界で生きることを素直に受け入れた。理由は至極単純だ。
 杏は元々孤児で、児童養護施設育ち。深くかかわった友人もいない。高卒で就職はしたものの、召喚されたのは入社から一週間後のことで、社会での大きな歯車になっていた実感もなかったうえに元の世界に未練なんてなかったから。

「でも……私にとってはここの生活の方が長く感じますよ」

 とぷとぷとワインを注いでいく最中、緊張でわずかに震える手をなんとか押さえ込んだ杏は、なんということはないという風を装って言葉を紡いでいく。クロードに背を向け、手元のポケットから取り出した粉末をクロードのワイングラスにさらりと注いだ。音もなく姿を消したそれをトレーに乗せ、くつろいでいるクロードの目の前に差し出していく。

「あぁ、ありがとう……君は、ずいぶん変わったよね」
「え?」

 ワイングラスに手を伸ばしたクロードに、脈略なく投げかけられた言葉。杏は思わず首を傾げる。

「以前はもっと子供っぽい印象があったけど、最近は大人びたというか……」

 杏がこの世界に召喚されてから既に十年の月日が流れており、その間に、杏の外見もすっかり変わってしまった。二十八歳、という年齢の割には若く見られることが多いけれど、さすがに二十代前半の頃のような幼さは消えている。

「そりゃぁ、もう私もアラサーなんですもの。多少なりとも落ち着きも出てきますってば」

 思いっきり苦笑しながら言うと、クロードも同じように笑みを浮かべた。

「アラサー……えっと、おおむね三十歳前後の人のことだっけ。それもそうだねぇ……あぁ、でも、本当に……アンは特別に綺麗になったと思うよ」

 クロードの言葉に、杏はぱっと顔を上げた。途端に胸の奥がぽわっと温かくなっていくのを感じる。思わず緩んでしまいそうになる唇をきゅっと結んで、杏は表情を取り繕うように曖昧な笑顔を作った。こういうことをさらりと言ってしまうところが、彼らしいと言えばそうなのだが。

「ふふっ……クロードさま、お世辞上手になりましたね」
「本心だよ」
「またそういうこと言って……ほら、早く飲んでください」

 杏がワイングラスをテーブルに置くと、クロードはくすりと笑って、それに手を伸ばした。

「あぁ、そうだね。せっかく注いでくれたんだし」

 ワイングラスに口づけたクロードはゆっくりとワインを嚥下していく。喉仏が上下する様が、なんだか妙に色っぽく感じてしまう。
 クロードの一挙一動にこんなにもどきどきしているなんて知られたら恥ずかしくて死んでしまう。杏はそう思いながら慌てて目線を逸らし、テーブルの上に置いてあった聖書を手に取った。

「アンは……外に出たいと思ったことは、ないのかい?」
「外、ですか?」

 杏がオウム返しすると、クロードは小さく首肯した。そして、静かに言葉を続けていく。

「私たちはいつもこの教会で生活をしているだろう? だから、君も退屈していないかと思ってね」

 聖者・聖女となったものは、役割を終えるまで教会の敷地内から出られない。その上、邪悪なものから聖者を護る役割をもった神官と生活をともにする。制限のある生活だが、敷地の中では自由に動けるので、野草を取ったり刺繍をしたり、聖書の挿絵を描いて対価を受け取ったり、それはそれで楽しい生活を送っていると思う。
 なにより――クロードがそばにいる。孤独ではないから、寂しく感じた事はなかった。杏はふるふると左右に首を振って否定を示す。

「いえ……私は大丈夫ですよ。だって、クロードさまも一緒にいるじゃないですか」
「……私が、一緒だから……か」
「? どうかしましたか?」
「……いいや。なんでもないよ」

 クロードはどこか切なげに眉尻を下げながら笑みを浮かべ、ふたたびグラスを傾けていく。

「うん、美味しいよ」
「それはよかったです」
「いつも悪いね、アン」
「いえ、これくらい」
「ありがとう」

 にっこりと穏やかに微笑まれ、杏は胸の奥がきゅんと疼くのを感じた。

 ――うぅ~っ! クロードさまって、やっぱり格好良いし優しいし素敵すぎる……。

 この世界に来てからは、毎日のように顔を合わせているけれど、いつ見てもドキドキしてしまう。

 ――早く……薬が効くといいな……。

 そうすれば……今よりももっと、近くに行けるはずなのだから。
 あと少しだけ……と、願いを込めるようにそっと目を伏せ、杏はテーブルの上に置いていた画材を胸に抱え込んでいく。

「じゃぁ、私はこれで失礼しますね」
「ああ。遅くまで起きてくれていてありがとう、アン。ゆっくり休むといい」

 いつもと同じように優しく労わってくれるクロードの言葉に、「はい」と微笑み返し、杏は自室へと戻るのだった。




 ***




 この十年間。同じ屋根の下、杏に与えられた自室の隣の部屋に住むクロードは、杏に対して決して一線を超えることはしなかった。それもそうだろう、杏よりもニ十歳も年上のクロードは、聖女である杏を邪悪なものから護るという役割を持った人間なのだから。

 ――そんなことは百も承知だけれど……でも、やっぱり私だって女の子なんだし、一度くらいはに興味があるわけで。

 なぜなら、自分はもうすぐ【処分】される身だ。ならば、その前に一度だけでも好きな人と結ばれたいと願うのはいけないことだろうか?
 修道服をたくしあげた杏はショーツを脱ぎ捨て、ゆっくりと自室の扉を開いて廊下へと足を踏み出した。
 もちろん、クロードに想いを告げるつもりはない。そもそも彼には自分の気持ちなどまったく伝わっていないのだ。
 だからといって、いきなり「セックスしたい」と迫っても、おそらく困らせてしまうだけだし、神に仕える身で不貞を働くなんて言語道断だと懇々と説教されてしまうのがオチだ。だから――
 キィ、と、蝶番の音を鳴らしながら、杏はクロードの自室の扉を押し開いた。その瞬間、ベッドに横たわる影が、びくりと跳ねたのが暗闇の中でもわかった。

「……ア、ン……?」

 かすれた声が問いかけてくる。だが、杏はそれに答えず、後ろ手に扉を閉めるなり鍵をかけた。カチャリという音が響いた途端、ベッド上の気配がふたたび動揺したように揺れる。

「どう……したんだい? こんな、時間に……」

 荒い吐息混じりの声には戸惑いが滲んでいる。無理もない。深夜と言ってもいい時間なのだ。本来であれば眠っているはずの人間が突然部屋を訪れれば驚くだろう。

「あはっ♡ 効いてますね、クロードさま?♡」

 けれど杏はそれを気に留めることなく、ベッドに近づくと、そっとクロードの頬に触れた。

「っ……!!」

 指先で触れただけなのに、それだけでクロードの身体は大きく震える。熱を帯びた肌はしっとりと汗ばみ、ほんのりと赤らんでいた。

「ふふ……クロードさまぁ♡」

 いつも余裕のある表情を浮かべている彼が今はこんなにも乱れている。その事実だけでゾクゾクとした興奮を覚えてしまう。と同時に、下腹がずくりと強く疼いた。

「……なんだか、変な気分になってきちゃいました……ねぇ、クロードさまもそうですよね? だってほら、ここ……」

 じっとりと熱を孕んだ声色で言葉を紡いだ杏は、いまだ横になったままの彼の股間へと手を伸ばす。そこはキャソック越しでもわかるほどに大きく膨らんでいて、とても窮屈そうだ。

「ぅ……ッ!」
「ねぇ、クロードさま……私の淫乱おまんこ、ぶっといおちんぽで……ごつごつして、ぐりぐりしてください……♡♡」
「ア……きみっ、なんてことを」
「杏の処女まんこに、クロードさまのおちんぽみるく、いっぱいびゅーびゅーして?♡♡」
「な……」

 恥ずかしげもなく卑猥な単語を口にする杏の姿に、クロードは口元と目元を引き攣らせた。絶句したままのクロードの表情から、彼が杏の発言にドン引きしている様子が見て取れる。

 ――もう……なんでそんな反応?

 もっとこう、照れるとか慌てるとか、そういうリアクションを期待していたのだが――まあいいかと思い直した杏は、彼のキャソックに手をかける。この世界では、王侯貴族以外は普段着のまま就寝するのが当たり前なのだ、ということは、杏が召喚された十数年前にクロードから直接聞いた覚えがある。
 生地を押し上げるほど勃起している剛直の形を確かめるように撫でると、彼はびくびくと身体を震わせた。

「アンっ……だからっ、やめ、なさい……!」
「どうしてですか?」

 震えながらも毅然とした口調のクロードは、眉間にシワを寄せながら必死の抵抗をみせた。だが、その言葉を意に介すことなく意地悪っぽく微笑みかけた杏は、さらに強くそこを擦り上げる。すると彼は歯を食いしばり、なにかに耐えるような表情を見せた。

「やめませんよ、クロードさま……♡ 野草を組み合わせた痺れ薬と媚薬、なんのために必死に作ったと思ってるんですか? クロードさまと、とびっきりえっちなことをするためですよ♡」
「っく、!」

 杏がぐにぐにと雄根を握り締めると、クロードは端正な顔立ちを歪め、重いため息を吐きだしていく。
 教会に併設されている宿舎の中には、図書館も備え付けられている。その図書館で杏は独学で野草の勉強をして、薬や湿布などを作ってミサに訪れる村人たちに分け与えていた。その一環で、そうした薬の作り方も覚えてしまったのだ。

「ふふ、指一本動かせないほどの痺れ薬、いかがです? それに、媚薬の方も……ほら。もうこんなになってますよぉ♡」

 クロードが身に纏うキャソックを寛げた杏は、ゆっくりとクロードに馬乗りになった。あらわになった屹立は透明な先走りで濡れそぼっており、その先端部分を指先で弄ぶと、ぬちゃりといやらしい音がする。その音を聞き、羞恥心から顔を赤らめたクロードだったが、すぐに唇を引き結び、鋭い視線を向けた。

「クロードさま、四十代なのにとってもお元気……ふふっ♡」
「こんなふしだらなこと、してはいけない!」
「そうですか? クロードさまだって、うんと昔、ご自分でお慰めになっていたくせに♡」
「っ!」

 クロードは目を瞠り、青い瞳を大きく揺らした。それは、杏の指摘が正しいことを示すなによりの証拠だった。

「私、見てしまったんですよぉ♡ このお部屋の前で。あれは、なにをしていたときのことだったんでしょうね?」

 クスリと笑みを浮かべた杏が問い掛けると、クロードの顔色は青ざめていく。そんなクロードを見下ろしながら、杏はさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。

「お気づきじゃなかったですか? あの時、少しだけ戸が開いていたんです……♡ なにかを見ながら、クロードさまは夢中で手を動かされてましたよね?」
「……」
「なにを見てらしたのかとっても気になって。クロードさまが議会でご不在の時に、お掃除と称してこのお部屋に入らせてもらったじゃないですか。そのときに……見つけちゃったんです。あちらの世界の、エロ本♡♡」

 杏がクロードのベッドの下から見つけたそのエロ本はいわゆる男性向けのもので、主人公と主人公の義妹が淫らに絡み合っていた。それを熱心に見つめながら、節くれだった指先で自慰に耽っていたクロードの姿を思い起こすたび、杏の慕情はより一層募っていったのだ。

 ――クロードさまが、あんなエッチなものをオカズにしてオナニーしていたなんて……♡

 そう思うと、身体の奥底からぞくぞくと快感が込み上げてきて止まらない。杏は熱い吐息を漏らすと、クロードの耳元で囁いた。

「さっきの私のオネダリだって、あのエロ本を見てなきゃ意味がわからない……そうでしょ? だって、おまんことかおちんぽとか、あっちの言葉なんですもの……観念してくださいませ、クロードさま♡」

 息を飲んだクロードが視線を逸らすも、杏はそれを許さなかった。剛直の裏筋へと手を這わせ、親指で先端の割れ目をなぞり上げる。そのたびにびくびくと震える肉棒を軽く握り、上下に扱き始める。

「ぁ……っ! やめ、……!」
「私の前に召喚された聖者の方、男性だとお聞きしました。その方が持ってらしたのですね? そのエロ本、奥付が2009年になっていましたし」

 裏筋に指先を食い込ませるように強く握るとクロードの顔色が変わる。快楽に流されそうになるのを堪えたらしいクロードが歯を食い縛り声を殺す。そんな彼の様子がおかしくなって、杏は思わずくすりと笑みを浮かべた。
 杏は空いた手でゆっくりと自らの修道服をはだけさせた。つんと尖った乳嘴が外気に触れ、杏はふるりと身を震わせる。

「クロードさまだけじゃ、不公平だと思ったから……私も、自分で調合した媚薬、飲んできたんですよぉ♡」

 飲んだ直後は平気だったが、クロードの乱れる姿に煽られるように、杏自身の身体も徐々に熱を帯びてきている。じっとりと湿った秘裂をクロードの右太ももに擦り付けると、月明かりが差し込む寝室に、ぬちゅ、と小さな粘着音が響いた。

「……っ、アン、いけない、これ以上は」

 必死に冷静さを保とうとしているらしいクロードの眉間に刻まれたしわがさらに深まる。杏は怒張を握る手を放し、自らの秘所を指でそっと押し広げた。腰を上げて、淫裂をさらに左右に開くと、こぷ、と新たな蜜が零れ落ちていく。

「素股……って、知ってます? 知ってますよね、あの本読んでいらしたなら」

 ふふ、と笑みを浮かべながら、杏はクロードの顔色を窺った。クロードの反応はない。ただ、彼の呼吸が少し荒くなった気がする。

「ねぇ、クロードさま。私とセックスしたいですか?」
「っ、アン……!」

 その問いにも、やはり返事はなかった。けれど、彼は今間違いなく欲情しているはずだ。

 ――だって……。

 クロードの瞳の奥には確かに劣情の炎がちろちろと揺れている。それを確認した杏は満足げな表情を浮かべ、そのままクロードの分身の上に跨った。
 ぬるりと腰を動かすと、擦れる感覚が気持ちいい。秘所と剛直の先端がキスをするかのような錯覚に陥り、その感覚に思わず息を漏らしてしまう。

「あぁん……すごい……♡♡」
「っく……アンっ、こんな破廉恥なっ……やめなさいっ……!」

 制止を求めるクロードの声音が上ずっている。クロードの肉棒はすでに限界まで張り詰めていた。先端から溢れ出した先走りが肉筒全体にまぶされ、潤滑油のように滑りをよくしていく。ぬるりとした感触とともに、秘芯へごりっとした刺激が走り、杏の唇からはしたない声が上がる。

「あんっ! あっ……すまたっ、思ってたよりっ、すごぉっ……!♡」
「アンだめだ、やめなさいっ……ぐぅ……っ!」

 快感で膝が崩れそうになるのを必死に耐えながら、杏はゆっくりと腰を前後に動かしていく。自分の意思とは関係なく与えられる快楽に翻弄されているらしいクロードは、歯噛みしながら耐え忍んでいるようだった。

「うそつきぃ♡♡ おちんちんガチガチにしておいてそんなこと言っちゃダメですよぉ? ほら、クロードさま、こことか好きでしょ?」

 そう言って、杏は自分の気持ちいいところに当たるように角度を変えつつ、小刻みに腰を動かす。その動きに合わせて、裏筋のこよりのような部分をぬちぬちと擦り上げると、堪えきれないといった様子でクロードが強く奥歯を噛み締めた音がした。

「ぐっ……!」
「あはッ♡ ……どうですか? 気持ちいいですか?」

 杏の問いに、クロードは答えない。ただ、荒い呼吸を繰り返しながら、ぎらぎらと光る瞳で睨めつけてくるだけだ。その視線だけでぞくぞくとしたものが背筋を駆け上がる。射抜くような眼差しの強さに、うなじの毛がちりちりと逆立つような感覚を覚えた。

 ――ああ……この人、ほんっとイイッ!

 心の中で歓喜の声を上げると同時に、自然と口角が上がっていく。

「私にはもう時間がないんです……クロードさま」
「アンっ……!」

 もう何度目かもわからない制止の言葉を振り切り、杏はクロードの淫柱に手を伸ばし、自らの痴肉に押し当てた。蜜口に触れた怒張は、熱くて硬い。触れ合った粘膜同士が溶け合うかのような錯覚を覚えて、杏はその感触を楽しむかのようにゆっくりと腰を沈めていく。

「んぁ……くぅ……」
「やめなさい……っ、こんなことっ……!」

 杏はクロードの言葉を無視し、さらに深くまで雄槍を飲み込んでいった。媚薬の効能なのか、初めてにも関わらずまったく痛みは感じない。身体の内部から押し広げられる感覚が苦しく、杏は思わず眉根を寄せた。
 しかし、それも一瞬のこと。圧迫感はすぐに逸楽へと変わっていき、やがてそれは圧倒的な充足感となって杏の全身を満たしていった。

「ああっ……すごいぃ……ッ♡」
「く、うっ……!」

 根元近くまで飲み込んだところで動きを止め、杏は大きく息をつく。下腹部に力を入れると、胎内のモノをきゅうと締め付けてしまう。その刺激にクロードも小さく声を上げた。

「ふふ……気持ちいいですか? クロードさま♡」

 妖艶な笑みを浮かべながら問いかければ、彼は苦し気に顔を歪める。そんな表情すら愛しく思えて、杏はさらに彼を追い詰めようとゆるりと腰を動かした。

「んぁっ……」

 最初はゆっくりと、次第に速く動かしていく。自分のイイトコロ――最奥に当たるように角度を調整して抽挿を繰り返す。すると、先ほどの素股とは比べ物にならないほどの快楽に襲われた。

「ああ……ンっ! はぅ……っ、ここぉ……気持ちいっ!」
「っ、アン……!」

 痺れ薬の効果で身じろぎひとつできずにいるクロードの額には汗が滲んでいる。その顔に浮かぶ焦燥の色は凄まじいもので、見ているだけでも愉悦に浸ることができた。

「ねえ、クロードさま……気持ちいいって、言って……?」

 ぐじゅぐじゅと卑猥な旋律を奏でながら、杏は甘えた声で強請りつつ、いやらしく腰を振った。杏が腰を動かすたびに豊かな双丘がぷるんと揺れ動く。

「うあぁ……あっ……やめ、てくれ……アン……ッ」

 普段よりも上擦った低い声音にゾクゾクする。その反応から彼が快感を感じていることは確かだった。それを感じ取りながら、無意識のうちに媚肉が収縮して剛直を扱きあげていく。みっちりと満たされた花襞は敏感になりすぎていて、どうしようもないほどにじくじくと疼いている。

 ――ああ、私、今、すごくエッチなことしてるんだ……。

 背徳感が快感に変わる瞬間だった。いつも冷静沈着で紳士的な彼からは想像できないほどの雄の色気を感じてクラリとした。

 ――媚薬の力とはいえこんな風に乱れてしまわれるなんて。

 そんなクロードの姿にどうしようもなく興奮してしまう。もっと見たい。もっと感じて欲しい。もっともっと彼を乱れさせたかった。杏はその欲求のままに淫らに踊り続けた。

「クロードさまぁっ……! すき、だいすきっ……!♡」

 媚薬によって高められた身体は貪欲だ。一度快楽を感じ始めると際限なく求めてしまう。もっともっとと強請るように腰を振り、彼の分身をぎゅっと締め付けた。

「うっ、あっ、アンッ……!」

 クロードは苦し気に呻く。杏は、甘美な責め苦を与えながら、まるで小さな子どものように純粋な疑問を口にする。

「ねぇ、クロードさま、っ……気持ち、いい? イきたい? ね、教えてっ……クロードさまあっ……!」
「くっ、ううっ……!」

 クロードの眉間に深いしわが刻まれる。それでも、クロードは言葉を発しない。ただ、荒い呼吸を繰り返すだけだ。そんな強情な様子に苛立った杏は、剛直を根元まで飲み込んだまま、子宮口に当たるようにぐりぐりと腰を押し付けた。

「っく、あっ、あ、あ……っ!」

 クロードの唇から堪えきれないといった様子で声が漏れ出る。彼の肉棒はこれ以上ないほどに張り詰めていて、今にも白濁を解き放たんばかりにビクビクと小刻みに跳ねている。

「ねぇ、クロードさま、気持ちいいって言ってぇ……私の、中、めちゃくちゃにしてぇっ!」

 杏は甘えるように懇願した。その拍子に肉襞がきゅうっと収縮して肉棒を締め付けた。

「っ、ア、アン、もうやめ……っ」
「やだぁっ! クロードさまが、気持ちいいって言うまでやめないっ……♡」
「アン、本当に……やめてくれっ……!」
「じゃあ、気持ちいいって言ってくださいよぉ!」

 ぐじゅ、と淫らな音を立てながら、杏はさらに腰を押し付ける。クロードの眉間に刻まれたしわが深くなった。
 媚薬の効果で敏感になった杏の花襞は、クロード自身をきつく締めつけながらも淫らに蠕動し、彼自身を余すことなく愛撫している。クロードが身じろぎするたびに先端や裏筋が最奥に擦れ、その度に意識が飛びそうなほどの快感に襲われた。
 でも、もっと欲しい。もっと気持ち良くなりたい。もっともっと、クロードが欲しい。その一心で、杏は夢中で腰を動かし続けた。

「あぁっ!  気持ちいっ、クロードさまのおっきいので、奥までっ、ごりごりってされるのっ、きもちいぃのぉっ♡♡」

 杏が半泣きになりながらクロードに訴えると、彼は一度大きく息を吐いた後、観念したかのように口を開いた。クロードの剛直は、もう限界が近いらしい。熱く脈動するそれを感じるたびに、杏自身もどんどん高められていく。

「っ……気持ちいい、からっ……! 頼むから、もう許してくれ、アン……!!」

 クロードの絞り出すようなその声を聞いて、杏は歓喜に震えた。それと同時に、身体の奥から熱いものがせり上がってくるような感覚に襲われる。それだけで、身体だけでなく心までもが満たされていくようだった。杏はこれまで味わったことのない多幸感に酔いしれながら、クロードの分身を胎内に咥えこんだまま、ふるりと身体を震わせた。

「んっ、ふふ……嬉しいっ!♡」

 ぐちゅっ、じゅぷ、という淫らな水音が寝室に響く。それをかき消すかのように、クロードの荒い息遣いと喘ぎ声が入り混じったような苦しげな声が、杏の鼓膜を震わせた。その音を聞いているだけで、身体の奥がきゅんっと疼く。もっと、もっと、と貪欲に快楽を貪る杏は、無意識のうちに腰の動きを速めていった。

「アンっ……頼むから、もう……っ!」
「クロードさま、好きです、大好きです、愛してる……!」

 想いの丈をぶつけるように激しく腰を動かしながら、杏は円を描くように腰をくねらせた。クロードの剛直は今にも弾けそうなほどに膨れ上がり、杏の胎内でビクビクと脈打っている。

「あっ、アン、やめろ……頼むから、もう……っ!」

 もっと欲しい。もっともっとたくさん感じたい。主導権を握っている状況というのは格別だ。
 クロードは、ほとんど力の入らない腕を懸命に動かして、なんとか杏を引き剥がそうとしている。けれど、彼の身体は微弱な電流が流れるように小刻みに震えており、まともに抵抗することもできないらしい。媚薬の効果で普段よりも敏感になっているためか、今では涙がにじむほどに感じているようだ。

「あっ……ここぉっ……♡ クリに当たって、めちゃくちゃいいのぉっ!」

 クロードのたくましい胸筋に手を置き、自ら腰を揺すりながら、より深く挿入しようと腰を落とす。その拍子に、杏は思わず息を詰めて仰け反った。肉傘が奥まで入り込んでしまったせいか、あまりに強い快感が襲ってくるのだ。

「んぅっ♡ やぁんっ!!」
「ぐ、ぁっ……アン、もう、私はっ……!」

 強烈な快感から逃げるように身体を浮かせようとするのだが、すぐに力が抜けてしまってふたたび最奥まで飲みこんでしまう。最奥をゴツゴツと刺激するように何度も繰り返してしまう腰の動きは、まるで自分一人だけが楽しんでいるかのような感覚に陥ってしまう。でも、それがたまらなく気持ち良いのだ。

「ふあぁっ、イっちゃうっ、イクッ、イッ――……ッ!!♡♡♡」
「っ~~~、ア、ンっ……!」

 隧道が引き絞るような痙攣を繰り返し、下腹からせり上がってきた熱い塊が脳天をめがけて勢いよく走り抜けていく。人生で初めて絶頂に達し、杏は天を仰いだ。
 一瞬の硬直のあとの失墜感は凄まじいもので、大きく息を吐いた瞬間、身体中から力が抜けてしまった。クロードのしなやかな胸板に身体を預けたまま、絶頂の余韻を感じている間も膣壁のうねりは止まらない。ぎゅむぎゅむとうねる胎内に熱い精が放たれて、張り詰めたままの楔はどくどくと痙攣している。

「ア、ン……」

 掠れた声で杏を呼んだクロードの手が伸びてくる。どうやら、痺れ薬の効能が切れかけているらしい。
 頬に触れた手のひらは熱い。そのまま引き寄せられて唇を奪われる。

「!」

 思わず目を瞠った杏が腰を引くと、いまだ硬度を保ったままの怒張がぬるりと胎内から抜き出されて、白濁した粘液がこぼれ落ちた。
 貪るように舌を差し入れられると、身体の奥底が熱く疼いてしまう。

 ――あ……私いま、キス……されてる……?

 意識するともうだめだった。心臓が壊れたように早鐘を打ち、思うように息ができない。

「……ッ」

 呼吸困難に陥った杏が胸元を押すと、ようやくクロードは唇を解放してくれた。

「アン……怒らないから……どうしてこんなことをしたのか、教えてくれるかい……?」

 荒い呼吸のままのクロードの声音はひどく優しい。けれど、その瞳には怒りの色が見え隠れしている。
 杏は視線を落として俯いた。目を合わせる勇気がない。

「……ごめんなさい……」

 消え入りそうな声で謝ると、クロードは眉間に深いしわを寄せ、困り果てたような表情を浮かべていた。

「謝らなくていい。私は理由を知りたいんだ。時間がないって、どういうことだい?」
「……」
「……答えたくない?」

 無言のままの杏にクロードは小さくため息を吐き出した。

「私も……近いうちに……処分、されるんでしょう? クロードさま」

 涙声になって尋ねると、彼は驚いたように目を丸くさせた。

「……そろそろ、私の役目が終わりそうだってことは、わかっていました。この世界の人たちのために尽くすために呼ばれたんですもの。だから、最後に好きな人の腕の中で愛されたかったんです」
「アン、なにを言って……?」

 動揺する彼の顔をまともに見ることができず、杏は俯いたまま言葉を続けた。

「私の前に召喚された男性は、三年ほど聖者として勤めて【処分】されたと聞いています。私はもう十年聖女を勤めました。だから私も処分されちゃうんですよね? だから最近、議会からの帰りが遅いんですよね?」

 喉の奥から絞り出した声は震えていた。自分が今、どんな表情をしているのかもわからない。ただ涙で視界が滲んでいた。

「だから……死ぬ前に、ずっと好きだったクロードさまに抱いてほしかったんです……」

 聖女としてこの世界に召喚された自分が、こんなことを願うなんて自分はおかしいのかもしれない。でもこれが本心なのだ。自分の気持ちに気づいてしまった以上、もう引き返せない。

「私は、クロードさまを……愛しています……」

 愛している――そう口にした瞬間、堰を切ったように涙が流れ出した。今まで押し殺してきた感情が爆発したかのように溢れ出す。
 クロードは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに困ったように微笑んだ。

「アン、君はひとつ勘違いをしているよ」
「え……?」
「先代の聖者は処分されたわけじゃない。この世界を旅してみたいという本人の望みで、お役御免になっただけだよ。それがまわりまわって、処分、なんていう物騒な話にすり替わってしまったのかもしれないね」
「そ……う、なんですか……?」

 クロードの言葉に、ほっとしたと同時に力が抜けていく。張りつめていた緊張が解けると、今度は恥ずかしさがこみ上げてくる。

 ――私……なにをやってるのかしら……。

 勝手に誤解をして暴走し、あげくにクロードを襲い、告白までしてしまったのだ。穴があったら入りたい気分だ。

「おおかた、先日生まれた王女に聖女の素質がありそうだって風の噂を聞いたね?」
「……はい……ミサの時に」
「そうだったんだね。でもね、君の処分の話なんて、一切でていないよ。……いや、でていない、というのは正しくないかもしれないけれど。でもそれは、君を殺すことではなくて、君の身請け先を審議していただけなんだよ」

 節くれが目立つクロードの指先が杏の黒髪をゆっくりと弄んでいく。

「それでね、アン。君の身請け先の話なんだけど」
「……」

 杏は思わず目を伏せた。元聖女が王女の近くにいるのは好ましくないと判断されたのならば、きっと辺境の公爵家の後妻などを提案されるだけだろう。そんなの嫌だ。絶対に嫌だった。この人以外のところに嫁ぐくらいなら死んだ方がましだとすら思う。
 だけど、そう思ったところでどうしようもないこともわかっている。杏はこの世界で生まれた人間でもなく、どこかの貴族の後ろ楯がある身分でもない。唯一持っていた聖女という役目も、次代の聖女が決まれば意味を成さない。
 鬱々とした感情のままに唇を噛み、杏は声を振り絞った。

「……私の身請け先はもう決まっているんですか?」
「うん。一応ね。ただ、これはまだ決定ではないよ。……君さえよければ、私の妻になってくれないかな、アン」
「えっ!?」

 驚いて顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべているクロードの姿があった。

「私は、アンを手放したくないんだ。だから、私のところへ来てほしい」
「で、でも……」

 クロードは先ほどの杏の暴走を怒っていたのではないのだろうか。自身を嫌いになってしまったのではないだろうか?
 そんな不安を抱きながらおずおずと見上げると、クロードは苦笑いをしながら頬に触れてくる。その表情からは怒りの色は見えない。それどころか、どこか困ったような顔をしているようにも見える。

「さっきはごめんね。でも、君の告白はとても嬉しかった。私も……君を愛しているよ」
「あ……」

 予想外過ぎる展開に杏が呆然としていると、クロードは目尻のシワを深くし、照れた様子を見せながらも言葉を続けた。

「私は……神職についたから、だれも娶らないつもりでいた。だけどね、アンと過ごしたこの十年は……すごく特別に思う。毎日が穏やかで、あたたかい。こんな気持ちは初めてなんだ。君と一緒にいるだけで幸せな気分になれる。もっと一緒にいたいと思うし、抱きしめたいとも思うんだ」

 今まで見たことがないほど優しい眼差しで見つめられて胸の奥がぎゅうと切なくなった。その瞳に見つめられながらそっと頬を撫でられると、くすぐったくてたまらないのに心地いいという不思議な感覚に襲われる。

「……は、い……クロードさま……」

 込み上げてくる嗚咽を噛み殺しながら、杏はゆっくりと頷いた。すると、クロードもほっとしたように息をつく。

「よかった……とはいえ、やられっぱなしは性に合わないからね」

 にこりと笑みを浮かべたクロードは杏の脇に手を差し込むと、そのまま杏の身体をひょいと持ち上げ、視界が反転した。想像もしていなかった流れに、思わず涙も止まってしまう。

「へ?」
「今度は私の番だ。君を……これまで我慢していた分、抱きたい」
「わぷっ!」

 ベッドへ押し倒された杏は間抜けな声を上げてしまった。ぎしりと軋む音にすぐに顔を上げたものの、すでに目の前には精悍なクロードの顔が迫っている。
 じっとりと杏を見つめる碧眼の奥には、獣欲の炎がぎらぎらと揺らいでいた。

「私はもう、痺れ薬も媚薬も切れているけど……時間差で媚薬を飲んだ君は、きっとまだ切れていないだろう? それに、こんなにも愛らしい姿を見せられては……抑えが効くわけもない」
「え、ちょ……あっ! やぁあんッ!」

 そののち三度も白濁を注ぎ込まれた杏は、上司――実は絶倫――に媚薬を盛った代償は大きかったということを、身をもって知ったのだった。
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