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1巻
1-3
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◆
冷蔵庫から缶ビールを取り出した俺は、どっかりとソファに座り込んだ。プシュ、と缶を開ける甲高い音が響く。独特の苦味と炭酸が、軽快な音を立てて喉を滑り落ちていった。
「……美味い」
ビールが美味いと感じるようになったのはいつのころからだったか。大学時代、ゼミの先輩に飲まされた際は苦味しか感じられなかった。そもそもアルコールに強い部類でもない。だからこうして――夕食時に缶ビールを開ける、など。俺は滅多にする人間ではない。
それなのに。今日に限って晩酌したくなった理由、は。
「……いけ好かねぇヤツとは思っていたが」
あの男は、一瀬さんを捨てた直後に違う女と結婚した。優し気で甘い顔をして、長い間一瀬さんを裏切っていたのだろうか。彼女はそれをいつ知ったのか。まさかずいぶんと前から知っていて、気丈に振る舞う日々を過ごしていたのか。
思考にノイズが走る。感情がひどく乱されていく。湧き上がる苛つきから口を付けたビールの缶をガシャンと乱暴な音を立ててテーブルに置いた。
恐らく決定打となったのが先週で、だからこそ今朝は鬱いだような様子だったのだ。あの姿から察するに、彼女は未練があるのだろう。人としての尊厳を踏み躙られてなお、あの男に想いを寄せている。……そんな一瀬さん自身にも、イライラする。
受信信号が途切れたテレビのディスプレイに表示されるような黒い砂嵐が、ざぁっと音を立てて俺の感情を支配していく。
あのような男は、一瀬さんには相応しくない。相応しいのは……
……相応しいのは?
ハッと我に返る。室内を照らす照明の眩さに思わず数度瞬きをした。
「……何をバカなことを」
自らを諫める言葉を口にしながらも――脳裏には。エレベーターの中で盗み見た、一瀬さんの白いうなじと薄い耳朶がくっきりと思い出されていく。
三ツ石商社へと向かう道すがら、俺を振り返った時の無理をしているような表情。休憩時間に回ってきた異動者リストに平山凌牙の名前を見つけた時の寂しげな表情。その下に記載してあった、総合職への転換者リストに一瀬さん本人の名前を見つけた時の……恥じらうような、笑顔。面談から戻ってきた時の――綻んだような、柔らかな笑顔。
この半年で目にしてきた彼女のたくさんの表情が、浮かんでは消えていく。脳内で再生されていく映像を止めることもできず、気がつけば。
「……何で」
どくん、どくん、と。大きく脈打つ心臓。そして。
(何で……勃ってンだ、俺)
いつの間にか――昂っている、俺の欲望の塊。
久しぶりの晩酌だから、身体が昂ったのだろう。そんな言い訳を自分で自分にしながらゆるゆると頭を振った。思考から彼女の姿を振り払う。
こんなのは男の生理だとわかっている。単に擦ればいい。射精せば楽になる、ということも知っている。何もせずに欲を押し込めたところでかえって辛くなるだけだ。
早く寝なければ明日の業務に差し障る。明日は終業後に役員懇談会が開かれ、俺はその実行委員の新入社員枠に選出されている。同期たちと準備に奔走しなければならない。こんなくだらないことで時間を取られて体力回復の機会を失うわけにはいかない。適当な素材でも探して……義務的に。そう、義務的にやって終わろう。
そこまで考えてスマートフォンに手を伸ばした、その瞬間。スマートフォンが鈍く震え、着信を知らせた。一瀬さんだったら出たくない。今、彼女の声を聞いたら……無理だ。何が無理かなんて、考えるまでもない。
彼女ではありませんようにと願い、ディスプレイを裏返してテーブルの上に置いていたそれを緩慢な動作で手に取った。そこに表示されていたのは――『藤宮』という文字。
八つ当たり気味に舌打ちし、応答ボタンをタップしてスマートフォンを耳に当てた。
「どうした」
『小林ぃ! 合コンやろうぜ!』
「……はぁ?」
意図がまったく掴めない第一声。思わず呆れたような声が自分の喉から飛び出ていく。
大学時代に得た親友。互いに就職して以降、慣れない社会人生活に忙殺されここ半年は連絡を取り合うこともなく、今朝、偶然の邂逅を経た。気の置けないその親友は相変わらず強引な態度で俺を振り回す。
『今日俺の先輩に会いに来てただろ? 実はさぁ、あの先輩、三ヵ月くらい前に結婚直前の彼女さんにフラれちゃってさぁ、すっげぇ落ち込んでたんだよ。それが先週くらいからやっと元気になってきたんだ』
「……んで?」
スマートフォンのスピーカーから流れてくる藤宮の声。『俺の先輩』、というのは業務上何度か電話で会話を交わしたムラカミという男のことだろう。ソファに沈み込んだまま額に手を当てた。
『こういうのってさぁ、本人が落ち着くまで周りもそっとしとくしかねぇじゃん? んで、やっと先輩が落ち着いてきたからさぁ、合コンして、元カノのこと忘れて、ぱぁっとしてほしーンだよ、後輩としては』
「……はぁ」
なんとなく要領を得ない話に曖昧に相槌を打つ。失恋した先輩を励ますための会を開きたい、ということまでは理解した。
『で、合コンっつったって学生の時みたいにはできねぇんだよなぁ。ゼミみたいなツテがねぇし』
藤宮の困ったようなその一言に、パチンとパズルのピースが嵌まるような感覚に襲われた。額に当てた手を外すと同時に、自分の表情が険しくなるのを自覚する。学生のころはゼミやサークルの繋がりで男女ともに参加者を集めやすかった。けれど、社会人となった今は違う。
「お前、一瀬さんを呼べって言いたいわけ」
電話口の相手の真意を察し、己の声が低く響いた。冗談じゃない。彼女は今傷ついている。そんな場所に呼べるわけがないだろう。怒気を孕んだ俺の言葉に、藤宮がにわかに慌てだした。
『待て待て、お前、もしかしなくてもあの先輩狙ってンのか!?』
「ちげぇよ!!」
投げかけられた疑問を間髪入れずに否定する。違う。そんな邪な感情は抱いていない。親身になってくれる人が傷ついている。それが心配なだけ。……情が、湧いただけ。
「職場の先輩を……男の先輩ならまだしも、女の先輩を合コンに引っ張り出せると思うか、お前」
はぁっと溜息を吐きながら再び額に手を当てた。俺はこの半年、一瀬さんとは社会人として最低限のコミュニケーションしか取ってこなかった。そんな俺が軽率に、ましてや出会いを目的としたいかがわしい誘いをかけられるわけもないだろう。
『なぁんだ、お前あの先輩狙いじゃないんだな? じゃ、俺が仕事中にモーションかけてもいいわけだな』
「お前、いい加減に」
『ウソウソ、冗談だよ。本気にすンなって』
「お前の冗談は笑えないから好きじゃない」
『そりゃすまんかったわ』
唯一の親友は相変わらず俺を揶揄うのが好きらしい。電話の向こう側ではケラケラと藤宮が笑っていた。軽口を叩くような口調で先ほどの言葉が完全な冗談だと悟り息を吐く。乱された気持ちを整えようとガシガシと頭を掻いた。
「それで? 俺にどーしてほしいわけ」
俺は藤宮には恩義がある。できる範囲での協力は惜しまないつもりだ。こいつも俺の性格を把握しているからこそこうして連絡を取ったのだろう。
『女性を誘って来てほしいんだ。人数が合わなくて。お前のノルマ、一人でいいから』
来てほしい。藤宮は俺に、参加者を集める協力だけでなく、俺自身もその合コンへの参加を求めているのだろう。『俺の参加』は俺の意向を無視してほぼ確定されたことなのだということまで、理解した。大学時代から変わらない悪友の態度に頭痛がする。
「……俺が参加するのは決定事項なのか」
『ったりめぇじゃん! どーせ仕事仕事で彼女もいねぇんだろ』
久しぶりに顔を合わせたにも関わらず、その辺りを見抜かれていたことに思わず苦笑した。
傷心中の一瀬さんはさすがに呼べないだろうが、三木さんなら誘えるかもしれない。それならば俺の心も痛まない。
「……わかった」
『頼んだぜ! あとで場所と時間の詳細送っておくわ! じゃな!』
その言葉を最後に、ぶつっ、と俺にとっては迷惑極まりない通話が途切れた。
面倒なことに巻き込まれた。ディスプレイを暗くし、肺がからっぽになるまで長い溜息を吐く。
そう。この感情は、恋や愛ではない。仕事で苦楽を共にする仲間への情でしかないのだ。
藤宮との電話を終えても昂ったままの自身。血流が集中したそれを、ただただ弄ぶ。とにかく今は、明日のために義務的に終わらせて早く休まなければ。スマートフォンで適当な素材を見ようと視線を落とすと、真っ黒なディスプレイに、一瀬さんの顔がチラついた。
舌打ちとともに頭を振り一瀬さんを振り払う。けれど思考から追い出そうと躍起になって頭を振るたび、俺の思惑とは裏腹にその輪郭が鮮明になっていく。
「くそ…………何で……」
情なのだ。仲間の、情。
目を瞑り、一度、いや二度思考から追い払った一瀬さんを思い浮かべた。組み敷き、首筋をなぞるとどんな反応をするのか。白いうなじに舌を這わせ、あの薄い耳たぶを食むと……どんな嬌声をあげるのか。
適当な素材の代わりに……彼女のそんな姿を、想像するだけなら。
男という生き物は、相手が好きでなくても勃つし、なんなら抱ける、そんな生き物なのだ。
愛や恋ではない。この感情は――決して。
第二章 揺れる心
キラキラと光を放つ豪華なシャンデリア。無数の電球から降り注ぐ光が、数百人が集い騒めく宴会場を煌々と照らしている。目の前に広がる光景はまさに非日常の空間のように思えた。着飾った男女が大宴会場に設置された無数のテーブルを行き来していく。
『役員懇談会』と銘打ってあるこの会は、もちろん普段交流のない役員の方々と会話ができる貴重な機会だ。けれども、同期たちと気兼ねなく交流できる機会でもある。通関部に割り当てられたテーブルにお酌に来られた方々と言葉を交わしつつ、時間を見つけては行き交う人々の合間を縫うように歩いた。
「あ、一瀬さん。総合職への転換おめでとう!」
「ありがとう迫田さん! 迫田さんもご結婚おめでとう。いつまで出社するの?」
卓上に経理部と記載してあるテーブルで同期の顔を見つけ、頬が綻んだ。彼女の左手には小ぶりながらも永遠の幸せを象徴する虹色の光が煌めいている。帰社するタイミングが偶然一緒になった折、『結婚に伴い退職する』という報告を受けたのは明日から夏季休暇……という時期だった。
「今週末までは出てくる予定なの。来週から有給消化。来月末付けで退職なんだ」
「そっか。また同期がいなくなっちゃうなぁ」
はにかんだような笑みを浮かべた彼女の表情に嬉しさと一抹の寂しさが込み上げる。極東商社でも結婚後も働き続ける女性は増えてきた。けれど、各々の人生の選択において仕方のないことだとはいえ、戦友のような同期がぽつぽつと減っていくのはやはり寂しいものだ。小さく肩を落とすと、迫田さんが「相手が転勤族だからね」と、困ったように微笑んだ。
その後もいくつか言葉を交わした。心の底から幸せそうな彼女の笑顔に、込み上げてくる何かを堪え切れず――私は逃げるように、会場から一番遠いお手洗いに駆け込んだ。
「ここまで来たら……うちの会社の人も、いないかな」
人気のないお手洗いに足を踏み入れ、口の中で小さく呟いた。そっと洗面台の鏡の前に立ち、能面のような自分の表情をぼうっと眺めてみる。
凌牙に捨てられなければ。私も……左手の薬指に幸せの輝きを灯していたのだろうか。
凌牙に捨てられなければ。私も、迫田さんのような微笑みを浮かべられたのだろうか。
洗面台を離れ、お手洗いに繋がる廊下の壁に、背中から身体の重心の全てを預けた。
(気持ちの整理……ついたと思ったのにな……全然、だめだな……)
昨夜も。凌牙のことや、突如降って湧いた総合職への転換について、数多の感情がないまぜになったまま時間を過ごした。あの日からじわじわと込み上げてくる『これは現実なのだ』という感覚を噛み締めながらもたくさん涙して、気持ちの整理をつけたはずだった。
それなのに――こんなにも。私の中の感情の揺れは、こんなにも、自分自身で制御できないほどに大きい。
なんとも情けなくなって大きな溜息を吐いた直後、比較的近い場所から楽しげに響く大きな笑い声が耳に届いた。驚いて息を飲むとひゅっと喉が鳴ってしまい、急いで両手で口を塞ぐ。
こんな遠くまで……いったい、誰が来たのだろう。
自分の行動を棚に上げ、それでも思わずインテリアとして置いてある黒く大きなコレクションボードの脇にそっと隠れた。けれど、疚しいことがあるわけでもない。私が隠れる必要はなかったのではないかと思い直し、顔を上げようとした……その、瞬間。
「だってあいつ……不感症だったんだぜ!?」
ひときわ大きな声で。大好きだったカレの声が響いた。
「まじか……一瀬さん、マグロやったんか!?」
「違うんだよ! まじで不感症なんだって。AV一緒に観てもぜんっぜん濡れねぇし」
「それ結構重症じゃね?」
「何やったってイかねぇし。その点、嫁は最っ高なんだ、まじで」
「へぇぇ」
「ずっとよがって泣き叫んでくれるんだよ」
「そそるねぇ」
「……お前、俺の嫁には冗談でも会わせねぇよ?」
「はいはい始まったーわぁってるって!」
「でも奥さん妊娠したんならしばらくお預けじゃね?」
「そうなんだよなぁ。そこなんだよ、目下の悩み事は」
「いっそ一瀬さんに媚薬かなんか盛ってセフレにしたらいいんじゃね?」
「お前天才か!? あいつ、まだ俺に気ぃあるみたいだし、そうやってヤリ捨ててやれば総合職に転換してまで頑張る気概もなくなって……俺の前から完全に消えてくれるかもなぁ」
「ぎゃはは、元カノにそりゃないぜ~!!」
キーン、と。甲高い音で、耳鳴りがしている。遠のく意識を前に、必死に歯を食い縛った。
(今のは……)
凌牙と、凌牙の同期たち、だ。彼らは私の存在に気がつかず、どちらかへと行ったらしい。会場に戻ったのか。もう、三人の声はこちらに聞こえてこない。ピンと張り詰めるような静寂が、私の周囲に訪れている。
聞いてしまった……聞こえてしまった、大好きだった人の、あの日、自らが被害者のように項垂れていたカレの――紛れもない、本心。
不意に言葉の一つ一つが脳内で言語化され、私の思考を激しく乱していく。
気持ち悪い。吐きそう。胃液が込み上げてくる。せり上がってきた胃酸の風味を感じて、唾液が溢れる。壁に寄りかかっていてもふらつく身体を支えられず、ズルズルとその場に蹲った。
(そっか……いつも痛かったの、って……)
私が不感症だったから――なのか。
凌牙は、私の身体の欠陥を知っていて……知っていた上で、私には何も言わなかったのだ。
ギィ、と玄関が開く蝶番の音がした。時計は日付が変わる寸前を指している。玄関まで迎え出ようとソファから立ち上がった瞬間、リビングの扉が勢いよく開いた。長身の影を視界に捉え、パパッと顔を綻ばせる。
「遅くまでお疲れさ……きゃぁ!?」
突然のことに踏ん張ることもできず、小さな悲鳴を上げて倒れ込んだ先は凌牙の家のリビングのソファ。私の言葉を最後まで聞き届ける素振りすらみせず、荒々しく押し倒されたと理解すると同時に不快な痛みが走って顔が歪んだ。
そして、これが夢であると不意に悟った。別れを告げられる少し前の、ある夜の記憶。
(どうして……今頃こんな夢を)
身体を起こそうとした時にはすでに遅く、凌牙がソファの縁に手をついて私の逃げ道を全て塞いだあとだった。
夢なのだとそうわかっていても、大好きだった人の顔が目の前にある。心臓がどくんと大きく鼓動を刻む。込み上げてくる恐怖感に、真意を問いかける声が掠れた。
「何……どうしたの」
「いや、仕事が立て込んでて、シたいだけ」
私を貫くように見つめる眼光は、凶暴な野獣のよう。薄ら笑うその表情に僅かな震えが走る。身体を捩り閉ざされた逃げ道を探すけれど、それよりも早く、凌牙がするりと私の両脚の間に片足を割り込ませた。首元に深く口付けられる。アルコールの香りがする強い吐息が肌のうえを撫でる。
「やっ……ちょっ、私、明日早出なんだって、ゃ……っ」
抵抗の声を上げるけれど、それらの全ては凌牙の耳に届いていないらしい。いや、届いてはいるのだろうけれど、聞き入れる気はないのだろう。
「足を開け」
鋭い言葉が私に突き刺さる。その言葉の強さに全身が戦慄いた。逆らえば、痛くされる。逆らわなくても――痛くされる。
「何その顔。もう四年も付き合ってて勿体ぶる必要ないだろ」
凌牙はお構いなしに私の寝間着を剥ぎ取っていく。冷房の冷たい風と凌牙の冷たいてのひらに、ざわりと肌が粟立った。
「っ、ねぇ、待って、ほんとに明日早出なんだって……」
凌牙は反応すらみせず、無言のまま。無表情に、遠慮なしに私の胸を鷲掴みにする。どんなに制止の声を上げても、凌牙の動きは止まらない。荒々しく押さえつけてくるカレは……あれほど好きだと思っていた人のはずなのに、まったく違う人のよう。逃げるように身体を揺らしても、手首を押さえつけられる力が強くなるだけ。痛みに呻き声を上げても凌牙は眉ひとつ動かさない。
いつからだろう。こんな風に荒く抱かれるようになったのは。
ぼんやりと考えていると、本当に何の前触れもなく。秘部に熱いものが突き立てられた。
「いッ……!!」
まるで破瓜のような痛み。その激痛に耐えかねて冷たい汗が吹き出てくる。解されてもいない秘部で、抽送が始まる。
痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い……!!
力の限り奥歯を食い縛る。悲鳴あげぬよう、ソファの縁を掴んだ。痛いと叫べば、俺が悪いのかと詰られ、もっと荒々しく抱かれるのだ。お前が不感症なのが悪いんだ、という目をして。
……ただ、それを。口には出さないだけで。
何もかもが痛い。痛くてたまらない。心も、身体も。
歯を食いしばって激痛を堪えている間にも、凌牙は自分勝手に、奥へ奥へと強引に秘部を往復する。そして……凌牙が独りだけで射精したのを見届けて――意識を手放した。
気が付けば、聴き慣れた目覚ましの音が頭上で鳴っていた。その音に合わせて揺れ動く視界。ゆっくりと瞬きをすると、目尻から熱い雫がこめかみを滑り落ちていった。
目の中の水分が零れ落ちて視界がクリアになる。見慣れた天井に、見慣れた風景。嗅ぎ慣れた自宅の匂い。
私は凌牙の家にいなかっただろうか。遅い時間に帰宅した凌牙に強引に抱かれて……
(あ……)
そうして、夢は夢だった、と思い出した。
いつからだろう、前戯をしてくれなくなったのは。
いつからだろう、ムードって大事だよねと笑ってくれなくなったのは。
いつからだろう、唇に、触れてくれなくなったのは。
いつからだろう、キスを、してくれなくなったのは。
いつからだろう、凌牙が、私を不感症だと感じたのは。
いつからだろう、私の目を見て話してくれなくなったのは。
いつからだろう、切った髪に気づいてくれなくなったのは。
いつからだろう、家事をしに行っても、ありがとうと言われなくなったのは。
いつからだろう……好きだと言ってくれなくなったのは。
いつから……だったのだろう。
鼻の奥がツンと痛んだ。胸の奥が、ヒリヒリする。ぎゅうと寝間着ごと胸元を握り締めた。
「……ふっ……うううぅ……」
哀しみが枕を濡らす。身体にかかっていた夏用の薄い掛け布団を、力の限り抱き締める。
前兆はあったのだ。見ない振りをしていただけで。気づいていない振りをしていただけで。
挨拶に行こうか、という言葉一つで舞い上がって。現実を、真実を、事実を、認めたくなかっただけで。
凌牙が――一瀬知香を見てくれなくなったという……変えられないものを。
私は、認めたくなかったのだ。
扉が開くや否やエレベーターを滑り降りた。手を伸ばし、社員証をタイムカードの機械に翳す。そこに表示された時刻は――八時五十分。朝礼には間に合わなくともギリギリ遅刻は免れる時間。慌ただしく制服に着替え、フロアに走り込んだ。
「おはようございます! 昨夜はお疲れさまでした」
「おはよう、一瀬。昨日はご苦労さま」
通関部のブースに駆け込みながら頭を下げると、田邉部長が手に持ったバインダーをヒラヒラと揺らして応えている。
「おはようございます、先輩! 昨夜はいつの間にか帰られていたからびっくりしちゃいましたよぅ」
足早にデスクに着くと右隣の三木ちゃんがプクッと頬を膨らませ、椅子をくるりと動かして身体ごと私に視線を向けた。彼女のその言葉に一瞬、ぎくりと身体が強張った。
昨夜の懇談会は、盗み聞きをしてあの場に座り込んでしまって以降、正直記憶がない。どうやって帰宅したのか。ホテルから自宅までのタクシーの領収証が財布に入っていたから、ホテル付近で自らタクシーを捕まえて帰宅したのだとは思う。しっかりとメイクも落としていたし、シャワーも浴びて洗濯機も回していた。無意識とは怖いものだな、と。今朝はそう独りごちながら、あんな夢を見て泣き腫らした瞼を冷やしつつ出勤準備をしたのだ。
昨晩の出来事。醜聞に近い内容にまっすぐ返答する気には到底なれるはずもない。困ったような表情を意識して顔に貼り付け、ぱっと思いついた即席の出まかせを口にする。
「……ごめんね、三木ちゃん。あのね、実はワインと日本酒をちゃんぽんして具合悪くなっちゃったのよ。新人でもないのにお酒で具合悪くしたなんて、恥ずかしいじゃない。だから、一人で帰ったの」
それがさも本当のことなのだ、というような表情で三木ちゃんに話しかけていると、目の前に座る水野課長代理が憮然たる面持ちで私を咎めた。
「具合が悪くなったのなら、何故誰かに言付けて帰らなかったんだ。途中で意識を失ったらどうするつもりだったんだ? 一人で帰って自宅に辿り着く前に倒れたら?」
「そうだよ、一瀬。ちゃんぽんは一歩間違えたら急性アルコール中毒になりやすいんだ。社会人としてその辺りはきちんとしなさい」
真横の田邉部長からもきつめの言葉が飛んでくる。普段から穏やかなはずの田邉部長からの叱責とも言える言葉にぐっと唇を噛んだ。
本当は違います、と。そう反論したかったけれど、年に一度の大きな社内行事中に誰にも何も伝えずに途中で抜け出した理由は、今の私には他に思いつかなかった。
「……はい、すみません。以後気をつけます」
口から出まかせであろうと、上司たちに心配をかけた。ここはきちんと謝罪しておくに越したことはない。鬱々とする気持ちを切り替え、深々と頭を下げる。一旦この出来事を頭の片隅に追いやり、デスクの上に積みあがった書類と向き合うことにした。
あっという間に昼休みに入る。今日は三木ちゃんと一緒に一階のカフェに昼食を取りに来た。
「あっ、せんぱーい! 席、ここでーす!」
ここは他社の社員さんにも人気のカフェのため、お昼時は非常に混む。「先に席を取ってくるので私の注文もお願いします!」とテラス席に向かって駆けていった三木ちゃんがぶんぶんと手を振っている。そんなに主張しなくてもわかるのに、と苦笑しながらゆっくりと席に着く。
「やっと今月の新作が食べれられるぅ! 今日は二十八日でしょ? あと二日しかないから焦ってたんですよぅ。着いてきてくださってありがとうございます、先輩!」
彼女は勝気な瞳を期待に潤ませ、今月の新作サンドイッチにぱくりと口をつけた。
三木ちゃんは優しい。風の噂が駆け巡った日から、凌牙の『り』の字も口にしない。かと言って、腫れ物を扱うような態度でもない。今まで通りの態度を向けてくれている。
それが、今の私にとってどれだけありがたいことか。
正直、ブース内の遠巻きにするような視線はたびたび感じている。通関部が設置されている階の大きなフロアは一メートル程度のパーテーションで仕切っているだけの空間に、通関部、畜産販売部、広報部が入っている。しかも二課はフロア出入口のすぐ目の前だ。他のブースの人たちがフロアを出入りするたび、好奇の視線を向けられている。居心地はよろしくないが、気にしたら負けと考えて、普段通りに振る舞っているつもりだ。
冷蔵庫から缶ビールを取り出した俺は、どっかりとソファに座り込んだ。プシュ、と缶を開ける甲高い音が響く。独特の苦味と炭酸が、軽快な音を立てて喉を滑り落ちていった。
「……美味い」
ビールが美味いと感じるようになったのはいつのころからだったか。大学時代、ゼミの先輩に飲まされた際は苦味しか感じられなかった。そもそもアルコールに強い部類でもない。だからこうして――夕食時に缶ビールを開ける、など。俺は滅多にする人間ではない。
それなのに。今日に限って晩酌したくなった理由、は。
「……いけ好かねぇヤツとは思っていたが」
あの男は、一瀬さんを捨てた直後に違う女と結婚した。優し気で甘い顔をして、長い間一瀬さんを裏切っていたのだろうか。彼女はそれをいつ知ったのか。まさかずいぶんと前から知っていて、気丈に振る舞う日々を過ごしていたのか。
思考にノイズが走る。感情がひどく乱されていく。湧き上がる苛つきから口を付けたビールの缶をガシャンと乱暴な音を立ててテーブルに置いた。
恐らく決定打となったのが先週で、だからこそ今朝は鬱いだような様子だったのだ。あの姿から察するに、彼女は未練があるのだろう。人としての尊厳を踏み躙られてなお、あの男に想いを寄せている。……そんな一瀬さん自身にも、イライラする。
受信信号が途切れたテレビのディスプレイに表示されるような黒い砂嵐が、ざぁっと音を立てて俺の感情を支配していく。
あのような男は、一瀬さんには相応しくない。相応しいのは……
……相応しいのは?
ハッと我に返る。室内を照らす照明の眩さに思わず数度瞬きをした。
「……何をバカなことを」
自らを諫める言葉を口にしながらも――脳裏には。エレベーターの中で盗み見た、一瀬さんの白いうなじと薄い耳朶がくっきりと思い出されていく。
三ツ石商社へと向かう道すがら、俺を振り返った時の無理をしているような表情。休憩時間に回ってきた異動者リストに平山凌牙の名前を見つけた時の寂しげな表情。その下に記載してあった、総合職への転換者リストに一瀬さん本人の名前を見つけた時の……恥じらうような、笑顔。面談から戻ってきた時の――綻んだような、柔らかな笑顔。
この半年で目にしてきた彼女のたくさんの表情が、浮かんでは消えていく。脳内で再生されていく映像を止めることもできず、気がつけば。
「……何で」
どくん、どくん、と。大きく脈打つ心臓。そして。
(何で……勃ってンだ、俺)
いつの間にか――昂っている、俺の欲望の塊。
久しぶりの晩酌だから、身体が昂ったのだろう。そんな言い訳を自分で自分にしながらゆるゆると頭を振った。思考から彼女の姿を振り払う。
こんなのは男の生理だとわかっている。単に擦ればいい。射精せば楽になる、ということも知っている。何もせずに欲を押し込めたところでかえって辛くなるだけだ。
早く寝なければ明日の業務に差し障る。明日は終業後に役員懇談会が開かれ、俺はその実行委員の新入社員枠に選出されている。同期たちと準備に奔走しなければならない。こんなくだらないことで時間を取られて体力回復の機会を失うわけにはいかない。適当な素材でも探して……義務的に。そう、義務的にやって終わろう。
そこまで考えてスマートフォンに手を伸ばした、その瞬間。スマートフォンが鈍く震え、着信を知らせた。一瀬さんだったら出たくない。今、彼女の声を聞いたら……無理だ。何が無理かなんて、考えるまでもない。
彼女ではありませんようにと願い、ディスプレイを裏返してテーブルの上に置いていたそれを緩慢な動作で手に取った。そこに表示されていたのは――『藤宮』という文字。
八つ当たり気味に舌打ちし、応答ボタンをタップしてスマートフォンを耳に当てた。
「どうした」
『小林ぃ! 合コンやろうぜ!』
「……はぁ?」
意図がまったく掴めない第一声。思わず呆れたような声が自分の喉から飛び出ていく。
大学時代に得た親友。互いに就職して以降、慣れない社会人生活に忙殺されここ半年は連絡を取り合うこともなく、今朝、偶然の邂逅を経た。気の置けないその親友は相変わらず強引な態度で俺を振り回す。
『今日俺の先輩に会いに来てただろ? 実はさぁ、あの先輩、三ヵ月くらい前に結婚直前の彼女さんにフラれちゃってさぁ、すっげぇ落ち込んでたんだよ。それが先週くらいからやっと元気になってきたんだ』
「……んで?」
スマートフォンのスピーカーから流れてくる藤宮の声。『俺の先輩』、というのは業務上何度か電話で会話を交わしたムラカミという男のことだろう。ソファに沈み込んだまま額に手を当てた。
『こういうのってさぁ、本人が落ち着くまで周りもそっとしとくしかねぇじゃん? んで、やっと先輩が落ち着いてきたからさぁ、合コンして、元カノのこと忘れて、ぱぁっとしてほしーンだよ、後輩としては』
「……はぁ」
なんとなく要領を得ない話に曖昧に相槌を打つ。失恋した先輩を励ますための会を開きたい、ということまでは理解した。
『で、合コンっつったって学生の時みたいにはできねぇんだよなぁ。ゼミみたいなツテがねぇし』
藤宮の困ったようなその一言に、パチンとパズルのピースが嵌まるような感覚に襲われた。額に当てた手を外すと同時に、自分の表情が険しくなるのを自覚する。学生のころはゼミやサークルの繋がりで男女ともに参加者を集めやすかった。けれど、社会人となった今は違う。
「お前、一瀬さんを呼べって言いたいわけ」
電話口の相手の真意を察し、己の声が低く響いた。冗談じゃない。彼女は今傷ついている。そんな場所に呼べるわけがないだろう。怒気を孕んだ俺の言葉に、藤宮がにわかに慌てだした。
『待て待て、お前、もしかしなくてもあの先輩狙ってンのか!?』
「ちげぇよ!!」
投げかけられた疑問を間髪入れずに否定する。違う。そんな邪な感情は抱いていない。親身になってくれる人が傷ついている。それが心配なだけ。……情が、湧いただけ。
「職場の先輩を……男の先輩ならまだしも、女の先輩を合コンに引っ張り出せると思うか、お前」
はぁっと溜息を吐きながら再び額に手を当てた。俺はこの半年、一瀬さんとは社会人として最低限のコミュニケーションしか取ってこなかった。そんな俺が軽率に、ましてや出会いを目的としたいかがわしい誘いをかけられるわけもないだろう。
『なぁんだ、お前あの先輩狙いじゃないんだな? じゃ、俺が仕事中にモーションかけてもいいわけだな』
「お前、いい加減に」
『ウソウソ、冗談だよ。本気にすンなって』
「お前の冗談は笑えないから好きじゃない」
『そりゃすまんかったわ』
唯一の親友は相変わらず俺を揶揄うのが好きらしい。電話の向こう側ではケラケラと藤宮が笑っていた。軽口を叩くような口調で先ほどの言葉が完全な冗談だと悟り息を吐く。乱された気持ちを整えようとガシガシと頭を掻いた。
「それで? 俺にどーしてほしいわけ」
俺は藤宮には恩義がある。できる範囲での協力は惜しまないつもりだ。こいつも俺の性格を把握しているからこそこうして連絡を取ったのだろう。
『女性を誘って来てほしいんだ。人数が合わなくて。お前のノルマ、一人でいいから』
来てほしい。藤宮は俺に、参加者を集める協力だけでなく、俺自身もその合コンへの参加を求めているのだろう。『俺の参加』は俺の意向を無視してほぼ確定されたことなのだということまで、理解した。大学時代から変わらない悪友の態度に頭痛がする。
「……俺が参加するのは決定事項なのか」
『ったりめぇじゃん! どーせ仕事仕事で彼女もいねぇんだろ』
久しぶりに顔を合わせたにも関わらず、その辺りを見抜かれていたことに思わず苦笑した。
傷心中の一瀬さんはさすがに呼べないだろうが、三木さんなら誘えるかもしれない。それならば俺の心も痛まない。
「……わかった」
『頼んだぜ! あとで場所と時間の詳細送っておくわ! じゃな!』
その言葉を最後に、ぶつっ、と俺にとっては迷惑極まりない通話が途切れた。
面倒なことに巻き込まれた。ディスプレイを暗くし、肺がからっぽになるまで長い溜息を吐く。
そう。この感情は、恋や愛ではない。仕事で苦楽を共にする仲間への情でしかないのだ。
藤宮との電話を終えても昂ったままの自身。血流が集中したそれを、ただただ弄ぶ。とにかく今は、明日のために義務的に終わらせて早く休まなければ。スマートフォンで適当な素材を見ようと視線を落とすと、真っ黒なディスプレイに、一瀬さんの顔がチラついた。
舌打ちとともに頭を振り一瀬さんを振り払う。けれど思考から追い出そうと躍起になって頭を振るたび、俺の思惑とは裏腹にその輪郭が鮮明になっていく。
「くそ…………何で……」
情なのだ。仲間の、情。
目を瞑り、一度、いや二度思考から追い払った一瀬さんを思い浮かべた。組み敷き、首筋をなぞるとどんな反応をするのか。白いうなじに舌を這わせ、あの薄い耳たぶを食むと……どんな嬌声をあげるのか。
適当な素材の代わりに……彼女のそんな姿を、想像するだけなら。
男という生き物は、相手が好きでなくても勃つし、なんなら抱ける、そんな生き物なのだ。
愛や恋ではない。この感情は――決して。
第二章 揺れる心
キラキラと光を放つ豪華なシャンデリア。無数の電球から降り注ぐ光が、数百人が集い騒めく宴会場を煌々と照らしている。目の前に広がる光景はまさに非日常の空間のように思えた。着飾った男女が大宴会場に設置された無数のテーブルを行き来していく。
『役員懇談会』と銘打ってあるこの会は、もちろん普段交流のない役員の方々と会話ができる貴重な機会だ。けれども、同期たちと気兼ねなく交流できる機会でもある。通関部に割り当てられたテーブルにお酌に来られた方々と言葉を交わしつつ、時間を見つけては行き交う人々の合間を縫うように歩いた。
「あ、一瀬さん。総合職への転換おめでとう!」
「ありがとう迫田さん! 迫田さんもご結婚おめでとう。いつまで出社するの?」
卓上に経理部と記載してあるテーブルで同期の顔を見つけ、頬が綻んだ。彼女の左手には小ぶりながらも永遠の幸せを象徴する虹色の光が煌めいている。帰社するタイミングが偶然一緒になった折、『結婚に伴い退職する』という報告を受けたのは明日から夏季休暇……という時期だった。
「今週末までは出てくる予定なの。来週から有給消化。来月末付けで退職なんだ」
「そっか。また同期がいなくなっちゃうなぁ」
はにかんだような笑みを浮かべた彼女の表情に嬉しさと一抹の寂しさが込み上げる。極東商社でも結婚後も働き続ける女性は増えてきた。けれど、各々の人生の選択において仕方のないことだとはいえ、戦友のような同期がぽつぽつと減っていくのはやはり寂しいものだ。小さく肩を落とすと、迫田さんが「相手が転勤族だからね」と、困ったように微笑んだ。
その後もいくつか言葉を交わした。心の底から幸せそうな彼女の笑顔に、込み上げてくる何かを堪え切れず――私は逃げるように、会場から一番遠いお手洗いに駆け込んだ。
「ここまで来たら……うちの会社の人も、いないかな」
人気のないお手洗いに足を踏み入れ、口の中で小さく呟いた。そっと洗面台の鏡の前に立ち、能面のような自分の表情をぼうっと眺めてみる。
凌牙に捨てられなければ。私も……左手の薬指に幸せの輝きを灯していたのだろうか。
凌牙に捨てられなければ。私も、迫田さんのような微笑みを浮かべられたのだろうか。
洗面台を離れ、お手洗いに繋がる廊下の壁に、背中から身体の重心の全てを預けた。
(気持ちの整理……ついたと思ったのにな……全然、だめだな……)
昨夜も。凌牙のことや、突如降って湧いた総合職への転換について、数多の感情がないまぜになったまま時間を過ごした。あの日からじわじわと込み上げてくる『これは現実なのだ』という感覚を噛み締めながらもたくさん涙して、気持ちの整理をつけたはずだった。
それなのに――こんなにも。私の中の感情の揺れは、こんなにも、自分自身で制御できないほどに大きい。
なんとも情けなくなって大きな溜息を吐いた直後、比較的近い場所から楽しげに響く大きな笑い声が耳に届いた。驚いて息を飲むとひゅっと喉が鳴ってしまい、急いで両手で口を塞ぐ。
こんな遠くまで……いったい、誰が来たのだろう。
自分の行動を棚に上げ、それでも思わずインテリアとして置いてある黒く大きなコレクションボードの脇にそっと隠れた。けれど、疚しいことがあるわけでもない。私が隠れる必要はなかったのではないかと思い直し、顔を上げようとした……その、瞬間。
「だってあいつ……不感症だったんだぜ!?」
ひときわ大きな声で。大好きだったカレの声が響いた。
「まじか……一瀬さん、マグロやったんか!?」
「違うんだよ! まじで不感症なんだって。AV一緒に観てもぜんっぜん濡れねぇし」
「それ結構重症じゃね?」
「何やったってイかねぇし。その点、嫁は最っ高なんだ、まじで」
「へぇぇ」
「ずっとよがって泣き叫んでくれるんだよ」
「そそるねぇ」
「……お前、俺の嫁には冗談でも会わせねぇよ?」
「はいはい始まったーわぁってるって!」
「でも奥さん妊娠したんならしばらくお預けじゃね?」
「そうなんだよなぁ。そこなんだよ、目下の悩み事は」
「いっそ一瀬さんに媚薬かなんか盛ってセフレにしたらいいんじゃね?」
「お前天才か!? あいつ、まだ俺に気ぃあるみたいだし、そうやってヤリ捨ててやれば総合職に転換してまで頑張る気概もなくなって……俺の前から完全に消えてくれるかもなぁ」
「ぎゃはは、元カノにそりゃないぜ~!!」
キーン、と。甲高い音で、耳鳴りがしている。遠のく意識を前に、必死に歯を食い縛った。
(今のは……)
凌牙と、凌牙の同期たち、だ。彼らは私の存在に気がつかず、どちらかへと行ったらしい。会場に戻ったのか。もう、三人の声はこちらに聞こえてこない。ピンと張り詰めるような静寂が、私の周囲に訪れている。
聞いてしまった……聞こえてしまった、大好きだった人の、あの日、自らが被害者のように項垂れていたカレの――紛れもない、本心。
不意に言葉の一つ一つが脳内で言語化され、私の思考を激しく乱していく。
気持ち悪い。吐きそう。胃液が込み上げてくる。せり上がってきた胃酸の風味を感じて、唾液が溢れる。壁に寄りかかっていてもふらつく身体を支えられず、ズルズルとその場に蹲った。
(そっか……いつも痛かったの、って……)
私が不感症だったから――なのか。
凌牙は、私の身体の欠陥を知っていて……知っていた上で、私には何も言わなかったのだ。
ギィ、と玄関が開く蝶番の音がした。時計は日付が変わる寸前を指している。玄関まで迎え出ようとソファから立ち上がった瞬間、リビングの扉が勢いよく開いた。長身の影を視界に捉え、パパッと顔を綻ばせる。
「遅くまでお疲れさ……きゃぁ!?」
突然のことに踏ん張ることもできず、小さな悲鳴を上げて倒れ込んだ先は凌牙の家のリビングのソファ。私の言葉を最後まで聞き届ける素振りすらみせず、荒々しく押し倒されたと理解すると同時に不快な痛みが走って顔が歪んだ。
そして、これが夢であると不意に悟った。別れを告げられる少し前の、ある夜の記憶。
(どうして……今頃こんな夢を)
身体を起こそうとした時にはすでに遅く、凌牙がソファの縁に手をついて私の逃げ道を全て塞いだあとだった。
夢なのだとそうわかっていても、大好きだった人の顔が目の前にある。心臓がどくんと大きく鼓動を刻む。込み上げてくる恐怖感に、真意を問いかける声が掠れた。
「何……どうしたの」
「いや、仕事が立て込んでて、シたいだけ」
私を貫くように見つめる眼光は、凶暴な野獣のよう。薄ら笑うその表情に僅かな震えが走る。身体を捩り閉ざされた逃げ道を探すけれど、それよりも早く、凌牙がするりと私の両脚の間に片足を割り込ませた。首元に深く口付けられる。アルコールの香りがする強い吐息が肌のうえを撫でる。
「やっ……ちょっ、私、明日早出なんだって、ゃ……っ」
抵抗の声を上げるけれど、それらの全ては凌牙の耳に届いていないらしい。いや、届いてはいるのだろうけれど、聞き入れる気はないのだろう。
「足を開け」
鋭い言葉が私に突き刺さる。その言葉の強さに全身が戦慄いた。逆らえば、痛くされる。逆らわなくても――痛くされる。
「何その顔。もう四年も付き合ってて勿体ぶる必要ないだろ」
凌牙はお構いなしに私の寝間着を剥ぎ取っていく。冷房の冷たい風と凌牙の冷たいてのひらに、ざわりと肌が粟立った。
「っ、ねぇ、待って、ほんとに明日早出なんだって……」
凌牙は反応すらみせず、無言のまま。無表情に、遠慮なしに私の胸を鷲掴みにする。どんなに制止の声を上げても、凌牙の動きは止まらない。荒々しく押さえつけてくるカレは……あれほど好きだと思っていた人のはずなのに、まったく違う人のよう。逃げるように身体を揺らしても、手首を押さえつけられる力が強くなるだけ。痛みに呻き声を上げても凌牙は眉ひとつ動かさない。
いつからだろう。こんな風に荒く抱かれるようになったのは。
ぼんやりと考えていると、本当に何の前触れもなく。秘部に熱いものが突き立てられた。
「いッ……!!」
まるで破瓜のような痛み。その激痛に耐えかねて冷たい汗が吹き出てくる。解されてもいない秘部で、抽送が始まる。
痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い……!!
力の限り奥歯を食い縛る。悲鳴あげぬよう、ソファの縁を掴んだ。痛いと叫べば、俺が悪いのかと詰られ、もっと荒々しく抱かれるのだ。お前が不感症なのが悪いんだ、という目をして。
……ただ、それを。口には出さないだけで。
何もかもが痛い。痛くてたまらない。心も、身体も。
歯を食いしばって激痛を堪えている間にも、凌牙は自分勝手に、奥へ奥へと強引に秘部を往復する。そして……凌牙が独りだけで射精したのを見届けて――意識を手放した。
気が付けば、聴き慣れた目覚ましの音が頭上で鳴っていた。その音に合わせて揺れ動く視界。ゆっくりと瞬きをすると、目尻から熱い雫がこめかみを滑り落ちていった。
目の中の水分が零れ落ちて視界がクリアになる。見慣れた天井に、見慣れた風景。嗅ぎ慣れた自宅の匂い。
私は凌牙の家にいなかっただろうか。遅い時間に帰宅した凌牙に強引に抱かれて……
(あ……)
そうして、夢は夢だった、と思い出した。
いつからだろう、前戯をしてくれなくなったのは。
いつからだろう、ムードって大事だよねと笑ってくれなくなったのは。
いつからだろう、唇に、触れてくれなくなったのは。
いつからだろう、キスを、してくれなくなったのは。
いつからだろう、凌牙が、私を不感症だと感じたのは。
いつからだろう、私の目を見て話してくれなくなったのは。
いつからだろう、切った髪に気づいてくれなくなったのは。
いつからだろう、家事をしに行っても、ありがとうと言われなくなったのは。
いつからだろう……好きだと言ってくれなくなったのは。
いつから……だったのだろう。
鼻の奥がツンと痛んだ。胸の奥が、ヒリヒリする。ぎゅうと寝間着ごと胸元を握り締めた。
「……ふっ……うううぅ……」
哀しみが枕を濡らす。身体にかかっていた夏用の薄い掛け布団を、力の限り抱き締める。
前兆はあったのだ。見ない振りをしていただけで。気づいていない振りをしていただけで。
挨拶に行こうか、という言葉一つで舞い上がって。現実を、真実を、事実を、認めたくなかっただけで。
凌牙が――一瀬知香を見てくれなくなったという……変えられないものを。
私は、認めたくなかったのだ。
扉が開くや否やエレベーターを滑り降りた。手を伸ばし、社員証をタイムカードの機械に翳す。そこに表示された時刻は――八時五十分。朝礼には間に合わなくともギリギリ遅刻は免れる時間。慌ただしく制服に着替え、フロアに走り込んだ。
「おはようございます! 昨夜はお疲れさまでした」
「おはよう、一瀬。昨日はご苦労さま」
通関部のブースに駆け込みながら頭を下げると、田邉部長が手に持ったバインダーをヒラヒラと揺らして応えている。
「おはようございます、先輩! 昨夜はいつの間にか帰られていたからびっくりしちゃいましたよぅ」
足早にデスクに着くと右隣の三木ちゃんがプクッと頬を膨らませ、椅子をくるりと動かして身体ごと私に視線を向けた。彼女のその言葉に一瞬、ぎくりと身体が強張った。
昨夜の懇談会は、盗み聞きをしてあの場に座り込んでしまって以降、正直記憶がない。どうやって帰宅したのか。ホテルから自宅までのタクシーの領収証が財布に入っていたから、ホテル付近で自らタクシーを捕まえて帰宅したのだとは思う。しっかりとメイクも落としていたし、シャワーも浴びて洗濯機も回していた。無意識とは怖いものだな、と。今朝はそう独りごちながら、あんな夢を見て泣き腫らした瞼を冷やしつつ出勤準備をしたのだ。
昨晩の出来事。醜聞に近い内容にまっすぐ返答する気には到底なれるはずもない。困ったような表情を意識して顔に貼り付け、ぱっと思いついた即席の出まかせを口にする。
「……ごめんね、三木ちゃん。あのね、実はワインと日本酒をちゃんぽんして具合悪くなっちゃったのよ。新人でもないのにお酒で具合悪くしたなんて、恥ずかしいじゃない。だから、一人で帰ったの」
それがさも本当のことなのだ、というような表情で三木ちゃんに話しかけていると、目の前に座る水野課長代理が憮然たる面持ちで私を咎めた。
「具合が悪くなったのなら、何故誰かに言付けて帰らなかったんだ。途中で意識を失ったらどうするつもりだったんだ? 一人で帰って自宅に辿り着く前に倒れたら?」
「そうだよ、一瀬。ちゃんぽんは一歩間違えたら急性アルコール中毒になりやすいんだ。社会人としてその辺りはきちんとしなさい」
真横の田邉部長からもきつめの言葉が飛んでくる。普段から穏やかなはずの田邉部長からの叱責とも言える言葉にぐっと唇を噛んだ。
本当は違います、と。そう反論したかったけれど、年に一度の大きな社内行事中に誰にも何も伝えずに途中で抜け出した理由は、今の私には他に思いつかなかった。
「……はい、すみません。以後気をつけます」
口から出まかせであろうと、上司たちに心配をかけた。ここはきちんと謝罪しておくに越したことはない。鬱々とする気持ちを切り替え、深々と頭を下げる。一旦この出来事を頭の片隅に追いやり、デスクの上に積みあがった書類と向き合うことにした。
あっという間に昼休みに入る。今日は三木ちゃんと一緒に一階のカフェに昼食を取りに来た。
「あっ、せんぱーい! 席、ここでーす!」
ここは他社の社員さんにも人気のカフェのため、お昼時は非常に混む。「先に席を取ってくるので私の注文もお願いします!」とテラス席に向かって駆けていった三木ちゃんがぶんぶんと手を振っている。そんなに主張しなくてもわかるのに、と苦笑しながらゆっくりと席に着く。
「やっと今月の新作が食べれられるぅ! 今日は二十八日でしょ? あと二日しかないから焦ってたんですよぅ。着いてきてくださってありがとうございます、先輩!」
彼女は勝気な瞳を期待に潤ませ、今月の新作サンドイッチにぱくりと口をつけた。
三木ちゃんは優しい。風の噂が駆け巡った日から、凌牙の『り』の字も口にしない。かと言って、腫れ物を扱うような態度でもない。今まで通りの態度を向けてくれている。
それが、今の私にとってどれだけありがたいことか。
正直、ブース内の遠巻きにするような視線はたびたび感じている。通関部が設置されている階の大きなフロアは一メートル程度のパーテーションで仕切っているだけの空間に、通関部、畜産販売部、広報部が入っている。しかも二課はフロア出入口のすぐ目の前だ。他のブースの人たちがフロアを出入りするたび、好奇の視線を向けられている。居心地はよろしくないが、気にしたら負けと考えて、普段通りに振る舞っているつもりだ。
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