俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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番外編/SS

In your arms.

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 このエピソードは前話「You kissed me, whispering words of love. *」の翌朝のエピソードとなります。お楽しみいただけましたら幸いです!





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 ふっと意識が浮上した。すぅ、すぅ、と、背後から聞こえてくる規則的な寝息。いつものように後ろから抱き締められているから、身動きが取れない。

 目だけを動かしてベッドサイドの時計に視線を向けると、もう6時を指していた。

(……いつ、寝たんだろ…)

 覚醒したばかりの思考回路を回転させ、記憶の海を泳いで手繰り寄せても全く覚えがない。肌に直接シーツが当たる感覚に思わず眉間に皺を寄せ、むぅ、と口の先を尖らせた。


 あのプロポーズに承諾の返答をし、迎えた年末年始。私の実家へ帰省している間に年を越して、こちらに帰ってきた足で智の実家に立ち寄って結婚の報告を済ませ……私たちの自宅へと帰ってきた。お互いに疲れているだろう、荷解き前に仮眠を取ろう、と……そう話して布団に潜り込み意識が溶けて―――智の翻弄された。

 終始愉しそうに笑みを浮かべ、悪びれた素振りも見せずに……お風呂場でも、その後も。帰省していて出来なかった分、何度も求められた。いつ眠りに落ちたのかも記憶にない。


(……とりあえず、今日まで休みでよかった)

 眉間に寄った皺を緩ませながら小さく安堵の吐息を零す。飛行機のチケットを予約する際、年末年始休暇の最終日に私の地元あちらから戻るか、それとも余裕を持って一日前に戻ってくるかを随分と悩んだ。まさかなるとは予想もしていなかったけれども、後者を選択しておいて正解だったと言えよう。……とはいえ。

(まさか寝てるところを襲われるとは思ってなかった……)

 ふたりで上り詰めた後、お姫様抱っこでお風呂に連れて行ってもらっている最中に「寝ている時に襲うのは反則だ」と抗議をしたものの、素知らぬ顔で右から左に流されていったあの瞬間を思い出しふたたび眉間に皺が寄った。

 今日は昨日手を付けられなかった荷解きを進めなければ。お昼前には式場見学に行く予定になっている。幸運にも早めに起きられたのだから早めに行動しよう、と……脳内で予定を組み立てていると、嫌な想像が唐突に頭に浮かんだ。

(……や、でも…智も今日まで休みってわかってたからしたんじゃ…)

 眉間に寄った皺がさらに深くなっていく。あのプロポーズの日だって私の後輩たちに手回しをしていた智のことだから、有り得る。今日まで休みだとわかっていたからこその昨晩の行動だったのでは。

 今度の帰省はゴールデンウィーク前の予定。次の帰省の時には同じ轍は踏まない、と心に決めて、一度寄せた眉間の皺を緩ませて気怠さの抜けない身体を捩った。胸の前に回された智の腕を解こうと手を伸ばしていく。

「ん…………」

 直後、背後から智の掠れたような声が聞こえてくる。起こしてしまっただろうか、と、思わず身体が少しばかり強張った。くい、と首だけを動かしてゆっくりと後ろを振り返る。

(……? 寝てる…?)

 視界に映る智は変わらず深く寝入っている。先ほどの声は寝言だったのだろう。ほぅ、と小さく胸を撫で下ろした。智の腕の中でゆっくりと身体を反転させ、そっと智の頬に手のひらを当てた。

(寝入ってるなぁ……もう少し、寝かせておこうかな…)

 智は去年の初夏に昇進して以降、ずっと激務が続いている。休みの日くらいは少しばかりゆっくりしていて欲しいと願うのは贅沢だろうか。

(……まつげ、長い……)

 頬に当てた手から指だけを動かして、目元をそっとなぞる。相変わらずまつげが長くて羨ましい。

 今日も式場見学に行くにあたって運転してもらうのだ。荷解きは私だけでぼちぼち進めても大丈夫だろうから、と、思考を巡らせていく。

 自分の身体を掛け布団の中にずるずると引き込んで、智の腕の中から抜け出した。もぞもぞと周囲に手を伸ばし、布団の中に散らばった下着や寝間着を探し出してそっと身に着ける。上半身を起こそうと手をベッドにつくと、スプリングが軋む音が響いていく。

「、ひゃ……っ!」

 不意に、ベッドに付いた手首に熱い手のひらが当てられて裏返った悲鳴が零れた。咄嗟に反対の手で口元を覆う。

 突然のことに踏ん張れもせず、その間にも伸びてきた手が私の腰を捕らえた。全身のバランスが崩れたところで手首に当てられた手のひらが私の胸の前に回り、脱出したばかりの掛け布団の中にずるずると引き摺りこまれていく。


 気が付けば。あっという間に先ほどと全く同じ体勢になっていた。違うのは、一糸纏わぬ状態だった私が衣類を身に着けていることだけ。


 状況把握が出来ずに混乱していると、トン、と。太ももに重みを感じた。腕を動かし掛け布団を少しばかり持ち上げて足元に視線を向けると、私の太ももの上に智の足が乗っている。乗っている……というより、これは絡められている、と言った方が正しいだろうか。その動作はまるで私をベッドから抜け出せさせないためのよう、だった。

「……起きてる?」

 もしかしなくても、智は起きているのだろうか。小さく問いかけながら背後を見遣ろうとするけれど、がっちりと抱き締められて身動きが取れない。懸命に首だけを動かして視界の端で智の表情を確認する。

「……ぇえ…」

 そこには智の穏やかで、それでいて―――至極満足そうな寝顔があるだけ。私が覚醒した時から聞こえてきていた規則的で深い寝息もそのままだ。困惑しきった声が自分の喉から零れ落ちていく。

 ぴとりとくっついた背中から、智の力強い鼓動が伝わってくる。とくん、とくん、と……心地よいとも言えるリズム。

(……)

 寝惚けている、のだろうか。それにしてはあまりにも的確なタイミングだったように思える。先ほどの私を引き寄せるような行動といい、今の行動といい……無意識下の智がどれほど私の存在を求めているのかを突き付けられるような気がした。私を抱き締めたまま満足気な表情を浮かべているその様子に、なんだか……胸の奥が、くすぐったい。

(……あと、ちょっとだけ…)

 ゆっくりと登ってきた太陽の光が、寝室のカーテンの隙間から差し込んで踊るのを横目に。私は口元を緩ませ、智の腕の中にそっと―――身体をうずめた。
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