俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

文字の大きさ
上 下
245 / 273
番外編/SS

al fine 〜 to the end 〜

しおりを挟む
 恋愛大賞エントリー記念に番外編を掲載いたします。

 このエピソードは時系列で言えばプロポーズ後(本編終章「252話」と「253話」の間)のエピソードとなります。お楽しみいただけましたら幸いです!





 - - - - - - - - -





 

「知香~。これ持ってっていーの?」

 智が玄関から大きな声で寝室の大掃除をしている私に声をかけている。智がいう『これ』とは私が纏めて置いておいたゴミ袋のことだろう。

「うん、そう!お願いできる~?」

 助かった。今年最後の出勤日を終えた翌日の今日から取り掛かった年末の大掃除。この地区の指定ゴミ袋の中でも一番大きなゴミ袋がパンパンになるほどゴミが出たのだ。この大きさと重量、マンションのゴミ置き場まで持っていくのに苦労するだろうなと思っていたけれど、智が持っていってくれるならこれほど助かることはない。そう考えて、私は雑巾掛けをする手を止めて玄関に向かって声を張り上げた。

「ん。じゃ、行ってくるから」

 智の了承の声がして、ギィ、と、玄関が開く音がした。私はその音を聞き届けて、雑巾掛けする手を再度動かしていく。

(えっと、出来ればあと1時間くらいで大掃除終わらせて、実家に帰る荷造りを始めなきゃ……)

 今年のお正月は智と一緒に私の実家に帰省する。つい数日前に、智からあのレストランでプロポーズをされて私は承諾をした。つまり、今回の帰省は結婚の挨拶も兼ねているのだ。

 あれから、智も私も。明日からの帰省に合わせて慌ただしく日々を過ごしてきた。大掃除も分担してやっていたからあと少しで終われそうだ。

 そんなことを考えながら寝室からベランダに続く窓を綺麗に拭きあげていると、ふ、と。智のPCデスクの上に見慣れない、それでいて縁の周辺が毛羽立っている……使い込んだような小さなノートが置いてあるのを視界の端で捉えた。

「……?」

 智が仕事で愛用している手帳でもない。日々つけている日記帳でもない。一年近く一緒に毎日を過ごしているけれど、このノートは初めて見た。落ち着いたブラウンの裏表紙の、小さなノート。

(………)

 見てはいけない、というのはわかっている。結婚の約束をした仲ではあるけれど、それでも不可侵の領域は保っていたほうがいいはず。

 でも。このノートに。こんな使い込んだようなノートに、何が書いてあるのか。とても気になる。

(……表紙、だけ、だったら……いい、よね……?)

 自分にそんな言い訳をしながら、そっと。その小さなノートを裏返すと、そこには。

 智のしっかりとした字で『夢ノート』というタイトルが記されていた。

(夢、ノート……?)

 夢日記のようなものだろうか。夢日記をつけると脳のトレーニングにもなって洞察力が磨かれる、ということをどこかで見た気がする。努力家の智だから、こうして日常のですら努力の種にしているのだと察した。

「すごいなぁ、こんなことまで……」

 感嘆の声を漏らしながら、そっと。そのノートの表紙を捲った。するとそこには。


 『知香にイヤリングを渡してYESを貰う』
 『知香と一緒に二年詣りに行く』
 『知香に合鍵を渡して俺の前で使ってもらう』


  と、いう文字が並んでいた。思わぬ文字の羅列に驚いて息が止まる。そこから下にも、たくさんの文字の羅列があった。


 『乾燥食材の部門を立ち上げる』
 『一日でも早く管理職になる』
 『会社の膿を出し切って三井商社を大きくする』
 『知香を社長夫人にする』
 『ホワイトデーに知香に花束を渡して喜んでもらう』
 『知香と一緒にイタリアの夜空を見る』
 『浅田と一緒に三井商社を大きくして上場させる』
 『知香と一緒に薔薇祭りに行く』
 『知香と一緒にノルウェーのオーロラを見る』
 『片桐の証拠でもって黒川を潰す』
 『黒川のような不正を起こさせない体制を作る』
 『企画開発部を軌道に乗せる』



 いくつかの文頭には赤いペンでチェックマークが入っていた。そのチェックマークの有無で、このノートが智にとっての『夢ノート』、なのだと察する。

(……言霊、を……信じてる……って…浅田さんも言ってた……)

 春先に、あの電車の中で。あのタイムリミットの話をしていた時に、浅田さんが智に向かって口にしていた、あの場面が。浅田さんの声とともに、鮮明に再生された。


「言葉は言霊で、自信がないと口にしてしまえば失敗するって考えてることも。それを何よりも一番に大事にしてる、っつうことも」


 智は、言霊の力を心の底から信じている、ということを。改めて……思い知らされた、気分だ。こうして願いを書きとめて言霊としているのだろう。

 そのほかにも。たくさん、たくさん書いてある。


 『1.225カラットのタンザナイトを見つけて婚約指輪にする』
 『レストランでプロポーズをしてYESを貰う』
 『博之さんと彌月さんに結婚の許可を貰う』
 『ジューンブライドの6月に結婚式を挙げる』


(……こんなにいっぱい。私と叶えたい夢が、書いてある…)

 その事実に。智が私をどれだけ愛してくれているのか、を、身をもって実感した。なんだか嬉しさと恥ずかしさで、ドクン、ドクン、と。心臓が大きく鼓動を刻んでいるのを感じる。

 叶えたい夢が浮かんだら、すぐにこのノートにメモして。叶ったら、赤いペンでチェックを入れていく。智がこのノートにペンを走らせていく、そんな様子がありありと想像出来た。

 そのまま、そっと視線を滑らせていくと。
 そのページの―――一番下に。




 『知香と。死が分かつまで、共にいる』




 力強く。その一行が、このノートに刻むように。強い筆跡で記されていて。

 この文頭にチェックマークが入るまで。智はこのノートを持ち続けるつもりなのだ、と…察した。


 その一文に目を通して。智の本心を、理解して。



 込み上げてくる感情を抑えられなくて。

 はらり、と。涙が、一筋……こぼれていった。
しおりを挟む
↓匿名で送れるメッセージ箱↓
よろしければ感想などお気軽にお寄せください♪
メッセージフォーム
感想 96

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。