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本編・第三部
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何度この大宴会場に来ても、煌びやかな非日常の空間に飛び込んだなぁと感じる。足を踏み入れると深く沈む深紅にオフホワイトの丸いアクセントが入ったカーペットに、キラキラとシャンデリアの光が差し込んでいる。
視線を上に向けると、高い天井に大小いくつものシャンデリアが下げられている。ロビーも非常にラグジュアリーな空間だけれど、近隣のホテルでも一番の広さを誇るこの大宴会場の豪華さには敵わない。
中央正面にはステージが設けられ、その壁面には大きな絵画が設置されている。そこに『極東商社 役員懇談会』という看板が下げられており、その真下に社長や役員の方々が並んでいた。
会場のレイアウトは立食パーティーだと一目でわかる配置になっており、壁側には休憩用の椅子と料理が設けられ、フロアにはいくつもの丸テーブルが設置されている。
極東商社は1,000人以上の社員が所属していてその大半の社員がこの場に集まるのだから、この空間にそれらの人が入ってしまえば圧巻の光景だ。
開会宣言を経て……毎年恒例、かなり長い社長挨拶から乾杯へと移り、歓談が始まった。
「今年のお料理は、当社の商品開発部が開発し、各販売部が卸した商品が多数使用されているメニューとなっております。皆さま、どうぞお楽しみください」
ステージ横の司会席に立つ加藤さんの落ち着いた声色が、大宴会場に聞こえるように設置された多数のスピーカーから響く。その声を聞き届け、私と三木ちゃんは目配せをして壁側に設置された料理が置いてあるテーブルに足を運んだ。
積み上げられている取り皿を手に取り、大勢の人並みを縫い歩きながらある程度の料理を乗せて通関部のテーブルに戻る。案の定、通関部の男性陣は料理なんてそっちのけで、他の部所に割り当てられたテーブルにお酌をしに行ったり、逆に通関部のテーブルにいらした方々からお酌されたりしている。
「お料理、置いてますからね」
話し込んでいる男性陣にそっと声をかけて、ゆっくりと手で食べられるような軽い料理を通関部に割り当てられたふたつのテーブルに広げていった。
過去、通関部では空きっ腹にアルコールを入れて、懇談会中に倒れた人物がいるのだ。その人物は言わずもがな、普段から呑兵衛の大迫係長。あれは三木ちゃんが入社して初めての懇談会の時だった。
あの時は色々と、もう本当に色々と大変で。それ以降、歓談が始まった瞬間に三木ちゃんと手で食べられるような、パンやお寿司と言った軽い料理を集めてテーブルに広げてから、私たちもお酌に回ることにしている。
「あぁ、こんばんは、通関部の皆さま。お久しぶりです」
ふわり、と。年始振りに聴く、艶のある懐かしい声が、喧騒の奥から響いた。テーブルにお皿を置く手がびくりと跳ねる。
「農産販売部、コーヒー事業課です。懇談会に合わせて全員でブラジルから帰国しまして」
いくつもの足音が、通関部のテーブルに近づいてくる。先ほどの言葉通り、数名の人影が見えてくる。その姿は皆一様に肌が強く焼けている。赤道に近いブラジル駐在の人たちだからなのか。
そんなことを考えていると、その奥から、にこりとした甘いマスクの平山さんが現れた。
(………)
込み上げてくるなんとも言えない感情を押し殺して、ぺこり、と。コーヒー事業課の面々に頭を下げた。田邉部長が穏やかに言葉を紡いでいく。
「おや、皆さまお揃いで。先日の業務会でコーヒー事業課の本格稼働が近いと伺いましたが、もしや、通関部にお仕事をご依頼ですか?」
その声に、コーヒー事業課を率いる廣瀬課長が苦笑したように後頭部を掻きつつ声を上げた。
「ご存知でしたか。そうです、まずは仕事のお話しをさせていただきたく」
廣瀬課長の説明によると、コーヒー事業課は昨年からブラジルでコーヒー豆の買い付けルートの開拓を行っており、1年を経てそれが実を結びつつあること。買い付けたコーヒー豆を日本に輸入し、商品開発部と連携して焙煎を行い、そこからは日本の農産販売部が主体となって周辺のホテルや喫茶店に卸して行きたい旨などが語られていく。
「つきましては年明け頃から、ブラジルから日本への輸入の業務を依頼することになるかと。4月から通関部はチーム制となったと伺っておりましたので、農産チームの方にご挨拶をさせていただきたいと考え全員で馳せ参じた次第です」
廣瀬係長から流麗な調子で説明されたその言葉に、ストンと腑に落ちた。
(わざわざ全員で帰国したのはそのため、ね……)
挨拶兼顔見せ、ということだろう。同じオフィスビル内にある各部門と違って、コーヒー事業課はブラジルが拠点だ。顔が見えない状態で新規の依頼をするよりも、しっかりと顔を合わせた状態で依頼を行う方がお互いのためにもなる、ということだ。
「一瀬、南里。聞いていたね、挨拶を」
田邉部長が、農産チームである私たちをそっと呼び寄せた。ゆっくりと足を前に出してぺこりと頭を下げ、全員と挨拶を交わしていく。平山さんにも……他のメンバーと同様に、変わらない挨拶をした。
「詳細は改めてご連絡しますから、よろしくお願いいたしますね。では、他の部門へも挨拶に行ってきます」
廣瀬課長がそう口にして、他のメンバーに向かって目配せをした。踵を返しつつ、隣の畜産販売部のテーブルに視線を向けていく。
ただ……平山さんだけは、じっと。私の耳元に視線を向けている。
(……………イヤリング…?)
智から贈ってもらったイヤリングに……その視線が刺さっている、と気がついた瞬間、彼は私に向かってゆっくりと口を動かした。
「あの時は、ごめん。それから、昇進おめでとう。幸せそうで何よりだ。俺もゼロから頑張るよ」
目の前の平山さんは。他のメンバーの後を追うように踵を返す直前。困ったように頬を掻いて、やわらかく微笑んでいた。
智に選んでもらったスモーキーブルーのパーティードレスに合うように新しく揃えた、シルバーのオープントゥパンプス。そのヒールが、大宴会場とは違う東雲色のカーペットに吸収される音がする。ゆっくりと……私の、苦くて、苦しい思い出の場所に歩みを進めた。
「………」
懇談会の会場から離れたお手洗い。この場所は、正面玄関の反対側にある裏口に繋がる階段に近く、人がほとんど来ない。去年は……同期で寿退社する迫田さんの幸せそうな笑顔に耐えられず、この遠く離れたお手洗いに駆け込んだ。
黒く、大きな。インテリアとして置いてあるコレクションボード。そばには、お手洗いに繋がる廊下。
その影に蹲る……去年の。夜会巻きをした髪型の、私の、幻。
「………」
あっという間だった。本当に、比喩でもなんでもなく、あっという間の1年だった。あの時迫り上げてきた胃液の酸味の味は、きっと一生忘れられないだろう。
でも。もう、過去に囚われるのは、お終いだ。
私は、今を生きている。
「………うん。今を、生きてるんだ。私は」
そう、小さく呟いて。蹲っている私の幻影に私なりのさよならを告げ、目の前のお手洗いに繋がる廊下に足を踏み出した。
お手洗いを済ませて洗面台に向かうと、ふわりと金木犀の甘い香りが漂った。ここは室内なのにな、とぼんやり考えていると、艶のある黒髪をざっくりと大きくポニーテールに纏め、それでいて適度にほぐし感のあるやわらかなヘアアレンジをした加藤さんと鉢合わせる。
「あれ、主任?こんな遠くまで…」
加藤さんが、ぱっちりとした大きな瞳を数度瞬かせた。小首を傾げながら紡がれたその言葉。彼女の綺麗にウェーブがかったサイドの髪の毛がふうわりと揺れた。私も彼女の姿に驚きながら言葉を返す。
「加藤さん、司会、お疲れさま。……ちょっとね、昔のことを思い出してたらここまで歩いてきちゃったから、ついでにお手洗いを済ませようと思って。加藤さんこそどうしたの?」
お互いにどうしてこの場にいるのかわかりかねているのだと察して、なんだか笑みが溢れた。彼女から視線を外し、手に持ったハンカチを洗面台に置いてゆっくりと手を洗っていく。
「私は実行委員なので。会場から近いお手洗いは使用を控えるように、と言われていたんです」
彼女もそっと私の隣に足を運び、真横の洗面台で手を洗っていた。
大宴会場の近くのお手洗いは役員懇談会中は混み合っていることが多い。それもそうだろう、この懇談会には極東商社のほとんどの社員が集まるのだから。
特に今年は過去最大規模の1,000人近くの社員が一斉に集まっている。私が実行委員になったときはそんなお達しはなかったけれども、参加する社員数が増えた今年は実行委員のメンバーにそういうお達しが出ていても不思議ではない。
なるほどね、と心の中で小さく呟きながら、司会進行をしていた加藤さんの凛とした佇まいを脳裏に思い浮かべた。
「最初の司会、かっこよかったよ。あ、藤宮くんに見せる用で録画しておけばよかったなぁ」
ふふ、と。少しだけ揶揄うような笑みを浮かべながら、真横の加藤さんに視線を向けた。
彼女の今夜の装いは藤宮くんチョイス。加藤さんは先々週の帰り際にそう言っていたから、この装いで与えられた司会の役目を全うしている加藤さんの姿を藤宮くんも見たかっただろうな、という気持ちからの言葉だ。
そんな彼女の装いは、彼女の髪と同じ黒のワイドパンツに、今流行りのケープ風袖ありのトップスだ。袖から背中にかけて繊細な花柄レースが使われて華やかで女性らしいデザイン。それでいて、ケープ風の袖が動くたびにちらりと腕が覗いて大人っぽい印象も与えるセンス抜群の装いに纏まっている。
お人形さんのような彼女の美しさを引き立たせる装いをチョイスした藤宮くんも、きっと鼻高々だろう。
「……主任こそ、彼氏さんが見立ててくださったんですよね?とてもお似合いで、素敵です」
加藤さんが洗い終えた手を拭きながら、頬を赤らめつつそんな言葉をかけてくれる。その言葉に、ありがとうと小さく返答した。
彼女と藤宮くんを引き合わせた関係から、加藤さんは私の彼氏が三井商社に勤める智であることを知っている。私も加藤さんも、お互いに取引先の人と交際しているからお互いに公の場では相手を明言していないけれども、今はこのお手洗いにふたりきり。名前を出しても差し支えないかな、と考えて会話を続けていく。
「藤宮くん、下にいるんだよね?今日は一緒に帰るの?」
今日は三井商社の納涼会が下の階で行われている。きっと、彼女は藤宮くんと待ち合わせているだろうな、と想像しながら声をかけると、案の定。
「はい……実行委員の仕事がどれだけ長引くかわからないので先に帰ってと言ったんですが、どんなに遅くなっても待ってるから、と………」
加藤さんがはにかんだように笑みを浮かべ、少しだけ弾んだ声色で言葉を紡いだ、次の瞬間。
にわかにお手洗いの外が騒がしくなったように感じた。
「……え?……なん、だろ…?」
甲高い、悲鳴のような声が耳に届いたような気がした。空耳かと思ったけれど、目の前の加藤さんも訝し気な表情をしていることから空耳ではなく現実のようだった。
「………私、実行委員ですから。誰か飲み過ぎで倒れたのかもしれないですし、戻りますね」
加藤さんが幸せそうな表情から、口元をきゅっと引き締めて、瞬時に真剣な表情に切り替えた。小さく頭を下げて、お手洗いの出入り口に視線を向けていく。
一昨年の大迫係長のように、誰か倒れてしまったのかも。あの時は本当に、一言で言い表せないほど大変だった。
「私も一緒に戻るわ。行きましょ」
磨きぬかれたお手洗いの石床にコツコツとヒールの音をさせながら足早に出入り口を目指し、宴会場の手前にある小さなホールに足を向けると。
鼻腔をくすぐる、何かの強いにおい。
(………?)
そのにおいの正体に疑問を持つ間も無く。
―――――面長の、細い瞳と。視線が交差した。
「……ッ!」
想像もしていない、人物が。目の前に、いた。身体が雷に撃たれたように硬直する。
髪の脂が、テラテラと天井の光に妖しく反射している。
ニタリとした、薄気味の悪い嗤いを浮かべた、目の前の人物の、顔には。
赤黒い斑点が、不規則に飛び散っている。
「………見ぃつけた」
ねっとりとした声が。私を、捕らえた。
「……く…ろ、かわ…さ……」
どうして。どうして。
頭の中にはその言葉しか浮かばない。目の前の現状に、全く理解が及ばない。
ここは、オフィスビルの前の交差点ではなく、ホテルの中だ。どうして、彼が。ここにいるのだろう。
私の喘ぐような掠れた声と、加藤さんの硬直した様子に、黒川さんは満足そうに嗤った。
「やっと見つけた。あっちの会場に行っても見当たらないから肝が冷えた。……俺の復讐が台無しになるところだった」
キラリ、と。手に持ったナイフを顔の前に翳しながら、トン、トン、と。黒川さんが、ゆっくりと私たちに近づいてくる。
彼の顔の前に翳された、その鋭利な刃物は。
赤黒い何かで、ひどく汚れていた。
言葉にならない感情が全身を駆け巡っていく。目の前の光景に、理解が追いつかない。
彼が一歩ずつ近づいて来るたびに、一歩ずつ。私も、隣にいる加藤さんも、同様に。一歩ずつ、一歩ずつ、後ずさっていく。
ニタリ、と。口元が嗤っている。歪に見えるその嗤い方。狂気すら感じる、その―――表情。
「お前の、恋人。俺が殺してやった」
黒川さんの、歪んだ口元から、紡がれた……言葉。
「……っ…!」
理解、した。理解してしまった。
彼の顔に飛び散る、赤黒い飛沫のような、何か。
悪寒が走るのを強引に押え込みながら、必死に頭を回転させる。
(か、えり…ち……?)
世界が、真っ暗になった。感情の全てが、失われた。
言葉の一つ一つが言語化され、思考を乱す。
―――智が。黒川さんの、手に、かかった。
『智といいます。見た感じ、多分このメンバーだと俺が一番年上ですかね。今年30歳になりました。こんな見た目だけどお酒呑めないんですよ、実は』
『あーあ、すぐに知香さんが陥落すると思ってたのに。意外と知香さんが手強かった』
『知香~?ほら、起きろ』
『……俺と。結婚を前提に、お付き合いしてください』
『ん。やっぱ、笑ってるほうがいーよ、知香は』
『だってさぁ、知香の反応がかわいーから』
『愛してる、知香』
『…………今年のクリスマス。楽しみにしておいてくれ、な?』
『愛してる』
智の声が、頭の中に、たくさん響く。甘くて、低くて、私を愛して、揶揄って、意地悪して、私を翻弄する、大好きな人。
なのに。なの、に。
(……もう…この世界に、いない、の……?)
「あ……」
気持ち悪い。吐きそう。胃液がこみあげてくる。
せり上がってきた胃酸の風味を感じて、唾液が溢れていく。
信じたくない。信じられない。
信じ、ない。絶対に。信じない。
愛したひとが、もう―――この世界に、いない、なんて。
脈拍があがって、ぐらり、と、世界が暗転する。
カタカタと。信じたくない現実と、目の前に広がる信じられない光景に、身体の横にだらりと落ちた手が震えている。
目の前の人の、憎悪に滲んだ瞳の光だけが。やけに目についた。
「あぁ、一瀬さんにも、見せたかったなぁ……あのいけすかない緑の目が、絶望と痛みに歪む……最っ高の瞬間」
黒川さんが、下卑た嗤いを浮かべながら。顔の前に翳したナイフを、ちろりと舐めた。直前に紡がれたその言葉の意味が……噛み砕け、なくて。
(み………ど、り…?)
緑の、瞳。……私の周りにいる、緑の瞳を持った人物は、ひとりしか……いない、はず、で。
『知香ちゃん』
へにゃり、とした。人懐っこい、笑顔。
宝石のような、ヘーゼル色の……瞳を持った。
「か……た…ぎり……さん……?」
心当たりがある人物は、彼しか、いない、はず、で。
くらりと目眩がする。遠のく意識を前に、目の前の面長の瞳を睨みつけて、奥歯を必死に食いしばった。
「あぁ、そうさ。お前の彼氏だろう、あいつは。毎日毎日一緒に帰ってたもんな?あのシンポジウムの時も、俺の女って言ってたもんなぁ……?」
黒川さんは、ケタケタと。壊れた人形のように気色の悪い嗤い声を上げた。彼は、しばらくの間……嗤って、いた。
そうして、気が済んだのか。強い殺意の篭った瞳に、貫かれていく。
「あいつのせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ。あいつさえいなければ、俺はまだあの場所にいれたんだ。あいつさえいなければ、俺はまだやれたんだ」
憎悪が、敵意が。それらを孕んで凍結させた氷の刃が。私に向かって、音速でぶつけられる。
「だから。あいつの大切な存在であるお前を、あいつの手から奪ってやると決めた。最っ高のやり方で」
黒い、黒い。漆黒の、呪詛のような言葉が。真っ直ぐに。私に……ぶつけられていく。
「あいつには、致命傷は与えていない。じわじわと死ぬように仕向けた。苦しいだろうなぁ……最っ高の絶望だろう。あいつが動けずにいる間に、お前を殺す。あいつは、お前を守りきれなかったという絶望を抱えて……死ぬんだ」
ある種の恍惚とした嗤みが、そこにある。手を伸ばせばすぐ触れる距離に、兇悪な悪意の塊が、そこにある。
目の前にいる、彼の。行動の根源。
私の……生命を、奪うこと。
「なぁ?俺の人生をめちゃくちゃにしたあいつに相応しい、最っ高の死に方だろう?」
ただただ、深い深い、真っ黒な沼の底に沈んでいる怨念のような言葉が。投げかけられていく。
「お前にわかるか?認められない、という虚無感が。存在しないものとして扱われる人間の、孤独が」
私は、目の前の人に、生命を狙われている、というのに。
何をしたらいいのか、わからない。
「お前にはわからんだろう。俺はお前のような恵まれた人間が嫌いだ」
ゆっくりと、ゆっくりと。彼が近づいてくる。一歩ずつ、一歩ずつ。迫り来る瘴気の塊。
それを忌避しようと、一歩ずつ、一歩ずつ。隣の加藤さんと寄り添って、後ずさっていく。
強張る足が縺れる。それでも、ただただ、後ずさるしか、できない。追い詰められていく。
ちろり、と。黒川さんが顔の前に翳したナイフを、ふたたび舐め上げた。
彼は私から視線を外して……隣の、加藤さんを睨みつけた。彼女が、ひっと息を飲んだのがありありと伝わってくる。
「だから。お前にも、絶望を与えてやる。その隣の女から先に……殺してやる」
そうして。
酸化した赤黒い飛沫を纏った鈍色の光が―――勢いよく、振り翳された。
視線を上に向けると、高い天井に大小いくつものシャンデリアが下げられている。ロビーも非常にラグジュアリーな空間だけれど、近隣のホテルでも一番の広さを誇るこの大宴会場の豪華さには敵わない。
中央正面にはステージが設けられ、その壁面には大きな絵画が設置されている。そこに『極東商社 役員懇談会』という看板が下げられており、その真下に社長や役員の方々が並んでいた。
会場のレイアウトは立食パーティーだと一目でわかる配置になっており、壁側には休憩用の椅子と料理が設けられ、フロアにはいくつもの丸テーブルが設置されている。
極東商社は1,000人以上の社員が所属していてその大半の社員がこの場に集まるのだから、この空間にそれらの人が入ってしまえば圧巻の光景だ。
開会宣言を経て……毎年恒例、かなり長い社長挨拶から乾杯へと移り、歓談が始まった。
「今年のお料理は、当社の商品開発部が開発し、各販売部が卸した商品が多数使用されているメニューとなっております。皆さま、どうぞお楽しみください」
ステージ横の司会席に立つ加藤さんの落ち着いた声色が、大宴会場に聞こえるように設置された多数のスピーカーから響く。その声を聞き届け、私と三木ちゃんは目配せをして壁側に設置された料理が置いてあるテーブルに足を運んだ。
積み上げられている取り皿を手に取り、大勢の人並みを縫い歩きながらある程度の料理を乗せて通関部のテーブルに戻る。案の定、通関部の男性陣は料理なんてそっちのけで、他の部所に割り当てられたテーブルにお酌をしに行ったり、逆に通関部のテーブルにいらした方々からお酌されたりしている。
「お料理、置いてますからね」
話し込んでいる男性陣にそっと声をかけて、ゆっくりと手で食べられるような軽い料理を通関部に割り当てられたふたつのテーブルに広げていった。
過去、通関部では空きっ腹にアルコールを入れて、懇談会中に倒れた人物がいるのだ。その人物は言わずもがな、普段から呑兵衛の大迫係長。あれは三木ちゃんが入社して初めての懇談会の時だった。
あの時は色々と、もう本当に色々と大変で。それ以降、歓談が始まった瞬間に三木ちゃんと手で食べられるような、パンやお寿司と言った軽い料理を集めてテーブルに広げてから、私たちもお酌に回ることにしている。
「あぁ、こんばんは、通関部の皆さま。お久しぶりです」
ふわり、と。年始振りに聴く、艶のある懐かしい声が、喧騒の奥から響いた。テーブルにお皿を置く手がびくりと跳ねる。
「農産販売部、コーヒー事業課です。懇談会に合わせて全員でブラジルから帰国しまして」
いくつもの足音が、通関部のテーブルに近づいてくる。先ほどの言葉通り、数名の人影が見えてくる。その姿は皆一様に肌が強く焼けている。赤道に近いブラジル駐在の人たちだからなのか。
そんなことを考えていると、その奥から、にこりとした甘いマスクの平山さんが現れた。
(………)
込み上げてくるなんとも言えない感情を押し殺して、ぺこり、と。コーヒー事業課の面々に頭を下げた。田邉部長が穏やかに言葉を紡いでいく。
「おや、皆さまお揃いで。先日の業務会でコーヒー事業課の本格稼働が近いと伺いましたが、もしや、通関部にお仕事をご依頼ですか?」
その声に、コーヒー事業課を率いる廣瀬課長が苦笑したように後頭部を掻きつつ声を上げた。
「ご存知でしたか。そうです、まずは仕事のお話しをさせていただきたく」
廣瀬課長の説明によると、コーヒー事業課は昨年からブラジルでコーヒー豆の買い付けルートの開拓を行っており、1年を経てそれが実を結びつつあること。買い付けたコーヒー豆を日本に輸入し、商品開発部と連携して焙煎を行い、そこからは日本の農産販売部が主体となって周辺のホテルや喫茶店に卸して行きたい旨などが語られていく。
「つきましては年明け頃から、ブラジルから日本への輸入の業務を依頼することになるかと。4月から通関部はチーム制となったと伺っておりましたので、農産チームの方にご挨拶をさせていただきたいと考え全員で馳せ参じた次第です」
廣瀬係長から流麗な調子で説明されたその言葉に、ストンと腑に落ちた。
(わざわざ全員で帰国したのはそのため、ね……)
挨拶兼顔見せ、ということだろう。同じオフィスビル内にある各部門と違って、コーヒー事業課はブラジルが拠点だ。顔が見えない状態で新規の依頼をするよりも、しっかりと顔を合わせた状態で依頼を行う方がお互いのためにもなる、ということだ。
「一瀬、南里。聞いていたね、挨拶を」
田邉部長が、農産チームである私たちをそっと呼び寄せた。ゆっくりと足を前に出してぺこりと頭を下げ、全員と挨拶を交わしていく。平山さんにも……他のメンバーと同様に、変わらない挨拶をした。
「詳細は改めてご連絡しますから、よろしくお願いいたしますね。では、他の部門へも挨拶に行ってきます」
廣瀬課長がそう口にして、他のメンバーに向かって目配せをした。踵を返しつつ、隣の畜産販売部のテーブルに視線を向けていく。
ただ……平山さんだけは、じっと。私の耳元に視線を向けている。
(……………イヤリング…?)
智から贈ってもらったイヤリングに……その視線が刺さっている、と気がついた瞬間、彼は私に向かってゆっくりと口を動かした。
「あの時は、ごめん。それから、昇進おめでとう。幸せそうで何よりだ。俺もゼロから頑張るよ」
目の前の平山さんは。他のメンバーの後を追うように踵を返す直前。困ったように頬を掻いて、やわらかく微笑んでいた。
智に選んでもらったスモーキーブルーのパーティードレスに合うように新しく揃えた、シルバーのオープントゥパンプス。そのヒールが、大宴会場とは違う東雲色のカーペットに吸収される音がする。ゆっくりと……私の、苦くて、苦しい思い出の場所に歩みを進めた。
「………」
懇談会の会場から離れたお手洗い。この場所は、正面玄関の反対側にある裏口に繋がる階段に近く、人がほとんど来ない。去年は……同期で寿退社する迫田さんの幸せそうな笑顔に耐えられず、この遠く離れたお手洗いに駆け込んだ。
黒く、大きな。インテリアとして置いてあるコレクションボード。そばには、お手洗いに繋がる廊下。
その影に蹲る……去年の。夜会巻きをした髪型の、私の、幻。
「………」
あっという間だった。本当に、比喩でもなんでもなく、あっという間の1年だった。あの時迫り上げてきた胃液の酸味の味は、きっと一生忘れられないだろう。
でも。もう、過去に囚われるのは、お終いだ。
私は、今を生きている。
「………うん。今を、生きてるんだ。私は」
そう、小さく呟いて。蹲っている私の幻影に私なりのさよならを告げ、目の前のお手洗いに繋がる廊下に足を踏み出した。
お手洗いを済ませて洗面台に向かうと、ふわりと金木犀の甘い香りが漂った。ここは室内なのにな、とぼんやり考えていると、艶のある黒髪をざっくりと大きくポニーテールに纏め、それでいて適度にほぐし感のあるやわらかなヘアアレンジをした加藤さんと鉢合わせる。
「あれ、主任?こんな遠くまで…」
加藤さんが、ぱっちりとした大きな瞳を数度瞬かせた。小首を傾げながら紡がれたその言葉。彼女の綺麗にウェーブがかったサイドの髪の毛がふうわりと揺れた。私も彼女の姿に驚きながら言葉を返す。
「加藤さん、司会、お疲れさま。……ちょっとね、昔のことを思い出してたらここまで歩いてきちゃったから、ついでにお手洗いを済ませようと思って。加藤さんこそどうしたの?」
お互いにどうしてこの場にいるのかわかりかねているのだと察して、なんだか笑みが溢れた。彼女から視線を外し、手に持ったハンカチを洗面台に置いてゆっくりと手を洗っていく。
「私は実行委員なので。会場から近いお手洗いは使用を控えるように、と言われていたんです」
彼女もそっと私の隣に足を運び、真横の洗面台で手を洗っていた。
大宴会場の近くのお手洗いは役員懇談会中は混み合っていることが多い。それもそうだろう、この懇談会には極東商社のほとんどの社員が集まるのだから。
特に今年は過去最大規模の1,000人近くの社員が一斉に集まっている。私が実行委員になったときはそんなお達しはなかったけれども、参加する社員数が増えた今年は実行委員のメンバーにそういうお達しが出ていても不思議ではない。
なるほどね、と心の中で小さく呟きながら、司会進行をしていた加藤さんの凛とした佇まいを脳裏に思い浮かべた。
「最初の司会、かっこよかったよ。あ、藤宮くんに見せる用で録画しておけばよかったなぁ」
ふふ、と。少しだけ揶揄うような笑みを浮かべながら、真横の加藤さんに視線を向けた。
彼女の今夜の装いは藤宮くんチョイス。加藤さんは先々週の帰り際にそう言っていたから、この装いで与えられた司会の役目を全うしている加藤さんの姿を藤宮くんも見たかっただろうな、という気持ちからの言葉だ。
そんな彼女の装いは、彼女の髪と同じ黒のワイドパンツに、今流行りのケープ風袖ありのトップスだ。袖から背中にかけて繊細な花柄レースが使われて華やかで女性らしいデザイン。それでいて、ケープ風の袖が動くたびにちらりと腕が覗いて大人っぽい印象も与えるセンス抜群の装いに纏まっている。
お人形さんのような彼女の美しさを引き立たせる装いをチョイスした藤宮くんも、きっと鼻高々だろう。
「……主任こそ、彼氏さんが見立ててくださったんですよね?とてもお似合いで、素敵です」
加藤さんが洗い終えた手を拭きながら、頬を赤らめつつそんな言葉をかけてくれる。その言葉に、ありがとうと小さく返答した。
彼女と藤宮くんを引き合わせた関係から、加藤さんは私の彼氏が三井商社に勤める智であることを知っている。私も加藤さんも、お互いに取引先の人と交際しているからお互いに公の場では相手を明言していないけれども、今はこのお手洗いにふたりきり。名前を出しても差し支えないかな、と考えて会話を続けていく。
「藤宮くん、下にいるんだよね?今日は一緒に帰るの?」
今日は三井商社の納涼会が下の階で行われている。きっと、彼女は藤宮くんと待ち合わせているだろうな、と想像しながら声をかけると、案の定。
「はい……実行委員の仕事がどれだけ長引くかわからないので先に帰ってと言ったんですが、どんなに遅くなっても待ってるから、と………」
加藤さんがはにかんだように笑みを浮かべ、少しだけ弾んだ声色で言葉を紡いだ、次の瞬間。
にわかにお手洗いの外が騒がしくなったように感じた。
「……え?……なん、だろ…?」
甲高い、悲鳴のような声が耳に届いたような気がした。空耳かと思ったけれど、目の前の加藤さんも訝し気な表情をしていることから空耳ではなく現実のようだった。
「………私、実行委員ですから。誰か飲み過ぎで倒れたのかもしれないですし、戻りますね」
加藤さんが幸せそうな表情から、口元をきゅっと引き締めて、瞬時に真剣な表情に切り替えた。小さく頭を下げて、お手洗いの出入り口に視線を向けていく。
一昨年の大迫係長のように、誰か倒れてしまったのかも。あの時は本当に、一言で言い表せないほど大変だった。
「私も一緒に戻るわ。行きましょ」
磨きぬかれたお手洗いの石床にコツコツとヒールの音をさせながら足早に出入り口を目指し、宴会場の手前にある小さなホールに足を向けると。
鼻腔をくすぐる、何かの強いにおい。
(………?)
そのにおいの正体に疑問を持つ間も無く。
―――――面長の、細い瞳と。視線が交差した。
「……ッ!」
想像もしていない、人物が。目の前に、いた。身体が雷に撃たれたように硬直する。
髪の脂が、テラテラと天井の光に妖しく反射している。
ニタリとした、薄気味の悪い嗤いを浮かべた、目の前の人物の、顔には。
赤黒い斑点が、不規則に飛び散っている。
「………見ぃつけた」
ねっとりとした声が。私を、捕らえた。
「……く…ろ、かわ…さ……」
どうして。どうして。
頭の中にはその言葉しか浮かばない。目の前の現状に、全く理解が及ばない。
ここは、オフィスビルの前の交差点ではなく、ホテルの中だ。どうして、彼が。ここにいるのだろう。
私の喘ぐような掠れた声と、加藤さんの硬直した様子に、黒川さんは満足そうに嗤った。
「やっと見つけた。あっちの会場に行っても見当たらないから肝が冷えた。……俺の復讐が台無しになるところだった」
キラリ、と。手に持ったナイフを顔の前に翳しながら、トン、トン、と。黒川さんが、ゆっくりと私たちに近づいてくる。
彼の顔の前に翳された、その鋭利な刃物は。
赤黒い何かで、ひどく汚れていた。
言葉にならない感情が全身を駆け巡っていく。目の前の光景に、理解が追いつかない。
彼が一歩ずつ近づいて来るたびに、一歩ずつ。私も、隣にいる加藤さんも、同様に。一歩ずつ、一歩ずつ、後ずさっていく。
ニタリ、と。口元が嗤っている。歪に見えるその嗤い方。狂気すら感じる、その―――表情。
「お前の、恋人。俺が殺してやった」
黒川さんの、歪んだ口元から、紡がれた……言葉。
「……っ…!」
理解、した。理解してしまった。
彼の顔に飛び散る、赤黒い飛沫のような、何か。
悪寒が走るのを強引に押え込みながら、必死に頭を回転させる。
(か、えり…ち……?)
世界が、真っ暗になった。感情の全てが、失われた。
言葉の一つ一つが言語化され、思考を乱す。
―――智が。黒川さんの、手に、かかった。
『智といいます。見た感じ、多分このメンバーだと俺が一番年上ですかね。今年30歳になりました。こんな見た目だけどお酒呑めないんですよ、実は』
『あーあ、すぐに知香さんが陥落すると思ってたのに。意外と知香さんが手強かった』
『知香~?ほら、起きろ』
『……俺と。結婚を前提に、お付き合いしてください』
『ん。やっぱ、笑ってるほうがいーよ、知香は』
『だってさぁ、知香の反応がかわいーから』
『愛してる、知香』
『…………今年のクリスマス。楽しみにしておいてくれ、な?』
『愛してる』
智の声が、頭の中に、たくさん響く。甘くて、低くて、私を愛して、揶揄って、意地悪して、私を翻弄する、大好きな人。
なのに。なの、に。
(……もう…この世界に、いない、の……?)
「あ……」
気持ち悪い。吐きそう。胃液がこみあげてくる。
せり上がってきた胃酸の風味を感じて、唾液が溢れていく。
信じたくない。信じられない。
信じ、ない。絶対に。信じない。
愛したひとが、もう―――この世界に、いない、なんて。
脈拍があがって、ぐらり、と、世界が暗転する。
カタカタと。信じたくない現実と、目の前に広がる信じられない光景に、身体の横にだらりと落ちた手が震えている。
目の前の人の、憎悪に滲んだ瞳の光だけが。やけに目についた。
「あぁ、一瀬さんにも、見せたかったなぁ……あのいけすかない緑の目が、絶望と痛みに歪む……最っ高の瞬間」
黒川さんが、下卑た嗤いを浮かべながら。顔の前に翳したナイフを、ちろりと舐めた。直前に紡がれたその言葉の意味が……噛み砕け、なくて。
(み………ど、り…?)
緑の、瞳。……私の周りにいる、緑の瞳を持った人物は、ひとりしか……いない、はず、で。
『知香ちゃん』
へにゃり、とした。人懐っこい、笑顔。
宝石のような、ヘーゼル色の……瞳を持った。
「か……た…ぎり……さん……?」
心当たりがある人物は、彼しか、いない、はず、で。
くらりと目眩がする。遠のく意識を前に、目の前の面長の瞳を睨みつけて、奥歯を必死に食いしばった。
「あぁ、そうさ。お前の彼氏だろう、あいつは。毎日毎日一緒に帰ってたもんな?あのシンポジウムの時も、俺の女って言ってたもんなぁ……?」
黒川さんは、ケタケタと。壊れた人形のように気色の悪い嗤い声を上げた。彼は、しばらくの間……嗤って、いた。
そうして、気が済んだのか。強い殺意の篭った瞳に、貫かれていく。
「あいつのせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ。あいつさえいなければ、俺はまだあの場所にいれたんだ。あいつさえいなければ、俺はまだやれたんだ」
憎悪が、敵意が。それらを孕んで凍結させた氷の刃が。私に向かって、音速でぶつけられる。
「だから。あいつの大切な存在であるお前を、あいつの手から奪ってやると決めた。最っ高のやり方で」
黒い、黒い。漆黒の、呪詛のような言葉が。真っ直ぐに。私に……ぶつけられていく。
「あいつには、致命傷は与えていない。じわじわと死ぬように仕向けた。苦しいだろうなぁ……最っ高の絶望だろう。あいつが動けずにいる間に、お前を殺す。あいつは、お前を守りきれなかったという絶望を抱えて……死ぬんだ」
ある種の恍惚とした嗤みが、そこにある。手を伸ばせばすぐ触れる距離に、兇悪な悪意の塊が、そこにある。
目の前にいる、彼の。行動の根源。
私の……生命を、奪うこと。
「なぁ?俺の人生をめちゃくちゃにしたあいつに相応しい、最っ高の死に方だろう?」
ただただ、深い深い、真っ黒な沼の底に沈んでいる怨念のような言葉が。投げかけられていく。
「お前にわかるか?認められない、という虚無感が。存在しないものとして扱われる人間の、孤独が」
私は、目の前の人に、生命を狙われている、というのに。
何をしたらいいのか、わからない。
「お前にはわからんだろう。俺はお前のような恵まれた人間が嫌いだ」
ゆっくりと、ゆっくりと。彼が近づいてくる。一歩ずつ、一歩ずつ。迫り来る瘴気の塊。
それを忌避しようと、一歩ずつ、一歩ずつ。隣の加藤さんと寄り添って、後ずさっていく。
強張る足が縺れる。それでも、ただただ、後ずさるしか、できない。追い詰められていく。
ちろり、と。黒川さんが顔の前に翳したナイフを、ふたたび舐め上げた。
彼は私から視線を外して……隣の、加藤さんを睨みつけた。彼女が、ひっと息を飲んだのがありありと伝わってくる。
「だから。お前にも、絶望を与えてやる。その隣の女から先に……殺してやる」
そうして。
酸化した赤黒い飛沫を纏った鈍色の光が―――勢いよく、振り翳された。
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