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本編・第三部

【小噺】Wait for spring with you.

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「ちょ~っと…遠回りして帰ろ?」

 本当に。久しぶりに、俺の休暇とMaisieメイジーの休暇が被って。

 久しぶりに街に一緒に買い物に出て、久しぶりに一緒に並んで歩く。

 そんな帰り道。片手に紙袋を抱えて、遠回りして帰ろう、と。俺はそう言った。


 その日はとてもいい天気で。


 紙袋を抱えた反対の手に……するりと指を絡めると、Maisieは嬉しそうに笑った。


 ―――ふたつがひとつになってる


 Maisieの嬉しそうな声に視線を落とすと、地面に長く伸びる俺たちの影に、虹の橋が架かって。繋いだ手の影で、ふたりがひとつになったように見えた。

「ホントだ」

 Maisieの小さな気付きに。くすり、と。笑みが零れる。


 手のひらから伝わる温もりが心地よい。
 長く伸びた影。オレンジ色の空。


 ふわり、と。風が吹いて。Maisieのブロンドの髪が靡いて、彼女がいつもつけている香水の………桜の香りが、俺たちを包んでいく。

「いつかふたりで、日本に行こう。……綺麗なんだ。夕陽にあたって燃えるように咲いている、桜が」

 夕方の街の喧騒に紛れて、小さく。叶えたい願いを口にする。


 ―――うん。大好きなマサが、子どもの時に見てた景色。私も見たいもの


 真っ直ぐに。アイスブルーの瞳で、オレンジの空を見上げながら。はにかんだようにMaisieが笑った。


 あぁ。
 この空間ごと、ぎゅうっと抱き締めてしまいたい。

 愛しくて、仕方ない。

 桜を見せたい、という俺の小さな願いだったのに。
 俺が子どもの時に見ていた景色を見たい、と。Maisieが大きく願ってくれた。




 神様。願わくば。
 こんな日が、一日でも……多くありますように。




 そんな願いを込めて。
 愛おしい人の手を、ぎゅう、と。力強く、握り締めた。
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