俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第三部

150 *

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 週末。今日は、金曜日。

 確かに、どんな智でも引かない、いくらでも相手をするから、と。そんなことは言った。言ったけれども。

「……ちょっと待って。月曜日、私ちゃんと相手したよね?は無効なんじゃないっ!?」

 あの日は私も残業で、智も23時前に帰ってきて。週末ならいくらでも相手するからと言ったけれど、結局あの夜に雪崩れこまされた訳だから、その言葉は無効だと思う。

 第一、まだお風呂にも入っていないし、極め付けに明日はお昼から西浦係長と新入社員のお花見歓迎会の予定だ。いくらでも相手をする、という言葉をそのまま受け取ってもらっては大変困るのですが!!

 若干の身の危険を感じ、PCデスクから離れようと後ずさる。その動きを察したのか、椅子に座ったままの智が、ぱし、と、私の腕を掴んで。

「セックスってさ?甘美な会話なんだよ」

 ダークブラウンの瞳を意地悪く細めながら、智は恥ずかしげもなくそう言った。

「……は?」

 ぽかん、と、口が開く。私には、その紡がれた言葉の意味がよく意味がわからなかった。

「英語で、セックスって。Playプレイっうんだ。遊び、と同じ意味。だから、俺にとってはセックスもコミュニケーションの……つまり、俺たちの間での会話のひとつ」

 愉しそうに智が笑いながら言葉を紡いだ。その言葉に、思わず目を瞬かせる。

 セックスというモノが。男性の能動的な欲望と、女性の受動的な我慢で成り立つものだと思い込んでいたからかもしれない。軽く、衝撃的な言葉だった。

 言われてみれば。智とのセックスは、一度も受動的に我慢したことはない。痛みを我慢しなくていいし、感じているフリをしなくてもいい。無理矢理に奉仕を求められることもない。

 全部全部、素の私。

(……そっか…)

 智にこうして言いくるめられて、セックスに雪崩れこまされたりすることが。本心から嫌というわけじゃない。

 まだ、恥ずかしさを拭切れていないから。『気持ちいい』と感じることが恥ずかしいと思っているから。だから、一度は言葉で抵抗してしまう。

 そういう私の心の動きを、智はわかっていて。だから、じりじりと。私を溶かしていく。深く、あまく―――溶かして、いく。

 その事実に気がついて、耳まで真っ赤になっていくのを自覚して。ふい、と、視線を床に落とす。

「………わ、たしも…智と、会話、したい…」

 私のそんな様子に、一瞬智が小さく息を飲んだのがわかった。私が口にした言葉が、了承、の意味を持つ、と、智に伝わったのだろう。顔を見なくても……長いまつ毛を瞬かせて、切れ長の瞳が丸くなっているのだろうと想像出来る。

 すっと。智の声が、掠れたように。低く、甘く響く。

「……そんな素直になっちまったら、俺、もうこの先も我慢出来なくなるけど。いーの?」

 私が我慢を重ねなくていいようにしてくれた智だから。だからこそ、智にだって、我慢、して欲しくない。

「………いい、よ…」

 私の腕を掴んでいる智の手に、手のひらを重ねて、首を縦に振った。

 蚊が鳴くような小さな声しか、出せなかった。激しい羞恥心との戦い。絶っ対に、今の顔を見られたくない。

 一瞬の沈黙のあと。智が椅子から立ち上がって、ひょい、と。軽々と私を抱き上げる。

「やっと。知香に……俺の全部を受け入れて貰えた気がする………」

 感慨深そうに紡がれるその言葉。目の前にダークブラウンの瞳があって。ふるふると小さく揺れている。

 なんだか物凄く照れくさい。初めてじゃないのに、初めての時のように心臓が破裂しそうなくらい、走っている。

 ふわり、と。真後ろのベッドに押し倒される。智の首に、自分の腕を回して。

「……素直な私が、好き、なんでしょ?」

 じっと、智の顔を見つめる。自分の顔が熱い。火が出そう。
 智が、ふっと。薄い唇の端を歪ませて、吐息を漏らした。

「………素直じゃねぇ知香も好き。どんな知香も、好きだ」

 そうして、ゆっくりと。唇が降りてくる。小さなリップ音が響いて。

「……愛してる。知香。この先も、ずっと……」

 低く、甘い声で。智が、私の名前を呼んだ。

 




 キスの雨が、降る。小さなリップ音が響くだけだった空間。
 次第に、角度を変えて何度も吸い込まれ、舌を絡められる。

「……ふぅんっ……ん……ん、ん……」

 飲み下しきれないふたり分の唾液が、私の口の端から溢れ落ちていく。



 繰り返される、激しいキス。私を貪るように、貪欲に求められる。酸素が足りなくて、霞んでいく思考の片隅で。小さく呟いた。

(……どうしよう)

 気持ちが溢れていく。愛おしい気持ちが。
 私という器から、零れて、滴り落ちていく。


 どうしたらいいんだろう。
 智の、全部が、欲しい。


 こんなに愛されているとわかっていても、それでもなお、智が欲しいと願ってしまう。


 いつか、いつか。
 智の生命すら、欲しくなってしまうかもしれない。


 こんな気持ちは。

 他に、知らない。



 深いキスに夢中になっている間に、智の大きな熱い手が、カットソーとブラジャーを一気に捲り上げて、ふくらみをやわやわと揉んでいた。

「んーっ、んっ……」

 その手の熱さ、揉み上げる力の強さは、痛いほどで。

「……なに、考えてた?」

 智は一旦唇を解放すると、手のひらの動きを止めて、私の顔を覗き込むように見つめる。煌々と灯る天井の光に、私たちを繋ぐ銀糸がつぅ、と、煌めいた。


「……さとしの、ぜんぶが、ほしい」


 熱に浮かされたように考えていた言葉を口にする。

 智は一瞬息を詰まらせた。それから細く整えられた眉を寄せて、苦しげな顔をして。

「…………俺は…俺の全ては。知香のものだ」

 ちいさく。囁いたのが聞こえた。


「俺も、知香の全部が欲しくて、たまらない」


 そう呟いて。引っ張るように、私の衣服を剥ぎだした。カットソーも、ショーツも、全部全部。
 智も部屋着を脱ぎ捨て、鍛えられた上半身が露わになって。彫像のような綺麗さに、思わず見惚れてしまう。

 寝室の照明が灯ったままで、私の全てが晒されていく。一瞬、胸元を両手で隠しそうになるけれど、智にその手を取られてシーツに縫い止められて。

「隠すな。……知香は、俺のものなんだから」

 そう言って口の端を歪めて、ふたたび私の口を塞いだ。

「んんっ……」

 縫い止めていた手を離されて、ふくらみの滑らかさを楽しむように揉みしだかれていく。硬く尖り出した蕾に智の長い指が触れて、身体が跳ねた。
 智の唇が降りていく場所にチリチリと痛みが走って。

「ひゃ、うっ……っ!」

 ぱくり、と。左の蕾を口に含まれる。吸われて、甘噛みされて。右の蕾も、指の腹で優しく弾かれて。

「あぅっ、あ、あ、っ、んんっ―――っ!!」

 あっという間に視界が白く染まった。ぞわり、と、何かが肌の表面を走り抜ける。
 ぎゅう、と、シーツを握りしめて余韻をやり過ごす。喉の奥が痙攣して、涙が滲んでいく。

 心臓が大きく脈打っている。じっとりと、汗が滲む。

 するり、と。智の熱い手のひらが、私の足の付け根に這わされて。

「あ、ああっ」

 形を確かめるかのように、手のひらでゆっくりと撫でられて。しとどに濡そぼった場所に、ちゅぷりと音を立てて、角ばった指が埋め込まれていく。

「ひ、ぁ……」

「きっつ………」

 智が眉根を潜めて小さく呟いて、派手な水音をさせて始まる抽挿。時折、指の先端を曲げられて、入口の壁を擦られていく。

「あっ、それっだめぇっ」

 過ぎた快感にイヤイヤと頭を振る。くすり、と、智が笑い声をあげた。

「だめ?ほんとに?」

 智の残った手がふくらみに吸い付き、唇は蕾を含んで。潜り込ませた指と外の親指で、秘芽を器用に表と裏から刺激されて。

「―――――ッ!!」

 声にならない声で絶頂を迎える。目の奥に小さな光がちらついている。ぶわり、と、下腹部から脳天まで突き抜けていく、なにか。
 全身が痙攣するなか、智が心底愉しそうに声を漏らした。

 智のその声に、私だけが翻弄されているようで、悔しさが込み上げていく。涙を滲ませた目で睨んでも、智は涼しい顔で。

 大きく弾けた強烈な余韻を荒い呼吸を繰り返してやり過ごしていると、智の熱い手が私の腰をずるりと引き寄せて。間髪を入れずに最奥まで穿たれた。

「はうっ、ああっ!!」

 弛緩していた身体が硬直して、背中が弓なりに反る。

「……っ…」

 何かを堪えるように、ぐっと唇を噛む智。熱い楔を馴染ませるように、智は動かない。力の入らない腕を持ち上げて、智が噛み締めた唇をゆっくりなぞる。

「き、もち…い……?」

 呼吸が乱れて、切れ切れな言葉。それでも、智にも『気持ちいい』と感じて欲しくて。痙攣する喉を必死に震わせた。

 私のその仕草に、智が愛おしそうに目を細めて。

「ん……最高」

 どちらからとなく視線を絡ませる。お互いに、見えない何かに引き寄せられるように、口付けを交わしてく。

 小さなリップ音が響いて、唇が離れる。



「さ、とし……ねぇ、わたし、うえ、なりたい」



 知識はあった。けれど、今までの経験の中で、一度も実行したことがないことを口にする。

 智は。私がやりたいと言ったことは基本的に反対しない。
 それをわかってるからこそ……このタイミングで。ズルいとは思っているけれど。『そうしたい』、と口にする。

 これが、智と私のコミュニケーションのひとつ、だというのなら。智から投げられるボールだけじゃ、嫌だ。私からも、ボールを投げたい。

 切れ長の瞳が、驚愕に彩られて。大きく、見開かれた。








「は、ぁ、ん……っ、ぅ」

「腰、支えてっから……そのままゆっくり、腰、おろして……」

 灼熱の楔の先端が、夥しく濡そぼった秘裂に触れた。くちゅり、と、淫らな水音が響く。その楔の熱さと自らが行なっている行為への緊張で、太ももが強張る。
 普段、滅多に呼吸のリズムが崩れない智の、不規則な呼吸が聞こえて。昂っているのは私だけじゃない、と気がついて、思わず小さな息を漏らした。

 智の左手が、蒼く血管が浮き出た楔の胴を支え、空いた右手と声で、私の身体を誘導する。ゆっくりと、でも、確実に。私と智の熱が、混じり合っていく。

「ん、あ……っ、―――ッ!」

 さっき受け入れたばかりの熱い楔。それでも慣れない圧倒的な質量に、息が詰まる。ようやく、一番大きな先端の膨らみを胎内に取り込んで。

「はぁっ、……ぅ」

「くぅっ……」

 苦しげ気に眉を潜める智の肩にすがって、ぐっと爪を立てる。ゆるゆると、腰を沈めて。

「あ、あぅっ!」

「……っ」

 ぐちゅり、と、大きく音を響かせて、智の上に完全に座り込む。最奥に突き当たった衝撃で、視界が真っ白に染まって。思わず、喉を仰け反らせる。

「あ、いかわらず……いー声、で…啼くなぁ……」

 ニヤリと。智が、ひどく意地悪な笑みを浮かべた。でも、その表情は、その声は、どこか切羽詰まっていて。

「っ、想像、してた以上に……クるもんがあって、やっべぇ……」

 あんま、持たねぇかも。そう呟いて、ダークブラウンの瞳を細めた。その表情に、意地悪された分のお返し、と言わんばかりに、口元を緩ませて、ゆっくりと腰を動かす。

「……ん、あぅっ……」

 智に、私からボールを投げてあげたい、のに。胎内を占める灼熱の楔に意識が集中してしまう。最奥を貫く圧倒的な質量のそれは、正直、苦しい。いつも感じている楔の質量が、今夜は違う気がする。

 智の首に腕を回して、ぎこちなく腰を動かしていく。こんなぎこちない動きで、智が気持ちよくなってくれるのか、わからなくて。涙ながらに、智の名前を呼んだ。

「さ、とし……っ」

「っ、ちょっ…、知香、まっ……」

 私が動くことで智が息を飲んで、時折、その細く整えられた眉を顰める。荒く息を吐き出す表情を間近で捉えて、身体の奥がさらに熱を上げていく。



 恥ずかしい、よりも、はしたない、よりも。ただただ、嬉しくなった。

 もっと見たい。智が感じる顔を、もっと見たい。
 智に、私で、感じてほしい。



 その気持ちが大きく膨らんで、ベッドについた膝をバネにして夢中で動くたび。繋がった箇所から奏でられる水音が、膨らんでいく私の気持ちに呼応するように大きくなっていく。

「く、ぅ………知香……腰、えっろ。さいっこーに………可愛い」

「やっ、言わ、ない、でっ……!」

 智が愉しそうに、苦しそうに。口の端をつり上げて、私を揶揄する。その揶揄に煽られて、ナカがひくりと蠢いた。

 つぅ、と。智の指が私の背筋を伝って、いつもお風呂上がりにシャワーを当てている仙骨の辺りをくりくりと刺激する。ぞわり、ぞわりと背筋を這い上ってくる何かに、さらに煽られて。

「ひぁっ!はぁ、あ……っん、……も、むりぃっ!」

 溺れる。寄せては返す、大きな波に、溺れる。ただ、それだけが頭にあって。ぐちゅ、ぐちゅ、と、鼓膜に大きく響く水音を塞ぐように、ぎゅう、と、智にしがみついて、左耳を智の首筋にくっつけた。

「知、香……ッ」

 体内から伝わる、空気を介さない智の声。私の名前を口にして、智が突き上げるように腰を跳ねさせる。最奥を貫かれて、ばちんと視界が弾けて。

「あ、あああぁぁっっ!!」

「ぐ、………ッ、」

 くぐもった声が左の耳元で聞こえて、背筋が震えた。胎内で熱い楔が痙攣しているのを感じとる。

 足の爪先から脳天を突き抜けていくような強烈な感覚に、意識が遠のいていく。

 くたり、と。汗ばんだ智の胸に、身体を預けて。

「す、き……あいして、る……」

 堪え切れない気持ちが、私から、零れ落ちた。

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