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本編・第二部
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お風呂場で何度も迎えさせられた絶頂のせいで全身に力が入らないことをいい事に、智さんが私の腕を背中へ捻りあげ、さっきまで私の視界を奪っていたネクタイで縛り上げていく。
知識としては、ある。けれど、今までこんな風に拘束されたまま抱かれたことは4年間付き合った凌牙にもされたことがない。涙目で智さんに精一杯訴える。
「やっ、智さんっ、これ外してっ……」
「お仕置きなんだけど? わかってる?」
さも愉しそうに笑う智さんの顔が、とても魅惑的で。これから自分がどうなるのか、という僅かな恐怖心があるのに。どくり……と。身体の奥が悦びで震えた。
ぱたり、と音を立てて、智さんの髪から水滴が落ちてくる。
「……後ろ手にされて自由がなくなった気分は、どう?」
口の端が、ゆっくりと釣り上がって。凄まじいほどの色気を放つ、その智さんの姿に。
―――私の中の理性が振り切れた。
いつだって、壊れるくらい、愛して欲しい。特に……今回みたいな、すれ違いをしたから。
だから、今日は。少しくらい、倒錯したセックスだって構わない。縛られて自由を奪われた事も……私の中に眠る被虐心を呼び起こしていく。
自分でも気が付かない間に。胸が期待に高鳴って……呼吸が浅くなる。
噛みつかれるように唇を塞がれた。舌を絡めとられて強く吸われる。
智さんの大きな手が私の身体を縦横無尽に這っていく。その感覚にさえ、とろりと蜜が溢れていくのだから、どれだけ智さんに溺れているのかと我ながら呆れる。
膨らんだふたつの丘がやわやわと揉みしだかれていく。
「んぅ、…ぅ……んんっ」
その声を皮切りに、蕾をゆっくり嬲られていく。数度絶頂を迎えている身体には、強すぎる刺激。
「ひゃぁっ、あああっ」
大きく喘いで、喉を仰け反らせた。
不意に、智さんの指が私の口に侵入する。私はわけもわからず、ただただ舌を絡めた。
「お仕置きだっつーのに、なに気持ち良さそうなの?」
「……っ、」
つぅ、と。面白くなさそうにダークブラウンの瞳が細められた。その仕草さえ、私に快感を与えてくれる。
「………お仕置きだというのに、とっても気持ちよさそうな、知香さんには」
左耳で。アノ声で、囁かれて。
「自由のなくなった身体を僕に好き放題される……っていう、お仕置きをしてあげましょう」
私はもう、陥落してしまった。智さんという…底無しの、海に。
溺れたっていい。どうせ溺れるなら、智さんと一緒に……そのまま深いところまで、溺れてしまいたい。
ふふふ、と。智さんが、声を上げて、微笑んだ。
「ああっ、ん、はあっ、や、も、ダメっ、あうっ、い、いっちゃ、あ、ああああっ」
ふ、と、智さんの指が動きを止めた。また、だ。何度目だろう。その回数さえ、わからなくなっていた。再び遠くなった快楽に私は身体を戦慄かせ涙をボロボロと零す。
「もぉっ………おねが……ゆる、してぇ、」
長時間に渡り絶頂をお預けされ続けた私の身体は、どんな刺激にも簡単に反応してしまう。手のひらでさわり、さわりと太ももを撫でられて、その感覚にすら、何かがぞわりと背筋を這っていく。
「だ~め。お仕置きなんだって」
アノ感覚がふたたび這い上がってくる。私のナカに埋め込まれた智さんの指を締め付けていく。
「……っ、締めすぎ……ココに俺が入ったらどーなるんだろうね? 知香は……」
「やぁっ……」
私の想像を掻き立てるように左の耳元で甘く囁かれていく。
私が絶頂を迎えようとする度に、動きを止め。こうして私を追い詰めていく言葉が、私の身体に刻まれていく。
はしたなく腰を揺らして、とろとろと蜜を溢しても。それでもなお智さんは私に与えてくれない。
私の意識をドロドロに蕩けさせ、目も眩む高みから放り出さるような、最高の快楽を。
「そうだなぁ…俺ももう限界だから。あと、10秒、イくの我慢できたら……挿入れてやる」
智さんが切れ長の瞳を歪ませて。指が私の最奥をゆっくりと揺らされていく。2本の指が器用にバラバラと動かされている。
「ひゃっ、あっ、うううっ、」
「1、2、3、4……」
智さんの低くて少し気怠そうな声が、耳元で響いて、ひどく興奮する。
いつもはシーツを力いっぱい掴んだりして快感を逃がしたりできるのに。今は腕を背中で縛り上げられているから、快感から逃れることを許してくれはしない。
ただただ大きな波に翻弄され、智さんから与えられる甘い刺激を、そのまま受け入れ続けるしか無くて。
許容を超えても、身体を震わせてそれに耐えるしか無い、この現状に。気が狂ってしまったかのような、猛烈なモノが弾けた。
「―――――――――っ!!!!」
いつもの比でないほどの快感が、足元から脳を一気に貫いた。身体がしなり、痙攣して、頭が、真っ白になる。涙が何筋もこめかみを伝っていく。喉がひゅうひゅうと音を立てている。
「あ~あ……我慢出来たら挿入れてやるっつったのに、聞いてなかった?」
不満げな声を上げる智さんに、もう、まともに返答することなんて出来なくて。
「………あ~そっか。聞いてねぇから、俺に抱かれてる時に他の男のこと思い出せるんだな。そうだ、俺が間違ってた」
うん、と、納得するように智さんが頷いた。智さんの額にじっとりと浮かんだ汗が煌めいている。ふわり、と微笑んだその笑顔に、身体の奥が……期待に、震えた。
「やっぱ、こっちの方が知香には効くんだな?」
夥しく泥濘んだ秘裂に、途方もない質量の楔が打ち込まれる。
「ぁあああああっ!!!」
バチン、と、また視界が弾けた。身体が弓形にしなり、喉の奥が痙攣する。あまりの衝撃に、呼吸が出来なくなる。
「っ、くぅ……やっべ、喰いちぎられそ……」
何度も何度も何度も。ゆっくりとした抜き差しを繰り返されて、先ほどのような、一気にスパークするような快感と違う快感が襲ってくる。
私はもう、壊れたプレーヤーのように、意味の無い言葉しか紡げない。
「あっ、ああっ、あう、あっ、あああっ」
ゆっくりとした律動に、身体が痙攣を始める。シーツを掴んで、快感を逃がしながら、智さんと一緒に果てたいのに。それすら叶わないほど、幾度も幾度も大きな波に攫われていく。
「ぅ、んんっ―――――っ!!」
「……っ、だから、イくたんびに締めすぎだっつの…………」
愉しげに、でも苦し気に智さんが私を揶揄うように声を発していく。脚がガクガクと震える。また涙がいくつも零れ落ちていく。私のその様子に智さんが満足したような笑みを浮かべた。
「けど、もう……俺しか見えてねぇな?」
ゆるゆるとした律動が止み、背中へ手が回され縛り上げられていたネクタイが解かれる。血流が回復し、腕がビリビリと痺れたような感覚がさらに快感を呼び起こした。
「知香に触れていいのは俺だけ。知香の、啼いて乱れて……ぐっちゃぐちゃになった可愛い姿を見ていいのも、俺だけ。笑顔も、声も、何もかも……俺だけのもの………」
そういって、智さんが私の右耳に指を這わせた。
「消毒」
「……ぇ?」
なんの事かわからなくて、思わずきょとんとしてしまった。私のその表情に、智さんが嬉しそうに笑みを浮かべている。
「もしかして忘れてた? それくらい……俺しか見えなくなってんだ?」
じっとりと舌を這わされて、耳たぶを食まれていく。智さんの言葉に、片桐さんから右耳に口付けられたことが脳裏によぎった。それを「消毒」してくれたのだと察して、心の奥がぎゅっと締め付けられる。……消毒してくれるのは、もちろん嬉しいのだけれど。
「あぅ……さと、しさ……」
「んー?」
智さんが私の耳元から顔を上げて私の顔を覗き込んだ。痺れた腕に力を精一杯込めて、智さんの唇をなぞっていく。
「キス、して……」
智さんから何度もお預けをされて。その頃から……唇にキスしてくれていない。
今日は。今日だからこそ。……唇を合わせて、一緒に……果てたい。
「……じゃ、約束、な?」
智さんが、困ったように笑う。
「や、くそく……?」
「もう……俺に、敬語使うな。それを守れるなら……キスしながら、一緒にイってやる」
私の願いを読んでいたかのように、智さんが意地悪な笑顔を浮かべる。
「…………やくそく、します」
すっと、唇に人差し指が当てられる。複雑そうなその表情に、数度目を瞬かせた。
「……しますって、敬語だろ?」
「っ」
言われてみれば……そう、だ。もう思考がドロドロだから考えきれない。
「やり直し」
ふっと、智さんが笑う。
「約束……する」
私が言い終わるや否や、顎を掴まれて強く口付けられ。何度も絡め取り、角度を変えて味わわれる。深いところまで……堕とされていく。
溺れているのか。溺れさせられているのか。もう、わからない。でも。智さんと一緒に……溺れていけるなら、本望だ。
ぎゅう、と、力の入らない腕を気力で持ち上げて、智さんの背中へ回した。
ぱちゅん、ぱちゅん、と、絶え間なく淫らな水音が響いて、最奥を何度も突かれて。身体の奥が痙攣し始めて、智さんの背中に爪を立てた。
段々とストロークが早くなり、私の身体がしなっていく。
「んっ、ぅん、ん、ん、ん、んんん―――――っ!!」
「…………っ…」
今までで一番強く、視界が白く弾けた。
智さんが、数度腰を打ち付け、どくり、と。楔が大きく震えたのを感じとった。
いつ、眠りに堕ちたのか、覚えていなかった。
お仕置きと称されて何度も何度もお預けを喰らい、そのあと何度も何度も絶頂を迎えさせられても。
幾度となくお互いに求め合い、お互いの存在を確かめ合って。お互いがどれほど思い合っているのか、ふたりの体力が尽きるまで、確かめ合った。
―――知香。好きだ。愛してる。
そんな言葉が、何度降ってきたか。もう、数えられないほどだった。
ぼんやりと、朝日が差し込む寝室を眺めていた。
智さんの、規則的な寝息が響いている。それだけが……この部屋の、音の全て。
ゆっくりと、目の前の智さんの背中を摩る。私が、何度も爪を立てたから。赤い爪痕が幾重も重なっている。
その爪痕が、とても痛そうだけれども。正直、とても嬉しかった。
智さんに、私を刻み込めた。そんな気がして……嬉しく、感じた。
爪痕に口付けていく。たくさん、たくさん口付けていく。
「爪を立てたのは、謝りますけど。腕が自由じゃないと……こうして、智さんのこと、抱きしめられないから……もう、しないでよ……?」
智さんの背中から胸の方に手を回して、ぎゅうと抱きついたまま。
私は、また……深い眠りに、堕ちていった。
知識としては、ある。けれど、今までこんな風に拘束されたまま抱かれたことは4年間付き合った凌牙にもされたことがない。涙目で智さんに精一杯訴える。
「やっ、智さんっ、これ外してっ……」
「お仕置きなんだけど? わかってる?」
さも愉しそうに笑う智さんの顔が、とても魅惑的で。これから自分がどうなるのか、という僅かな恐怖心があるのに。どくり……と。身体の奥が悦びで震えた。
ぱたり、と音を立てて、智さんの髪から水滴が落ちてくる。
「……後ろ手にされて自由がなくなった気分は、どう?」
口の端が、ゆっくりと釣り上がって。凄まじいほどの色気を放つ、その智さんの姿に。
―――私の中の理性が振り切れた。
いつだって、壊れるくらい、愛して欲しい。特に……今回みたいな、すれ違いをしたから。
だから、今日は。少しくらい、倒錯したセックスだって構わない。縛られて自由を奪われた事も……私の中に眠る被虐心を呼び起こしていく。
自分でも気が付かない間に。胸が期待に高鳴って……呼吸が浅くなる。
噛みつかれるように唇を塞がれた。舌を絡めとられて強く吸われる。
智さんの大きな手が私の身体を縦横無尽に這っていく。その感覚にさえ、とろりと蜜が溢れていくのだから、どれだけ智さんに溺れているのかと我ながら呆れる。
膨らんだふたつの丘がやわやわと揉みしだかれていく。
「んぅ、…ぅ……んんっ」
その声を皮切りに、蕾をゆっくり嬲られていく。数度絶頂を迎えている身体には、強すぎる刺激。
「ひゃぁっ、あああっ」
大きく喘いで、喉を仰け反らせた。
不意に、智さんの指が私の口に侵入する。私はわけもわからず、ただただ舌を絡めた。
「お仕置きだっつーのに、なに気持ち良さそうなの?」
「……っ、」
つぅ、と。面白くなさそうにダークブラウンの瞳が細められた。その仕草さえ、私に快感を与えてくれる。
「………お仕置きだというのに、とっても気持ちよさそうな、知香さんには」
左耳で。アノ声で、囁かれて。
「自由のなくなった身体を僕に好き放題される……っていう、お仕置きをしてあげましょう」
私はもう、陥落してしまった。智さんという…底無しの、海に。
溺れたっていい。どうせ溺れるなら、智さんと一緒に……そのまま深いところまで、溺れてしまいたい。
ふふふ、と。智さんが、声を上げて、微笑んだ。
「ああっ、ん、はあっ、や、も、ダメっ、あうっ、い、いっちゃ、あ、ああああっ」
ふ、と、智さんの指が動きを止めた。また、だ。何度目だろう。その回数さえ、わからなくなっていた。再び遠くなった快楽に私は身体を戦慄かせ涙をボロボロと零す。
「もぉっ………おねが……ゆる、してぇ、」
長時間に渡り絶頂をお預けされ続けた私の身体は、どんな刺激にも簡単に反応してしまう。手のひらでさわり、さわりと太ももを撫でられて、その感覚にすら、何かがぞわりと背筋を這っていく。
「だ~め。お仕置きなんだって」
アノ感覚がふたたび這い上がってくる。私のナカに埋め込まれた智さんの指を締め付けていく。
「……っ、締めすぎ……ココに俺が入ったらどーなるんだろうね? 知香は……」
「やぁっ……」
私の想像を掻き立てるように左の耳元で甘く囁かれていく。
私が絶頂を迎えようとする度に、動きを止め。こうして私を追い詰めていく言葉が、私の身体に刻まれていく。
はしたなく腰を揺らして、とろとろと蜜を溢しても。それでもなお智さんは私に与えてくれない。
私の意識をドロドロに蕩けさせ、目も眩む高みから放り出さるような、最高の快楽を。
「そうだなぁ…俺ももう限界だから。あと、10秒、イくの我慢できたら……挿入れてやる」
智さんが切れ長の瞳を歪ませて。指が私の最奥をゆっくりと揺らされていく。2本の指が器用にバラバラと動かされている。
「ひゃっ、あっ、うううっ、」
「1、2、3、4……」
智さんの低くて少し気怠そうな声が、耳元で響いて、ひどく興奮する。
いつもはシーツを力いっぱい掴んだりして快感を逃がしたりできるのに。今は腕を背中で縛り上げられているから、快感から逃れることを許してくれはしない。
ただただ大きな波に翻弄され、智さんから与えられる甘い刺激を、そのまま受け入れ続けるしか無くて。
許容を超えても、身体を震わせてそれに耐えるしか無い、この現状に。気が狂ってしまったかのような、猛烈なモノが弾けた。
「―――――――――っ!!!!」
いつもの比でないほどの快感が、足元から脳を一気に貫いた。身体がしなり、痙攣して、頭が、真っ白になる。涙が何筋もこめかみを伝っていく。喉がひゅうひゅうと音を立てている。
「あ~あ……我慢出来たら挿入れてやるっつったのに、聞いてなかった?」
不満げな声を上げる智さんに、もう、まともに返答することなんて出来なくて。
「………あ~そっか。聞いてねぇから、俺に抱かれてる時に他の男のこと思い出せるんだな。そうだ、俺が間違ってた」
うん、と、納得するように智さんが頷いた。智さんの額にじっとりと浮かんだ汗が煌めいている。ふわり、と微笑んだその笑顔に、身体の奥が……期待に、震えた。
「やっぱ、こっちの方が知香には効くんだな?」
夥しく泥濘んだ秘裂に、途方もない質量の楔が打ち込まれる。
「ぁあああああっ!!!」
バチン、と、また視界が弾けた。身体が弓形にしなり、喉の奥が痙攣する。あまりの衝撃に、呼吸が出来なくなる。
「っ、くぅ……やっべ、喰いちぎられそ……」
何度も何度も何度も。ゆっくりとした抜き差しを繰り返されて、先ほどのような、一気にスパークするような快感と違う快感が襲ってくる。
私はもう、壊れたプレーヤーのように、意味の無い言葉しか紡げない。
「あっ、ああっ、あう、あっ、あああっ」
ゆっくりとした律動に、身体が痙攣を始める。シーツを掴んで、快感を逃がしながら、智さんと一緒に果てたいのに。それすら叶わないほど、幾度も幾度も大きな波に攫われていく。
「ぅ、んんっ―――――っ!!」
「……っ、だから、イくたんびに締めすぎだっつの…………」
愉しげに、でも苦し気に智さんが私を揶揄うように声を発していく。脚がガクガクと震える。また涙がいくつも零れ落ちていく。私のその様子に智さんが満足したような笑みを浮かべた。
「けど、もう……俺しか見えてねぇな?」
ゆるゆるとした律動が止み、背中へ手が回され縛り上げられていたネクタイが解かれる。血流が回復し、腕がビリビリと痺れたような感覚がさらに快感を呼び起こした。
「知香に触れていいのは俺だけ。知香の、啼いて乱れて……ぐっちゃぐちゃになった可愛い姿を見ていいのも、俺だけ。笑顔も、声も、何もかも……俺だけのもの………」
そういって、智さんが私の右耳に指を這わせた。
「消毒」
「……ぇ?」
なんの事かわからなくて、思わずきょとんとしてしまった。私のその表情に、智さんが嬉しそうに笑みを浮かべている。
「もしかして忘れてた? それくらい……俺しか見えなくなってんだ?」
じっとりと舌を這わされて、耳たぶを食まれていく。智さんの言葉に、片桐さんから右耳に口付けられたことが脳裏によぎった。それを「消毒」してくれたのだと察して、心の奥がぎゅっと締め付けられる。……消毒してくれるのは、もちろん嬉しいのだけれど。
「あぅ……さと、しさ……」
「んー?」
智さんが私の耳元から顔を上げて私の顔を覗き込んだ。痺れた腕に力を精一杯込めて、智さんの唇をなぞっていく。
「キス、して……」
智さんから何度もお預けをされて。その頃から……唇にキスしてくれていない。
今日は。今日だからこそ。……唇を合わせて、一緒に……果てたい。
「……じゃ、約束、な?」
智さんが、困ったように笑う。
「や、くそく……?」
「もう……俺に、敬語使うな。それを守れるなら……キスしながら、一緒にイってやる」
私の願いを読んでいたかのように、智さんが意地悪な笑顔を浮かべる。
「…………やくそく、します」
すっと、唇に人差し指が当てられる。複雑そうなその表情に、数度目を瞬かせた。
「……しますって、敬語だろ?」
「っ」
言われてみれば……そう、だ。もう思考がドロドロだから考えきれない。
「やり直し」
ふっと、智さんが笑う。
「約束……する」
私が言い終わるや否や、顎を掴まれて強く口付けられ。何度も絡め取り、角度を変えて味わわれる。深いところまで……堕とされていく。
溺れているのか。溺れさせられているのか。もう、わからない。でも。智さんと一緒に……溺れていけるなら、本望だ。
ぎゅう、と、力の入らない腕を気力で持ち上げて、智さんの背中へ回した。
ぱちゅん、ぱちゅん、と、絶え間なく淫らな水音が響いて、最奥を何度も突かれて。身体の奥が痙攣し始めて、智さんの背中に爪を立てた。
段々とストロークが早くなり、私の身体がしなっていく。
「んっ、ぅん、ん、ん、ん、んんん―――――っ!!」
「…………っ…」
今までで一番強く、視界が白く弾けた。
智さんが、数度腰を打ち付け、どくり、と。楔が大きく震えたのを感じとった。
いつ、眠りに堕ちたのか、覚えていなかった。
お仕置きと称されて何度も何度もお預けを喰らい、そのあと何度も何度も絶頂を迎えさせられても。
幾度となくお互いに求め合い、お互いの存在を確かめ合って。お互いがどれほど思い合っているのか、ふたりの体力が尽きるまで、確かめ合った。
―――知香。好きだ。愛してる。
そんな言葉が、何度降ってきたか。もう、数えられないほどだった。
ぼんやりと、朝日が差し込む寝室を眺めていた。
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ゆっくりと、目の前の智さんの背中を摩る。私が、何度も爪を立てたから。赤い爪痕が幾重も重なっている。
その爪痕が、とても痛そうだけれども。正直、とても嬉しかった。
智さんに、私を刻み込めた。そんな気がして……嬉しく、感じた。
爪痕に口付けていく。たくさん、たくさん口付けていく。
「爪を立てたのは、謝りますけど。腕が自由じゃないと……こうして、智さんのこと、抱きしめられないから……もう、しないでよ……?」
智さんの背中から胸の方に手を回して、ぎゅうと抱きついたまま。
私は、また……深い眠りに、堕ちていった。
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