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本編・第二部
83 *
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智さんの声のトーンが、変わった。その事実に慌てふためいた。
「わ、わたしっ! 敬語使ってない! だ、だからっ、それでお仕置きっておかしい!」
智さんにお姫様抱っこされたまま、寝室に連れ込まれる。けれど私は納得できなくて智さんの腕の中でじたばたと暴れた。
「僕、前に言いましたよね? 元カレを彷彿とさせるような行動したら、お仕置きしてあげます、って」
愉しげな声で、くすくす、と……智さんが笑みを浮かべている。言われてみれば、年末に奉仕しようとした時に……そんなことを言われた気もする、けれども。
「……っ、まだ有効なのそれ!?」
「当たり前です」
ふっと、智さんがその切れ長の瞳を意地悪に歪ませた。そのまま、ぽすり、と、仰向けでベッドに寝かされる。
「ちょっ……!?」
ぎしり、と、スプリングが軋む音に紛れて智さんの低い声が……情欲を孕んで、甘く響いた。
「さっきのも。元カレに、仕込まれたんだろ? だから……お仕置き」
ざらり、と。左耳に舌を這わされる。その感覚に、身体がびくりと反応する。
別に仕込まれたわけではない。凌牙の反応を見ながら男性の悦い箇所の情報を得たまでで、それを智さんに流用しただけなのだ。けれども、こういう言い方をしたら余計に智さんを刺激すると……私は直感的に知っている。
とはいえ、この状況は本意ではない。私は次に、どう反論するかどうかを考えていたから。
まさか、智さんに。私の本心を見抜かれているなんて思ってもいなかった。
「ねぇ、知香さん……シたくなった?」
私が智さんの……その口調に、声のトーンの変化に弱いことなんて、それこそ、初めから……クリスマスの頃から見抜かれている。
……せっかく、やり返せると思ったのに。これではいつものパターンじゃないか。
「っ、そんなことっ、ないっ」
悔しさをぶつけるように否定の言葉を紡いだ。その間にもざらりと首筋に舌が這わされていく。声が漏れ出ないように、ぐっと口に手の甲を当てて顔を逸らした。
智さんが面白くなさそうに「ふぅん」と声を上げた。そのまま、私の寝間着のズボンに手をかけていく。
「……嘘ついたらまたお仕置きですけど。知香さん、その覚悟あるんです?」
「はぁっ!? ちょ、っ、手ぇっ……」
私に反論することすら許さず、一気に剥ぎ取られる。つぅ、と。蜜が糸を引いてショーツが離された。それに気が付き顔が火照る。その糸の煌めきを、智さんが見逃すはずもなく。
「知香さん? ……どうしたんですか?」
下半身だけなにも纏わぬ姿になり、心許無い。思わず膝を擦り合わせる。
逸らしていた顔をゆるゆると智さんに向ける。智さんは圧倒的優位な位置から私を見おろしながら。ふふふ、と、優しく…残酷に笑った。
わたしがイきたいと願った時には与えられず、赦しを乞うても赦されずに焦らされて、その後はもう嫌だ、と言っても終わらない、狂いそうなほどの快楽を身体に叩き込まれていく。
智さんの指で、楔で……智さんの全てで。その甘美で残酷で、凶暴なまでの快楽の海に堕とされて、溺れさせられていく。
そう考えて……身体の奥が、どくりと震える。とろりと、また蜜が溢れたのを自覚した。
もう、逃げられない。
ぎゅっと目を瞑り、覚悟を決めた。
「……うそ、を、つきました………」
小さな声で、絞り出す。
「……ふぅん? で? なんで敬語? 知香はお仕置き三重苦がお望みってわけ?」
くつくつと、喉を鳴らしながら、愉しそうな声が響いて。三重苦、という言葉に弾かれたように声を荒らげた。
「っ、ちがっ、まって……!」
「違わないでしょう? ああ……元カレを彷彿させるようなことをして、嘘をついて、挙句に敬語を使った知香さんを……どうしてくれましょうかねぇ」
恍惚と笑う智さんを、私は呆然と見上げるしかなくて。
ゆっくりと、智さんの顔が近づいて、噛みつかれるようなキスが始まった。さっきまで楔を口にしていたから、今日はキスはしないだろうと思っていた。だから、完全な……不意打ち。
容赦なく、智さんの舌が、私を蹂躙して。淫らな音をたてて、唇が離された。
「……じゃぁ、知香さんには。今日はずうっと、こうして貰いましょうか」
つぅ、と。深い情欲に染まった切れ長の瞳が、獣のように歪んでいった。
ベッドサイドの、穏やかなオレンジの光が降り注いでいる。上半身を起こされ、穏やかな光の中に生まれた私の影の中に、智さんがいる。今日は初めから焦らさせることはなく、既に2度絶頂を迎えさせられて。
「う、ああっ、ぅっ、も、や、めてっ、」
智さんは私の脚を私の腕で大きく開かせて、私の秘芽をその熱い舌で弄んでいる。 時折、秘裂に舌を潜り込ませ、溢れ出る蜜を私に見せ付けるように吸い上げていく。
本当は口を塞ぎたいのに、自分で膝の裏を抱えて自ら脚を開いているように言われたから。それが……今日のお仕置き、だと。
あまりにも恥ずかしい格好をさせられているからなのか、今日は智さんから与えられる快感の質が違う気がする。いつも秘芽をせめられて迎える絶頂は、貫くような、尖ったような快感なのに。今日は、その尖った感覚の中に、丸く、じんわりとした感覚もあって。気が狂ってしまいそうだ。
「さとしさ、まって、きょうのわたしっ、なんか、お、おかしいのっ」
まだ、指すら挿入されてすらいないのに。熱く滾った楔を挿入されて迎えたような、深い絶頂感が私を襲っていく。
「ん?」
私の声に、智さんが私の秘部から口を離して顔を上げた。私は自分の身体の変化に恐怖を覚えながら、涙を流して訴える。
「うまく、言葉にできなくてっ……わ、わかんない、けど、なんかっ、」
私の異変を感じ取った智さんが、身体を起こして私に視線を合わせた。
「……知香。ちゃんと毎日、お風呂上がる時に、仙骨にシャワーの後のお腹のマッサージ、やってる?」
「え?」
今、なんでこれを確認されるのか、蕩けた思考の中ではわからなかった。荒くなった息を整えながら、涙を滲ませて智さんに返答する。
「ん……やってる…寒いのに、冷えも、感じなくて……それで、今回の生理痛、あんまり感じなかった、んだと思う」
私の返答に、心底満足そうに智さんが微笑んで、髪を撫でられる。
「ん、イイ子」
「……え?」
そうして。まるで、小さい子供が仕掛けたイタズラのネタばらしをする時のように、心から楽しそうに、笑った。
「あれさー。実はさ。冷え性改善もするんだけど。お腹のマッサージ。感度を上げる裏技なんだぜ?」
感度を上げる、裏技。日本語なのに、理解が追いつかない。流れていた涙が瞬時に止まり、軽く10秒は硬直した。
……ようやく、その言葉の意味を飲み込んで。
「……は!?」
「まんまと嵌ってくれて、ありがとな?」
さらり、と。智さんの黒髪が揺れる。あまりの衝撃で、両脚を固定していた腕から力が抜けて、ベッドにへたりこんだ。
「もーっと、気持ちよくなれんぞ?」
にっこりと微笑む、智さんの極上の笑顔が、そこにあって。
「な、なななっ……」
最初から。この快楽に溺れるように、仕込まれていた、ということを、理解して。私は言葉を失い、ぱくぱくと口を動かした。
「そそそ、そんなことっ、私はしてたのっ……!?」
生理痛が軽くなれば万々歳だと思って、嬉々として取り組んでいたことが。まさか、こんなことに繋がっていただなんて。
智さんは、きっと……毎日、教わった通りの行動をする私に、内心ほくそ笑んでいたのだろうと容易に想像が出来た。
「も、もう……シャワーもマッサージもしない!!!!!」
ぶんぶんと頭を降って、智さんをあらん限りの力で睨みつけた。
「……往生際が悪ぃなぁ~。実際、生理痛も軽かったろ?だから、結局さ?」
―――知香は、俺から逃げられねぇんだって。
智さんが愉しげに囁いたその言葉が、私の身体を一瞬で支配した。
「悪ぃ、ちょっと煙草吸ってくる」
「……ん」
自分でも思ったより気怠げな声が出た。そりゃそうだ。
智さんの策略にまんまと嵌っていたことに気がつかされ、その快楽から逃げることすら出来ず、いつもよりも激しい絶頂感を幾度となく味わえば、喩えコレが私でなくともこうなると思う。
智さんと同棲を始めて気づいた智さんの癖。………シたあと、智さん自身が満足してないときは一服つけに行く。
「……こんなにヘロヘロにさせたのに、まだ満足してないわけっ!? あの性欲魔獣っ!」
平日の夜はお互いに無理しないように、だいたい1回しかシない。いや、私は平日の夜にシてること自体すごいことだと思っているのだけども。
土日は抱き潰される勢いで襲われるけれど、平日は残業続きの私を慮ってくれて、回数を減らしてくれている。その代わりに一服付けにいっているらしい。恐らく無意識なのだろう。
その癖に気が付けたのも、なんとなく。今はえらく癪に障るけれど、なんとなく……嬉しく感じる。それだけ、智さんと一緒にいるということだから。
ふわり、と。煙草独特の苦いにおいを纏って、智さんが寝室に戻ってきた。
「今日は仕事どんなだった?」
そういえば、いつもは食事をしながら仕事上のあれこれを話しているけれど、今日は恵方巻きを食べていたから話せなかったんだった。
「………んっと、今日は会議の資料作ってたら遅くなった…」
仕事上のあれこれ、と言っても、お互いに取引先同士だから、業務上差しさわりのない範囲でしか話せていないけれど。
「会議?」
「そう。4月から通関部の組織を変えることになってて。2課の下に、畜産グループ・農産グループ・水産グループを作ることになってるの。それの、編成会議」
私が総合職に転換する最終面談で田邉部長から話された計画がようやく動き出したのだ。
2課としては、水産グループに水野課長、畜産グループに片桐さんと小林くん、私が農産グループ。三木ちゃんは、各グループの事務サポート。それと、4月の新入社員を数名それぞれ迎えての組織再編となる運びとなっている。月次処理の合間でその編成会議の議事録を纏めていたらかなり遅くなってしまった。
「通関部の下に、グループ……??」
私の言葉に、智さんが、ぐっと考え込むような顔をした。
「……どうかした?」
黙りこくった智さんが心配になって、顔を覗き込んだ。ふっと、智さんが口の端をあげて小さく呟く。
「……角度を変える、ね……」
「へ?」
「いや。こっちの話」
「???」
にやり、と。智さんが愉しそうな笑みを浮かべた。
「……詰み、と思っていたが、なんだ、全然詰んでねぇじゃねぇか……盲点だった」
愉しげな笑みを浮かべ、くつくつと智さんが喉を鳴らしている。
「……え? え? どういうこと?」
全く意味がわからない。私の頭上にはてなマークが乱立する。
「池野課長の課題の話だ。海外のメーカーと取引をしようと思っていたんだが、制約が厳しくてな? 詰みかと思っていた」
「……はぁ」
「けど、盲点だった。課題=新部門設立、と思っていたんだ。……俺が今から立ち上げる原料取引の伝手と製品加工の伝手を使って…新部門の下に乾燥食材を国内で製造するグループを新設すれば万事解決、っつぅ話だ」
「……?????」
よくわからないけれど。なんとなく、智さんが向き合っていた池野さんの課題が一歩進んだ、ということはわかった。
「ありがとな? 知香のおかげだ」
ふわり、と微笑まれて。私はなにもしていないけれど、智さんの役に立てた、ということは嬉しかった。
ぎしり、とスプリングが軋む音とともに、ギラギラと、情欲の宿った瞳に貫かれていく。
「お礼、してやるから。な?」
「……はい!?」
「さっきのは、お仕置きだったからな? 今度は、お礼。……でろっでろに、甘くしてやる」
先ほど嫌というほどの快楽を叩き込まれた。今日は正直勘弁して欲しい。いつもよりも激しい絶頂感に、体力が持っていかれているのだから。
「もっ、今日は、むりっ! 明日、水野課長代理の通関士の座学講座行かなきゃなんだからっ!!」
「………今日は本当に往生際が悪ぃな? 言ったろ? ……知香は、俺から、逃げられない」
ぞわり、と。左耳元で囁かれる。『逃げられない』という一言に、私は―――呆気なく陥落していった。
「わ、わたしっ! 敬語使ってない! だ、だからっ、それでお仕置きっておかしい!」
智さんにお姫様抱っこされたまま、寝室に連れ込まれる。けれど私は納得できなくて智さんの腕の中でじたばたと暴れた。
「僕、前に言いましたよね? 元カレを彷彿とさせるような行動したら、お仕置きしてあげます、って」
愉しげな声で、くすくす、と……智さんが笑みを浮かべている。言われてみれば、年末に奉仕しようとした時に……そんなことを言われた気もする、けれども。
「……っ、まだ有効なのそれ!?」
「当たり前です」
ふっと、智さんがその切れ長の瞳を意地悪に歪ませた。そのまま、ぽすり、と、仰向けでベッドに寝かされる。
「ちょっ……!?」
ぎしり、と、スプリングが軋む音に紛れて智さんの低い声が……情欲を孕んで、甘く響いた。
「さっきのも。元カレに、仕込まれたんだろ? だから……お仕置き」
ざらり、と。左耳に舌を這わされる。その感覚に、身体がびくりと反応する。
別に仕込まれたわけではない。凌牙の反応を見ながら男性の悦い箇所の情報を得たまでで、それを智さんに流用しただけなのだ。けれども、こういう言い方をしたら余計に智さんを刺激すると……私は直感的に知っている。
とはいえ、この状況は本意ではない。私は次に、どう反論するかどうかを考えていたから。
まさか、智さんに。私の本心を見抜かれているなんて思ってもいなかった。
「ねぇ、知香さん……シたくなった?」
私が智さんの……その口調に、声のトーンの変化に弱いことなんて、それこそ、初めから……クリスマスの頃から見抜かれている。
……せっかく、やり返せると思ったのに。これではいつものパターンじゃないか。
「っ、そんなことっ、ないっ」
悔しさをぶつけるように否定の言葉を紡いだ。その間にもざらりと首筋に舌が這わされていく。声が漏れ出ないように、ぐっと口に手の甲を当てて顔を逸らした。
智さんが面白くなさそうに「ふぅん」と声を上げた。そのまま、私の寝間着のズボンに手をかけていく。
「……嘘ついたらまたお仕置きですけど。知香さん、その覚悟あるんです?」
「はぁっ!? ちょ、っ、手ぇっ……」
私に反論することすら許さず、一気に剥ぎ取られる。つぅ、と。蜜が糸を引いてショーツが離された。それに気が付き顔が火照る。その糸の煌めきを、智さんが見逃すはずもなく。
「知香さん? ……どうしたんですか?」
下半身だけなにも纏わぬ姿になり、心許無い。思わず膝を擦り合わせる。
逸らしていた顔をゆるゆると智さんに向ける。智さんは圧倒的優位な位置から私を見おろしながら。ふふふ、と、優しく…残酷に笑った。
わたしがイきたいと願った時には与えられず、赦しを乞うても赦されずに焦らされて、その後はもう嫌だ、と言っても終わらない、狂いそうなほどの快楽を身体に叩き込まれていく。
智さんの指で、楔で……智さんの全てで。その甘美で残酷で、凶暴なまでの快楽の海に堕とされて、溺れさせられていく。
そう考えて……身体の奥が、どくりと震える。とろりと、また蜜が溢れたのを自覚した。
もう、逃げられない。
ぎゅっと目を瞑り、覚悟を決めた。
「……うそ、を、つきました………」
小さな声で、絞り出す。
「……ふぅん? で? なんで敬語? 知香はお仕置き三重苦がお望みってわけ?」
くつくつと、喉を鳴らしながら、愉しそうな声が響いて。三重苦、という言葉に弾かれたように声を荒らげた。
「っ、ちがっ、まって……!」
「違わないでしょう? ああ……元カレを彷彿させるようなことをして、嘘をついて、挙句に敬語を使った知香さんを……どうしてくれましょうかねぇ」
恍惚と笑う智さんを、私は呆然と見上げるしかなくて。
ゆっくりと、智さんの顔が近づいて、噛みつかれるようなキスが始まった。さっきまで楔を口にしていたから、今日はキスはしないだろうと思っていた。だから、完全な……不意打ち。
容赦なく、智さんの舌が、私を蹂躙して。淫らな音をたてて、唇が離された。
「……じゃぁ、知香さんには。今日はずうっと、こうして貰いましょうか」
つぅ、と。深い情欲に染まった切れ長の瞳が、獣のように歪んでいった。
ベッドサイドの、穏やかなオレンジの光が降り注いでいる。上半身を起こされ、穏やかな光の中に生まれた私の影の中に、智さんがいる。今日は初めから焦らさせることはなく、既に2度絶頂を迎えさせられて。
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智さんは私の脚を私の腕で大きく開かせて、私の秘芽をその熱い舌で弄んでいる。 時折、秘裂に舌を潜り込ませ、溢れ出る蜜を私に見せ付けるように吸い上げていく。
本当は口を塞ぎたいのに、自分で膝の裏を抱えて自ら脚を開いているように言われたから。それが……今日のお仕置き、だと。
あまりにも恥ずかしい格好をさせられているからなのか、今日は智さんから与えられる快感の質が違う気がする。いつも秘芽をせめられて迎える絶頂は、貫くような、尖ったような快感なのに。今日は、その尖った感覚の中に、丸く、じんわりとした感覚もあって。気が狂ってしまいそうだ。
「さとしさ、まって、きょうのわたしっ、なんか、お、おかしいのっ」
まだ、指すら挿入されてすらいないのに。熱く滾った楔を挿入されて迎えたような、深い絶頂感が私を襲っていく。
「ん?」
私の声に、智さんが私の秘部から口を離して顔を上げた。私は自分の身体の変化に恐怖を覚えながら、涙を流して訴える。
「うまく、言葉にできなくてっ……わ、わかんない、けど、なんかっ、」
私の異変を感じ取った智さんが、身体を起こして私に視線を合わせた。
「……知香。ちゃんと毎日、お風呂上がる時に、仙骨にシャワーの後のお腹のマッサージ、やってる?」
「え?」
今、なんでこれを確認されるのか、蕩けた思考の中ではわからなかった。荒くなった息を整えながら、涙を滲ませて智さんに返答する。
「ん……やってる…寒いのに、冷えも、感じなくて……それで、今回の生理痛、あんまり感じなかった、んだと思う」
私の返答に、心底満足そうに智さんが微笑んで、髪を撫でられる。
「ん、イイ子」
「……え?」
そうして。まるで、小さい子供が仕掛けたイタズラのネタばらしをする時のように、心から楽しそうに、笑った。
「あれさー。実はさ。冷え性改善もするんだけど。お腹のマッサージ。感度を上げる裏技なんだぜ?」
感度を上げる、裏技。日本語なのに、理解が追いつかない。流れていた涙が瞬時に止まり、軽く10秒は硬直した。
……ようやく、その言葉の意味を飲み込んで。
「……は!?」
「まんまと嵌ってくれて、ありがとな?」
さらり、と。智さんの黒髪が揺れる。あまりの衝撃で、両脚を固定していた腕から力が抜けて、ベッドにへたりこんだ。
「もーっと、気持ちよくなれんぞ?」
にっこりと微笑む、智さんの極上の笑顔が、そこにあって。
「な、なななっ……」
最初から。この快楽に溺れるように、仕込まれていた、ということを、理解して。私は言葉を失い、ぱくぱくと口を動かした。
「そそそ、そんなことっ、私はしてたのっ……!?」
生理痛が軽くなれば万々歳だと思って、嬉々として取り組んでいたことが。まさか、こんなことに繋がっていただなんて。
智さんは、きっと……毎日、教わった通りの行動をする私に、内心ほくそ笑んでいたのだろうと容易に想像が出来た。
「も、もう……シャワーもマッサージもしない!!!!!」
ぶんぶんと頭を降って、智さんをあらん限りの力で睨みつけた。
「……往生際が悪ぃなぁ~。実際、生理痛も軽かったろ?だから、結局さ?」
―――知香は、俺から逃げられねぇんだって。
智さんが愉しげに囁いたその言葉が、私の身体を一瞬で支配した。
「悪ぃ、ちょっと煙草吸ってくる」
「……ん」
自分でも思ったより気怠げな声が出た。そりゃそうだ。
智さんの策略にまんまと嵌っていたことに気がつかされ、その快楽から逃げることすら出来ず、いつもよりも激しい絶頂感を幾度となく味わえば、喩えコレが私でなくともこうなると思う。
智さんと同棲を始めて気づいた智さんの癖。………シたあと、智さん自身が満足してないときは一服つけに行く。
「……こんなにヘロヘロにさせたのに、まだ満足してないわけっ!? あの性欲魔獣っ!」
平日の夜はお互いに無理しないように、だいたい1回しかシない。いや、私は平日の夜にシてること自体すごいことだと思っているのだけども。
土日は抱き潰される勢いで襲われるけれど、平日は残業続きの私を慮ってくれて、回数を減らしてくれている。その代わりに一服付けにいっているらしい。恐らく無意識なのだろう。
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「今日は仕事どんなだった?」
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仕事上のあれこれ、と言っても、お互いに取引先同士だから、業務上差しさわりのない範囲でしか話せていないけれど。
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私の言葉に、智さんが、ぐっと考え込むような顔をした。
「……どうかした?」
黙りこくった智さんが心配になって、顔を覗き込んだ。ふっと、智さんが口の端をあげて小さく呟く。
「……角度を変える、ね……」
「へ?」
「いや。こっちの話」
「???」
にやり、と。智さんが愉しそうな笑みを浮かべた。
「……詰み、と思っていたが、なんだ、全然詰んでねぇじゃねぇか……盲点だった」
愉しげな笑みを浮かべ、くつくつと智さんが喉を鳴らしている。
「……え? え? どういうこと?」
全く意味がわからない。私の頭上にはてなマークが乱立する。
「池野課長の課題の話だ。海外のメーカーと取引をしようと思っていたんだが、制約が厳しくてな? 詰みかと思っていた」
「……はぁ」
「けど、盲点だった。課題=新部門設立、と思っていたんだ。……俺が今から立ち上げる原料取引の伝手と製品加工の伝手を使って…新部門の下に乾燥食材を国内で製造するグループを新設すれば万事解決、っつぅ話だ」
「……?????」
よくわからないけれど。なんとなく、智さんが向き合っていた池野さんの課題が一歩進んだ、ということはわかった。
「ありがとな? 知香のおかげだ」
ふわり、と微笑まれて。私はなにもしていないけれど、智さんの役に立てた、ということは嬉しかった。
ぎしり、とスプリングが軋む音とともに、ギラギラと、情欲の宿った瞳に貫かれていく。
「お礼、してやるから。な?」
「……はい!?」
「さっきのは、お仕置きだったからな? 今度は、お礼。……でろっでろに、甘くしてやる」
先ほど嫌というほどの快楽を叩き込まれた。今日は正直勘弁して欲しい。いつもよりも激しい絶頂感に、体力が持っていかれているのだから。
「もっ、今日は、むりっ! 明日、水野課長代理の通関士の座学講座行かなきゃなんだからっ!!」
「………今日は本当に往生際が悪ぃな? 言ったろ? ……知香は、俺から、逃げられない」
ぞわり、と。左耳元で囁かれる。『逃げられない』という一言に、私は―――呆気なく陥落していった。
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「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」
懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。
星野の3カ月間の恋愛アピールに。
好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。
※体の関係は10章以降になります。
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
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