俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第二部

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 ぱちり、と目を開く。ベッドサイドの時計を見遣ると4時を指している。変な時間に……目が、覚めてしまった。ぼうっと昨日のことを思い出す。

「……」

 これから、また新しい朝を迎える。ここを降りたら……片桐さんが、いるかもしれない。

 あの、獲物を捕らえたような……蛇のような瞳を思い出し、ふるり、と、身震いがした。

 智さんに抱き締められているのに、いつもだったら安心感に包まれているのに。今日は……言いようのない不安感が、迫り上がってくる。

「ん……知香……?」

 智さんの声が聞こえる。後ろから抱きしめられて抱き枕にされているから。首だけを少し動かして智さんの方向をみた。

「あ……起こしちゃいました? すみませ…んんっ!?」

 ぐいっと、顎を掴まれて。口付けられた。深く。私を深く……快楽の底へ突き堕とすような、甘く激しいキス。

「んんっ…ぅ、んぅ……」

 ゆっくりと身体を智さんの方向に向かされていく。私の舌を絡め取っていた唇が離され、ざらりと首筋を這った。

「ぁ……さ、としさ……」

 いつの間にか寝間着とナイトブラをたくしあげられて。首筋を這っていた智さんの舌が、今度は私の膨らみの際を嫐っていく。びくり、と、身体が跳ねた。

「……ぁ、ぅんっ……」

 蕾を口に含まれ、ゆっくりと転がされて。じんわりと広がる快感に、甘い嬌声が上がり、徐々に呼吸が乱れていく。

「知香……」

 名前を呼ばれて、乱れた呼吸のまま胸元の智さんの顔を見つめた。ぼんやりと私の顔を見上げる智さんがそこにいる、けれど。私を見つめる智さんの瞳。焦点が合っていない。これ、完全に。

「智、さん……? 寝惚けて、らっしゃ、いますよね……?」
「…んん……? おきてるよ……」

 するり、と、智さんの指が私のショーツに潜り込んでくる。

「ひあっ……ちょっとっ、さ、とし、さんっ」

 智さんの角ばった指が、私の秘裂に這わされる。

「まっ、て、んんっ……朝、ですってば……っ」

 くちゅり、と。水音がして。私は信じられない思いでいっぱいだった。キスされて、胸に触れられて。たったそれだけで、私の身体は智さんを受け入れる準備を始めている。かっと羞恥心が沸き起こった。

 それでも。これからいつも通り抱かれてしまっては、足腰立たなくなって仕事に行けなくなってしまう。

「やぁっ、さとし、さんっ、これからっ、しごとっ……」
「ん? ……だいじょーぶ……」

 それは智さん自身が大丈夫なだけで私は全然大丈夫じゃない、という抗議の声は、私から漏れ出る甘く淫らな嬌声に掻き消されてしまう。既に溢れ出た蜜をぷっくりと腫れ上がった秘芽にすりすりと擦り付けられていく。

「ぁっ、やっ、もぉっ、ほんと、いい加減にっ」

 いい加減にして、と、一層突き放そうと声を上げた瞬間、つぷり、と。秘裂に指が埋め込まれた。

「ぅああっ!!」

 くんっと背中が反る。ばちり、と、瞼の裏が白く弾けた。

「……なぁ…知香。もう軽くイっちゃったくせに……やなの? やめていいの?」

 智さんの覚醒したような、低くて甘い声が私の左耳で響く。その甘い声に、ナカがひくりと蠢いた。不本意ながらも与えられる快楽に溺れきってしまっている私は逆らえるわけもない。

 私の返事を待たずに、ぬちゅり、と淫らな音を立てながら、これまで散々教え込まれた私の弱いところ。入口の上の壁を押される。時折、指を抜き差しされ、ソコが撹拌されていく。

 ピリッとゴムの袋が破られる音を、遠くで聞いた。

 その間にもゆっくりと指が2本になり、泥濘んだソコを刺激する動きは止まらない。

「あ、あ、んんっ、ぅんっ」

 するり、と、智さんの指が抜けて、代わりに途方もないほどの熱量を持った楔が打ち込まれた。

「ひああっ!!!」
「……っ、きつい、な……」

 智さんが苦しそうに眉を動かした。

「……っ、あ……」

 昨晩、リビングで抱かれた後に見た、智さんの昂りの大きさを思い出す。無意識のうちにナカが蠢いて、智さんの形を私に鮮明にさせていく。

 ふっ、と、智さんがわらった。その顔が……とても、扇情的で。

「大丈夫。今日はあんまいじめねぇから」

 いじめない、と言われた言葉に身体が反応する。智さんには……いつだって、壊れるくらい、愛して欲しいから。

 ぷつん、と。私の中の理性が弾けた。

「……いじめて、壊して…くだ、さい……」

 どくり、と、楔が質量を増した。その感覚に思わず息を飲んだ瞬間、私を貫くような激しい律動が始まる。

「あぁっ!? あっ、ぅうんっ、ひぁっ、くぅっ」
「……そーゆーの、知香が無自覚に言うから」
「えっええ? あっ、あ、ううっんっ」

 ぐちゅぐちゅと、淫らな水音が大きくなっていく。私の耳元で囁く智さんの声が、一層低くなる。

「片桐みたいなのに、目ぇ付けられるんだっつの」

 そういうや否や、ふたたび智さんに唇を絡めとられていく。智さんが紡いだ言葉の意味を考える余裕なんてどこにもない。ただひたすらに、智さんの舌が私の口内を蹂躙していく。

 激しい律動と、智さんの舌が私の上顎を擦っていくその感覚に、アノ感覚が這い上がってくるのを堪える事も出来ず。

 私はそのまま大きな波に攫われて行った。身体が強ばって、足が伸びて、全身が痙攣する。

 智さんがびくりと震え、深いため息をつきながら私から唇を離した。

「っ、あっぶな………」
「うぁぁ、はぁっ、も、むりぃっ」

 ハラハラと涙が落ちて、智さんにしがみつく。

「……ん、いーよ………イこう。一緒に……」

 智さんが熱に浮かされたような表情でその言葉を紡ぎ、また深く口付けられる。

 最奥に当たるように角度を変えられて、より一層、ずん、と貫かれて。再び、快感が一気に這い上がった。

「っ、―――っ!!」

「……っ……」

 口付けられたまま、声にならない声で絶頂を迎える。智さんの二の腕に爪を立て、背中が弓なりに反った。

 智さんが、2、3度腰を打ち付けて、どくりと楔が爆ぜ―――私は意識を手放した。








 聞き慣れた目覚ましが聞こえた頃には、隣にはもう智さんの姿がなかった。

「……あれ?」

 身体に僅かに残る余韻はあるのに、寝間着は綺麗に整えてある。

 カタ、と音を立てて寝室とリビングを仕切る扉を開けると、智さんはすでにキッチンに立っていた。

「おはよ。ちょっと待っててな、今、朝食と弁当作ってるから」
「あ……おはよう、ございま、す……」

 智さんのいつもと変わらない態度に、朝から抱かれたのは……夢、だったのかしら、とさえ思った。

「………寝惚けたまま襲ったのは、すまなかった」

 ぽつり、と。智さんが卵焼きを焼きながら、私に視線を合わせることなく呟いた。私は羞恥心でいっぱいになって頭をぶんぶんと振る。

「でもな……知香が煽ったんだからな?」

 ふっと、智さんが視線だけ私に向ける。細く切れ長の目から覗くその瞳が、気怠げに…それでも確実に。情欲を宿していた。

 その瞳に貫かれて、心臓が大きく跳ねる。顔を赤くしたままゆっくりと。視線を外し身体の最奥に灯った熱に気が付かないふりをして、お風呂に向かった。


 軽くシャワーで身体を清める。身体を拭きあげながら、洗濯機を回そうとして洗剤の在り処を探す。バスタオル等が積み重なっている衣装ケースの上に、きれいに洗剤が整然と並んでいた。 スキンケアついでに洗面台を軽く掃除して、ひょいっとリビングに顔だけ出した。

「智さん。柔軟剤の詰替え、どこにあります?」
「玄関先の物置にしている部屋に置いてる」
「その部屋、私入ってもいいですか?」
「ん、いいよ」

 智さんに許可を得て、カチャリ、と、物置にしている部屋に入る。そこは三段ラックで綺麗に整頓されていた。智さんの几帳面な性格が垣間見えて、くすりと笑いが漏れる。入って右手のラックに、洗剤類が、食器用洗剤・衣類用洗剤・漂白剤・柔軟剤と仕分けしておいてあった。

 柔軟剤を手に取って洗面台に戻り柔軟剤の詰替えをしていく。

「……新婚さん、みたい」

 出勤前だというのに、抱かれて、けれど何物にも変えられない幸福感に包まれて。朝の同じ時間を共有して……本当に、夫婦になったみたいだ。

 そう呟いただけで、途方もない幸せが込み上げてくる。にやける口元を必死に抑えながら、リビングに戻った。



 朝食を終え、洗濯物を干していく。寝室のクローゼットの前でスーツに着替えている智さんに声をかけた。

「智さ~ん? 今朝は煙草吸わないんですか?」

 何度か朝を共にして、気が付いたことがあった。朝食の後は必ずコーヒーを淹れ、ベランダで一服を付けてから着替える、ということに。

 食事の後に吸っている姿はよく見ているけれど、それ以外で吸っている姿は見ていない。本当に、毎日片手で足りる本数しか吸っていないのだと思う。

 だから、なのか。ベランダで紫煙をくゆらせている姿が、妙に色っぽくて。その様をこっそりとリビングから見ている時間も、好きだったりはする。

 智さんが煙草を吸い終えてから洗濯物をベランダに出そうと考えていたけれど、今日は一服つける気配がない。不思議に思って訊ねてみる。

「ん……今日は、いいよ」
「え? もしかして、やっと禁煙する気になったんですか?」

 智さんのその言葉に淡い希望を抱いて思わず目を輝かせた。色っぽい姿を見るのは好きだけれども、健康のために禁煙してくれたらいいと思っていた。

 けれど、返ってきた言葉は少し違っていた。ふっと、智さんが面白そうに口の端をあげていく。

「シたあとに吸ったから、いい」
「……えっ」

 シたあと。その言葉に、かっと顔が赤くなるのを自覚した。

「知香がうっとりした顔で煙草吸う俺見てるのが見れなかったのが……ちょっと残念だけどな?」

 切れ長の瞳が、少しだけ細められる。

(見ていたの、ばれて、いたのか……)

 意味ありげに微笑む智さんの表情。私は智さん相手に隠し事なんて出来ないのだ、と改めて実感し顔が火照るのを自覚した。


 ゆっくりと、洗濯物をベランダに出していく。カラリ、とベランダに続く窓を開けて、洗濯物を物干し竿にかけていくうちに、昨日よりいっそう冷えた風が吹きつけた。

「さ、むい~~」

 自らの身体を抱き締めながら部屋に戻り、身支度を整えていく。コーヒーを片手に智さんが私に視線を向けた。

「今日は俺は残業になると思う。夕食は……そうだな、知香に任せていいか?」

 智さんのその声に、メイクを終わらせた私は化粧ポーチを鞄に仕舞いながらこくんと首を縦に動かした。

「わかりました。私も昨日お通夜で放り出した仕事があるので、残業になるかもしれませんけれど……冷蔵庫の中、見てから出てもいいですか?」
「もちろん」

 冷蔵庫の中もとても整理整頓されていた。目についたのは、豚バラと白菜。調味料棚をさっと確認すると、出汁の素などもあった。

(あ。よかった)

 手間暇かけてカレーを作っていらしたから、朝食に出たお味噌汁の出汁ですら鰹節などでちゃんと取っているのかと思っていた。こういうところは省いても大丈夫なのか、という智さんの中の線引きを理解してほっとする。なにせローストビーフを手っ取り早く作れる料理と仰るのだから、こういうものは使わないタイプの人なのかと思っていた。

 先ほどベランダに出た時の冷え込みを思い出し、今晩の献立に思いを馳せた。

「………ん~、今日も冷えるって言ってますから、豚バラを追加で買ってきて、ミルフィーユ鍋とかどうでしょう」
「お、いいね、それ。土鍋とカセットコンロは玄関先の部屋にあるから、勝手に出していいからな」

 智さんがビジネスバッグを手に持ったのを確認して、私もパタパタとキッチンからリビングへ戻った。

「カセットガスだけもう無かった気がするから、買ってきてくれるか?」
「もちろんです」

 私も鞄を持ったことを確認したのか、智さんが「じゃ、出よう」とリビングの扉を開いて促してくれる。

 ふたりで玄関に向かい、ガチャリ、と玄関の鍵を閉め智さんと一緒にエレベーターに乗り込んだ。
   

 私と智さんふたりだけのエレベーターの空間の中に、静かな駆動音が響く。智さんが薄く笑って私を見つめていた。

「……緊張、してんな?」
「ぅ…」

 もしかしたら、下に降りたら、片桐さんがいるかもしれない。そう考えるだけで、よくわからない感情が湧き上がってくる。

「なんで私に執着されているのかが、わからなくて……怖い、です」

 ぽつり、と。心の中に浮かぶ不安を吐露する。すると、智さんが小さく吐息を吐き出しながら言葉を紡いでいく。

「知香が可愛いから」
「や、違うと思います…」
「じゃ、知香が美人だから」
「………もうっ、どうして朝からそういうこと言うんですか!」

 人が真剣に悩んでいるというのに、軽口ばかり言って。思わずぎゅっと、智さんを睨み上げる。ふぅわり、と。付き合う前の時のように、智さんが優しい笑みを浮かべた。

「思いつめた顔すんなって。大丈夫。俺が守るから」
「……っ」

 反則だ。守る、というその言葉だけで、全身が沸騰するほど熱くなる。

 恥ずかしさと、嬉しさが込み上げてきた。私は少しだけ背伸びして智さんの唇に軽く口付けた。智さんと視線が交差する。それだけで……不安だった心が、軽くなる。

 チン、と軽い音がして。1階に到着した。大きく息を吸って、一歩踏み出す。







 案の定。




 ―――エントランスに、片桐さんの姿があった。




 やぁ、と右手を上げながら、ヘーゼル色の瞳を私に向けて、嬉しそうな視線を合わせてくる。つぅ、と。隣の智さんに視線を合わせて、面白くなさそうに息を吐いた。

「な~んだ。同棲中だったの」

 そのヘーゼル色の瞳が、昨晩見たように、僅かな痛みを孕んでいて。

(あ……また、あの…変な感じの…目だ)

 ぼうっと考えていると、ぐいっと智さんが私の一歩前に出てくれる。さらりと智さんの黒髪が揺れた。

「………昨晩からお世話になっているようで。私の所有物ものになんのつもりでしょうか」

 にこりと。智さんが、微笑んだ。

 ……ぞっとするような、冷たい声色。怒っている、とわかる口調。斜め後ろから見えるその表情。

 それらが私に向けられているわけではないとわかっていても、背筋が凍る。

「ん~。初めまして、でいいのかな?」

 微笑みながらも凍てついた声を向けられた事に臆することなく、片桐さんが人懐っこそうにへにゃりと笑った。

「………正確には、初めまして、ではありませんが」

 そう、初めまして、ではないはずだ。だって、土曜日に。私たちは、会っているのだから。

「智くんだね。知香ちゃんと一緒に働くことになった片桐です」

 片桐さんが優雅な動作でお辞儀をしたのと同時に、智さんが軽く身動ぎをした。

 なぜ……片桐さんが、無関係のはずの智さんの名前を。知っているのだろう。顔を合わせた土曜日には、会話すらしていないはずなのに。

「……」

 押し黙った智さんに向かって、嘲るような表情を片桐さんが向けた。

「あぁ、君の名前? 昨日色々と調べさせてもらったからね」

 その表情のまま、飄々とした口調で片桐さんが続ける。

「し、ら…べる…?」

 私が呆然と呟くと同時に、片桐さんが心底愉しそうに笑った。
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