俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第二部

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 さわり、と、髪を撫でられている感覚があって、私は瞼を開けた。真っ白な朝の光が降り注ぐ中に、横たわったままの智さんの顔が逆光になっている。

「……おはよ?」
「ん、おはよ。すまん、起こしたか?」

 その申し訳なさそうな声に、私は首を振った。

「んーん。そろそろ、起きなきゃ。水野課長代理のとこ、行かなきゃだし」

 そう。今日は、水野課長代理のお宅で、通関士の座学講座なのだ。休みの日を割いてやってくださっている訳で、だからこそ、今年の10月にある試験に落ちる訳には行かない。

 ……最も、通関士試験の合格率は約10~15%だから、初めて受ける私は落ちる確率の方が高いのだけれど。それでも、総合職に転換し、それを踏まえて組織再編を行うと田邉部長が指揮を取っている以上は、合格出来るように努力しなければならない。

 肌に直接シーツが当たる感覚で昨日も智さんが満足するまで抱かれて気を失うように眠りについたのだ、と思い出し、顔を赤くしながらモゾモゾと布団の中をまさぐって下着を探し出す。すると、智さんが私の身体を引き寄せて、私の胸元に顔を埋めた。

「……さ、智さん?」

 その行動が、なんとも可愛らしいのだけど。正直、智さんのあまり見たことがない子供っぽい行動に戸惑いながら、声をかけた。

「………昨日、水野さんに送ってもらったんだろ? ……正直、妬いた」
「へ?」

 どうして水野課長代理にヤキモチを妬いているのか。意味がわからなくて目をぱちぱちと瞬かせた。

「……片桐に送られるよりマシ。でも、知香を護るのは俺だけであってほしいから。妻帯者であろうと、妬くもんは、妬く」
「……」

 盲点だった。智さんの気持ちを察せず、お迎えを断ってしまった。申し訳ない、という思いが溢れてくる。

 ……けれど。少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しかった。私の抱えている気持ちが、私だけじゃないって気がつけたから。

「私だって毎日妬いてるよ? ………池野さん超美人さんだから」
「は? なんで池野課長?」

 意味がわからない、というように、智さんが私の胸に埋めていた顔を上げた。

「だ、だって! あんな美人さんで、仕事も出来て、しかも独身! そんな人が、仕事中の智さんのそばにいるんだもん。妬かない方がおかしいと思う」

 ぷぅ、と、少しだけ頬を膨らませる。呆然としていたような智さんが、呆れたように笑い出した。

「有り得ねぇよ、俺が池野課長に、なんて。……あの人は、ずっと想ってる人がいる」

 智さんのダークブラウンの瞳が切なそうに細められて、痛みで揺れた。

「だから心配ない。あの人はその想い人しか見てねぇよ。……最も、もう届かない人らしいが」
「…………ふぅん」

 そういう事情を……なんで智さんが知っているのだろう。その問いが喉元まででかかった。そんな深い事情、プライベートで付き合いがないと知り得ないこと、だろう。

 ……池野さんと、深い付き合いがあった、ということだろうか。

 モヤモヤと、心の中に黒い翳りが生まれていく。まるで、お姫様のような美しさを湛えた絢子さんとお付き合いしていた智さん。

 ……40代とは思えない池野さんの美貌を思い浮かべ、智さんの隣に立つ池野さんを想像すると……まさにお似合いのカップルのようで。

(……ううん。だめ。こんな風に、自分を卑下するのはやめたんだってば)

 ふる、と軽く頭を振ると、智さんがまた優しく笑った。

「まぁ、マスター伝いに聞いた事だからな。池野課長本人には、内緒、な?」

 ふっと笑ったまま、智さんが私の唇に人差し指を当てる。

「ま……すたー?」



『お嬢ちゃん。さとっちゃんのこと、裏切らないでくれな』
『……俺の妹が、さとっちゃんと同じ状況に置かれたことがあってな。まぁ、妹は最後の男にフラれた翌日『私は兄さんと同じようにペガサスでいたいの』なんてケロッとしてたがな』

 マスターの琥珀色の瞳が、池野さんに被った。



「……あぁぁぁあ!?」

 どこかで、見たことのある瞳。そりゃぁ、そうだ。

「ん?」

 だって、琥珀色の瞳も、あの柔和な笑顔も。そっくり、なのだから。

「マスターって、池野さんのお兄さん……なの!?」

 誰かに似てるのに、その誰かが思い出せない、と思っていたけれど。

「……言わなかったか? 俺」

 きょとん、とする智さんを見おろしながらぎゅうと睨みつけた。

「聞いてない!」
「……そりゃすまんかった……」

 ふふ、と、智さんが子どもっぽく微笑んだ。私と視線が同じになるところまでずるずるとせり上がってくる。

「怒んなよ。……俺も、知香も。ヤキモチ妬いてたんだな? お互いに、職場の人に」

 そうして、ゆっくりと唇が合わさっていく。智さんの熱い舌が私の口内を蹂躙していく。

「んんっ……」

 私の舌を絡め取っていた唇を離し、すぅ、と、首筋を通って、デコルテにチリチリと痕が付けられていく。

「もおっ、昨日もっ、いっぱい付けたじゃないっ……」
「ん? どれだけ付けても、足んねぇんだって……知香は、俺だけの……」

 膨らみの際に舌を這わされ、ふたつの蕾の片方を口に含まれて、片方は指の腹で優しく転がされる。

「……ぁ、ぅんっ……」
「知香ってさぁ…チョロいよな?」

 くすくすと。心底面白そうに、智さんが笑った。

「っ、ちょろ……!?」

 チョロい、とはどういうことだ。こうして少し煽れば、流されて受け入れる、ということを揶揄われているのだろうか。それに気がついて羞恥心で顔が赤くなる。

「だっ、誰のせいだと思ってるのっ!?」 
「んー? 俺のせい?」

 智さんが愉しそうに笑いながら、すぅ、と、指を私の秘裂に這わせていく。昨日あれだけ抱かれて下着すら身につけていないソコは、シーツに垂れるほど湿っていて。

 私の反応を楽しむように、派手な水音をさせて、秘芽と秘裂の間を智さんの指が往復する。

「……やっ、だ、音、聞かせないでっ……」
「こんなになってるのに、やだ、じゃねぇよな?」

 つぷん、と、智さんの指が埋め込まれた。

「ひぁっ!!」

 くんっと背中が反って全身がびくりと跳ねた。ぴちゃぴちゃと淫らな音を立てながら、時折、指を抜き差しされ、ぐちゅぐちゅと攪拌されていく。

 智さんが左手を伸ばしてゴムを手に取ったのを、僅かに開けた視界の端で捉えた。

 その間にも、ゆっくりと指が2本になり、夥しいほどに湿ったソコを攪拌していく動きは止まらない。

「あ、あ、んんっ、ふぅっ」

 するり、と、智さんの指が抜けて。ソコに、躊躇いもなく圧倒的な質量の楔が埋め込まれた。

「ふ、ああっ!!!」

 昨晩の余韻が残るソコは、もう智さんの形を覚えている。一瞬、意識が飛びかかった。

「……っ、締め、つけん…な、って」

 私のナカに入ったまま智さんが苦しそうに眉を動かした。そのままそっと顔の輪郭を撫でられ、愛しそうに目を細められる。

「……っ、あ……」

 頬を撫でられただけなのにそれだけでも気持ちよくて。

「また締まった。感度良すぎ」

 ふっ、と、智さんがまたわらう。それを合図に、ゆるゆると律動が始まる。

「あぁ、あっ、おく、やぁっ、んんんん―――っ!!!」

 たった数度、最奥を貫かれた。ただ、それだけなはずなのに、いつの間にか視界が真っ白に染まって、喉の奥が痙攣する。ぎゅう、と、智さんの熱い楔の形が伝わって、涙が溢れる。

「っ、もともと、知香は感じやすい方だって思ってたけどな……く、っ、ここまで感度あがると、俺が、っ……持たねぇな……」

 智さんが腰を打ち付けながら、達したばかりの私の秘芽を親指で撫であげていく。

「あああっ!! ぃやあっ、あううっ、それっだめぇっ!」
「ダメ? ……気持ちいいんだろ?」

 智さんの低く甘い声が響いて、身体の奥から痺れていく。もう拒否させない、とでも言うように、激しく口付けられる。

「ん――っ、んっ……んんっんっ、んっ、」

 ゆっくりと秘芽を撫であげられ、入口の上の壁を擦られ、奥を突かれ、口付けられ。呼吸が出来ず、再び頭が真っ白になってくる。

 身体が強ばって、足が伸びて。智さんが深いため息をつきながら、唇を離した。

「うぁぁ、はぁっ、んん、も、やだっ、あああっ、」

 ハラハラと、涙が落ちていく。智さんが、私の両足首を自分の肩にかけた。そのまま最奥に当たるように角度を変えられて、思いっきり貫かれる。

「あぅっ、―――――っ!!」

「……っ、……」

 声にならない声で深い絶頂を迎える。喉の奥が痙攣して、視界が真っ白に染まった。

 智さんが2、3度腰を打ち付けて、楔が爆ぜた。












「……今日は、ここまでだな」

 水野課長代理の声が響いた。腕時計を見遣るとあっという間に15時を指していた。



 寝起きのまま抱かれた後、当然の如くへたりこんで歩けなくなった。このままじゃ遅刻してしまう、と、智さんに涙目で抗議をすると。

「……知香が可愛いからいけないのに」

 少しばかり不服そうに呟かれて、私は思わず目を剥いた。その流れで、俺が水野さんまで車で送ってやる、と言われ、水野課長代理の自宅まで送ってもらったのだった。

 ……あんな風に不服そうに言われたけれど、そもそも智さんが寝起きに手を出さなければよかった話であって、私は断じて悪くないと思うのだけれど。



「はい、ありがとうございました」

 朝のやり取りを思い出しつつ心の中で少しむくれて、目の前の水野課長代理に意識を向けた。テキストを閉じながらぺこりと頭を下げる。

「いや。先月は年明けで座学出来なかったから、今回進められてよかったぞ」

 さらりと水野課長代理の髪が揺れる。

「はい。来月は、小林くんも一緒に復習出来たらいいですね」
「そうだな」

 今日は小林くんが体調不良、とのことで欠席だった。スマホを取り出してメッセージアプリを立ち上げ、智さんに終わったよと連絡を入れる。智さんのお迎えが来るまで、水野課長代理にそっくりの息子さん…俊介しゅんすけくんと遊んでいると、水野課長代理から声をかけられた。

「……一瀬。お前の彼氏に少し話があるから、迎えに来たら俺を呼んでくれ」
「……え? ぇ?? ……は、い」

 水野課長代理が、智さんに何の用だろうか。というよりも付き合っていることは社内では口にしていないはずなのに、何故水野課長代理がご存知なのだろう。自分の上司からの思わぬ言葉にしどろもどろになりながら返答する。

(なにか、あったかな……この前のバサフィーレの輸入の件?)

 小林くんに三井商社分の輸入許可通知書I/Dの訂正をお願いした件だろうか。それならそれで、きっと会社のメールなどを使って連絡を取っているだろう。

 ぽぉん、と軽い音がして、スマホに智さんが到着したというメッセージが表示される。

(……なんの、話だろう…)

 跳ねる心臓を抑えながら荷物を持った。

「俊介くん、また今度ね?」

 どくんどくんと跳ねる鼓動を感じながら、やわらかく俊介くんに微笑み水野課長代理宅を後にした。







 私の後ろを歩く水野課長代理の姿を認めて、運転席から智さんが降りてきた。

「遅くなった」
「ううん、そんなことないよ?」

 そして、智さんが水野課長代理に向き直る。

「……初めまして、かな。邨上さん」
「そうですね、水野さん。お電話では何度か。このような形でご挨拶するとは思っていませんでしたから、名刺も何も持たずすみません」

 智さんは申し訳なさそうに眉を下げ、ぺこり、と頭を下げた。

「いや、いいんだ。俺もそうだからな。……池野さんからの依頼分。君も気にしてるだろうから、念の為な」

 水野課長代理が、傾きかけた日の光を反射する銀縁メガネをぐいっと、押し上げて、言葉を続けた。

「俺から片桐にも話しを聞いたが、あの場には、片桐しかいなかったそうだ」
「……そう、ですか」

 智さんがほっとしたように息をついた。

(片桐さん? あの場? ……なんの、ことだろう……?)

 さっぱり理解が及ばない。ふたりに視線を交互に向けながら、そっと会話の行方を見守った。

「口止めはしているよ。ヤツは元々イギリスにいたから、そういった話しは重々承知していると。だからあまり君の部下を責めないで欲しい」
「……わかりました。お手数お掛けいたしました」
「今後とも、三井商社とはよいお付き合いをしたいからな。そこのところ、よろしく頼みます」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 智さんが再び頭を下げた。それに会釈を返した水野課長代理が……初めて見るような優しげな顔で私に視線を合わせた。

「……じゃ、一瀬。明後日、また会社でな。きちんと復習しておけよ」

 その優しげな顔に少しだけ意外な気持ちになりながら謝意を述べる。

「はい……ありがとう、ございました」

 水野課長代理は、私が入社した時の教育係だったからか…私に対する態度はそれはそれは冷徹なもので。部下へ向ける期待と情ゆえの冷徹さとわかっているけれど、それは3年目となってもあまり変わらない事が多い。でも、なぜか……年明けから、少しだけ。ほんの少しだけ、私に対する態度が軟化してきた、ような気がする、のだ。

 さっきの会話も、水野課長代理のその表情も、意味がよく分からなかったけれど、ひとまず智さんに促されるまま智さんの車に乗り込んだ。

「……さっきの。この前、片桐が……藤宮に接触したろ? その時に、藤宮が、ウチの内部情報喋ってたんだ。それで、池野課長の昔からの知り合いっていう水野さんに口止めしてもらったっていう話」

 シートベルトをカチャリと締めながら、智さんが話してくれる。

「あ、なるほど」

 そういうことか。なんの事かよく分からなかったけれど、口止め、ということだったら、私は詳しく聞かなかった方が良かったのではないだろうか。

 そんなことを考えていたら、私の考えを読んだように智さんが苦笑した。

「……知香に、隠し事したくなくてな? お互い取引先だから、話せない部分は多いだろうけど。話せることはちゃんと話したいからな」

 私はその言葉に、智さんの優しさに、また心を射抜かれていく。

(……ほんと。智さんって、ずるい……)

 少しだけ傾いた日差しを浴びながら、私達は自宅への道を車で走り抜けて行った。
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