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本編・第二部
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パタリ、と、寝室の扉が閉まる。
「……わかってる、よな?」
後ろをむいたままの、智さんの言葉。初めて聞くような、低めの掠れた声が、私の感情を思い切り揺さぶってくる。かっと羞恥心が沸き起こり、視線を床に向けた。
ふわり、と、智さんのにおいがして、智さんが私を振り返ったことを認識する。角張った指がゆっくりと私の頬を撫でていく。
智さんの指に促されるまま顔を上げると、欲を孕んだ切れ長の瞳と視線が交差する。
「わ、かって、います」
緊張で、ぎゅ、と、自分の手を握り締める。
ゆっくりと。唇が降りてきた。軽く触れ合うだけのキスが何度も何度も繰り返される。小さなリップ音が延々と続く。甘く優しい口付けに、身体を震わせた。
そんな私の様子に智さんが少しだけ苦しそうに笑った。
「……俺だけを見て」
唇が離れて、それでもなおすぐ口付けられる距離で囁かれる。
「知香を抱いている、俺だけを、見て」
苦しそうな、切なそうな、そんな瞳をしたまま。じっと私を見据えてくる。熱に浮かされたような感覚に酔いしれた。
「……は、い……」
震える声で応えた。するり、と、智さんの手が私の寝間着の前ボタンにかかる。前身頃を手早く開かれて、パサリ、と、上着が床に落ちた。
「ね、知香。……ここからは、自分で脱いで」
「っ、」
あまりに衝撃的な要求に、言葉を失った。嘘だと言って欲しくて、智さんの瞳を見つめる。
視界を占領するのは確かな欲を宿した瞳。強い光とともに、私を貫いていた。許してくれる雰囲気など、どこにもない。
「ねぇ。知香……脱いで」
「……ぅ…」
羞恥心を堪えながら、寝間着のズボンを下ろす。パサリ、と音がして、ゆっくりと足を抜いた。智さんの前で、ナイトブラと、ショーツだけの姿。恥ずかしさで両腕を抱いた。
「知香」
それでもなお、智さんは私を見つめるだけで。胸の奥がヒリヒリする。鼻がツンとしだして、羞恥心から涙が滲んだことを自覚した。
「ほら」
促されるように言葉を紡がれて、ぎゅっと目を瞑りながらナイトブラに手をかけ、ショーツを脱いだ。
つぅ、と。蜜が太ももを伝って落ちていく。その感覚に、耐えられなくなり声を上げた。
「さ、としさん……」
両膝を擦り合わせる姿に、智さんがわらう。
「ねぇ、知香さん。期待、してくれているの?」
声のトーンが急に変わって、ビクリと身体を震わせた。また、とろり、と、蜜が落ちていく。
「ふっ」
低く甘い声で笑われて、私はもう限界で。
「さ、としさぁん……」
「そんな物欲しそうな声で強請られたら、本気で止まれなくなんだけど。……いーの?」
涙で視界が揺れている。それでもなお、智さんの瞳を見つめ返す。
「……抱いて、ください」
その言葉を合図に、ふわり、と、ベッドに押し倒される。
蕾を咥えられ、甘く吸われて、寄せては返すような快感の波に溺れる。
智さんの指の腹が秘芽に優しく触れて、ぞくぞくするような快感が背筋をせりあがってくる。
ちゅぷっと音を立てて、蜜口に鋒が宛がわれた。
「あぅっ……!」
しとどに濡れそぼったナカを鋼のような楔が押し分けていく。最奥まで到達した先端から生み出される甘く鈍い感覚に小さく喘ぐと、私を組み敷く智さんも熱を孕んだ重い吐息を吐き出した。
「さとし、さん……すき」
熱に浮かされたように呟いて、両腕を智さんの首に回す。はぁ、と大きなため息をつかれて、ぎゅう、と、抱きしめられる。
「これ以上俺を絡めとってどーするつもり? ……まぁ、俺も絶対に逃がさねぇけど」
耳元でそっと囁かれる。
逃がさない。その言葉で、ヘーゼル色の瞳が私を貫いた瞬間のことが思い出された。ふるり、と身体が震える。
「……逃さ、ないで。私を絶対に。お願い……」
私の言葉に、どくり、と。ナカの楔がさらに質量をあげた。その感覚に息を飲む。
「っ、だからどーしてそう……」
呆れたような声を上げながら、智さんが顔を上げる。いつもとは違う余裕の無さそうな顔つきに大きく心臓が跳ねた。
「先週ぶりだから……ゆっくりしてやりたいけど。先に謝っとく。ごめん」
ゆるゆると律動が始まって、ギリギリまで引き抜かれ最奥まで貫かれる。それからは、ゆっくりと、優しく。何度も何度も突き上げられた。
「あっ、ああっ、んっ、あぅっ、あっっ」
圧倒的な質量だというのに痛みはなく、苦しさの中に大きな快感が襲ってくる。
溺れる。それだけが頭にあって、必死にシーツを握りしめた。
智さんの、動きが変わる。今度は抜き差しせず、入口の壁を擦るように、硬い先端で何度も何度も擦られていく。
「ひゃぁぁ、やだっ、まって、いやっ、」
「っ、ここ、ほんとに弱ぇな……」
「や、ほんと、ぁあっ、だめっ」
ビクリ、と身体が震えて、またふわりとした快感が走った。達して痙攣する身体を智さんが抱きとめて、智さんの動きがまた最奥を貫く律動に変わった。どんどんとストロークが早くなる。
「ああぅ、はぁっ、ああ、あああっ」
もうなにも考えられない。また、ふわふわした快感が襲ってくる。喉の奥が痙攣を始めた。
智さんが、私の両足首を自分の肩にかけた。
早まった律動はそのままに、するり、と秘芽をさすって、私はまた大きな波に攫われて。
「ああああぁぁぁっ」
「……っ、くっ……」
私の身体がしなって、智さんが、数度腰を打ち付けて。どくり、と、ナカで何かが弾けたのを感じとって、大きく息を吐いた。
ぎゅう、と、抱きしめられて。互いの早まった鼓動が共鳴するのを感じた。私は幸福感で一杯になって、涙が溢れて。言葉が出てこなかった。
するり、と、智さんが私のナカから出ていって、喪失感にため息がもれた。
「……さて、知香さん」
智さんの角張った指が、パチン、と。白濁の溜まったゴムを手早く結んだ。
「自分から言ってくれるのを待ってましたけど、とうとう言ってくれませんでしたね?」
口調と声のトーンの変化に、連続した絶頂を迎えてぼんやりしていた思考がゆっくり覚醒していく。にっこりと笑った智さんの顔。
「僕は、怒っているんですよ? 知香さん」
「……ぇ、」
ぞわり、と、底なしの恐怖を感じて肌が粟立った。
怒られるようなことをした心当たりがない。今日1日の行動を、霞がかった思考の中で必死に反芻する。
「……どういう風に、口説かれたんです?」
「あっ………」
パチン、と、パズルのピースが嵌る感覚があった。マスターのお店での出来事に違いない。けれども……どうして私があの人に口説かれた、と。あの場にいなかった智さんが知っているのだろうか。
「僕に隠し事なんて、できないんですよ? ……その身体にわからせてあげますね?」
そう言って、ダークブラウンの瞳がゆっくりと細められた。
---
「ああ、はぁっ、ああっ」
ざらざらした舌の感触が気持ち良すぎて、狂ってしまいそうなほどだ。ぼろぼろと涙が溢れる。ゆっくりと最奥を突かれながら、首筋を舌で嬲られ、指の腹で蕾を転がされて。
「やだっ、もう、ほんとに、おか、しいのぉっ」
何度絶頂を迎えても、智さんの動きは止まらない。圧迫感のある楔が、また私の弱い入口の壁を擦っている。
「やぁっ、また、ぅんっ、あっ……―――ッ!!!」
ばちり、と、視界が真っ白に染まる。ナカが痙攣して、その痙攣がおさまらないまま、智さんが身体の角度を変えて、熱い楔が再び最奥まで届く。
「も、やぁ、わ、たしっ、へんっ……」
いやいやと頭を振りながら、再び襲ってくる快感の波に、抵抗虚しく呆気なく攫われていく。全身が痙攣して、その度にナカの智さんを締め付ける。それでも智さんは涼しい顔をして、私の身体を翻弄する。
「……知香。どうして人間は寝たきりになるんだと思う?」
律動をやめずに、智さんがゆっくり呟いた。
「ぁ、ああっ」
「筋力が衰えるから。手足の機能が衰えるから。それは確かなことなんだが、何故手足の機能が衰えるのか、知ってる?」
私の返事を聞く気など無いように、ただただひたすらに、最奥を揺らされる。
「手足の機能を衰えさせ、その分のエネルギーを心臓と脳を動かすことに使う。要は、省エネ。……人間の身体って、実にシステマチックに創ってあるんだ」
「んんんっ、ぁああっ、おくっ、だめっ、またっ……ぅぅぅぅうんっ!!!」
再び、喉の奥が、下腹部が痙攣して、汗と涙が止まらない。ギシギシと軋むスプリングの音が私の思考をさらに乱していく。
「女性のオーガズムも実にシステマチックなんだ。外でイくのは、男と同じで刺激を与えればいい。脊髄を通って、脳に直接刺激が伝わって、オーガズムを迎える」
その言葉を皮切りに律動が緩み、ゆっくりと秘芽を擦りあげられる。
「ひぁぁっ、やだやだやだ、まって、あぁあっ!!」
何度も達した身体には強すぎる刺激に、手がガクガクと震えた。
「ナカでイくのは、迷走神経。聞いたことない? 下半身不随になった人に微弱な電流を流したら少しだけ脚が動いた、という話」
ゆっくりと、智さんの指が秘芽から離れて、だらしなく開き切った私の唇をなぞる。
「それと同じ理屈。一度でもナカでイくことが出来れば…特に、奥。身体が迷走神経でのオーガズムを覚えてしまえば、そのあとは迷走神経が勝手に作動して、迷走神経に近いところを触られるだけでイくことが出来る」
そうやって、智さんが私の鼠径部に指を這わせ、ある一点を押し込んだ瞬間。
「―――っ!!」
またばちりと視界が弾けて、涙が何筋もこめかみを伝っていく。ナカが痙攣して、智さんの形を私に鮮明に記憶させる。
「っ、あっぶね…っく、やっべーくらい、うねってんな…」
智さんが苦しそうに眉を動かして、さらり、と、その黒髪が揺れた。
「……そう、今みたいにリンパを押されるだけでも、イけるようになる。全身が性感帯になる」
再び律動が始まって、ぐちゅり、ぐちゅり、とナカを攪拌されていく。
「外でイくのは、男と同じ理屈故に限度がある。中でイくのは、所謂神経への反射反応。人間の肉体構造上当たり前の反応だから、際限がない」
最奥を突かれ、ギリギリまで引き抜かれ、ゆっくりと突き上げられる。喉の奥が痙攣して、声すら上げられなくなる。
「だからね? 知香。今、知香が感じている途方もない快感は、俺が知香に意図して与えてるものなんだ」
脚がぴんと伸びきって、智さんの腕に爪を立てる。
「俺が、知香をそういう風にしてる。だから、変じゃない。おかしくもない。俺の手で知香をイきっぱなしにさせてる」
不意に、ずん、と、一層強く貫かれて。
「……ぁ、―――!!!」
もう、声が出ない。ふたたび迎えた絶頂で視界が白く染まったのか、ただただ白い天井を見ているだけなのか、判別がつかない。
「だから、もっと俺で乱れて。もっともっと、感じて。はしたなく喘ぐ姿、俺だけに見せて」
そう言って、智さんがストロークを早めた。ばちゅん、と、繰り返される淫らな水音が私の耳を、脳を犯していく。
「っ……知香っ」
私の名前を呼んで―――楔が爆ぜた。
智さんが私にのしかかったままらしばらく呼吸を整えたあと、ゆっくりと熱い楔を抜かれて、私は混濁した意識の中で智さんの顔を見上げた。
「そう。知香は、変じゃない。大丈夫」
智さんの額にじっとり滲んだ汗が、寝室の照明に煌めく。
「だから、あと1回、付き合って、な?」
パチン、と。ゴムが結ばれる音を、遠くで聞いた。
「……わかってる、よな?」
後ろをむいたままの、智さんの言葉。初めて聞くような、低めの掠れた声が、私の感情を思い切り揺さぶってくる。かっと羞恥心が沸き起こり、視線を床に向けた。
ふわり、と、智さんのにおいがして、智さんが私を振り返ったことを認識する。角張った指がゆっくりと私の頬を撫でていく。
智さんの指に促されるまま顔を上げると、欲を孕んだ切れ長の瞳と視線が交差する。
「わ、かって、います」
緊張で、ぎゅ、と、自分の手を握り締める。
ゆっくりと。唇が降りてきた。軽く触れ合うだけのキスが何度も何度も繰り返される。小さなリップ音が延々と続く。甘く優しい口付けに、身体を震わせた。
そんな私の様子に智さんが少しだけ苦しそうに笑った。
「……俺だけを見て」
唇が離れて、それでもなおすぐ口付けられる距離で囁かれる。
「知香を抱いている、俺だけを、見て」
苦しそうな、切なそうな、そんな瞳をしたまま。じっと私を見据えてくる。熱に浮かされたような感覚に酔いしれた。
「……は、い……」
震える声で応えた。するり、と、智さんの手が私の寝間着の前ボタンにかかる。前身頃を手早く開かれて、パサリ、と、上着が床に落ちた。
「ね、知香。……ここからは、自分で脱いで」
「っ、」
あまりに衝撃的な要求に、言葉を失った。嘘だと言って欲しくて、智さんの瞳を見つめる。
視界を占領するのは確かな欲を宿した瞳。強い光とともに、私を貫いていた。許してくれる雰囲気など、どこにもない。
「ねぇ。知香……脱いで」
「……ぅ…」
羞恥心を堪えながら、寝間着のズボンを下ろす。パサリ、と音がして、ゆっくりと足を抜いた。智さんの前で、ナイトブラと、ショーツだけの姿。恥ずかしさで両腕を抱いた。
「知香」
それでもなお、智さんは私を見つめるだけで。胸の奥がヒリヒリする。鼻がツンとしだして、羞恥心から涙が滲んだことを自覚した。
「ほら」
促されるように言葉を紡がれて、ぎゅっと目を瞑りながらナイトブラに手をかけ、ショーツを脱いだ。
つぅ、と。蜜が太ももを伝って落ちていく。その感覚に、耐えられなくなり声を上げた。
「さ、としさん……」
両膝を擦り合わせる姿に、智さんがわらう。
「ねぇ、知香さん。期待、してくれているの?」
声のトーンが急に変わって、ビクリと身体を震わせた。また、とろり、と、蜜が落ちていく。
「ふっ」
低く甘い声で笑われて、私はもう限界で。
「さ、としさぁん……」
「そんな物欲しそうな声で強請られたら、本気で止まれなくなんだけど。……いーの?」
涙で視界が揺れている。それでもなお、智さんの瞳を見つめ返す。
「……抱いて、ください」
その言葉を合図に、ふわり、と、ベッドに押し倒される。
蕾を咥えられ、甘く吸われて、寄せては返すような快感の波に溺れる。
智さんの指の腹が秘芽に優しく触れて、ぞくぞくするような快感が背筋をせりあがってくる。
ちゅぷっと音を立てて、蜜口に鋒が宛がわれた。
「あぅっ……!」
しとどに濡れそぼったナカを鋼のような楔が押し分けていく。最奥まで到達した先端から生み出される甘く鈍い感覚に小さく喘ぐと、私を組み敷く智さんも熱を孕んだ重い吐息を吐き出した。
「さとし、さん……すき」
熱に浮かされたように呟いて、両腕を智さんの首に回す。はぁ、と大きなため息をつかれて、ぎゅう、と、抱きしめられる。
「これ以上俺を絡めとってどーするつもり? ……まぁ、俺も絶対に逃がさねぇけど」
耳元でそっと囁かれる。
逃がさない。その言葉で、ヘーゼル色の瞳が私を貫いた瞬間のことが思い出された。ふるり、と身体が震える。
「……逃さ、ないで。私を絶対に。お願い……」
私の言葉に、どくり、と。ナカの楔がさらに質量をあげた。その感覚に息を飲む。
「っ、だからどーしてそう……」
呆れたような声を上げながら、智さんが顔を上げる。いつもとは違う余裕の無さそうな顔つきに大きく心臓が跳ねた。
「先週ぶりだから……ゆっくりしてやりたいけど。先に謝っとく。ごめん」
ゆるゆると律動が始まって、ギリギリまで引き抜かれ最奥まで貫かれる。それからは、ゆっくりと、優しく。何度も何度も突き上げられた。
「あっ、ああっ、んっ、あぅっ、あっっ」
圧倒的な質量だというのに痛みはなく、苦しさの中に大きな快感が襲ってくる。
溺れる。それだけが頭にあって、必死にシーツを握りしめた。
智さんの、動きが変わる。今度は抜き差しせず、入口の壁を擦るように、硬い先端で何度も何度も擦られていく。
「ひゃぁぁ、やだっ、まって、いやっ、」
「っ、ここ、ほんとに弱ぇな……」
「や、ほんと、ぁあっ、だめっ」
ビクリ、と身体が震えて、またふわりとした快感が走った。達して痙攣する身体を智さんが抱きとめて、智さんの動きがまた最奥を貫く律動に変わった。どんどんとストロークが早くなる。
「ああぅ、はぁっ、ああ、あああっ」
もうなにも考えられない。また、ふわふわした快感が襲ってくる。喉の奥が痙攣を始めた。
智さんが、私の両足首を自分の肩にかけた。
早まった律動はそのままに、するり、と秘芽をさすって、私はまた大きな波に攫われて。
「ああああぁぁぁっ」
「……っ、くっ……」
私の身体がしなって、智さんが、数度腰を打ち付けて。どくり、と、ナカで何かが弾けたのを感じとって、大きく息を吐いた。
ぎゅう、と、抱きしめられて。互いの早まった鼓動が共鳴するのを感じた。私は幸福感で一杯になって、涙が溢れて。言葉が出てこなかった。
するり、と、智さんが私のナカから出ていって、喪失感にため息がもれた。
「……さて、知香さん」
智さんの角張った指が、パチン、と。白濁の溜まったゴムを手早く結んだ。
「自分から言ってくれるのを待ってましたけど、とうとう言ってくれませんでしたね?」
口調と声のトーンの変化に、連続した絶頂を迎えてぼんやりしていた思考がゆっくり覚醒していく。にっこりと笑った智さんの顔。
「僕は、怒っているんですよ? 知香さん」
「……ぇ、」
ぞわり、と、底なしの恐怖を感じて肌が粟立った。
怒られるようなことをした心当たりがない。今日1日の行動を、霞がかった思考の中で必死に反芻する。
「……どういう風に、口説かれたんです?」
「あっ………」
パチン、と、パズルのピースが嵌る感覚があった。マスターのお店での出来事に違いない。けれども……どうして私があの人に口説かれた、と。あの場にいなかった智さんが知っているのだろうか。
「僕に隠し事なんて、できないんですよ? ……その身体にわからせてあげますね?」
そう言って、ダークブラウンの瞳がゆっくりと細められた。
---
「ああ、はぁっ、ああっ」
ざらざらした舌の感触が気持ち良すぎて、狂ってしまいそうなほどだ。ぼろぼろと涙が溢れる。ゆっくりと最奥を突かれながら、首筋を舌で嬲られ、指の腹で蕾を転がされて。
「やだっ、もう、ほんとに、おか、しいのぉっ」
何度絶頂を迎えても、智さんの動きは止まらない。圧迫感のある楔が、また私の弱い入口の壁を擦っている。
「やぁっ、また、ぅんっ、あっ……―――ッ!!!」
ばちり、と、視界が真っ白に染まる。ナカが痙攣して、その痙攣がおさまらないまま、智さんが身体の角度を変えて、熱い楔が再び最奥まで届く。
「も、やぁ、わ、たしっ、へんっ……」
いやいやと頭を振りながら、再び襲ってくる快感の波に、抵抗虚しく呆気なく攫われていく。全身が痙攣して、その度にナカの智さんを締め付ける。それでも智さんは涼しい顔をして、私の身体を翻弄する。
「……知香。どうして人間は寝たきりになるんだと思う?」
律動をやめずに、智さんがゆっくり呟いた。
「ぁ、ああっ」
「筋力が衰えるから。手足の機能が衰えるから。それは確かなことなんだが、何故手足の機能が衰えるのか、知ってる?」
私の返事を聞く気など無いように、ただただひたすらに、最奥を揺らされる。
「手足の機能を衰えさせ、その分のエネルギーを心臓と脳を動かすことに使う。要は、省エネ。……人間の身体って、実にシステマチックに創ってあるんだ」
「んんんっ、ぁああっ、おくっ、だめっ、またっ……ぅぅぅぅうんっ!!!」
再び、喉の奥が、下腹部が痙攣して、汗と涙が止まらない。ギシギシと軋むスプリングの音が私の思考をさらに乱していく。
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その言葉を皮切りに律動が緩み、ゆっくりと秘芽を擦りあげられる。
「ひぁぁっ、やだやだやだ、まって、あぁあっ!!」
何度も達した身体には強すぎる刺激に、手がガクガクと震えた。
「ナカでイくのは、迷走神経。聞いたことない? 下半身不随になった人に微弱な電流を流したら少しだけ脚が動いた、という話」
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「―――っ!!」
またばちりと視界が弾けて、涙が何筋もこめかみを伝っていく。ナカが痙攣して、智さんの形を私に鮮明に記憶させる。
「っ、あっぶね…っく、やっべーくらい、うねってんな…」
智さんが苦しそうに眉を動かして、さらり、と、その黒髪が揺れた。
「……そう、今みたいにリンパを押されるだけでも、イけるようになる。全身が性感帯になる」
再び律動が始まって、ぐちゅり、ぐちゅり、とナカを攪拌されていく。
「外でイくのは、男と同じ理屈故に限度がある。中でイくのは、所謂神経への反射反応。人間の肉体構造上当たり前の反応だから、際限がない」
最奥を突かれ、ギリギリまで引き抜かれ、ゆっくりと突き上げられる。喉の奥が痙攣して、声すら上げられなくなる。
「だからね? 知香。今、知香が感じている途方もない快感は、俺が知香に意図して与えてるものなんだ」
脚がぴんと伸びきって、智さんの腕に爪を立てる。
「俺が、知香をそういう風にしてる。だから、変じゃない。おかしくもない。俺の手で知香をイきっぱなしにさせてる」
不意に、ずん、と、一層強く貫かれて。
「……ぁ、―――!!!」
もう、声が出ない。ふたたび迎えた絶頂で視界が白く染まったのか、ただただ白い天井を見ているだけなのか、判別がつかない。
「だから、もっと俺で乱れて。もっともっと、感じて。はしたなく喘ぐ姿、俺だけに見せて」
そう言って、智さんがストロークを早めた。ばちゅん、と、繰り返される淫らな水音が私の耳を、脳を犯していく。
「っ……知香っ」
私の名前を呼んで―――楔が爆ぜた。
智さんが私にのしかかったままらしばらく呼吸を整えたあと、ゆっくりと熱い楔を抜かれて、私は混濁した意識の中で智さんの顔を見上げた。
「そう。知香は、変じゃない。大丈夫」
智さんの額にじっとり滲んだ汗が、寝室の照明に煌めく。
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ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
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