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おちた椿。 下
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「これっ……瑞貴ッ、や、そこばっかり、やだっ……へんなのっ、なんかっ、へん、おかしく、なる、からぁっ!」
「どんなあやめでも愛してる。だからおかしくなっていいよ。私でダメになってよ、あやめ」
甘い嬌声を上げるあやめを見下ろし、切なげに瞳を細めた瑞貴は指を増やして動きを大きくさせた。指を増やされても痛みは感じない。時間をかけて慣らそうとしているのか、ひどく優しく続けられる愛撫にあやめの身体の中に熱が飽満していく。膨らんだ何かの感覚に、本能的に快楽を拾ったあやめの腰がゆらゆらと揺れ動いた。
「だめ、だめっ……っ、き、ちゃう、なんか、やだっ……」
「だめじゃないよ。大丈夫」
瑞貴がふたたびあやめの唇にちいさく口づけを落とす。その瞬間、あやめの中で大きく膨らんだ感覚が勢いよく弾けた。ちかちかと視界が明滅する。全身を包む浮遊感とともに、あやめの全身から汗がぶわりと吹き出した。
唇を解放し、くたりと弛緩するあやめの頬を慈しむように撫でた瑞貴は、こつんと額を合わせる。あやめは涙を浮かべ、焦点が合わないままに力の入らない腕を必死に動かして頬に触れている瑞貴の手の甲を自分の手で包んだ。
「キツかったら……言ってね。ごめん」
あやめは夢心地のままにそっと頷いた。瑞貴はあやめの返答を確認し、ふたたびあやめに口づけを落とす。啄むような心地よい口づけの感覚の奥で、軽い衣擦れ音があやめの耳朶を打った。寄せては返す波のような、それでもどことなく甘やかな感覚に浸っていると、不意に右足が瑞貴の手に掴みあげられた。均衡の取れた胸筋が着流しの合わせをはだけさせた先に鮮明に映る。濃艶の極みともいえる瑞貴の姿は、あやめの心臓を強く震わせる。刹那、視界の隅に自分の白い足袋が映り込んだあやめは息を飲んだ。
「ん゛、ぁああっ!」
「っ……あ、やめ」
あやめの右足を肩にかけた瑞貴が、長身の躯体を割り込ませた。途方もない質量の熱い何かが肉襞を暴いていく未知の感覚。股から身体ごと割けそうなほどの痛みにあやめの眦から涙がボロボロと生まれては落ちていく。
「きっつ……ごめんね、痛いよね。畳のうえだから痛みを逃げさせられないんだよね。ベッドだったら違ったかもしれないね……着物と襦袢しか敷いてあげられなくてごめんね、あやめ」
「ん、ん゛んんっ……」
畳に広がり乱された襦袢がシーツ代わりだった。あやめはそれらを力の限り握り締めて襲い来る痛みと強い圧迫感に耐える。その手に瑞貴が自分の手を重ねた。ただただ謝り続ける瑞貴だが、あやめに自らの楔を打ち込むことを止めるつもりは一切ないらしい。
瑞貴は蜜窟の一番深い場所まで辿り着くと、あやめの目尻から流れ落ちる涙をそっと拭った。指先から伝わる瑞貴のやさしさにあやめは言いようのない感情に包まれ、ふたたび涙を落とす。
「みず、き……すき。だいすき、……だから。にげたりしない、から。ずっと、私のそばに……いて」
「あ、やめ」
わけもわからずにこうして勢いで身体を重ねた。あやめは瑞貴が繰り返す謝罪を、それに対しても向けているように思ったのだ。あやめの意に反して行為を強いたと感じている彼の苦しさや葛藤を溶かしてあげたい、ただその一心で言葉を紡いだ。
破瓜の痛みを堪え、あやめは込み上げてくる幸福感を噛み締めるようににこりと笑みを浮かべる。そして、そっと瑞貴の頬に手のひらを当てた。数分前に彼が自分にしてくれたように。
「私は、みずきの……だから。だから、みずきがして欲しいこと……ぜんぶ全部、叶えてあげたい、から。後悔とか……して、ないから。あやまらない、で」
生娘でセックスの知識が浅いあやめでも、引き出された後にまた押し込まれるということだけは知識として知っていた。そうしなければ、瑞貴が高みに昇れない、ということも。自分のことは気にしなくていいから、とあやめは必死に訴える。
瑞貴は驚いたように目を瞠いた。その表情を眺め、あやめはふたたびあたたかい何かに包まれる感覚に身体を委ねた。覆いかぶさるような温もりと重みがあやめの身体にかかったかと思うと、瑞貴はのっそりと腰を引いた。
「あやめ……本当に、愛して、る」
「あ゛、っ、んっ!!」
はじまった律動は本当にゆるやかで、あやめを労るような動きだった。窄まりから溢れ出ていく蜜の音が淫らに響き、瑞貴の浅い呼吸とあやめの痛みを堪えるような吐息が交錯する。
「はぁっ、あっあっ、……ん、んっ」
痛みに慣れてしまったせいでもあるのか、それとも瑞貴が執拗に解していたおかげか。次第にあやめは鈍痛の中でのろのろと陶酔を拾うようになった。緩慢な動きに合わせ、ぐちゅりという水音にあやめの甘い啼き声と衣擦れの音が混ざり合う。瑞貴の肉槍の先端によって、確実に悦い場所を擦られていく。もう何も考えられない。
「う、あっ、あ、やっ、それっ、だ、だめぇ……っ!」
「あや、めっ……」
蕩けた蜜道を余すことなく擦り上げていく太い楔の感覚。最奥に届く張り出した肉傘がコツンコツンとリズムを刻む。まどろっこしいほどに緩慢だった律動が次第に激しくなり、一突きがズンと重い衝撃へと変わっていく。
「はぁっ、もう、もぉむり、あっ、はぁっ」
あやめはわけがわからず泣きじゃくった。じわじわと押し寄せてくるさざ波に脳が、身体が犯される。自分の身体だというのに、指先だってひとつも自分の思うように動かせない。その感覚に恐怖を感じ身を捩ろうとすると、瑞貴の熱い手があやめの両腕を掴み、身動きが一切取れないように畳に縫いつけた。
「逃げない、って……あやめが言った、でしょ」
「あっ、そこっ、や、だめ、なんかっ、おかしいのおっ」
「う、んっ……もっともっと、おかしくなって。私が隣にいなきゃ生きられなくなってよ」
瑞貴は舌なめずりでもしそうな勢いで嫣然と微笑んだ。そして腰の動きを一層大きくさせ、叩きつけるような直線的な律動へと変えていく。
「んあっ、あっ、ふ、ううっンっ!」
「っ……締め、ないで。でも、ここが……あやめはいいん、だよね?」
瑞貴は甘く囀り続けるあやめに確認するように問いを落とすが、圧倒的な快楽が積み重ねられたあやめには答えられるはずもなかった。瑞貴があやめの耳元で何度も名前を呼ぶ。愛おしい人が自分を呼ぶ声色は途方もなく甘美で、名前を呼ばれるたびにあやめの脳天からつま先へ甘い痺れが走っていく。
「あやめ……騙して、ごめんね。でも、ずっと大切にするって誓うから」
「ん、はぁっ、あっ、んああっ、ゃ、だ、ます…? っ、あぁっ」
「ずっとずっと……っ、大切にする。何年、いや、何十年……私が我慢してきたと思ってる?」
「えっ、んぁ、だめ、はぁっ、あっ、」
何度も何度も最奥を穿たれ、あやめは下腹を芯にして込み上げてくる切迫感で身体がどうにかなってしまいそうだった。身体が宙に浮いているような、それなのに下へ下へと沈んでいくような。ズン、と大きく貫かれた瞬間、あやめは一層甲高い声を上げ、反射的に喉を仰け反らせた。
「っ……ずっと、あやめのそばにいられる方法をっ……探しながら、私は生きてきたんだ」
「あ、んあっ、あっ、そこ、だめ、はぁっ」
「髪型も、話し方も……化粧品のこと、だってっ……別にっ、素じゃない、とまでは……っ、言わないけれど……く、」
「んぁっ、あ、ぅ、み、ずきっ……? は、ぁぁああっ」
瑞貴が紡ぐ言葉をしっかり受け取りたいのに、一層激しくなる律動にあやめの思考が鮮明になっては乱れていく。切羽詰まったような表情の瑞貴が腰を打ち付けるたびに高く上げられた自分の足袋が揺れ動く。あられもなく恥ずかしい格好で快楽に咽び泣く自分の表情を瑞貴の視線から隠したいのに、腕を縫いつけられているからそれも出来ない。
「あやめ、は……同窓会の案内とか、来ないの。不思議じゃ、っ、なか、った?」
「えっ? え、あああっ、んんっ、あっ、ああっ、あっ」
「高校に入った、ころっ……あやめに付きまとおうとしてたアイツが、どうして茶道部の……年下の私を見る度にっ……怯えていたのか。不思議じゃ、ない?」
「あっあっ、ああっ、そこぉ、ふあっ、だめっ、やだぁっ」
「大学のっ……サークル、仲間の……『男』たちが、卒業してからっ……あやめに、連絡、しないのっ……どう、してなん……だろう、ね……」
肉と肉がぶつかる淫猥な音と快楽に溺れた思考回路の中で、あやめは確かにと思い至る。大学の同窓会はまだ案内が来なくて当たり前だが、高校や中学の同窓会は案内があってもおかしくない時間が経過しているはずだ。武道を嗜んでいたわけでもない瑞貴が、どうやって剣道部の人間を退けられたのか。茶会サークルには男子メンバーも複数名いたけれど、あやめが卒業後に連絡を取るのは女子メンバーだけだ。確かに瑞貴が言うように何かが変だ。そう思うのに、思考は甘美なそれで焼き切れて上滑りしていく。
「っ、は……あの大学もっ……父を説得するのに、どれだけ時間がかかった、かっ……あやめは、知らない……でしょうっ……」
「ああっ、も、だめっ、ああ、っく、るしっ……」
あやめの下腹にたまった熱い何かがぶわりと膨む。弾けそうなのに届かない、その感覚がどうにももどかしくて、すごく苦しくて。あやめは無意識に腰を瑞貴へ押し付ける。
あぁ、そうだ。白木院家が寄付をしている有名私立大学が、隣の市にあったはず。なのにどうして、瑞貴はあやめと同じ大学に進学したのだろう。
「あやめ。私の……私だけの、あやめっ……」
瑞貴がそう口にした瞬間。ずん、っと、これまでよりも深く突き上げられた。
「やあっ、だめっ、っ、――――っ!!!」
ぎゅう、と目を瞑ったあやめの瞼の裏が白く染まる。脳を焼くほどの強烈な感覚に戸惑いと怖れを感じながらも、甘く強い感覚に飲み込まれていく。
瑞貴自身が埋め込まれた胎内が脈打つように痙攣しているのをあやめは感じ取った。それに呼応するかのように、くんっと背中が反り返る。
「……っ、あやめっ……!」
瑞貴が腰を強く叩き付けた瞬間。どくん、と、熱い楔が薄膜越しに弾けた。
❖❖❖
きれいだ、と。きれいだと、瑞貴は幼いながらに思った。
親同士も顔見知りで、互いに子どもを預け合っていた。あやめと晴臣が白木院家に預けられることもあったし、逆に瑞貴が梅津家に預けられることも往々にしてあった。
その日のことは今でも鮮明に覚えている。いつものようにあやめと晴臣が白木院家に遊びに来た。本邸はいつも門下生が稽古に来ていたから、家の中では遊べなかった。瑞貴の考えることなんて月並みで、ならばと庭の周りで鬼ごっこしたり、隠れんぼをしたり。そして遊び疲れたらこの離れで寝る。それが白木院家に遊びにきた彼らと瑞貴の日常だった。
遊び疲れ、離れの畳の上ですやすやと眠りに落ちたあやめの長い髪がふわりと広がった光景。
その光景は、墨でふすまに描かれた優雅な水の流れのようだ。きれいだ、と。瑞貴は目を奪われた。
うつぶせに力を失って放り出された四肢の、その無防備さ。春のやわらかな陽射しに照らされた彼女の顔は影になって、薄く開かれた唇の鮮烈さが瑞貴の思考を征服した。
(き、れい……だ)
綺麗なものは好きだ。稽古の時の触れる器も、花も。色とりどりの花の形をした干菓子も、季節に合わせて色や形を変える主菓子も。半年前の七五三詣りのときにあやめが着ていた『菖蒲』と『鞠』の意匠が映える色鮮やかな朱い着物も、綺麗に整えられた髪型に揺れた簪も。彼女のあどけない項の生え際に落ちる髪も。綺麗なものは、瑞貴の好物だった。
「……あやめ」
がんぜない瑞貴が葛藤に割いた時間。それはほんのたまゆらのこと。寝入っている彼女を起こさぬよう、瑞貴は小さく囁いた。腰をかがめ、薄く開かれたちいさな唇をそっと奪う。
幼いながらも瑞貴は気付いていた。この感情は、大人になるまで伝えてはいけない。だったら、どうしたら自分はずっとずっとあやめのそばにいられるだろうか。
そうして、瑞貴は考えた。一定の年齢まで、警戒されないようにすればいい。ずっと仲良しだったのだ。これから先も気の合う友達として接していけばいい。そうすればあやめは自分をそばにおいてくれる。ずっとずっと、あやめの隣にいられる。子どもながらの安直な考えだったが、6つになりたての浅薄すぎる瑞貴には、今はそうするしか手段がないと思ってしまったのだ。
「まっていてね……あやめ」
いつかきっと。この想いをあなたに伝えてみせるから。
未だ固いつぼみのような想いを胸に宿し、小才が利くだけの幼な子が揺るがぬ不惑を抱いた春の日。
儚げな甘さを含んだ季節が、十数年の時を経て――――また、巡り来る。
「どんなあやめでも愛してる。だからおかしくなっていいよ。私でダメになってよ、あやめ」
甘い嬌声を上げるあやめを見下ろし、切なげに瞳を細めた瑞貴は指を増やして動きを大きくさせた。指を増やされても痛みは感じない。時間をかけて慣らそうとしているのか、ひどく優しく続けられる愛撫にあやめの身体の中に熱が飽満していく。膨らんだ何かの感覚に、本能的に快楽を拾ったあやめの腰がゆらゆらと揺れ動いた。
「だめ、だめっ……っ、き、ちゃう、なんか、やだっ……」
「だめじゃないよ。大丈夫」
瑞貴がふたたびあやめの唇にちいさく口づけを落とす。その瞬間、あやめの中で大きく膨らんだ感覚が勢いよく弾けた。ちかちかと視界が明滅する。全身を包む浮遊感とともに、あやめの全身から汗がぶわりと吹き出した。
唇を解放し、くたりと弛緩するあやめの頬を慈しむように撫でた瑞貴は、こつんと額を合わせる。あやめは涙を浮かべ、焦点が合わないままに力の入らない腕を必死に動かして頬に触れている瑞貴の手の甲を自分の手で包んだ。
「キツかったら……言ってね。ごめん」
あやめは夢心地のままにそっと頷いた。瑞貴はあやめの返答を確認し、ふたたびあやめに口づけを落とす。啄むような心地よい口づけの感覚の奥で、軽い衣擦れ音があやめの耳朶を打った。寄せては返す波のような、それでもどことなく甘やかな感覚に浸っていると、不意に右足が瑞貴の手に掴みあげられた。均衡の取れた胸筋が着流しの合わせをはだけさせた先に鮮明に映る。濃艶の極みともいえる瑞貴の姿は、あやめの心臓を強く震わせる。刹那、視界の隅に自分の白い足袋が映り込んだあやめは息を飲んだ。
「ん゛、ぁああっ!」
「っ……あ、やめ」
あやめの右足を肩にかけた瑞貴が、長身の躯体を割り込ませた。途方もない質量の熱い何かが肉襞を暴いていく未知の感覚。股から身体ごと割けそうなほどの痛みにあやめの眦から涙がボロボロと生まれては落ちていく。
「きっつ……ごめんね、痛いよね。畳のうえだから痛みを逃げさせられないんだよね。ベッドだったら違ったかもしれないね……着物と襦袢しか敷いてあげられなくてごめんね、あやめ」
「ん、ん゛んんっ……」
畳に広がり乱された襦袢がシーツ代わりだった。あやめはそれらを力の限り握り締めて襲い来る痛みと強い圧迫感に耐える。その手に瑞貴が自分の手を重ねた。ただただ謝り続ける瑞貴だが、あやめに自らの楔を打ち込むことを止めるつもりは一切ないらしい。
瑞貴は蜜窟の一番深い場所まで辿り着くと、あやめの目尻から流れ落ちる涙をそっと拭った。指先から伝わる瑞貴のやさしさにあやめは言いようのない感情に包まれ、ふたたび涙を落とす。
「みず、き……すき。だいすき、……だから。にげたりしない、から。ずっと、私のそばに……いて」
「あ、やめ」
わけもわからずにこうして勢いで身体を重ねた。あやめは瑞貴が繰り返す謝罪を、それに対しても向けているように思ったのだ。あやめの意に反して行為を強いたと感じている彼の苦しさや葛藤を溶かしてあげたい、ただその一心で言葉を紡いだ。
破瓜の痛みを堪え、あやめは込み上げてくる幸福感を噛み締めるようににこりと笑みを浮かべる。そして、そっと瑞貴の頬に手のひらを当てた。数分前に彼が自分にしてくれたように。
「私は、みずきの……だから。だから、みずきがして欲しいこと……ぜんぶ全部、叶えてあげたい、から。後悔とか……して、ないから。あやまらない、で」
生娘でセックスの知識が浅いあやめでも、引き出された後にまた押し込まれるということだけは知識として知っていた。そうしなければ、瑞貴が高みに昇れない、ということも。自分のことは気にしなくていいから、とあやめは必死に訴える。
瑞貴は驚いたように目を瞠いた。その表情を眺め、あやめはふたたびあたたかい何かに包まれる感覚に身体を委ねた。覆いかぶさるような温もりと重みがあやめの身体にかかったかと思うと、瑞貴はのっそりと腰を引いた。
「あやめ……本当に、愛して、る」
「あ゛、っ、んっ!!」
はじまった律動は本当にゆるやかで、あやめを労るような動きだった。窄まりから溢れ出ていく蜜の音が淫らに響き、瑞貴の浅い呼吸とあやめの痛みを堪えるような吐息が交錯する。
「はぁっ、あっあっ、……ん、んっ」
痛みに慣れてしまったせいでもあるのか、それとも瑞貴が執拗に解していたおかげか。次第にあやめは鈍痛の中でのろのろと陶酔を拾うようになった。緩慢な動きに合わせ、ぐちゅりという水音にあやめの甘い啼き声と衣擦れの音が混ざり合う。瑞貴の肉槍の先端によって、確実に悦い場所を擦られていく。もう何も考えられない。
「う、あっ、あ、やっ、それっ、だ、だめぇ……っ!」
「あや、めっ……」
蕩けた蜜道を余すことなく擦り上げていく太い楔の感覚。最奥に届く張り出した肉傘がコツンコツンとリズムを刻む。まどろっこしいほどに緩慢だった律動が次第に激しくなり、一突きがズンと重い衝撃へと変わっていく。
「はぁっ、もう、もぉむり、あっ、はぁっ」
あやめはわけがわからず泣きじゃくった。じわじわと押し寄せてくるさざ波に脳が、身体が犯される。自分の身体だというのに、指先だってひとつも自分の思うように動かせない。その感覚に恐怖を感じ身を捩ろうとすると、瑞貴の熱い手があやめの両腕を掴み、身動きが一切取れないように畳に縫いつけた。
「逃げない、って……あやめが言った、でしょ」
「あっ、そこっ、や、だめ、なんかっ、おかしいのおっ」
「う、んっ……もっともっと、おかしくなって。私が隣にいなきゃ生きられなくなってよ」
瑞貴は舌なめずりでもしそうな勢いで嫣然と微笑んだ。そして腰の動きを一層大きくさせ、叩きつけるような直線的な律動へと変えていく。
「んあっ、あっ、ふ、ううっンっ!」
「っ……締め、ないで。でも、ここが……あやめはいいん、だよね?」
瑞貴は甘く囀り続けるあやめに確認するように問いを落とすが、圧倒的な快楽が積み重ねられたあやめには答えられるはずもなかった。瑞貴があやめの耳元で何度も名前を呼ぶ。愛おしい人が自分を呼ぶ声色は途方もなく甘美で、名前を呼ばれるたびにあやめの脳天からつま先へ甘い痺れが走っていく。
「あやめ……騙して、ごめんね。でも、ずっと大切にするって誓うから」
「ん、はぁっ、あっ、んああっ、ゃ、だ、ます…? っ、あぁっ」
「ずっとずっと……っ、大切にする。何年、いや、何十年……私が我慢してきたと思ってる?」
「えっ、んぁ、だめ、はぁっ、あっ、」
何度も何度も最奥を穿たれ、あやめは下腹を芯にして込み上げてくる切迫感で身体がどうにかなってしまいそうだった。身体が宙に浮いているような、それなのに下へ下へと沈んでいくような。ズン、と大きく貫かれた瞬間、あやめは一層甲高い声を上げ、反射的に喉を仰け反らせた。
「っ……ずっと、あやめのそばにいられる方法をっ……探しながら、私は生きてきたんだ」
「あ、んあっ、あっ、そこ、だめ、はぁっ」
「髪型も、話し方も……化粧品のこと、だってっ……別にっ、素じゃない、とまでは……っ、言わないけれど……く、」
「んぁっ、あ、ぅ、み、ずきっ……? は、ぁぁああっ」
瑞貴が紡ぐ言葉をしっかり受け取りたいのに、一層激しくなる律動にあやめの思考が鮮明になっては乱れていく。切羽詰まったような表情の瑞貴が腰を打ち付けるたびに高く上げられた自分の足袋が揺れ動く。あられもなく恥ずかしい格好で快楽に咽び泣く自分の表情を瑞貴の視線から隠したいのに、腕を縫いつけられているからそれも出来ない。
「あやめ、は……同窓会の案内とか、来ないの。不思議じゃ、っ、なか、った?」
「えっ? え、あああっ、んんっ、あっ、ああっ、あっ」
「高校に入った、ころっ……あやめに付きまとおうとしてたアイツが、どうして茶道部の……年下の私を見る度にっ……怯えていたのか。不思議じゃ、ない?」
「あっあっ、ああっ、そこぉ、ふあっ、だめっ、やだぁっ」
「大学のっ……サークル、仲間の……『男』たちが、卒業してからっ……あやめに、連絡、しないのっ……どう、してなん……だろう、ね……」
肉と肉がぶつかる淫猥な音と快楽に溺れた思考回路の中で、あやめは確かにと思い至る。大学の同窓会はまだ案内が来なくて当たり前だが、高校や中学の同窓会は案内があってもおかしくない時間が経過しているはずだ。武道を嗜んでいたわけでもない瑞貴が、どうやって剣道部の人間を退けられたのか。茶会サークルには男子メンバーも複数名いたけれど、あやめが卒業後に連絡を取るのは女子メンバーだけだ。確かに瑞貴が言うように何かが変だ。そう思うのに、思考は甘美なそれで焼き切れて上滑りしていく。
「っ、は……あの大学もっ……父を説得するのに、どれだけ時間がかかった、かっ……あやめは、知らない……でしょうっ……」
「ああっ、も、だめっ、ああ、っく、るしっ……」
あやめの下腹にたまった熱い何かがぶわりと膨む。弾けそうなのに届かない、その感覚がどうにももどかしくて、すごく苦しくて。あやめは無意識に腰を瑞貴へ押し付ける。
あぁ、そうだ。白木院家が寄付をしている有名私立大学が、隣の市にあったはず。なのにどうして、瑞貴はあやめと同じ大学に進学したのだろう。
「あやめ。私の……私だけの、あやめっ……」
瑞貴がそう口にした瞬間。ずん、っと、これまでよりも深く突き上げられた。
「やあっ、だめっ、っ、――――っ!!!」
ぎゅう、と目を瞑ったあやめの瞼の裏が白く染まる。脳を焼くほどの強烈な感覚に戸惑いと怖れを感じながらも、甘く強い感覚に飲み込まれていく。
瑞貴自身が埋め込まれた胎内が脈打つように痙攣しているのをあやめは感じ取った。それに呼応するかのように、くんっと背中が反り返る。
「……っ、あやめっ……!」
瑞貴が腰を強く叩き付けた瞬間。どくん、と、熱い楔が薄膜越しに弾けた。
❖❖❖
きれいだ、と。きれいだと、瑞貴は幼いながらに思った。
親同士も顔見知りで、互いに子どもを預け合っていた。あやめと晴臣が白木院家に預けられることもあったし、逆に瑞貴が梅津家に預けられることも往々にしてあった。
その日のことは今でも鮮明に覚えている。いつものようにあやめと晴臣が白木院家に遊びに来た。本邸はいつも門下生が稽古に来ていたから、家の中では遊べなかった。瑞貴の考えることなんて月並みで、ならばと庭の周りで鬼ごっこしたり、隠れんぼをしたり。そして遊び疲れたらこの離れで寝る。それが白木院家に遊びにきた彼らと瑞貴の日常だった。
遊び疲れ、離れの畳の上ですやすやと眠りに落ちたあやめの長い髪がふわりと広がった光景。
その光景は、墨でふすまに描かれた優雅な水の流れのようだ。きれいだ、と。瑞貴は目を奪われた。
うつぶせに力を失って放り出された四肢の、その無防備さ。春のやわらかな陽射しに照らされた彼女の顔は影になって、薄く開かれた唇の鮮烈さが瑞貴の思考を征服した。
(き、れい……だ)
綺麗なものは好きだ。稽古の時の触れる器も、花も。色とりどりの花の形をした干菓子も、季節に合わせて色や形を変える主菓子も。半年前の七五三詣りのときにあやめが着ていた『菖蒲』と『鞠』の意匠が映える色鮮やかな朱い着物も、綺麗に整えられた髪型に揺れた簪も。彼女のあどけない項の生え際に落ちる髪も。綺麗なものは、瑞貴の好物だった。
「……あやめ」
がんぜない瑞貴が葛藤に割いた時間。それはほんのたまゆらのこと。寝入っている彼女を起こさぬよう、瑞貴は小さく囁いた。腰をかがめ、薄く開かれたちいさな唇をそっと奪う。
幼いながらも瑞貴は気付いていた。この感情は、大人になるまで伝えてはいけない。だったら、どうしたら自分はずっとずっとあやめのそばにいられるだろうか。
そうして、瑞貴は考えた。一定の年齢まで、警戒されないようにすればいい。ずっと仲良しだったのだ。これから先も気の合う友達として接していけばいい。そうすればあやめは自分をそばにおいてくれる。ずっとずっと、あやめの隣にいられる。子どもながらの安直な考えだったが、6つになりたての浅薄すぎる瑞貴には、今はそうするしか手段がないと思ってしまったのだ。
「まっていてね……あやめ」
いつかきっと。この想いをあなたに伝えてみせるから。
未だ固いつぼみのような想いを胸に宿し、小才が利くだけの幼な子が揺るがぬ不惑を抱いた春の日。
儚げな甘さを含んだ季節が、十数年の時を経て――――また、巡り来る。
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