契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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23.ガールズ・コレクション

ガールズ・コレクション⑤

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 翌日のファッションショーは大盛況だった。
 たくさんの人が見にきてくれて、ランウェイをモデルが歩くと可愛い!と黄色い声が上がる。

 熱気を直に感じて、バックヤードで美冬は感動していた。お店で販売しているだけでは決して感じることができなかったものだ。

「美冬!」
 最後にデザイナーがランウェイをモデルと歩く、と美冬は聞いていた。石丸がモデルと歩くのはそれは華やかだろうと楽しみにしていたのだ。

 そんな石丸が、美冬を呼んだ。
 手に持っているのはウェディングドレスだ。

「え⁉︎ それって⁉︎」

「この日のために完成を急いだんだよ! 早く着替えて! 僕も出なくちゃいけないから!」

「え? えーっ⁉︎」
 早く!早く!とみんなに急かされる。

 皆知っていたのだ。
 美冬のためのサプライズ。

 あれよあれよと服を剥かれて、さっさとメイクをされ、着替えさせられる。

 石丸がデザインした美冬のためのウェディングドレスは華やかなレースで彩られた品のあるミルヴェイユらしいデザインだった。

「すごい……可愛い」
 ウェディングドレスなんて結婚式当日しか着ないと思っていた。

 けれど、こんな機会に着ることができるのは本当に嬉しいし、石丸のデザインをみんなに見てもらえるのも嬉しいと思ったその時だ。

「お、さすが、すげーいいじゃん」
 黒のタキシードを着ている槙野が美冬を誉める。

 きっちりとまとめた髪。さっきまでそんな風にセットしていなかったくせに。
 身長も高い槙野はタキシード姿も映える。

「嘘でしょ……」
 へたり込みそうになる美冬だ。

「おい、へばってる場合じゃないぞ。ほら!行くぞ。アイツのデザイン、みんなに見せるんだろうが。いい宣伝だ。でなきゃ俺まで出るか」
 さっさと美冬の手を槙野が掴む。

「聞いてないよっ! 祐輔知ってたの?」
「知っていなければサイズぴったりのタキシードなんて出てこない。このタキシードも正確にはミルヴェイユ製だ。美冬の会社のデザイン部のメンバーが作ったからな」

「なんで教えてくれないの⁉︎」
「教えたらサプライズにならないだろう」
 槙野も会社のメンバーもみんなとても楽しそうだ。

「社長! 頑張って!」
「可愛い! 似合ってます。お似合いです、お二人とも」

 舞台袖に行くと急に緊張で表情も固くなる美冬だ。

 それを見た槙野は「行くぞ」と声をかけ、ランウェイの正面に美冬を引っ張っていくと、そのど真ん中でぎゅっと美冬を抱きしめて、舌も絡ませるほどのキスをしたのだ。

 会場からきゃーっと声が上がる。
 真っ赤になった美冬は槙野の胸を叩いた。

 イタズラっぽく笑うのはもう腹が立つくらいに男前で、キュートで……カッコ良すぎなんだけど!

「緊張、ほぐれたか?」
「バカ! もっと緊張したわよ!」

 髪をくしゃっと解いた槙野はタキシードのボタンを開ける。一気にラフな雰囲気になった。
 それを見た美冬はもう!この人は!とヒールを脱いで裸足になった。そして、ドレスの裾を抱える。

 そうして槙野に思い切りの笑顔を見せたのだ。
「解けたわ! もう楽しむ!」

 そんな二人が手を繋いで元気にランウェイを歩くのに、会場が一気に盛り上がりを見せた。
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