契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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22.狼の番(つがい)とは

狼の番(つがい)とは①

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 祖父から退院してほぼ完治したので三人で食事に行こうと声がかかった。
 三人で会うのは病室で会った時以来である。

 祖父も退院してきて元気に過ごしていると聞いてはいたが、美冬もなかなか会えなくて、会うのは久しぶりなのだ。

 そんな声が掛かり、槙野が迎えに来ると言うので、美冬はデザイン室に向かった。

 一時期は盗作騒ぎなどでガックリと湿った雰囲気になってしまったデザイン室だったが、美冬が何かにつけフォローすることで、最近は元気を取り戻しつつあった。

 そのメンバーがいつものように美冬に服を選んでくれる。
 その和気あいあいとした様子に美冬は本当に嬉しくなったのだ。

──みんな、元気になって本当に良かった!

 いつものようにあれが似合うとか、こっちが可愛い、と美冬はマネキン状態だ。

 結局、肩の方が白いレースで下に向かうにつれ、濃いフューシャピンクのグラデーションの花柄の模様の入った珍しい生地を使ったワンピースを選んでもらってそれに着替える。

 こんなグラデーションもあり、華やかな服は普段外で着ることは出来ないけれど、こんな時ならば許されるのではないだろうか。

 それに踵にリボンの付いたサテンの揃いのヒールまで用意があって、それはカタログ撮影で使ったものだ、とスタッフはにこにこしている。

 本当に服が好きでそれを着ている人を見るのが好き、と言う気持ちがたくさん伝わってきて、美冬はこの会社を守れて良かった、と心から思うのだ。



 祖父が指定した店は祖父の馴染みの懐石料理で、一昔前まではいわゆる一見さんお断りで政治家などが接待で利用するような店だ。

 今はそうではないと聞いているけれど、それでもふらっと気軽に入れるような店ではない。
 美冬もこのようにきっかけがないと来店しないお店だ。

 槙野はいつものように美冬を会社の前まで迎えに来てくれた。
 華やかなワンピース姿の美冬を見て、槙野は目を細める。

「綺麗だな」
「ありがとう」
「服が」

──ぶん殴っていいかしら?

「服も、だな。そんな可愛い顔して見るなよ。キスしてほしいのか?」
「会社の前だからダメ」
「なるほど、会社の前じゃければいい、と」
 その頭の回転の早さは別のことに使ってほしい。

「どうぞお姫様」
 槙野が美冬のために助手席のドアを開けてくれる。
 それに免じて、美冬はぶん殴るのは止めにしてあげたのだった。

「『くすだ』か、久しぶりだな」
「昔よりは敷居が高くないとは言うけどやっぱり庶民が気楽に行けるお店ではないものね」

「そうだよな。それにお祖父さんが予約してくれた個室はいわゆるVIPルームだからな」
「そうなの?」

 槙野の言葉通り、仲居さんに案内されたのは門をくぐってお店の中に入ってから、迷子になりそうな廊下をぐるぐるとまわって、何やら奥の方の日本庭園を望むことができるお座敷だった。
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