契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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21.守られていること

守られていること④

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 石丸はその綺麗な顔を伏せた。腕を組んで、ふう、とため息をついて言葉を続ける。

「再発防止は僕も含めてね、うちも徹底しなくてはいけないし『エス・ケイ・アール』さんにもそこはお願いしたい。デザインについては……いいですよ。そもそも落書きのようなものでミルヴェイユには使えないものだった。ただ、僕のデザインであることを認めて別途ギャランティを払ってもらえれば。で、うちの社長がいいと言えばそれをボーナスに上乗せしてもらいます」

 こんなところで手打ちはいかがです?と石丸は槙野に向かってにっこり笑う。

「それを弁護士に文書にさせよう」
「そうしてください。こんなことで煩わされるのは嫌だ。だから美冬を尊敬する。最終判断は美冬に任せる」

 美冬も安心して笑顔になる。
「うん。大丈夫。任せて。槙野さん、ではそれでお願いします。あとは弁護士同士で任せます」

「承知した。俺の方で責任持って解決まで担当させてもらう。それぞれ不利にならないよう取り計らうから。そしてこの案件はこれでここでの話し合いを持って完了してほしい。くれぐれも他には漏らさないように」

 そんなことはここにいる全員が分かってはいることだったけれど、あえて槙野がそう言ってくれたことで、共有を図ることができたのだった。

 話し合いを終えたあと、木崎社長はガックリと肩を落としていた。自社で盗作が起きたなどとはとてもショックな出来事だろうと言うことも想像にかたくない。

 それを慰めるように綾奈が寄り添っていたのが印象的だった。

 以前から感じていたけれど、綾奈は思い込みが強かったり、感情移入が強い傾向にはあるけれど、それは人に対して思いが強いからなのではないかと美冬は思う。

 裏を返せばその人の立場に立って思いやれる人、ということだ。
 全員部屋から出たあと、槙野だけがその場に残る。

「槙野さん? どうされました?」
 つかつかと歩いてきた槙野はぎゅうっと美冬を抱きしめる。

「今は祐輔、だろ? 頑張ったな、美冬」

 その身体に包み込まれるように抱きしめられて、低い声で耳元で頑張ったな、なんて囁かれて、美冬は自分の身体が小さく震えていたことに気づく。

「うん……頑張ったよ」
 ぎゅうっと美冬は槙野の背中に手を回した。

 抱きしめられたらこんなにも安心してしまう。
 もちろん槙野が助けてくれたことなど充分に分かっていた。

 一人ならばここまで、きちんと解決に導くことは出来なかったかもしれないし、対応が完了出来たのも今後のこともほとんど槙野が誘導してくれたから判断出来たようなものだ。

 それでも、今回の件は美冬が始めた企画だったし、トラブルがあれは美冬が対応しなければならなかった。

 それは今までの雇われていただけの、祖父の庇護の元に経営していただけでは分からないことだ。

 とても、怖かった。
 ショックでもあったし、これで企画が潰れてしまったらどうしようと思うと震えが止まらなかったのも事実なのだ。

 それを理解してくれて、頑張ったな、と認めてくれるのが美冬のパートナーなのだ。

「祐輔、ありがとう……」
「ん? 当たり前だろ?」
「怖かったの」
「そうだな。お前は頑張ったよ」

 抱きしめて、甘やかされることがこんなにも心地良いことだとは知らなかった。
 そして、一人ではないことがこんなに心強いものだとも知らなかったのだ。



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