契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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21.守られていること

守られていること③

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「状況を整理したい」
「お願いします」
 美冬もお腹にグッと力を込める。

「まず事実だ。盗作があったというのは本当ですか?」
 それには綾奈が答えた。

「本当です。最初に石丸さんが気付かれて、私もそのスケッチを見せていただきました。その上でうちのスタッフに確認をしたんです。最終的にデザインを盗んだことを認めました。現在は出勤停止にしてもらっています」

「なぜそんなことが起きた?」
 淡々と尋ねる槙野の硬い声。

 それには石丸が答える。
「コラボでデザイン室の管理が甘くなってた。コラボ自体もセキュリティが必要な企画だったし、『エス・ケイ・アール』の社員ならデザイン室に入ることは可能だった。僕もデザイン画をその辺に置いておいたりしていたこともあったしね」

「だからと言ってやっていいことではないだろう……」
 槙野の眉間に皺が寄り声も苦々しげだ。

「そうですね。私共の監督不行き届きというしか……」
 綾奈はそう言って俯く。

「で、あなたは?」
 あ、今そこに気づいたのね。

 綾奈の風貌があまりにも変わってしまっているので、槙野は誰だか分からなかったようだ。

 綾奈に向かって誰何する槙野を美冬は綾奈と分かったらどういう反応なんだろうとつい、興味津々で見守ってしまった。

「私……木崎です」
「え?」
「木崎綾奈です」

 なるほど、鳩が豆鉄砲を食らうとこういう顔になるんだな、と納得した美冬なのだった。

 槙野は美冬を軽く睨んで、咳払いする。
 そんな場合じゃないだろう、という表情が見て取れた。ごめんね、と美冬も笑顔を返す。

「服がラインに乗るまでも全く発覚はしなかったんだな」
 そうして槙野は一瞬動揺はしたのものの落ち着きを取り戻して、確認を再開した。

「ご存じかと思うんですけど、うちはデザインからラインに乗るまでの行程がとても短いんです。店頭からは該当の商品は撤去しています」
 槙野は頷く。そうして美冬に向き直った。

「弊社としてもリードが行き届いていなかった可能性がある。その点についてはミルヴェイユにお詫びする。盗作については本人も認めているのだから事実なんだろう。弁護士を入れ、法的処置を取ることも可能だ」

『弁護士』『法的処置』美冬はその槙野の発言にどきんしたけれど、ふと気づいた。

 意味がなければそんな発言をする人ではない。よく考えるのよ……。

 槙野は『弁護士を入れ、法的処置を取ることも可能』と言ったのだ。

「槙野さん、法的処置ってなんですか? 訴訟ということ?」

 美冬にしか分からない程度に槙野が口元を引き上げたのが見えた。おそらく美冬の質問は正しかったのだろう。

「訴訟だけとは限らない。そもそも契約があるわけだが、今回発生したことは想定外の出来事だった。しかし契約の解除に該当する事案ではある。弁護士を通じて契約解除を申し立てることができる。もちろん和解することもできるが、その際には弁護士に法に基づいて文書を作成させた方が間違いがない。そんなところだ」

 美冬は石丸を見た。石丸は腕を組んで少し不貞腐れたような顔をしている。

 穏やかな性格の人なのでこういう騒ぎは好まないはずだ。それでも被害に遭ったのは石丸である。彼の意志を尊重したかった。

「諒、どう?」
「大袈裟!」
 吐き捨てるように石丸は言った。

「確かに盗作は大問題だよ。けど、本人は認めて出社していなくて、綾奈さんからはしっかりお詫びも入れてもらった」
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