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21.守られていること
守られていること②
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そして槙野からはパターンオーダーの話も具体的に進めようと言われていて、今度はそのシステム作りについて、社内で検討を始めているところだ。
そんな中である。
「美冬、ちょっと相談したいことがある」
そんな風に深刻な顔をした石丸に声をかけられた。
「少し時間をもらいたいんだけど、いい?」
「もちろんよ?」
石丸がこんな風に言う、ということは時間をきちんと作ってほしいということだ。
美冬は秘書に言って時間を確保してもらった。
そうして時間になって美冬を訪ねてきたのは、深刻そうな石丸と綾奈だったのだ。
コラボ企画で何かあったんだろうか?
一気に美冬は不安になった。
「二人でどうしたの?」
二人は社長室のソファに座っても、まだ口を開くことはなかった。美冬に促されて、ようやく話し始める。
「美冬……僕のデザインを盗まれた……」
「え? どういうこと?」
そういうことが起こらないようデザイン室については、他の部署よりもセキュリティを高くしてあるのだ。
「だって、デザイン室のセキュリティは……」
一緒に来ていた綾奈がソファから降りて床に膝と頭をつける。
「美冬さん! 申し訳ございません!」
「綾奈さん⁉︎」
「すべて私の監督責任です!」
床に頭を擦り付けんばかりにしているので、美冬は慌てて綾奈のそばに行って膝をついた。その肩が震えている。
そっと肩に触れて、顔を上げさせると綾奈はボロボロと涙をこぼしている。
「綾奈さん? どうしたの?」
「うちのスタッフの一人が、石丸さんのデザインをコピーしたのです」
発覚したのは、コラボ商品の納入があって『ケイエム』の店頭に商品を見に行った時だったという。
店頭を見せてもらっていた石丸が見覚えのあるデザインが商品として店頭に並んでいるのを見て、分かったことだったのだ。
確かに以前『ケイエム』の商品は数ヶ月ですべて入れ替わるということも聞いていた。
今回の商品は並んだばかりだったから気づいたことだけれど、売れてしまっていれば、再販はしない『ケイエム』なのだ。分からないことだっただろう。
それだけが不幸中の幸いだったのかもしれなかった。
しかしだからといって、もちろんやっていいことではない。
責めたい気持ちもあるけれど、綾奈が悪いわけでもない。
「商品はすぐに店頭から撤去しています。他にもないか、今確認を進めています」
「分か……りました」
頭が働かない。
「木崎社長は?」
「報告しました。今、うちは『グローバル・キャピタル・パートナーズ』の資本が入っています。そのためGCP(グローバル・キャピタル・パートナーズ)にも相談中です」
「あ……今回のコラボについても、そうだっけ?GCPに確認した方がいいのかな」
その時、秘書がドアをノックする。
「社長、お客様です。槙野副社長と木崎社長です」
「ちょうど良かったわ。入っていただいて」
秘書の案内で社長室に入ってきたのは、真っ青な顔の木崎社長とその後ろに堂々たる雰囲気の槙野だった。
槙野の姿を見ただけで、美冬は力が抜けそうなのだが、グッと堪える。ここでふにゃふにゃしているわけにはいかない。
「椿さん、事情は聞きました」
低くてキリッとした槙野の声。
美冬のことをあくまでもミルヴェイユの社長として扱ってくれていた。
そんな中である。
「美冬、ちょっと相談したいことがある」
そんな風に深刻な顔をした石丸に声をかけられた。
「少し時間をもらいたいんだけど、いい?」
「もちろんよ?」
石丸がこんな風に言う、ということは時間をきちんと作ってほしいということだ。
美冬は秘書に言って時間を確保してもらった。
そうして時間になって美冬を訪ねてきたのは、深刻そうな石丸と綾奈だったのだ。
コラボ企画で何かあったんだろうか?
一気に美冬は不安になった。
「二人でどうしたの?」
二人は社長室のソファに座っても、まだ口を開くことはなかった。美冬に促されて、ようやく話し始める。
「美冬……僕のデザインを盗まれた……」
「え? どういうこと?」
そういうことが起こらないようデザイン室については、他の部署よりもセキュリティを高くしてあるのだ。
「だって、デザイン室のセキュリティは……」
一緒に来ていた綾奈がソファから降りて床に膝と頭をつける。
「美冬さん! 申し訳ございません!」
「綾奈さん⁉︎」
「すべて私の監督責任です!」
床に頭を擦り付けんばかりにしているので、美冬は慌てて綾奈のそばに行って膝をついた。その肩が震えている。
そっと肩に触れて、顔を上げさせると綾奈はボロボロと涙をこぼしている。
「綾奈さん? どうしたの?」
「うちのスタッフの一人が、石丸さんのデザインをコピーしたのです」
発覚したのは、コラボ商品の納入があって『ケイエム』の店頭に商品を見に行った時だったという。
店頭を見せてもらっていた石丸が見覚えのあるデザインが商品として店頭に並んでいるのを見て、分かったことだったのだ。
確かに以前『ケイエム』の商品は数ヶ月ですべて入れ替わるということも聞いていた。
今回の商品は並んだばかりだったから気づいたことだけれど、売れてしまっていれば、再販はしない『ケイエム』なのだ。分からないことだっただろう。
それだけが不幸中の幸いだったのかもしれなかった。
しかしだからといって、もちろんやっていいことではない。
責めたい気持ちもあるけれど、綾奈が悪いわけでもない。
「商品はすぐに店頭から撤去しています。他にもないか、今確認を進めています」
「分か……りました」
頭が働かない。
「木崎社長は?」
「報告しました。今、うちは『グローバル・キャピタル・パートナーズ』の資本が入っています。そのためGCP(グローバル・キャピタル・パートナーズ)にも相談中です」
「あ……今回のコラボについても、そうだっけ?GCPに確認した方がいいのかな」
その時、秘書がドアをノックする。
「社長、お客様です。槙野副社長と木崎社長です」
「ちょうど良かったわ。入っていただいて」
秘書の案内で社長室に入ってきたのは、真っ青な顔の木崎社長とその後ろに堂々たる雰囲気の槙野だった。
槙野の姿を見ただけで、美冬は力が抜けそうなのだが、グッと堪える。ここでふにゃふにゃしているわけにはいかない。
「椿さん、事情は聞きました」
低くてキリッとした槙野の声。
美冬のことをあくまでもミルヴェイユの社長として扱ってくれていた。
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