契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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20.免許皆伝、でしょーか?

免許皆伝、でしょーか?③

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「そう言うかと思って、朝の焼き立て買ってきたぞ」
「ホントにっ!?」

 マンションの近くの朝イチの焼き立てを出してくれるパン屋のパンだ。
 当然朝イチに行かないとパンはなくなってしまう。
 現金なもので、それを聞いた美冬はベッドから出ることにした。

 シャワーを浴びて支度を終えた美冬がダイニングに向かうと、もう準備万端の槙野がコーヒーを淹れてくれていた。焼きたてのパンはいい香りだ。

 槙野は先ほどまでのラフな感じと違い、シャツとトラウザーズという姿で、髪もピシッと決まっていた。
「これがあるってことは祐輔?」
 買いに行ってくれたのだろう。

「美冬の寝顔が可愛いし、ぎゅっと抱きついてくるのもたまらないし、あのままだと抱いてしまいそうだったんで、ジョギングしてきた」
 そんな風に言って、笑顔の槙野は美冬にコーヒーを渡す。

「え?」
(ジョギング? ……とは?)
 それはなんとなく体力はあるんだろうなとは思っていたけれど、美冬には信じられない。

 散々昨日したのではないのだろうか?
 それだけでは足りなくて、また朝抱こうとしていたということなのか。
 なるほど、もう一度ベッドに引き摺り込みたいと言うわけである。

「え? じゃあ、さっきのシャワーって……」
「走ってきてひと汗かいたからな」
 昨日の汗を流したいとかそういうことではなかったらしい。

「すごい体力ね」
「お褒めに預かり光栄だ」
「いや……褒めてるっていうか、なんていうか……」

「結婚式とかしたら、新婚旅行とか行きてーよな」
 タブレットで新聞をチェックしながら、パンを口にくわえて、槙野はそんなことを言う。

 確かに行きたい気持ちはあるけれど、それって大丈夫なのだろうか?
 一抹の不安を覚えた美冬である。

 ──その、抱き潰されたり……とかは?せっかくの旅行に行って美冬は起き上がれない、とかそういうことは??
 十分にあり得そうで美冬は乾いたような笑みを返すことしかできなかった。

「美冬、そろそろ出るぞ」
「うん。分かった」
 ごちそうさま、と手を合わせた美冬は使った皿を食洗機に入れてスイッチを押す。

 ウォークインクローゼットに入るとベストを羽織った槙野が支度をしていた。
 美冬はクローゼットを覗き、ネクタイを一本手に取る。

(チャコールグレーにホワイトのストライプシャツだから……)
 槙野が朝着ているシャツやスーツの色や形に合わせてネクタイを選んで結ぶのが最近の美冬の日課なのである。

「祐輔」 
「ん」
 美冬に呼ばれた槙野が美冬の前に立つ。丁寧に襟を立てた美冬がキュッとネクタイを結んだ。

「さすがだな」
 毎日やっているのに、毎日褒めてくれるのだ。

 ベストのボタンを止め、ジャケットを羽織ると槙野は先程まで美冬に甘かった婚約者ではなくて、いかにもやり手のビジネスマンになる。
 鏡越しに美冬はそっとそんな槙野を盗み見た。

 ──こういうのギャップ萌えっていうの?ズルくないかな。


 この日は美冬が出社すると石丸がウエディングドレスのデザインの希望を聞きに来た。
 槙野は正式に石丸にデザインを発注したらしい。

「槙野さんからは金に糸目はつけないから、美冬の好きなようにって言われたよ。あの人美冬のこと溺愛だよね」
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