契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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19.いただきます

いただきます③

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 冷静に考えたら槙野の見た目で黒塗りのベンツにでも乗っていようものなら、確実にヤのつく人になってしまう。
 くすくす笑いながら助手席で美冬が言うのに、槙野がハンドルを操作しながらちらっと美冬を見る。

「これの前はメルセデスだったな。黒ではなかったが」
「あら、本当に……」

「これはポルシェのアニバーサリーモデルで世界でも一千台そこそこしかない限定車だ」
 世界で一千台……ものすごく車が好きなのではないのだろうか。

「車、好きなの?」
「好きだな。運転するのも好きなんだが普段はハンドルを握る機会は少ない。休みの日にたまに走らせるくらいだ」

 美冬には車のことがよく分からなくて、ふぅんと言うしかないのだが、好きだ、と言う槙野の顔はとても良かった。

 槙野がアクセルを踏むとエンジンの低い音が響く。
 重低音に響く音は美冬には馴染みがなくて少し驚いた。

「す……すごい音がするものなのね?」
「スポーツカーだからな。このエンジン音に惹かれてこの車を買ったと言っても過言じゃない」

 アクセルをぐっと踏み込んだ槙野はハードな運転をするのかと思えば、意外と雑ではなくて美冬は安心した。

 ハンドルを握ると人格が変わる人もいるらしいが、槙野はそんなことで人格が変わるような人物ではなかったらしい。

 ブレーキも優しいし、曲がる時も身体が押し付けられるような感覚はない。信号が変わった時のスタートもスムーズだ。

 車の中で美冬は綾奈のことを話す。
「綾奈さん、別人みたいよ。すごく痩せてしまって」
「へえ……そんな風に聞いてもピンとこないが。国東と上手くいってるんだろうか」

「国東さんはダメだったみたい」
「あいつはちょっと軽いところがあるからな」
 そんな風に言って槙野は苦笑している。

「けど、今はうちのデザイナーの諒が気になっているみたいね。でも諒は難しいわ」
「ふうん? あいつは美冬のことが好きだからな」

「は?」
 急にそんなことを言われて美冬は言葉をなくした。

「気づいてなかったのか? 本人も気づいていたかは分からないが気はあったと思うぞ」

 そんな風に考えたことはなかった。
 出会ったのは会社に入ってからで、石丸諒は美冬が入社した頃にちょうど頭角を現してきた時期で、入社したばかりの美冬とは一緒に成長してきたような仲になる。

 美冬が社長になってから接点が増えたけれど、二人きりになってもなにもそんなようなことはなかった。

「だって、仕事が好きって言ってたわ」
「仕事をしていれば美冬と関われる。本人も意識しているかは分からない。だからそんな言い方になったのかもな」

「諒はずっと側にいたからそうやって言われたりすることもあったけど、男女の気持ちになったことはないわよ。お互いに」
「そうか? なら俺の気のせいだろう」

 絶対に違うと思う。
 槙野の勘がいいことは認めるが、これに関しては当たっていないと美冬は黙り込む。

「気にするな」
「してないよ」
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