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19.いただきます
いただきます②
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ふっくらとしていたはずなのに、その面影もなく、美冬の目の前にいるのはすらりとしている和風美人さんだ。
綾奈はそんな美冬に照れた様子を見せる。
「そんなに見ないで頂きたいわ……恥ずかしい」
「綾奈さん、失礼ですけど、お痩せになった?」
こくりと綾奈は頷いた。
「お恥ずかしい話なんですけど、今までは役員と言っても名目だけで。けど、椿さんを見ていて、私も頑張りたいって思ったんです。現場で皆と動いていたら、気づいたら……あと、あの……素敵だと思う方が……」
「お仕事と恋かぁ……充実しているから綺麗になったんですね」
「はい……」
そう言った綾奈の視線の先には石丸がいる。
──あら?
これまた困難な相手だ。
石丸は本当に綺麗だ。そして、とても優しい。
美冬に対しても優しいけれど、それは美冬だからということではないのだ。
誰に対しても等しく優しいのである。
『誰かと付き合ったりしないの?』
アプローチは引きも切らない石丸なのだから、美冬もそう聞いたことはある。
それでも、あの優美な顔でにこりと笑って、いい人がいたらね、とか言ってはぐらかされてしまっていたのだ。
あまりにもそういう気配がないものだから、ものすごくストレートに『ゲイなの?』と聞いたこともある。
さすがにその時は美冬が謝りたくなるレベルの冷たい視線を飛ばされた。顔立ちが整っているだけに冷たい顔をされると凍りつきそうなくらい怖い。
『仕事が好きなの!』とアッサリ言われたものだが。
付き合いは長いけれど、どんなパートナーが好みなのかプライベートに関してはあまり知らないことに美冬は驚いた。
それでも美冬が社長になった時からずっと見守ってくれている人だ。彼にも幸せになってほしいという気持ちはもちろんある。
そうかぁ……諒ね。
「そうだわ、あとで社長室にお邪魔しようと思っていたんですけど、ここでお会いできて良かった。プレゼントがありますの」
両手を胸の前できゅっと合わせて綾奈は笑顔になっている。
「ご結婚のお祝いがまだでしたもの」
「気にしなくていいんですよ、そんなの」
ちょっと待ってらして?と言った綾奈は自分の荷物から紙袋を取り出して、美冬に渡した。
「美冬さんへのプレゼントなんですけど、きっと槙野さんもお喜びになると思いますわ」
──祐輔も喜ぶもの?
美冬はちらっと袋の隙間から中身を覗き込んでみたけれど、どうやら洋服のようだ。
きっとケイエムで発売される新商品の服なんだろう。
そんな風に美冬は思っていた。
その日の帰りは槙野も仕事で遅くなったらしく、車で帰るのでミルヴェイユまで美冬を迎えに来てくれたのだ。
一緒にいると分かるのだが、槙野は意外と本当にマメなのである。
ビルの正面に停められている槙野の車は彼に似合いのシルバーのスポーツカーだ。
盾のようなエンブレムが車のボンネット部分に見える。
美冬が外に出ると車の中から槙野が軽く手を上げる。
美冬は助手席に乗り込んだ。
「ベンツとか乗ってるのかと思っていたのよね」
綾奈はそんな美冬に照れた様子を見せる。
「そんなに見ないで頂きたいわ……恥ずかしい」
「綾奈さん、失礼ですけど、お痩せになった?」
こくりと綾奈は頷いた。
「お恥ずかしい話なんですけど、今までは役員と言っても名目だけで。けど、椿さんを見ていて、私も頑張りたいって思ったんです。現場で皆と動いていたら、気づいたら……あと、あの……素敵だと思う方が……」
「お仕事と恋かぁ……充実しているから綺麗になったんですね」
「はい……」
そう言った綾奈の視線の先には石丸がいる。
──あら?
これまた困難な相手だ。
石丸は本当に綺麗だ。そして、とても優しい。
美冬に対しても優しいけれど、それは美冬だからということではないのだ。
誰に対しても等しく優しいのである。
『誰かと付き合ったりしないの?』
アプローチは引きも切らない石丸なのだから、美冬もそう聞いたことはある。
それでも、あの優美な顔でにこりと笑って、いい人がいたらね、とか言ってはぐらかされてしまっていたのだ。
あまりにもそういう気配がないものだから、ものすごくストレートに『ゲイなの?』と聞いたこともある。
さすがにその時は美冬が謝りたくなるレベルの冷たい視線を飛ばされた。顔立ちが整っているだけに冷たい顔をされると凍りつきそうなくらい怖い。
『仕事が好きなの!』とアッサリ言われたものだが。
付き合いは長いけれど、どんなパートナーが好みなのかプライベートに関してはあまり知らないことに美冬は驚いた。
それでも美冬が社長になった時からずっと見守ってくれている人だ。彼にも幸せになってほしいという気持ちはもちろんある。
そうかぁ……諒ね。
「そうだわ、あとで社長室にお邪魔しようと思っていたんですけど、ここでお会いできて良かった。プレゼントがありますの」
両手を胸の前できゅっと合わせて綾奈は笑顔になっている。
「ご結婚のお祝いがまだでしたもの」
「気にしなくていいんですよ、そんなの」
ちょっと待ってらして?と言った綾奈は自分の荷物から紙袋を取り出して、美冬に渡した。
「美冬さんへのプレゼントなんですけど、きっと槙野さんもお喜びになると思いますわ」
──祐輔も喜ぶもの?
美冬はちらっと袋の隙間から中身を覗き込んでみたけれど、どうやら洋服のようだ。
きっとケイエムで発売される新商品の服なんだろう。
そんな風に美冬は思っていた。
その日の帰りは槙野も仕事で遅くなったらしく、車で帰るのでミルヴェイユまで美冬を迎えに来てくれたのだ。
一緒にいると分かるのだが、槙野は意外と本当にマメなのである。
ビルの正面に停められている槙野の車は彼に似合いのシルバーのスポーツカーだ。
盾のようなエンブレムが車のボンネット部分に見える。
美冬が外に出ると車の中から槙野が軽く手を上げる。
美冬は助手席に乗り込んだ。
「ベンツとか乗ってるのかと思っていたのよね」
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