契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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16.濡れ衣なんだっ!

濡れ衣なんだっ!⑤

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「本当にいいの?」
「片倉に帰れと言われた。構わない」

 車に乗るのかと思った槙野は美冬の肩を抱いたまま、一区画歩く。
 そこには非常にハイセンスな高層ホテルがあった。
 ぐいぐいと槙野は美冬をその中に連れていく。

 足を踏み入れた中は、シンプルでモダンなインテリアのロビーで、美冬は戸惑う。

「え? ちょ……ホントに?」
 確かに先程、家まで我慢できないとは言っていたけれど。

「内装は悪くないぞ。景色もな。雰囲気もとてもいい」
「なんで知ってるの」

 家からはさほど遠くない場所にあるホテルだ。宿泊に利用するとも思えない。
 一体誰を連れ込んで……。

「そういう顔で見るなっ。俺が手掛けたうちの会社で出資してるホテルだっ」
「あ、そっか……」

「あのなあ、それは俺も30年以上生きてるわけだし、いろいろあったよ。でも俺が結果選んだのは美冬なんだ。それは信じてほしい」
「信じてるよ」

 美冬にだって分かっている。
 とても魅力もお金もある人だ。今まで何もなかったということはないだろう。

 槙野が一生懸命言い訳してくれるのが嬉しくて、つい意地悪したくなっただけなのだ。

「そのいろいろって綾奈さんのことも?」
「なんもねえわっ! お前はそこで大人しくしてろ」
 面白いのでからかっていたら怒られて、美冬はロビーにある椅子に座らされてしまった。
「はいはいー」

 美冬をロビーに置いて、槙野はカウンターにチェックインしに行く。
 チェックインカウンターの女性が槙野に気付いて笑顔になった。
 にこにこと何か話している。

──そっかぁ……抱かれてしまうんだ。
 そう思うと緊張してきた美冬である。でもそれでも今日はするんだっと心に決めていた。

 ふと見るとチェックインカウンターに男性がいて槙野と立ち話をしていて、槙野が美冬を手招きしている。

 美冬は自分を指さし、ん?と首を傾げると、槙野はこくこく頷いていた。
 どうやら来い、ということのようだが。

「どうしたの?」
「おめでとうございます」
 カウンターの男性に言われて、槙野は非常にバツの悪そうな顔をしていた。

「さっきのアレ、SNSに上げられてる。おめでとうのタグ付きで身内に拡散されてた」
「当ホテルの支配人です。この度はおめでとうございます。いやー、うちでやって下さっても良かったのに」
「はー、もう勘弁してくれ」

 か……拡散とは……。
 自分がプロポーズされる場面が拡散されていると聞いて涙目になる美冬だ。

「もーっ、祐輔のバカっ!」
「俺だよっ」
「いやいや、好印象ですって。こうして見てもお似合いのお二人ですし、当ホテルも応援致しますよ」

 少し準備しますので、お待ち下さいねと言った支配人は従業員になにか指示をしている。

「お早めに言って頂けたら、準備しておいたんですけどね」
 そういう支配人の目が三日月みたいになっていた。

 ──ちょ……そんな目で見ないでっ!

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