契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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16.濡れ衣なんだっ!

濡れ衣なんだっ!④

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「なるほどな。したことない美冬ちゃんにはその言葉さえハードルか。真っ赤になって可愛いな。で? 本当はしてくれようと思ったんだ?」
「なのに、あんなこと言うから……」

 今度こそ本当に堪えることなんてできなくて、槙野は思いきり美冬を抱きしめた。

 その抱かれ方はあの契約婚をすると言った時のことを美冬に思い起こさせる。
 それでも、美冬はあの時と今は全く気持ちが違うということを強く感じた。

「すげえ好き。だから甘えられたら、きっと強引にでも奪ってしまいそうだと思ったんだ。好き過ぎて、美冬の意思に反することはしたくねえって思ったんだよ。甘える美冬ってむちゃくちゃ可愛いからな」

 大きな身体で強く抱きしめられるだけでも安心するのに、大好きとか可愛いとかたくさん言われ過ぎて、もはや美冬はどうすればいいのか分からない。

「甘えちゃ、ダメ?」
「ダメなわけない。俺だけに甘えろ」

「そんなの、祐輔だけに決まってるでしょ」
「お前、俺を殺す気かよ」
 耳元で低く囁かれて、それだけで美冬はきゅんとして力が抜けそうで、ぎゅうっと槙野に掴まる。

「家まで我慢できねぇ」
「っ……な、なに言ってるのよ。大事なお仕事でしょ?」
 その時、槙野の胸元で携帯が振動した。抱きついていた美冬にもその振動は伝わる。

 槙野は名残惜しそうに美冬を離し、スマートフォンを確認した。
「うちのCEOが帰っていいってさ。取引先もいたく満足したそうだ。演し物だった訳じゃなかったんだけどな」

 美冬は両手で顔を覆った。
「あんなにたくさんの人の前で~っ」
「お前なあ、恥ずかしいというなら俺の方だろうが。あそこにいる人たちとはまだ今後も付き合いがあるんだぞ。一生言われるんだからな!」

 それを槙野が考えなかったことはないようにも思うのだが、考えなかったとすればそれくらいに美冬が欲しかったということなのだろうし、考えていたとすれば、美冬の逃げ道は絶たれたわけだ。

 どちらにしても、お互いに逃げようのない状況を作った。

 天然とか計算とかそういうことではなくて、槙野の本能的な策略なのではないか。
 メールを送った片倉はちっとも離れようとしないガーデンの二人を見て苦笑した。

 槙野はとても包容力があって大人な反面、時折小学校男子か!?と思うようなところがある。
 以前に見かけた二人はそんなことすら理解し合っていて、お互いを想いあっているように見えたのだ。

 一生に一度のプロポーズをあの場でオープンにしてしまう槙野も、受け入れる美冬も本当にお似合いだ。

 ガーデンから中を見る槙野と目が合った。
『はやくかえれ』
と口の動きで知らせる。

 槙野はこくりと頷いて、美冬の肩を抱いてガーデンの出口から出ていった。

 肩を抱かれつつ会場から出ることになった美冬は戸惑っていたのだった。
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