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16.濡れ衣なんだっ!
濡れ衣なんだっ!③
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きゅっと槙野の手を握り返す美冬だ。
「本当よ」
「契約だからか?」
改めて、槙野は確認する。
もうすれ違うのは御免だ。
美冬は首を横に振った。
「最初はそうだったの。でも祐輔はとてもいい人だもの。面倒見が良くて、優しくて強くて、仕事もできて見直すことだらけだった。最初は会社のための契約のつもりだったけど、一緒にいる時間が長くなるほどそんなものには収まらなくなったわ」
「俺もだよ。最初は契約だって思ってた。けれど美冬はいつも一生懸命だし、意外なことばかりして可愛くて目が離せない。契約書は有効だけれど、契約前提の結婚だとは思わないでほしい。俺は美冬を大事にしたくて……愛してる」
契約ありきの結婚の予定だった。
けれど今は違う。
二人の想いがあって結婚を決めて、その中の一部としてあの契約書がある。
あれは単なる二人の間の約束事に過ぎないということなのだ。
「早めにあの婚姻届、出しに行くか」
「そうね。そうしましょう」
そうして、会場の中に戻ろうとした槙野を美冬の手が引っ張る。
「何だ? キスか?」
「違うわよ。祐輔の方の事情は何だったのかなって……」
「あー……」
ガーデンからは室内のパーティの様子が見える。綾奈が国東に腕を絡めているのも見えた。
「アレだな」
「綾奈さん?」
「あやうく結婚させられるところだったわけだな」
「あら。可愛くてセンスのある方だけれど」
「俺の好みではないんだ。申し訳ないが」
「そうよ! 私だって好みじゃないとか言われたのよね。どういう人が好みなのよ?」
槙野はため息をつく。
キスさせてくれないだろうか。
美冬はとっても頑固な顔をして槙野を見上げていた。
答えなくてはキスなんてさせてくれそうにない。
「それはあの時の話だろうが。今の俺の好みは美冬だよ。そんなの変わるもんだろう。自分の好きな人が好みなんだ。そういうもんじゃないのか?」
そんな風に槙野に説明されて、美冬は妙に納得してしまった。
「それを言うなら確かに私も出会った時の祐輔は好みに当てはまらなかったかも」
むしろ、怖くて苦手だったのだ。
槙野はそうだろう?という顔をする。
「でも、今はとても好みだと思うし大好きだわ。本当、不思議ね」
「そういうもんだ」
槙野は美冬の顔に自分の顔を近づけたら美冬が口を開いた。
「あとひとつっ!」
「まだあるのかよ!」
「甘えるなってどういうこと?」
「お前……」
槙野は顔を横に向ける。
「起きてたのか」
美冬も思わず俯いてしまった。
「あ……の、すごく寝かかっていたのよ? 違うの。本当はあの日、ちゃんとしようって思ってた」
「ちゃんとしよう?」
「えっと……そういうこと。あの、ソレ。ベッドでするやつ」
「セックスか?」
真っ赤になった美冬が槙野の肩をポンっ!と叩く。
「あからさまに言わないでよっ!」
「あからさまもくそも、その通りだろうが」
槙野は腕を組んで、美冬に向かって首を傾げた。恥ずかしがって俯いている美冬の風情は本当に可愛いのだ。
「本当よ」
「契約だからか?」
改めて、槙野は確認する。
もうすれ違うのは御免だ。
美冬は首を横に振った。
「最初はそうだったの。でも祐輔はとてもいい人だもの。面倒見が良くて、優しくて強くて、仕事もできて見直すことだらけだった。最初は会社のための契約のつもりだったけど、一緒にいる時間が長くなるほどそんなものには収まらなくなったわ」
「俺もだよ。最初は契約だって思ってた。けれど美冬はいつも一生懸命だし、意外なことばかりして可愛くて目が離せない。契約書は有効だけれど、契約前提の結婚だとは思わないでほしい。俺は美冬を大事にしたくて……愛してる」
契約ありきの結婚の予定だった。
けれど今は違う。
二人の想いがあって結婚を決めて、その中の一部としてあの契約書がある。
あれは単なる二人の間の約束事に過ぎないということなのだ。
「早めにあの婚姻届、出しに行くか」
「そうね。そうしましょう」
そうして、会場の中に戻ろうとした槙野を美冬の手が引っ張る。
「何だ? キスか?」
「違うわよ。祐輔の方の事情は何だったのかなって……」
「あー……」
ガーデンからは室内のパーティの様子が見える。綾奈が国東に腕を絡めているのも見えた。
「アレだな」
「綾奈さん?」
「あやうく結婚させられるところだったわけだな」
「あら。可愛くてセンスのある方だけれど」
「俺の好みではないんだ。申し訳ないが」
「そうよ! 私だって好みじゃないとか言われたのよね。どういう人が好みなのよ?」
槙野はため息をつく。
キスさせてくれないだろうか。
美冬はとっても頑固な顔をして槙野を見上げていた。
答えなくてはキスなんてさせてくれそうにない。
「それはあの時の話だろうが。今の俺の好みは美冬だよ。そんなの変わるもんだろう。自分の好きな人が好みなんだ。そういうもんじゃないのか?」
そんな風に槙野に説明されて、美冬は妙に納得してしまった。
「それを言うなら確かに私も出会った時の祐輔は好みに当てはまらなかったかも」
むしろ、怖くて苦手だったのだ。
槙野はそうだろう?という顔をする。
「でも、今はとても好みだと思うし大好きだわ。本当、不思議ね」
「そういうもんだ」
槙野は美冬の顔に自分の顔を近づけたら美冬が口を開いた。
「あとひとつっ!」
「まだあるのかよ!」
「甘えるなってどういうこと?」
「お前……」
槙野は顔を横に向ける。
「起きてたのか」
美冬も思わず俯いてしまった。
「あ……の、すごく寝かかっていたのよ? 違うの。本当はあの日、ちゃんとしようって思ってた」
「ちゃんとしよう?」
「えっと……そういうこと。あの、ソレ。ベッドでするやつ」
「セックスか?」
真っ赤になった美冬が槙野の肩をポンっ!と叩く。
「あからさまに言わないでよっ!」
「あからさまもくそも、その通りだろうが」
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