契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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16.濡れ衣なんだっ!

濡れ衣なんだっ!②

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「逃げないよ」
 指輪を美冬の左手薬指に付ける。

 会場は今日イチの盛り上がりを見せた。
 ちなみにこの時の写真を手持ちのスマートフォンで撮ったのは一人二人ではなくて、それをSNSにタグ付きで上げたのも、一人二人ではなかった。

 そのビルはプロポーズが成功するビルとして話題になるのは後日のことである。
 取引先も話題になることで非常に喜んだことも後日の話だ。

 そして今はレセプションパーティ会場である。
「素敵! 素敵だわ!」
 綾奈も涙を流しながら感動していた。

 ちょっと涙もろいのかもしれないが悪気はない人物なのも間違いはなかった。

「本当。あの槙野さんがねー。年貢の納め方も派手だなあ」
 国東が感心したような声を上げる。

 その声に気付いて綾奈が顔を上げ国東を見た。
「あなたは?」
 綾奈が尋ねる。

「僕は株式会社ソイエの代表をしています、国東と言います」
「あら、繊維の会社でなくて?」
「ああ、そうです。よくご存知ですね」

「私の母はエス・ケイ・アールという会社の代表なんです」
「ケイエムさんか!」

 さすがに繊維の専門商社を経営しているだけのことはあって、国内のアパレルブランドのことには国東は詳しいのだった。

 それを見た槙野が声をかける。
「綾奈さん、そいつも独身ですよ」
「お祖父さんに私を紹介してほしいと言ったくらいだから、フリーかもしれないわね」
 美冬は悪気なく付け加える。
「え?」

 綾奈の瞳がキラキラと国東の方を見ていた。
 国東はゾッとしたような顔になる。
「色々詳しいお話を聞かせてくださる?」

 国東は大福に……いや、綾奈に拉致された。悲鳴が尾を引いている。

「成仏しろ国東」
 槙野はその姿にそっと両手を合わせた。
「死んではないでしょ」
 美冬は国東の姿を見守りながら、さらりと槙野に言う。

 会場はもう演し物は終わりか、とばかりに落ち着いた雰囲気を取り戻していた。

 片倉が笑って槙野と美冬に近寄ってくる。
「派手だな、槙野」
「こんなつもりじゃなかったのに」

「いや、運営会社の社長は非常に喜んでいらっしゃった。よかったよ。改めておめでとう。おめでとうございます、美冬さん」

 片倉の隣で浅緋も嬉しそうな顔をしていた。
「槙野さんには本当にお世話になったもの。お幸せそうで嬉しいわ」

 浅緋は両手の指を絡めて、顔の前できゅうっと握っている。先程の告白にいたく感動したようだった。

「うん。幸せだよ」

 槙野はそんな浅緋と、浅緋を微笑ましげに見つめている片倉にも、幸せだと胸を張って言えることをとても嬉しく思った。

「ちょっと、美冬に話があるから外す」
 槙野は美冬の手を繋いで、二人の前を離れてガーデンの方に移動する。

 ガーデンはレストラン階に緑が配置されていて、ビルの中のオアシスだ。
 夜はグリーンにライトアップされているのが美しくて良い雰囲気だった。

「予定外のことが起きてしまった」
「すごく恥ずかしかったわ」
「悪かったな」
「でも嬉しかったの」
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