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14.熊に負けた狼
熊に負けた狼③
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そんな中、美冬はエス・ケイ・アールとの業務提携について検討を始めていた。
正式に書面を交わし、お互いのプロジェクトの責任者とのミーティングをすることになっている。
他にも槙野と一緒に出なくてはいけないレセプションパーティの衣装や、結婚式のこと、考えなくてはいけないことは山積みだった。
「ただいま」
「お帰りなさい」
モフっとしたパーカーとショートパンツにソックスが美冬のルームウェアだ。それに今日は家でも作業していたので、ブルーライトカット眼鏡をしている。
玄関にそんな美冬が出迎えてくれたのだ。
「祐輔? どうしたの? 疲れた?」
「いや……」
──可愛すぎかよ……。
リビングに足を踏み入れた槙野は苦笑する。資料が散らばって、あちこちに付箋の貼ったメモが置いてある。
「見てやろうか?」
そう言って槙野はジャケットを脱ぐ。
「いいの? だって帰ってきたばかりじゃない」
ペタンとラグに座る美冬が果てしなく可愛い。それに仕事に一生懸命なところも。
(眼鏡とか、すっげー可愛い)
早く二人きりでイチャイチャするには仕事を終わらせるしかないのだ。
「ほら、何に悩んでんだ?」
ソファに座って散らばっている書類の付箋を確認する。
「あ、えっとね……」
膝に置かれた手や、肩越しに見えるすんなりした足とか、無防備な素顔が槙野の目に入った。
「美冬……」
名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめたら、肩を押された。
美冬の目が泳いでいる。
「見てくれるんじゃないの?」
確かにそう言ったけれど。
「見ないなら、シャワーとか浴びてきたら……」
どうしたのだろうか?
抱きしめたら拒否されるように肩を押されたのだ。
シャワーってもしかして、汗臭いとか!?
いや、今日は汗をかくようなことはしていない。
──もしかして……加齢しゅ……いや、そんな訳は……そんな訳はない……ハズ……。
しかし、自分では分からないと言うし、槙野はそれなりに気を配っていて朝晩のシャワーは欠かさず、きちんとパフュームも使用している。
いい匂いとか、官能的な匂いと言われたことはあるが、まだ加齢臭は大丈夫のはずだ。
槙野がぐるぐるしていると、美冬はハッとしたような表情になった。
「ごめん! 仕事から帰ってきたところなのに。やっぱりいいわ」
「そんなことは気にしなくていい」
美冬と仕事の話をすることは別に嫌いではない。槙野が書類を手にしようとしたら、美冬は書類を片付け始める。
「ごめん。本当にいいの。会社でやるわ」
慌てた様子で書類を全部片付けてしまって、槙野の手の行先はなくなる。
もういい、なんて顔をしていないくせに急にこんなことを言い出して本当にどうしたのだろうか?
いつもなら、素直に書類を渡して、わいわいと二人で言い合えるはずなのに。
「美冬、シャワー……とか浴びてきた方がいいか?」
「そうして!」
え?ホントに?即答!?
槙野が肩を落としつつバスルームに向かうのに、美冬は先日の言葉に頭を占領されていたのだ。
『甘えるな……美冬』
槙野は面倒見がいいから、美冬が甘えたら、きっとどこまでも見てくれようとしてしまう。
正式に書面を交わし、お互いのプロジェクトの責任者とのミーティングをすることになっている。
他にも槙野と一緒に出なくてはいけないレセプションパーティの衣装や、結婚式のこと、考えなくてはいけないことは山積みだった。
「ただいま」
「お帰りなさい」
モフっとしたパーカーとショートパンツにソックスが美冬のルームウェアだ。それに今日は家でも作業していたので、ブルーライトカット眼鏡をしている。
玄関にそんな美冬が出迎えてくれたのだ。
「祐輔? どうしたの? 疲れた?」
「いや……」
──可愛すぎかよ……。
リビングに足を踏み入れた槙野は苦笑する。資料が散らばって、あちこちに付箋の貼ったメモが置いてある。
「見てやろうか?」
そう言って槙野はジャケットを脱ぐ。
「いいの? だって帰ってきたばかりじゃない」
ペタンとラグに座る美冬が果てしなく可愛い。それに仕事に一生懸命なところも。
(眼鏡とか、すっげー可愛い)
早く二人きりでイチャイチャするには仕事を終わらせるしかないのだ。
「ほら、何に悩んでんだ?」
ソファに座って散らばっている書類の付箋を確認する。
「あ、えっとね……」
膝に置かれた手や、肩越しに見えるすんなりした足とか、無防備な素顔が槙野の目に入った。
「美冬……」
名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめたら、肩を押された。
美冬の目が泳いでいる。
「見てくれるんじゃないの?」
確かにそう言ったけれど。
「見ないなら、シャワーとか浴びてきたら……」
どうしたのだろうか?
抱きしめたら拒否されるように肩を押されたのだ。
シャワーってもしかして、汗臭いとか!?
いや、今日は汗をかくようなことはしていない。
──もしかして……加齢しゅ……いや、そんな訳は……そんな訳はない……ハズ……。
しかし、自分では分からないと言うし、槙野はそれなりに気を配っていて朝晩のシャワーは欠かさず、きちんとパフュームも使用している。
いい匂いとか、官能的な匂いと言われたことはあるが、まだ加齢臭は大丈夫のはずだ。
槙野がぐるぐるしていると、美冬はハッとしたような表情になった。
「ごめん! 仕事から帰ってきたところなのに。やっぱりいいわ」
「そんなことは気にしなくていい」
美冬と仕事の話をすることは別に嫌いではない。槙野が書類を手にしようとしたら、美冬は書類を片付け始める。
「ごめん。本当にいいの。会社でやるわ」
慌てた様子で書類を全部片付けてしまって、槙野の手の行先はなくなる。
もういい、なんて顔をしていないくせに急にこんなことを言い出して本当にどうしたのだろうか?
いつもなら、素直に書類を渡して、わいわいと二人で言い合えるはずなのに。
「美冬、シャワー……とか浴びてきた方がいいか?」
「そうして!」
え?ホントに?即答!?
槙野が肩を落としつつバスルームに向かうのに、美冬は先日の言葉に頭を占領されていたのだ。
『甘えるな……美冬』
槙野は面倒見がいいから、美冬が甘えたら、きっとどこまでも見てくれようとしてしまう。
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