契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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14.熊に負けた狼

熊に負けた狼②

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 ただ、こんな時に美冬が自分を頼ってくれるような関係性になれたらいいのに、と強く思って肩にもたれている美冬の頭をきゅっと抱き寄せたのだ。

「デリバリーでも頼むか? 何がいい? ピザ? 鮨?」
「ピザとか最近食べてない! ピザがいい!」

 散々はしゃいで二人でピザを食べ、引っ越し祝いだと槙野はストックしていた、いいワインを開けた。

 疲れもある、お腹もいっぱいになりいい具合にアルコールが回っていて、お風呂から出てきたときには美冬の目は半分閉じていた。

「お先……」
「水飲んどけよ?」
「うん……」

 嫌な予感はしたが、槙野が風呂から上がったときにはソファでクマを抱いた美冬は舟を漕いでなんならもう沖まで出てしまっている。

 槙野はさすがにため息が出た。
「まあな、そうかなとは思ったけどな」

 美冬の腕からそっとクマを外し、槙野は美冬を抱き上げた。人肌の温もりを感じたのか、美冬がきゅうっと抱きついてくる。
 こんな風に甘えられたら、契約だったなんて忘れそうになる。

 契約婚なんて決めた理由はきっと、美冬は会社のためだったのだろうに。

 美冬は魅力的だ。時間がくればいずれ彼女を見出す男もできただろうし、彼女も自分から好きになれる人を選べたかもしれない。
 けれど、そんなこととは関係なく、もう今や槙野は美冬が欲しい。

 美冬が仕事が好きで、会社が好きなことは見ていて分かっているのだ。
 会社に行った時も、槙野の企画を見て美冬は目をキラキラさせていた。槙野の片倉に一蹴された企画さえ夢があると嬉しそうにしてくれていた。

 槙野だってあれが通らないことなど分かっていたけれどそれでも私は好き!と言う美冬が愛おしい。
 槙野はそっと美冬の身体をベッドに降ろし、布団をかけてやった。

 甘えられたら、誤解する。
 自分に対して好意があるのではないかと勘違いしてしまう。

「俺に……甘えるな、美冬」
 甘えられたら、もう歯止めなんて効かない。



 美冬は起きていなくては!と思ったのだ。
 起きていて、ちゃんと今日は最後までするのだっ!と思っていたのだ。

 けど、思ったよりも身体が疲れていたし、槙野が勧めてくれたワインが美味しすぎた。
 美冬が甘めでさっぱりした口当たりのものがいいと言ったら、甘めでさっぱりしているワインを選んでくれて、それが美味しくて飲みすぎてしまった。

 槙野がそっとクマを外した時、お風呂から上がってきたんだな、ということは美冬はなんとなく分かった。

 だから、抱き上げてくれた槙野にきゅうっと抱きついたのだ。
 一緒にいればいるほど好きになってしまうし、美冬を大事にしてくれていると感じる。

 この人でよかったんだ……。
 そっとベッドに降ろされた時半分意識はなかったけれど、そういうことがあるならあってもいいと思ったのだ。

 なのに、耳元に聞こえた低い声は……
「俺に甘えるな……美冬」
 そんな声で。
 どういうこと?どういうことなの?

 美冬は聞きたかったけれど、眠気に逆らえずに眠りに落ちてしまったのだ。

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