契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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11.私がやりました……

私がやりました……⑤

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 美冬はずっと槙野の好みのタイプはナイスバディの美女なんだろうと思っていた。
 だってそんな人が槙野の隣にいたらきっととてもお似合いだ。

 けれど、槙野は美冬を『好みじゃない』と言ったのだ。
 もしもそれが、浅緋のようなタイプだったのだとしたら……。

 確かに私みたいのは好みじゃないわ。
 妙に納得してしまった。
 それに多分こんな素敵な女性になんて、勝てる訳がない。

 紅茶を飲むひとつひとつの仕草がエレガントで、隣にいる片倉に時折話しかけ、囁く時さえ可憐で、目が合うと美冬にもにこりと微笑んでくれる。

 ──素敵すぎる。

「まあ確かに、槙野がそこまで言う相手も珍しいね」
 片倉がそう口を開いて美冬はハッとした。

 つい、浅緋に見とれてしまっていたけれど、この場には槙野の上司である片倉もいるのだ。

「条件、と言うけれど恋愛にしろ婚姻にしろ意識無意識は別にしてどこかで条件には当てはめているものだ。二人が冷静にそれを見極めているのであれば僕は逆に素晴らしいことなんじゃないかと思うがね」

 意識無意識は別にして……。
「それってどういうことですか?」
 そう尋ねた美冬を片倉は面白そうな顔で見返す。

「例えば、合コンのようなものがあったとしよう。美冬さんはどういう人を連れてきてほしいですか?」

「特にこれと言って希望は伝えません」
「どうして?」
「好みは? と聞かれても特にないから」
 はあ!?と文句を言いかけた槙野を片倉は制する。

「じゃあ、あの人が来たらどうだろうか?」
 あの人、とそっと片倉が指を差した人はなかなかお年を召したご老人だった。美冬は困ってうろたえる。

 年齢的にも釣り合わないような気がするが、片倉が何を言いたいのかが分からない。
「それは……。あの、良い方かもしれませんけど、私よりももっとお似合いな素敵な方がいらっしゃるかと」

 そうして見ていた目線の先で、ご老人はロビーに来た老婦人と一緒にどこかに行った。

「今のだって誰でもいい、というわけではない。無意識に選別しているんですよ。年齢、もっと細かく言えば、身長、顔の好み、仕草や接点があればその人が発する言葉なんかもね。だから槙野にとっても、美冬さんにとっても誰でもよかったわけではないお互いが良かった理由があるはずですよ」
 片倉の穏やかな声は美冬の心にもすうっと染み込んだ。

「槙野がそういう選択をしたのは意外だけれど、この上もなく槙野らしいとも思う。心からお祝いするよ」
「ありがとう」
 槙野はまっすぐに片倉を見つめ返しそう伝えたのだった。

 ──誰でも良かったわけではないお互いが良かった理由。
 そんなものはないと美冬は思っていたけれど、違うのだろうか。

 美冬が槙野を見ると、槙野も美冬を見ていたので思わず美冬は顔を伏せてしまった。

 槙野の顔が思いのほか真剣だったから。


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