契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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13.落ち着いて

落ち着いて④

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 あの人が好きだったとか言われたら、なんだか立ち直れないような気がするのだ。

「時期的に結婚の発表のニュースリリースの直後になるから、心の準備はしておいてくれ」
 そうなのだ。

 槙野のためにも会社のためにも美冬はそれなりの立場としてその場には立たなくてはいけない。

「分かったわ。パーティ用のドレスも用意しておくね」
「楽しみにしてる。その頃には婚約指輪もできていると思うから」

 ソファを立った槙野は美冬の額に軽くキスをしてから部屋を出ていった。
 美冬は先程は槙野に咎めたため息を一人でこっそりとしていた。

(それは、そうよね。祐輔には立場もあるし、人前にパートナーを連れて出なくてはいけないこともある)

 そういった意味ではミルヴェイユの代表でもあり、アイコンでもある美冬はそれなりに見映えがするし、都合がいいかもしれない。

 槙野の事情は未だに聞くことができていないのだけれど、そのようなものもあるのかもと美冬は考えたのだった。適齢期にそれなりのパートナーが必要だという。


 その後、槙野は美冬の実家にも挨拶にきてくれた。ニュースリリースも同じくらいの時期にお互いの会社から発表される。
 大きなニュースにはならなかったけれど、経済界の一部や、アパレル業界内では少し話題になったようだった。





「品があっていいネクタイですこと」

 ミルヴェイユとの業務提携を希望しているエス・ケイ・アールの木崎は槙野を流し見てさらりとそう言った。

 美冬はあの指輪を買いに行った日、三本ほどのネクタイを選んで槙野にプレゼントしてくれており、今日はそのうちの一本を締めてきていた。

「ありがとうございます。婚約者が選んだので」
「そうでしたわね、ミルヴェイユの椿さん。ニュースリリース拝見しましたわ。おめでとうございます」

 木崎が目を細め、にこりと笑う。
 目の奥が笑っていないのが非常に怖いところだ。

「木崎さんからお話をいただいた時俺は彼女にアプローチ中でした。ご希望に添えなくて申し訳ないが」

 さらりと槙野が言うと木崎から密やかに声が返ってくる。
「まだ、ご結婚はされていないのよね?」

──怖い!怖すぎるんだが‼︎まさか、まだ諦めていないなんてことは……。

「すぐしますけどね」
 背中がぞくっとすると共にまだ池森に思い知らせていなかったと思い出した槙野だった。

 槙野は素知らぬ顔で資料を取り出す。
「では、今回の件はビジネスマッチングとしてコンサルティングの形を取らせてもらうつもりでいますが、いいですか?」
「ええ、構いません」

「うちでも継続的にコンサルティングしつつサポートしていきます。ただ、このお話はまだミルヴェイユには伝えていません。双方の合意があってからお話を進めていくので、そこはご了承頂きたい」
「もちろんだわ」

 この日はミルヴェイユと木崎社長との顔合わせを予定していた。
 その前に従前から取引のある木崎との面談を先に入れたのだ。

 プライベートな話があったのはこの時だけで、その後はビジネスの話に終始した。ケイエムは順調に利益を伸ばしていると聞いて安心した槙野だ。
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