契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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13.落ち着いて

落ち着いて③

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 どうしたらいいんだろうか。婚約者が魅力的すぎる。

「祐輔?」
「ん?」

「ありがとう。メールの話も教えてもらってすごく助かったわ。悪い話じゃないのは良く分かったし。一緒に仕事するの、楽しみにしているね」

「美冬」
 槙野は堪えきれずにソファで隣に座っている美冬を肩から抱きしめる。


(抱きしめられたらこんなに安心するのに。こんなに落ち着くのに)

 美冬は『落ち着かない』というその言葉の意味を本当の意味では理解していなかった。

 ふと顔を上げたら、槙野の顔がとても近くてとても切なげに美冬を見ていたりするから。
 どうしてそんな瞳で美冬のことを見ているのだろう。

 目を合わせているのが気恥ずかしくなって、かといって急にそらすこともできず、ゆっくりと美冬は目線を槙野の鼻から唇へ、と落としていく。

 精悍な顔だとはずっと思っていたけれど、近くで見るとすうっと通った鼻筋だ。
 唇も厚すぎず、薄すぎもしないそれが少し開いて白い歯がそのセクシーな唇の間からチラッと見えた時、この人色気のある人だなと頭のどこかでは冷静に思ったのだ。

 それが美冬の唇に重なって、唇の隙間から舌が入り込んできた。
 緩く舌が絡み合う合間に二人の甘くて熱い吐息が部屋の中に響いているような気がする。

 声を出さないようにしなければと思うほどに、吐息の音ばかりが大きく耳に響く。
 呼吸の音とはこんなにエロティックなものだっただろうか。

 槙野のは……っという堪えきれないようなその呼吸音が美冬の耳に届くたびに、美冬の背中を甘い電流のようなものが走り抜ける。

 美冬は腕を伸ばして槙野の身体にぎゅっとしがみつく。
 槙野も美冬の身体に腕を回してしっかり抱き寄せた。

 二人の間に肘置きがあるせいで、微妙な距離なのがもどかしい。

「肘置き……邪魔だな」
 美冬はふふっと笑う。
「それ、私も思った」
 けど、そのせいで冷静になれた。

 でなければこのままキスを続けて、どうなってしまったか分からない。

「キスしに来たわけじゃなかったはずだが、それ目的も悪くない」
 そう言って美冬の唇の端を槙野は指でつついた。

 そんないたずらっぽい顔は本当に魅力的で困ってしまうんだけど!

「そうだ、お願いがある」
「ん? なに?」

「二週間くらい後のことにはなるんだが、新しくインテリジェンスビルがオープンするのを知っているか?」
 もちろん知っている。

 ミルヴェイユは入らないけれど、いくつもの高級ブランドが出店すると話題になっている大きなビルだ。

「うちも一部絡んでいて、それのレセプションパーティが今度、ビルの中のホールである予定なんだ。一緒に来てくれないか? 片倉も奥さんの浅緋さんを連れてくると言うし」

 浅緋さん……その名前を聞いて、美冬は固まってしまう。

 浅緋自体はとても素敵な人だ。結局あの後もミルヴェイユの服が気に入ったから、と何点か購入していってくれた。

 けれど、あの時の槙野の表情が美冬には引っかかっている。
 素直に聞いたら教えてくれるかもしれないけれど、美冬にはそれはできなかった。
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