契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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12.ナニしに来たの?

ナニしに来たの?⑤

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 そう言って足元のカバンから資料を取り出して、ソファを指差すので美冬は頷いた。
 槙野の前に座ろうとすると隣に手を引かれる。やむなく美冬は槙野の隣に座ることにしたのだ。

「これは資料だ」
 そう言って槙野が渡してくれたものは、一冊のファイルだ。
 渡されたファイルを美冬は開いて確認してみる。

 それにはミルヴェイユの業績や売り上げなど数字がグラフ化されたものまで掲載されていてかなり細かく分析されていることが分かった。

「すごいわ……」
 美冬は目を見開いて感心する。そして食い入るようにファイルを見た。

「出資は難しいと言ったんだが、あれは正確ではない。正確には出資は必要ない。十分にまだまだ伸びしろのある会社なんだ」

 きっぱりと槙野がそう言って、美冬は肩の力がふうっと抜けた。槙野にはそう見えている、ということが美冬には嬉しかったのだ。

「そっか……まだまだ伸びしろがあるのね」
「嬉しそうだ」
「それはもちろんだよ」

「そうか。いろいろ見せてもらった。美冬はとても頑張ってる」
「え……」
 槙野がこんな風に美冬を褒めるとは思わなかった。

「けど、まだまだ甘い。コンペに参加したということは事情があったにせよやる気はあるんだよな。俺がアドバイザーになるからには必ず成功させる」

 美冬を真っ直ぐ見るその眼は本当に肉食獣のようで、美冬には怖いこともあった。けれど、今はこの人が味方になってくれるということがとても心強い。

「よし! お願いします!」
 美冬は槙野に負けないくらい真っ直ぐな視線で笑顔を向ける。槙野はそれに向かってにっと笑って見せたのだった。

「遠慮はしない」
「しなくていいです」
 そう返すとふっと槙野に笑われた。

「急に敬語か?」
「だって、そうなっちゃう。祐輔はすごいもの」
「俺に敬語は使わなくていい。アドバイザーではあるけど、フランクに意見は言ってほしいからな」

「いい……の?」
「そんなことで言いたいことも言えなくなるより、活発に意見が交換できたほうが面白い仕事になるんだ」
 それには美冬も同感だ。

 槙野は手元の自分の資料を開いた。
「じゃあ、説明する。ミルヴェイユは大きく業績は下がっていない」

 販路が問題だと槙野は言う。それは美冬も薄々感じていた事ではある。

「販路……ね。ネット掲載にも限度があるのよね」
「実際それにも広告宣伝費がかかるからな。かといってすべてを網羅することは難しいし、ブランドイメージもあるからそこは維持したい。けど新しい販路は欲しい」

 そうなのだ。
 祖父が50年以上もかけて作り上げたブランドイメージだ。美冬もそれを損なうようなことはしたくなかった。

「秘密保持契約もあるから詳細には説明できないが、今、ミルヴェイユと業務提携したいという会社がある。メールはその件だ」

「秘密保持契約があるから、あのメール内容だったのね」
「詳細が分からなくて美冬がムズムズしてるんじゃないかと思ってな」

 バレている。
「ムズムズって言うか……気にはなっていたけど」



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