契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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12.ナニしに来たの?

ナニしに来たの?④

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 そこへコンコンとノックの音がした。
「あの……社長」
「はい」

 デスクの前にいた美冬にドアを開けた秘書が声を掛けてくる。

「お客様なのですけれど……」
「あれ? アポ入ってた?」
「いいえ。アポなしなんだけど、と仰っていて」

「どなたかしら?」
「それが、グローバル・キャピタル・パートナーズの槙野様とおっしゃる方なんですけど」

 美冬の「帰して」という声と、杉村の「お通しして」という声が重なった。
 秘書が目を丸くしている。

「わざわざ社名を名乗って来られているんですから、お返しするわけにはいきませんよね」
 杉村のその一言に言葉を返すことができなかった美冬だった。

「急にすまないな」
 そんな風に言って部屋に入ってきた槙野に秘書の視線が釘付けになっている。

──本当に目立つったら……。

 杉村が槙野に向かって頭を下げた。
「先日、秘書の方とお話させて頂きました。お繋ぎいただいて、ありがとうございます」
「ああ、打合せできたのならよかった」

「大変助かりました。では失礼します」
 そう言って、くるりと振り返り部屋を出て行こうとした杉村がドアの前で足を止める。

「あの……ここはそんなに防音はされていませんので、声が漏れてしまうようなことはちょっと避けて頂けると」

「了解した」
「ちょっと! 真面目な顔で返事するのやめてよ!!」

 そんな美冬にはぐっと親指を上げて、杉村は丁寧に頭を下げて部屋を出ていく。
 杉村が何を考えているかは想像したくなくて美冬は頭を抱えそうになった。

「さて、ああ言ってるが期待に応えるべきか?」
「……っ! 何言って……」
「声が漏れるまではここではしないが」

 手を軽く引かれた美冬が槙野の胸の中に倒れこむと、包み込まれるように抱きしめられて、いたずらっぽい表情の槙野の顔が近づく。
 いつの間にか槙野のその表情に逆らえなくなっている美冬なのだ。

 つい美冬が目を閉じてしまうと、唇を重ねられていた。何度もついばむようにされたり緩く唇を舐められたりして、ふと開いてしまった口の中に侵入されているのだ。

 槙野のキスはいつも情熱的で求められている感じが美冬には心地いい。気づいたら美冬はもたれかかるように槙野の背に手を回していた。

「美冬……」
 耳元でささやかれる甘くて熱い囁きに美冬はつい、きゅうっと槙野につかまってしまう。

「は……」
 つい漏れてしまった吐息に耳元でくすりと笑われた。

「声、出すなって」
「出てない……息が、できないんだもの」

「もう一回するか?」
 甘く熱くそそのかすように耳元で囁かれて、美冬は身体の力が抜けそうだ。

「だめ……」
「なんでだ? 気持ち良さそうなのに?」
「仕事できなくなりそう」

 美冬をぎゅっと抱きしめた槙野からはーっというため息が聞こえてきた。
「早く俺のものになれよ」

 何を言ってるのだろう。契約書に署名した時点で槙野のものになってしまっている気がするのに。

「キスしに来たの?」
 美冬がそう尋ねると目の前の槙野がくすっと笑って美冬の鼻を軽く指でつまむ。
「そうと言いたいがな、違う。仕事をしに来たんだよ」
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