契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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12.ナニしに来たの?

ナニしに来たの?②

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 そこで石丸は「ただ……」と続けた。
「むっちゃ見てるね」
「そうね」

 槙野が二人の方をじっと見ている。
 ──だから目つきが悪いというのだ。

 美冬は怖くはないけれど、石丸は微妙な顔をしていた。
「異性と二人きりになるなって言われてるから」
 契約だけども。

 石丸から、ははっと笑い声が聞こえた。
「すごいヤキモチやきだな。じゃあ、あまりくっつかないようにする」
 そう言って石丸は美冬から距離を取って離れる。

「愛されてんならいい。おめでとう美冬」
「ありがとう」

「なんか美冬の結婚式って華やかになりそうだな。ドレスのデザインは任せてくれるってこと?」
「もちろん! よろしくね」
 美冬のドレスのデザインを考えるのは石丸しかいないのだ。

「腕が鳴るなー。あとで槙野さんに予算を相談させてもらおう」
 腕をぐるぐる回して嬉しそうにする石丸に、お金に糸目はつけないと思う、とは言えなかった美冬である。

 美冬にはメリットばかりのように感じるけれど、果たして槙野にはどうなんだろうかと考えずにはいられない。

 その後会社に戻る、と言う槙野をホテルの入口まで送ることにした美冬だ。
 ホテルの玄関にはすでに迎えの車が来ていた。

「じゃあ、いってくる」
「ん、いってらっしゃい。あ、祐輔」
 呼ばれた槙野は足を止めた。その前に目を伏せた美冬が立つ。

 お礼を伝えるのはとても恥ずかしいような気持ちだけれど、今日槙野が来てくれて、話してくれたことで美冬への直接の責めを受けることがなかったのだ。杉村や石丸も納得せざるを得なかっただろう。

「今日、来てくれてありがとう」
 そう言った美冬の手を槙野が取った。美冬の両手を槙野が握っていて美冬を真っ直ぐに見ている。

「美冬、俺は自分が信頼した人間としか契約は締結しない。それが理由だ」

 そうして槙野はくるっと振り返って車に乗って行ってしまった。その後ろ姿の耳の辺りが少し赤かったような気がする。
 その場に残された美冬は呆然として、頬を赤くして立ち尽くしてしまった。

 ──薬指……撫でられたわ。理由?理由って……。

 それは片倉に言われたお互いがお互いでなくてはいけない理由、なのだろう。
(信頼……してもいいって思ってくれてるんだ)

 美冬は槙野が撫でていった薬指をきゅっと胸に抱きしめる。
 そういうの……ズルいよ。



 その数日後のことである。
『ミルヴェイユ』の本店の入ったビルの中にある社長室で美冬はパソコン画面を睨みつけていた。

 社長室は美冬が引き継いだ時に大幅にリフォームしている。
 祖父がいたときは、昔ながらの応接室という感じだったが、それをモダンでシンプルにデザインし直してもらったのだ。

 社長室に入ると全面大きなはめ殺しの窓が目に飛び込んでくる。
 窓からは街道の並木を見下ろすことが出来た。
 その窓の前には黒のデスクとパソコンチェア。

 パーテーションの奥は簡易給湯があり、部屋の所々には観葉植物がある
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