契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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12.ナニしに来たの?

ナニしに来たの?①

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 四人で会場に戻り、片倉と浅緋は会場内を散策してくると離れて、美冬と槙野はその場に残る。

 美冬がちらりと見ると、槙野は頷いてくれた。
 そうして杉村と石丸に歩み寄っていく。二人は槙野を見て緩く頭を下げた。

「杉村さん、石丸さんお久しぶりです。驚かせてしまってすみません」
 槙野は笑みを浮かべて二人に挨拶をする。

「槙野さんお久しぶりです。驚きました」
 杉村は相変わらず表情は変わらないけれど、怯まずに驚いたと槙野に伝えているところが、彼女らしい。
  石丸は口は開かなかったけれど、腕を組んで静かに槙野と美冬を見ていた。

「急だったんですね」
「はい。一目惚れでしたから」

 結婚や二人の関係について、どこででも槙野はそうやってキッパリ言ってくれる。
 けれど槙野にだけそう言わせるのは美冬は違うのではないかとつい口を挟んでしまう。誤解はされたくない。

「それだけじゃないわよ、私もそれでいいって思ったの。槙野さんは私のこともきちんと考えてくれるし、おじいちゃんにも気に入られているようだし」
「会長が……」

 ミルヴェイユの中での祖父の存在感は大きい。それを聞いて杉村も石丸も口をつぐんでしまった。
 会長が認めているのであれば二人に言うことはない。しかもすでにそこにまで挨拶を終えているとは思わなかった。

 石丸はそれにも衝撃をおぼえたようだ。槙野にそっと歩み寄る。表情は硬いままだった。

「会長にまでご挨拶されているのなら僕らに言うことはありませんよ。でも、美冬さんのことは社員みんなとても大事に思っているんだ。そこはご理解ください」

 槙野はそれにも笑顔で答える。
 ビジネスマンとしては槙野の方が明らかに分があるのは間違いのないところだった。

「もちろんだ。俺だって大事に思っている。それに結婚式ではそちらに負担をかけることになるしな」
「負担?」
 槙野のその発言に石丸が首を傾げる。

「美冬がこちらのデザインのウエディングドレスが着たいと言っている。俺も立場があるのでニュースリリースを弊社でもする予定にはしている」

「あら、そっちでもするの?」
 それを聞いて驚く美冬だ。

「ニュースリリースはする予定だ。会見まではしなくてもいいと考えている。ミルヴェイユだけという訳にはいかないだろう」
 ミルヴェイユにしてみたら、それだけだってとんでもない宣伝効果だ。

「時期については打ち合わせさせて頂いてもいいですか?」

 即座に杉村が反応する。
「では秘書から連絡させましょう」
 槙野はそう言って杉村に笑顔を向けた。

 杉村と石丸の二人が納得していようがしていまいが話を進めていくことには変わりはない。槙野は美冬の陰になり日向になり助けてくれている。
 ミルヴェイユが話題になることは美冬の助けになることでもあるのだ。

──助けられてばかりで本当に悔しいわ。

「美冬」
 ひそっと石丸に声を掛けられて美冬は彼に近づく。

「なに?」
「本当に結婚するの?」
「するわよ。みんな喜んでくれてるじゃない。諒は喜んでくれないの?」
「本当なら喜ばなきゃいけないんだろうけど、急すぎる」
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