契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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10.首輪をつけてやるっ!

首輪をつけてやるっ!③

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 槙野に説明しながら慣れた様子で美冬はネクタイを結んでいく。
「完璧なディンプルを作るには、親指と中指でネクタイをつまんでひだを作って、人差し指で崩れないように固定しながらネクタイを締めるのよ。こうすれば綺麗なディンプルをつくることができるの」

「詳しいな」
 ふふっと美冬は笑う。
 その笑顔のあまりの綺麗さに槙野は美冬の顔に釘付けになってしまった。

「まだミルヴェイユがブランドになっていなかった頃はね、紳士服も扱っていたのよ。と言っても私はその時代をあまり知らないんだけど。おじいちゃんの受け売り」

 出来た!と美冬はキュッとネクタイの形を整えて襟元を綺麗に直す。
「お前にそれを教えたのがおじいさんで良かったよ」
「え?」

 思わず釘付けになってしまった美冬の綺麗さと、綺麗に結ばれたネクタイに槙野は激しく嫉妬するところだった。誰が美冬にネクタイの結び方を教えたのかと考えてしまったからだ。

 外だから抑えたけれど、これが人目のない場所だったら思い切り美冬を抱きしめていただろう。

「これ、付けて行ってくれる?」
 少しだけ恥ずかしげに上目遣いでおねだりされるのは悪くない。
 それに……

(美冬、男にネクタイを贈る意味分かっているのか?)

 槙野が把握しているのは『あなたに首ったけ・あなたを束縛したい・あなたを締め付けたい』などというちょっと重い愛情表現なのかと認識していた。

 確かに首に巻くもののプレゼントは意味深であり、エロティックだ。
 先ほど美冬の薬指に付けた指輪から、首輪と発言した槙野にも美冬は抵抗しなかった。
 それに対する回答がこれならば……。

──もしかして俺は首輪をつけ返された?なんて女だよ。

 槙野の口元には笑みが浮かんでしまう。
「つけてやるよ。お前の首輪」

 一瞬槙野を見てふふっといたずらっぽく笑った美冬は確かに一筋縄ではいかない雰囲気で、槙野はぞくっとした。
「うふふっ、ばれた?」

 本気で欲しい。
 今すぐにでも押し倒したいくらいに。



 槙野の運転で連れて行ってくれた自宅は、極普通の平屋の家で手入れはされているけれど、築年数も経っていそうな古い家だった。槙野の高級車を停めておくことは違和感しかないくらいだ。

「意外か?」
「うーん、まあ……」
 門扉の横の呼び鈴を押し
「ただいま」
と言うと、家からはーい!と声が聞こえた。

「にぎやかだから覚悟しろよ」
 そんな風に言う槙野は美冬が今まで見たことがないような顔をしている。穏やかな家族に見せる顔だ。

(なによ、そんな顔もできるなんてズルいわ)
「おかえりっ! お土産は?」

 玄関先に出てきた女の子は美冬より少し年下に見えた。
 妹だろうか、きりっとした目元が槙野に似ている。

「お前お土産優先かよ。お客さんなんだから挨拶しろ」
「わー可愛い人ですねぇ! お人形さんみたい。おかあさーん! お兄ちゃんが女の人連れて来たよ! こんにちは。どうぞ入って?」

 明るくて、とても元気だ。彼女の声で奥から人がたくさん出てくる。

「いらっしゃい。どうぞ」
と言ってくれた槙野の父は槙野にとても似ていて美冬は笑ってしまいそうになる。

「祐輔、お父様そっくりなのね。はじめまして。椿美冬と申します。祐輔さんと婚約させて頂いています」
 玄関の入り口で深く頭を下げた美冬に家族の目が集中していた。

「美冬さん! よろしくお願いします!」
「お兄ちゃん、どこで捕まえたのこんな人!」

 玄関で槙野家の家族に取り囲まれてしまう美冬である。
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