契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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10.首輪をつけてやるっ!

首輪をつけてやるっ!②

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 飼い主は自分だとでも言いたげで、ちょっと腹が立つのに、超絶に色気があるのは本当に腹が立つ。
 飼いならすのは自分だったはずなのに、飼いならされるのはすごく悔しい。

「独占欲つよ……」
 美冬がかろうじて言い返せたのはそれだけだ。
「そうだ。覚えておけよ?」
 それにもさらりと言って余裕な表情で笑うのはどうなんだろう。

──むかつくぐらいカッコいいわ。

「あとで、私にも付き合ってね」
 自分も首輪をつけるのだ!
 美冬も力が入ってしまった。

 担当者は店頭から美冬に合いそうで、ダイヤモンドのついた指輪をいくつか持ってきた。
 その中で二人でまた手ごろなものを選ぶ。

 もう美冬は現実感がなくなってきた。
 最終的に槙野が選んだものをその場でこのままつけて帰るということになったのだ。

 精算の時に槙野が店員に黒いカードを渡しているのを美冬は見る。
(なるほどー、センチュリオンホルダーな訳ね)

 それは通称ブラックカードと呼ばれるもので、億の決済すら可能なカードだ。作りたいから作れるというものではなくカード会社からのインビテーション、つまり招待がないと作ることはできない。
 センチュリオンと呼ばれるそのカードを持つ人をセンチュリオンホルダーと呼ぶ。

 このショップの婚約指輪にはもちろん値札などついていないが、美冬の知識では300万超のはずだ。先程、首輪代わりにと購入した指輪は約100万円。

──ポンとそれを買い与えちゃうんだ。
 美冬が自分のものだと主張するために。

 指に嵌められた指輪を手を広げてもう一度美冬は見てみる。キラキラと指を飾っていて……言うなれば、主張がすごい。
それでもとても綺麗だったし、やはり嬉しい。
「似合うぞ」
「ありがとう」

 美冬のその言葉に対して、槙野は嬉しそうな笑顔になった。
「気に入ったのなら良かった」
「指輪だけど、首輪なのかぁ。面白いわね」
 そして美冬は首を傾げた。
 契約……よね?



 その後、美冬は槙野に頼んで車をデパートに回してもらうことにする。

──よしっ!首輪を買ってあげる!

 美冬が槙野を連れて行ったのは特選フロアというラグジュアリーブランドの階だ。
 そこでいつもは祖父や父へのプレゼントを買っている美冬が若い男性を連れてきているのに、担当の紳士服の販売員が驚いていた。

「新作のネクタイを見せてもらっていい?」
「もちろんです。こちらの方にですか?」
「ええ。婚約者なの」

 美冬がキッパリそう言うと槙野は苦笑していた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。椿様にはいつも大変お世話になっております。どうぞご贔屓に」

 今日の槙野は紺地にストライプのスリーピースのスーツでシャツは淡いブルーだ。
 今つけているのは臙脂のネクタイでそれも似合っている。

「シルクのソリッドネクタイ、すごく素敵だわ」
 ラベンダーカラーのネクタイを手に取って美冬は槙野の襟元に当てる。

 そして「うん!」と頷くと鏡の前に槙野を引っ張っていった。
「見て?」

 光沢のあるシルク素材とラベンダーという一見華やかそうな色合いもソリッドという柄のないシンプルなデザインのため、紺色のスーツにとても映える。

 槙野は驚いた。
「いいな……」
「でしょ? すごく似合うわ」

 そう言って美冬は今槙野がつけているネクタイをシュルっと外してしまう。
 まさか、ネクタイを外すとは思わなくてつい美冬を見てしまうと、美冬はにこっと笑った。

 そして綺麗に槙野のシャツの襟元を立ててから丁寧にネクタイを結び始める。
「ネクタイの結び目に完璧なディンプル、くぼみのことよ、これを作るには練習が必要なの」
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