契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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10.首輪をつけてやるっ!

首輪をつけてやるっ!①

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 着替えてきた美冬を見て車に乗って待っていた槙野が目を軽く見開いた。
 オフホワイトに黒のサテンで飾られた清楚なイメージのワンピースにパールのネックレスを合わせていたのだ。

 それはまさしく清楚なお嬢様風で、婚約者の家に挨拶に行くお手本のような服装だった。

「本当に押さえてくるよな、美冬は……」
「だって指輪を見にジュエリーショップに行って、その後は槙野さんのお家でしょう?」

「清楚で好印象。さすがだな」
 そう褒めてエンジンをかける槙野を美冬は助手席からじっと見つめた。

 視線に気づいた槙野が尋ねたのは美冬が何か言いたげに見えたからだ。
「何だ? どうした?」
「祐輔って、そうやってすぐ褒めてくれるのね。それってすごく嬉しい。厳しくてよく見ている祐輔だからこそなんか褒められるとすごく価値がある気がするわ。きっと会社でもそうだと思う」

 槙野のことをそんな風に評する人は少ない。特に女性では尚更そうだ。
「本当に美冬は得難いよ」

 恋愛感情だけではないから冷静に槙野のことを見ることができるのだろうか。甘いだけの気持ちではないから。

 ──夢中にさせたい。俺だけしか目に入らなくて、溺れるように好きにさせたい。

 自分はこんなに愛おしい気持ちにもうさせられているのだから。



 ジュエリーショップでは槙野は予約をしておいてくれたようで、店に入る際に名乗ると奥の個室に案内される。

 個室に入るとクラシカルな雰囲気の内装にアンティークで統一された家具の置かれた部屋が用意されていた。

「この度はおめでとうございます」
 と美冬は店員から笑顔で小さなブーケを渡される。
 ありがとうございます、と美冬も笑顔で受け取った。

 清楚でお人形のように可愛らしい美冬に微笑まれて店員もつい頬を赤らめる。女性店員だったのが幸いと言わざるを得ない。

「本日はエンゲージリングをお探しとお伺いしております」
「いくつか希望を言っておいたけれど」
「ご準備させていただいております」

 店員と槙野とのやり取りはスムーズで、時間のない人がいかに時間を無駄にしないかというのを美冬は目の当たりにした気がした。

 実際に美冬は指輪をつけながら、槙野にも見てもらう。
 割とどうでもいいのかと思うと
「さっきのがよくないか?」
 などと意見も言ってくれたりして、槙野はショッピングを一緒に楽しめる相手だということも分かった。

 美冬も気に入ったのだけれど、槙野が美冬に似合うと選んでくれたのは、センターにダイヤモンドが配置されサイドにバゲットカットのサイドストーンが付いたものだ。
 煌びやかでありながら派手すぎないデザインがいい。

「可愛いし、シンプル!」
「そうだな、美冬にも似合ってる。披露宴をするまではちゃんとつけていろよ」
「槙野様、大変恐れ入りますが……」

 担当者が言うにはオーダーのため、渡すまでに時間がかかるという話だった。完成までに二週間ほどかかるというのだ。

「まあ、そうか」
 怒るわけでもなく頷いた槙野はすぐにつけて帰れるものはあるかと尋ねる。

 ──え?まさか……。

 ここのブランドの指輪がとんでもない金額することは美冬はもちろん知っている。
 担当者が席を外したすきに、美冬は槙野の耳元に囁いた。

「ちょ……、まさか買う気?」
「それはそうだろう。でなければ持ってこさせない」
「だって……」

「高いとか言うなよ? 美冬のためじゃない。俺がつけさせたいんだ」
 そう言って槙野は美冬の左手を取り、薬指をするりと撫でる。

「美冬のここに俺がプレゼントした指輪をつけることでお前には首輪が付いたも同然なんだよ」
 そんな風に囁いて、美冬の首元に指を滑らせる。
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