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9.助けて食われるっ!
助けて食われるっ!④
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当時親友は彼女のことを溺愛していたのである。
もちろん今もその溺愛は続いているのだが。
あんなに溺愛しているのによく我慢できるな、と思ったものだったが、今なら分かる。
怖がっている彼女に無理強いすることなんて、できない。
「なのにお前は煽り倒すし」
槙野は可愛らしい美冬の鼻をつつく。
シャツをまだ半分脱いだままの槙野はシャワーも浴びていない。
シャワーを浴びるか、と身体を起こそうとしたら、ぎゅうっと美冬に抱きつかれた。
抱きついてくる美冬を槙野は見る。
泣かれるなんて、思わなかった。
そしていつもなら女性が泣いたくらいでは動揺などしない槙野がひどく動揺したのだ。
そもそも契約婚なんだから、と拒否するかと思えば、美冬は初めてのくせに抵抗なんか今さらしないと潔さを見せる。
「どれだけだって好きになるだろ……」
槙野は潔い人物が好きだ。
真実こそがいちばん強いから。
隠し事などしてもいずれ露見する。その時に失うもののほうが大きいと、槙野はいろんなことを見てきて知っている。
強くさえあれば、自分を存分に発揮できる。
だから、槙野は契約であっても結婚のことは隠すつもりはなかったし、美冬のことも大事にするつもりだ。たとえ、美冬が自分に対して気持ちがなくても。
シャワーを浴びに行こうと思っていた槙野は美冬がぎゅっと抱きついてくるので、諦めた。
胸の中の美冬を抱き返す。
「全く……俺に我慢をさせるなんて、本当にお前くらいだぞ」
槙野はシャワーを諦めて胸の中の美冬を抱き直し、軽く目を閉じた。
悪い気分ではなかった。
嫌ではなかったと言っていたのだし、慣れてくればそのうちできるようになる。
仕事があれだけできる美冬なのだ、問題はないだろう、というのが槙野の判断だった。
「んー……」
美冬が目を開けると見覚えのない部屋だ。
いや、正確には見覚えはある。昨日の夜寝かされて、えっちなことをしそうになった槙野のベッドだ。
覚悟はしていたはずなのに、気持ちよすぎておかしくなるかと思った。
──ていうか、最初からあんなにおかしくなりそうになるものなの?すっごく、すっごくいやらしかったわ……。
それに槙野の槙野に触ってしまった。初めて触った男性に驚いてこんなの無理!と怖くなってしまったのだが、槙野は優しくしてくれた。
(本当に悪い人じゃないのよね)
けれど、事情があると槙野も言っていたのだ。
あの槙野が結婚しなくてはならないとは余程の事情なのだと思う。
それでも美冬には槙野を嫌いになることなんてできなかった。だって、ずっと抱きしめていてくれた。
その胸の中は安心するものでしかなかったのだから。
その時、ふわんと香ってきたのがコーヒーの香りだ。
美冬はベッドから降りてリビングダイニングに向かう。そっとドアを開けた。
パーカーにスウェットの槙野がキッチンで朝食を準備している。
「おはよ……」
「おう、おはよう。よく寝てたな」
「ごめんなさい、準備手伝わなくて」
もちろん今もその溺愛は続いているのだが。
あんなに溺愛しているのによく我慢できるな、と思ったものだったが、今なら分かる。
怖がっている彼女に無理強いすることなんて、できない。
「なのにお前は煽り倒すし」
槙野は可愛らしい美冬の鼻をつつく。
シャツをまだ半分脱いだままの槙野はシャワーも浴びていない。
シャワーを浴びるか、と身体を起こそうとしたら、ぎゅうっと美冬に抱きつかれた。
抱きついてくる美冬を槙野は見る。
泣かれるなんて、思わなかった。
そしていつもなら女性が泣いたくらいでは動揺などしない槙野がひどく動揺したのだ。
そもそも契約婚なんだから、と拒否するかと思えば、美冬は初めてのくせに抵抗なんか今さらしないと潔さを見せる。
「どれだけだって好きになるだろ……」
槙野は潔い人物が好きだ。
真実こそがいちばん強いから。
隠し事などしてもいずれ露見する。その時に失うもののほうが大きいと、槙野はいろんなことを見てきて知っている。
強くさえあれば、自分を存分に発揮できる。
だから、槙野は契約であっても結婚のことは隠すつもりはなかったし、美冬のことも大事にするつもりだ。たとえ、美冬が自分に対して気持ちがなくても。
シャワーを浴びに行こうと思っていた槙野は美冬がぎゅっと抱きついてくるので、諦めた。
胸の中の美冬を抱き返す。
「全く……俺に我慢をさせるなんて、本当にお前くらいだぞ」
槙野はシャワーを諦めて胸の中の美冬を抱き直し、軽く目を閉じた。
悪い気分ではなかった。
嫌ではなかったと言っていたのだし、慣れてくればそのうちできるようになる。
仕事があれだけできる美冬なのだ、問題はないだろう、というのが槙野の判断だった。
「んー……」
美冬が目を開けると見覚えのない部屋だ。
いや、正確には見覚えはある。昨日の夜寝かされて、えっちなことをしそうになった槙野のベッドだ。
覚悟はしていたはずなのに、気持ちよすぎておかしくなるかと思った。
──ていうか、最初からあんなにおかしくなりそうになるものなの?すっごく、すっごくいやらしかったわ……。
それに槙野の槙野に触ってしまった。初めて触った男性に驚いてこんなの無理!と怖くなってしまったのだが、槙野は優しくしてくれた。
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けれど、事情があると槙野も言っていたのだ。
あの槙野が結婚しなくてはならないとは余程の事情なのだと思う。
それでも美冬には槙野を嫌いになることなんてできなかった。だって、ずっと抱きしめていてくれた。
その胸の中は安心するものでしかなかったのだから。
その時、ふわんと香ってきたのがコーヒーの香りだ。
美冬はベッドから降りてリビングダイニングに向かう。そっとドアを開けた。
パーカーにスウェットの槙野がキッチンで朝食を準備している。
「おはよ……」
「おう、おはよう。よく寝てたな」
「ごめんなさい、準備手伝わなくて」
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