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8.契約書に『アレ』の記載は?
契約書に『アレ』の記載は?②
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「しないのは本当。でも槙野さんがそんな風にするからっ! 思ったのと……違うから」
「へぇ? どういう想像されていたんだろうなあ? 是非とも聞きたいよ、美冬」
(恥ずかしっ!)
「……べ、別に想像とかしてないからっ! それに想像なんてできないよ。したことないんだもん」
「は?」
そういうの聞き返す?
「だから、したことないってば」
「お前……処女なの?」
何度も確認するのは本当にやめていただきたい。
はーっと槙野から聞こえてきたため息は本日何度目だろうか。
もういっそ契約でため息を禁止してほしいくらいだ。
槙野は頭の上で抑えていた美冬の手を離した。
「したことない人をその……処女って言うんだよね?」
「まあ、そうだな」
「……したことない」
苦笑して槙野は美冬の頬を両手で包み込むようにする。
その整った顔がとても近い。
いつも、キリッとしていて人を射抜くような瞳の持ち主で、けれどとても整った顔だ。
それが美冬だけを見つめて、その顔が近づく。
そっと重なった唇は思ったよりも優しかった。
美冬の頬と耳元を指で触れて、何度も何度も唇を重ねる。
その感覚も唇もとても心地よい。
もっとしたい。もっとしてほしい、なんて思うのはおかしいだろうか。
ふと重なったままになった唇が緩く美冬の下唇を喰むから、美冬はくすくすっ、と笑ってしまった。
「んー? どうした?」
「だって……食べられちゃうかと思って」
「食べられるんだよ、今から」
恥ずかしいよ!この人こんなに甘やかな人だった?
「よし!」
そう言って槙野は美冬をソファから抱き上げた。
「ちょっ……重いって」
「言っただろ。さっきのはほんの冗談。重くないよ。それより暴れるな。落とすぞ」
それを聞いた美冬はぎゅうっと槙野に抱きつく。
落とされてはかなわない。
「今からお前のこと抱くから。乱暴にはしない。優しくする。美冬がもっとたくさんしたいって思うくらいに」
別に美冬だって後生大事に取っておいたという訳ではないのだ。
中学も高校も女子校だったし、大学のときはすでにミルヴェイユに片足を入れていて、交際や合コンよりも会社の方が楽しかった。
入社してからはもちろん仕事に夢中で、彼氏なんて作っている暇はなかったのだ。
だからこそ、こうなってしまって、契約結婚なんてするハメになっている。
それでも、その初めての相手がとてもドキドキする人で、今日一日だって何度も新しいところを発見して魅力があって尊敬できて、そんな人ならばむしろ願ったりなのではないだろうか。
もちろん怖い。
怖いけれど、槙野は絶対酷いことはしない。
それは美冬も断言できるのだから。それについては美冬は槙野のことを信頼している。
美冬をそっと寝室のベッドに降ろした槙野は体重をかけないように、優しく美冬に覆いかぶさって、そっと頬を撫でた。
「美冬、俺のことは名前で呼べよ。知っているよな? 夫になるんだし?」
優しく触れる指にも、その低くて甘い声にも美冬はどきんとして言葉に詰まる。
「祐輔……さん」
「さんは要らない」
「ゆ、祐輔?」
「へぇ? どういう想像されていたんだろうなあ? 是非とも聞きたいよ、美冬」
(恥ずかしっ!)
「……べ、別に想像とかしてないからっ! それに想像なんてできないよ。したことないんだもん」
「は?」
そういうの聞き返す?
「だから、したことないってば」
「お前……処女なの?」
何度も確認するのは本当にやめていただきたい。
はーっと槙野から聞こえてきたため息は本日何度目だろうか。
もういっそ契約でため息を禁止してほしいくらいだ。
槙野は頭の上で抑えていた美冬の手を離した。
「したことない人をその……処女って言うんだよね?」
「まあ、そうだな」
「……したことない」
苦笑して槙野は美冬の頬を両手で包み込むようにする。
その整った顔がとても近い。
いつも、キリッとしていて人を射抜くような瞳の持ち主で、けれどとても整った顔だ。
それが美冬だけを見つめて、その顔が近づく。
そっと重なった唇は思ったよりも優しかった。
美冬の頬と耳元を指で触れて、何度も何度も唇を重ねる。
その感覚も唇もとても心地よい。
もっとしたい。もっとしてほしい、なんて思うのはおかしいだろうか。
ふと重なったままになった唇が緩く美冬の下唇を喰むから、美冬はくすくすっ、と笑ってしまった。
「んー? どうした?」
「だって……食べられちゃうかと思って」
「食べられるんだよ、今から」
恥ずかしいよ!この人こんなに甘やかな人だった?
「よし!」
そう言って槙野は美冬をソファから抱き上げた。
「ちょっ……重いって」
「言っただろ。さっきのはほんの冗談。重くないよ。それより暴れるな。落とすぞ」
それを聞いた美冬はぎゅうっと槙野に抱きつく。
落とされてはかなわない。
「今からお前のこと抱くから。乱暴にはしない。優しくする。美冬がもっとたくさんしたいって思うくらいに」
別に美冬だって後生大事に取っておいたという訳ではないのだ。
中学も高校も女子校だったし、大学のときはすでにミルヴェイユに片足を入れていて、交際や合コンよりも会社の方が楽しかった。
入社してからはもちろん仕事に夢中で、彼氏なんて作っている暇はなかったのだ。
だからこそ、こうなってしまって、契約結婚なんてするハメになっている。
それでも、その初めての相手がとてもドキドキする人で、今日一日だって何度も新しいところを発見して魅力があって尊敬できて、そんな人ならばむしろ願ったりなのではないだろうか。
もちろん怖い。
怖いけれど、槙野は絶対酷いことはしない。
それは美冬も断言できるのだから。それについては美冬は槙野のことを信頼している。
美冬をそっと寝室のベッドに降ろした槙野は体重をかけないように、優しく美冬に覆いかぶさって、そっと頬を撫でた。
「美冬、俺のことは名前で呼べよ。知っているよな? 夫になるんだし?」
優しく触れる指にも、その低くて甘い声にも美冬はどきんとして言葉に詰まる。
「祐輔……さん」
「さんは要らない」
「ゆ、祐輔?」
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