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7.狼さんとうさぎさん
狼さんとうさぎさん④
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「美冬はいっぱい、ありがとうって言ってくれるんだな。そういうの、いいな」
ドキッとした。
すっごくドキッとした。
そんなことに気づいてくれる人だということにも驚いたし、その笑顔は普段が怖いだけに笑った時の顔が割と良くてドキドキするのだ。
(ギャップ萌えってやつかしら)
ずるいなあ……と思う。
仕事もできて人情があって、優しくてよく気がつく。
美冬はバスルームに向かった。
服を脱いで、槙野に言われた通り洗濯機の中に下着を入れてボタンを押す。
シャンプーやコンディショナーもドラッグストアのものではなくて、美冬がよく知っている海外ブランドのものがラインで置いてあった。
とても爽やかないい香りのものだ。おそらくは香水とセットで使っているのだろう。
ほんっとうにズルい。
槙野が怖いなんて、最初の印象だけだ。
そばにいればいるほど、その優しさとか頭をポンとする時の甘い顔とか飾らないところとか、どんどん魅力的なところばかりを見せられる。
美冬はきゅっとコックを捻ってシャワーを頭から浴びた。
槙野にはどんどん魅力的なところを見せられるのに、自分は槙野に情けないところしか見せられていないのが切ない。
酔っ払ってベッドに放り込まれるとか……。
しかも、腕がちぎれるとか言われたわ。
──契約……だもんなぁ。槙野さん、事情があると言っていたし。
コンコン、とバスルームのドアをノックされて、外から「美冬」と呼ばれて、美冬はどきっとして、慌ててシャワーを止めた。
「はいっ」
「着替え、ここ置いとくから。しっかり温まって出てこいよ」
「はーい。ありがとうございます」
リビングに戻った槙野はソファに身体を投げ出す。
酔っ払った美冬はとんでもなく可愛かった。
少し舌っ足らずな喋り方と甘えるような仕草と。隣に座ってそのくるくると変わる表情を見ていた。
たくさん食べて、たくさん飲んで、楽しかったら笑って、槙野に偉そうとか感じ悪いとか面と向かって言ってくるような人は意外といないものだ。
そんなことすら、美冬にはなぜか腹も立たない。
小動物みたいだからだろうか。
小さくて白くてぴょんぴょんしていて、くりんと大きな瞳でじっと見てきたりする。
一緒にいてもさすがに経営者なだけのことはあり、美冬は頭の回転も早く、会話に困るようなこともない。
意外と話していて楽しい。
帰りのタクシーの中ではふわん、と寄りかかってくるので、胸元にきゅっと抱いたら、甘えるように頭を擦り寄せてきた。
契約なのに。
契約だからこそ今日は美冬の祖父のところに挨拶に行ったのに、あんな風に甘えられたら、誤解してしまいそうになる。
それでも、槙野は美冬を手離すつもりは一切なかった。
自分ばかりがどんどん美冬を好きになっていってしまって、美冬に気持ちがないのが少しだけ切ない。
タクシーの中ですっかり眠ってしまった美冬を抱き上げて部屋まで連れていった。
そっとベッドに寝かせて、ジャケットを脱がせて、靴をぬがせても、起きないにいたっては大丈夫か、こいつ?と槙野はちょっと不安になったものである。
ドキッとした。
すっごくドキッとした。
そんなことに気づいてくれる人だということにも驚いたし、その笑顔は普段が怖いだけに笑った時の顔が割と良くてドキドキするのだ。
(ギャップ萌えってやつかしら)
ずるいなあ……と思う。
仕事もできて人情があって、優しくてよく気がつく。
美冬はバスルームに向かった。
服を脱いで、槙野に言われた通り洗濯機の中に下着を入れてボタンを押す。
シャンプーやコンディショナーもドラッグストアのものではなくて、美冬がよく知っている海外ブランドのものがラインで置いてあった。
とても爽やかないい香りのものだ。おそらくは香水とセットで使っているのだろう。
ほんっとうにズルい。
槙野が怖いなんて、最初の印象だけだ。
そばにいればいるほど、その優しさとか頭をポンとする時の甘い顔とか飾らないところとか、どんどん魅力的なところばかりを見せられる。
美冬はきゅっとコックを捻ってシャワーを頭から浴びた。
槙野にはどんどん魅力的なところを見せられるのに、自分は槙野に情けないところしか見せられていないのが切ない。
酔っ払ってベッドに放り込まれるとか……。
しかも、腕がちぎれるとか言われたわ。
──契約……だもんなぁ。槙野さん、事情があると言っていたし。
コンコン、とバスルームのドアをノックされて、外から「美冬」と呼ばれて、美冬はどきっとして、慌ててシャワーを止めた。
「はいっ」
「着替え、ここ置いとくから。しっかり温まって出てこいよ」
「はーい。ありがとうございます」
リビングに戻った槙野はソファに身体を投げ出す。
酔っ払った美冬はとんでもなく可愛かった。
少し舌っ足らずな喋り方と甘えるような仕草と。隣に座ってそのくるくると変わる表情を見ていた。
たくさん食べて、たくさん飲んで、楽しかったら笑って、槙野に偉そうとか感じ悪いとか面と向かって言ってくるような人は意外といないものだ。
そんなことすら、美冬にはなぜか腹も立たない。
小動物みたいだからだろうか。
小さくて白くてぴょんぴょんしていて、くりんと大きな瞳でじっと見てきたりする。
一緒にいてもさすがに経営者なだけのことはあり、美冬は頭の回転も早く、会話に困るようなこともない。
意外と話していて楽しい。
帰りのタクシーの中ではふわん、と寄りかかってくるので、胸元にきゅっと抱いたら、甘えるように頭を擦り寄せてきた。
契約なのに。
契約だからこそ今日は美冬の祖父のところに挨拶に行ったのに、あんな風に甘えられたら、誤解してしまいそうになる。
それでも、槙野は美冬を手離すつもりは一切なかった。
自分ばかりがどんどん美冬を好きになっていってしまって、美冬に気持ちがないのが少しだけ切ない。
タクシーの中ですっかり眠ってしまった美冬を抱き上げて部屋まで連れていった。
そっとベッドに寝かせて、ジャケットを脱がせて、靴をぬがせても、起きないにいたっては大丈夫か、こいつ?と槙野はちょっと不安になったものである。
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