契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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7.狼さんとうさぎさん

狼さんとうさぎさん②

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「これくらいでもいいけどな。美冬が欲しいものにしたらいいけど、あまり高いのは無理だぞ」 

 これぐらいでもいいけど、と別のブランドの画面を見せられる美冬だ。
 今表示されている指輪の金額は300万円である。

 いや……違うくて、さっきのが不満だったとかそういうことではなくて……。
「えーと、これより高いものはおねだりするなっていう……」

「まあ、これぐらいならいいけど」
 槙野はさらっと言う。
 じゃあ無理な高いのっておいくら万円の想定なの?こわっ!!金銭感覚おかしくない?!

「適当でいいよ」
「じゃあ、今度見に行こう」
 美冬は深く考えないことにして、こくりと頷いた。もうおまかせにしよう。



「美味しいものは人の心を癒すのね」
「おお、美冬語録か?」
「事実です」

 とても美味しい焼鳥と、とても美味しいお酒を頂いて、美冬はご機嫌だった。
「お前、酔っ払ってんの?」
「酔ってないもん」

「酔っ払うなよ。適当にしておけよ」
 酔ってはいない。ただ、ふわふわとして気分が良いだけだ。

「槙野さんってぇ、ほんっとにエラそう! 感じ悪っ」
「感じ悪くて悪かったな」

 そんなことは言われ慣れているのか、美冬を酔っ払いだと思っているのか、その両方なのか、槙野にはさらりと流される。

「なのに~、すっごく優しい時とかあるし、なんなのもう」
「ほら、美冬はもう水飲んどけ。付き合いもあるだろうにそんなんで大丈夫なのか? 普段は」

 美冬は気分がいいから槙野の呆れたような声にも腹は立たない。

「私はお付き合いはあまりないの。一人で行くこともほとんどないし。この前一緒にいた理恵さんと行くことが多いかな」
「そうか」

「槙野さんはいっぱいズルいわ」
「俺のどこが?」

「だって、おじいちゃんの前でも全然動じないし、そんな有名な人なんて全然知らなかった」
「知る必要がなかったんだろう」

「それに、エレベーターのおばあさんにもすごく優しいし……」
「うちには年寄りもいたからな。子供の頃からの習慣だな」

 お年寄りが身近にいる環境。槙野の実家というのが想像できない美冬だ。

「ふーん。じゃあ、今度ご挨拶の時会えるの?」
「いや、亡くなってるから」

「そっか……。狼じゃ飼い慣らせないわ」
 最後の一言は美冬としては心の中でつぶやいたつもりだったので、とても小さな声で槙野の耳には届いていなかったらしい。

「え? 何?」
「なんでも……」
「酔っ払ってんなお前。大将、お会計してタクシー呼んでくれ」

──酔ってないもん。

 ただ、美冬はずっとコンペの為に仕事を頑張っていたことは間違いなくて、その後のリテイクの企画書の作成も頑張っていたことは間違いない。

 慣れない仕事で多少疲労はあったかもしれないし、考えなければいけないことが山積みになっていたこともあったかもしれない。
 祖父に槙野を会わせて気に入ってもらえたようでもあり、少し気が抜けたのも事実だ。

 そんなことを考えながら、美冬はいつの間にかタクシーに乗せられていて、槙野にもたれて眠ってしまっていた。
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