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7.狼さんとうさぎさん
狼さんとうさぎさん①
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初めに待ち合わせをした場所が高層ビル内のフレンチレストランだったので、またそんな店に連れていくのかと思ったら槙野が美冬を連れて行ったのは焼鳥屋だったのである。
「鳥は食べれるか?」
そんな言葉で。
「鳥……うん。結構好き」
「そうか。じゃあ、うまい店につれていってやろう」
槙野が連れて行ってくれた焼鳥屋は、黒い壁に木の板で店名が書かれてある内装も黒くて、お洒落なバーのような焼鳥屋だった。
店内の客も一人で来ているような感じの人も数人いて、居心地はよさそうだ。
そんな中、槙野は愛想のよい女将に声を掛けられている。
「珍しいですね、お一人じゃないの」
「うん。婚約者」
けろっとそんな風に紹介するので、美冬の方が戸惑ってしまった。あわてて美冬は女将に頭を下げる。
「あらら、それはおめでとうございます。まあ、とっても可愛い方じゃないの、槙野さん!」
「まぁね、でもあまり言わないでやって。調子に乗るといけないから」
「乗らないよ」
いつも槙野がほっぺたを引っ張ろうとするので、美冬は槙野の腕をつんつんつつく。
すると、槙野に笑顔を向けられた。
「多少は乗ってもいいぞ。それくらいには可愛いからな」
二人のやり取りに女将さんはくすくす笑って席に案内する。そしておしぼりで手を拭いていた美冬の左手に目をやったのだ。
「あら? 指輪もまだなのね?」
指輪もまだの婚約したてなのねと、そう言われて美冬と槙野の二人は顔を見合わせる。
「忘れてたわ」
「いるよな?」
契約書の作成やお互いの家への挨拶などに夢中になってしまって、婚約指輪の存在を忘れていた二人だったのだ。
カウンター席に案内されたので、槙野は美冬の隣に座っている。その近い距離に美冬は戸惑うのに、槙野は全く平気な顔をしていた。
(それはそうよね。好みじゃないんだから。私だって好みじゃないもん)
槙野がふと肩を寄せてお品書きを見せてくれる。
「嫌いなものはあるか?」
「ううん」
「なんでも食べれるのか。それはいいな。俺は偏食があまり好きじゃないんだ。じゃあ、おまかせでもいいか?」
大将にはお任せで、と頼んで生ふたつと女将に槙野は声を掛けている。
その様子はとても慣れていてお店の常連なのだろうという感じがした。
槙野は美冬にそんなことを聞いておいて、自分はスマートフォンで何かしている。
手持ち無沙汰な美冬はビールを飲みつつ、突き出しを箸でつまんだりしていた。
「悪いな。会社にメールとか送っていた」
そう言えば槙野は仕事を抜けて祖父に挨拶に来てくれていたのだった。美冬のために。
「そうよね。わざわざごめんなさい。本当に忙しいのね、槙野さん」
「いや……なるべくそう見せたくはないんだがな。美冬は指輪、どんなのがいい?」
見せられたスマートフォンの画面には何やらキラキラした指輪と130万円~という金額が表示されている。
「え……」
婚約指輪だ。確かに必要だとは思うけれど、付けられる期間は短いだろう。
──それにこの値段!?
さすがに一瞬ひるんだ美冬に、槙野は別のブランドの商品を見せる。
「鳥は食べれるか?」
そんな言葉で。
「鳥……うん。結構好き」
「そうか。じゃあ、うまい店につれていってやろう」
槙野が連れて行ってくれた焼鳥屋は、黒い壁に木の板で店名が書かれてある内装も黒くて、お洒落なバーのような焼鳥屋だった。
店内の客も一人で来ているような感じの人も数人いて、居心地はよさそうだ。
そんな中、槙野は愛想のよい女将に声を掛けられている。
「珍しいですね、お一人じゃないの」
「うん。婚約者」
けろっとそんな風に紹介するので、美冬の方が戸惑ってしまった。あわてて美冬は女将に頭を下げる。
「あらら、それはおめでとうございます。まあ、とっても可愛い方じゃないの、槙野さん!」
「まぁね、でもあまり言わないでやって。調子に乗るといけないから」
「乗らないよ」
いつも槙野がほっぺたを引っ張ろうとするので、美冬は槙野の腕をつんつんつつく。
すると、槙野に笑顔を向けられた。
「多少は乗ってもいいぞ。それくらいには可愛いからな」
二人のやり取りに女将さんはくすくす笑って席に案内する。そしておしぼりで手を拭いていた美冬の左手に目をやったのだ。
「あら? 指輪もまだなのね?」
指輪もまだの婚約したてなのねと、そう言われて美冬と槙野の二人は顔を見合わせる。
「忘れてたわ」
「いるよな?」
契約書の作成やお互いの家への挨拶などに夢中になってしまって、婚約指輪の存在を忘れていた二人だったのだ。
カウンター席に案内されたので、槙野は美冬の隣に座っている。その近い距離に美冬は戸惑うのに、槙野は全く平気な顔をしていた。
(それはそうよね。好みじゃないんだから。私だって好みじゃないもん)
槙野がふと肩を寄せてお品書きを見せてくれる。
「嫌いなものはあるか?」
「ううん」
「なんでも食べれるのか。それはいいな。俺は偏食があまり好きじゃないんだ。じゃあ、おまかせでもいいか?」
大将にはお任せで、と頼んで生ふたつと女将に槙野は声を掛けている。
その様子はとても慣れていてお店の常連なのだろうという感じがした。
槙野は美冬にそんなことを聞いておいて、自分はスマートフォンで何かしている。
手持ち無沙汰な美冬はビールを飲みつつ、突き出しを箸でつまんだりしていた。
「悪いな。会社にメールとか送っていた」
そう言えば槙野は仕事を抜けて祖父に挨拶に来てくれていたのだった。美冬のために。
「そうよね。わざわざごめんなさい。本当に忙しいのね、槙野さん」
「いや……なるべくそう見せたくはないんだがな。美冬は指輪、どんなのがいい?」
見せられたスマートフォンの画面には何やらキラキラした指輪と130万円~という金額が表示されている。
「え……」
婚約指輪だ。確かに必要だとは思うけれど、付けられる期間は短いだろう。
──それにこの値段!?
さすがに一瞬ひるんだ美冬に、槙野は別のブランドの商品を見せる。
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