契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

文字の大きさ
上 下
27 / 109
7.狼さんとうさぎさん

狼さんとうさぎさん①

しおりを挟む
 初めに待ち合わせをした場所が高層ビル内のフレンチレストランだったので、またそんな店に連れていくのかと思ったら槙野が美冬を連れて行ったのは焼鳥屋だったのである。

「鳥は食べれるか?」
 そんな言葉で。
「鳥……うん。結構好き」
「そうか。じゃあ、うまい店につれていってやろう」

 槙野が連れて行ってくれた焼鳥屋は、黒い壁に木の板で店名が書かれてある内装も黒くて、お洒落なバーのような焼鳥屋だった。
 店内の客も一人で来ているような感じの人も数人いて、居心地はよさそうだ。

 そんな中、槙野は愛想のよい女将に声を掛けられている。
「珍しいですね、お一人じゃないの」  

「うん。婚約者」
 けろっとそんな風に紹介するので、美冬の方が戸惑ってしまった。あわてて美冬は女将に頭を下げる。

「あらら、それはおめでとうございます。まあ、とっても可愛い方じゃないの、槙野さん!」
「まぁね、でもあまり言わないでやって。調子に乗るといけないから」
「乗らないよ」

 いつも槙野がほっぺたを引っ張ろうとするので、美冬は槙野の腕をつんつんつつく。
 すると、槙野に笑顔を向けられた。
「多少は乗ってもいいぞ。それくらいには可愛いからな」

 二人のやり取りに女将さんはくすくす笑って席に案内する。そしておしぼりで手を拭いていた美冬の左手に目をやったのだ。

「あら? 指輪もまだなのね?」

 指輪もまだの婚約したてなのねと、そう言われて美冬と槙野の二人は顔を見合わせる。
「忘れてたわ」
「いるよな?」

 契約書の作成やお互いの家への挨拶などに夢中になってしまって、婚約指輪の存在を忘れていた二人だったのだ。



 カウンター席に案内されたので、槙野は美冬の隣に座っている。その近い距離に美冬は戸惑うのに、槙野は全く平気な顔をしていた。

(それはそうよね。好みじゃないんだから。私だって好みじゃないもん)
 槙野がふと肩を寄せてお品書きを見せてくれる。

「嫌いなものはあるか?」
「ううん」
「なんでも食べれるのか。それはいいな。俺は偏食があまり好きじゃないんだ。じゃあ、おまかせでもいいか?」

 大将にはお任せで、と頼んで生ふたつと女将に槙野は声を掛けている。
 その様子はとても慣れていてお店の常連なのだろうという感じがした。
 槙野は美冬にそんなことを聞いておいて、自分はスマートフォンで何かしている。

 手持ち無沙汰な美冬はビールを飲みつつ、突き出しを箸でつまんだりしていた。
「悪いな。会社にメールとか送っていた」

 そう言えば槙野は仕事を抜けて祖父に挨拶に来てくれていたのだった。美冬のために。

「そうよね。わざわざごめんなさい。本当に忙しいのね、槙野さん」
「いや……なるべくそう見せたくはないんだがな。美冬は指輪、どんなのがいい?」

 見せられたスマートフォンの画面には何やらキラキラした指輪と130万円~という金額が表示されている。

「え……」
 婚約指輪だ。確かに必要だとは思うけれど、付けられる期間は短いだろう。

──それにこの値段!?

 さすがに一瞬ひるんだ美冬に、槙野は別のブランドの商品を見せる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。

海月いおり
恋愛
昔からプログラミングが大好きだった黒磯由香里は、念願のプログラマーになった。しかし現実は厳しく、続く時間外勤務に翻弄される。ある日、チームメンバーの1人が鬱により退職したことによって、抱える仕事量が増えた。それが原因で今度は由香里の精神がどんどん壊れていく。 総務から産業医との面接を指示され始まる、冷酷な精神科医、日比野玲司との関わり。 日比野と関わることで、由香里は徐々に自分を取り戻す……。

【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。 そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。 最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。 そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。 上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。 貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。 実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、 上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。 そこで知ったルーカスの秘密。 彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。 元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。 戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。 シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。 所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。 そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。 心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。 けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。 シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか―― ※他サイトでも公開しています

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...