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6.手順もあるんです
手順もあるんです⑤
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横を見ると今度は槙野が肩を揺らしている。
くすくすと笑うその顔が楽しそうで……悔しいけど魅力のない人でもないわ。
美冬も素直に魅力のある人物だと認めることができない。最初の印象があまりにも悪すぎたのだ。
「とにかくおじいちゃんそういうことなの」
だから社長は辞めないから。
そう言おうと思った美冬に祖父が口を挟んだ。
「美冬、式はするんだろうな?」
「当たり前よ。槙野さんもそこは分かってくれてるもの」
ね?と美冬は首を傾げる。
それにも鷹揚な雰囲気で微笑んで槙野は頷いた。美冬のわがまますら可愛くて仕方ないという感じだ。
「俺も美冬の花嫁姿は見たいしな」
──あっま……。
眼光鋭く人を殺そうかというような視線で見る人なのかと思ったら、恋人にはとても甘い人なのかも知れない。
それか、契約を守り切ろうとしているか。
(……まあ、槙野さんならどちらかというと後者よね)
美冬はそれを契約を守り切ろうとしているのだと判断した。
「では結婚式を挙げて入籍したら、会社のことはちゃんとしよう」
祖父は美冬にそう言った。
「約束よ」
美冬は立ち上がる。
横で槙野も一緒に立ち上がったのが分かった。
その場に槙野の低い声が響く。
「椿さん、僕は美冬さんを守ります。彼女のやりたいようにやらせてあげたい。それに、ミルヴェイユは素晴らしいブランドで、彼女も会社を愛している。それは理解しています」
そうして槙野は美冬の肩を抱いた。
祖父からはとても大事にしているように見えるだろう。
少しだけちくっとしたその胸の痛みには美冬は気付かなかったふりをした。
「ふうん。まあ、幸せになりなさい」
「なるわよ。見てて」
そう言って美冬はぎゅうっと槙野の腕にしがみついたのだった。
槙野は一瞬ぎょっとしていたようだったけれど、ふっと笑って美冬の頭を撫でる。
ほんっとにこんなに甘いの、ズルくない?
「おじいちゃん、また来るね」
笑って美冬は祖父に向かって手をひらひらさせた。そうして二人で病室を出る。
しばらく歩いて美冬と槙野は一斉にため息をついた。
「ごめん!」
慌てて美冬は槙野の腕に絡ませていた自分の手を外した。
「いや? しかしすげー緊張した。さすがに迫力あるな」
「そう?」
美冬にとっては祖父だけれど、槙野にはまた違う気持ちがあるのかもしれなかった。
「ところで……誰が大根だって?」
──んんっ?
「ヤァネ、オジイチャン、ソンナワケナイジャナイって、ドン引くほど棒読み」
槙野が美冬の真似をして笑うから、赤くなった美冬は槙野の肩をポンッと叩く。
「もうっ! やめてよっ」
「これからまだ、美冬ん家の家族にも挨拶はあるぞー」
「槙野さんのお家にもねっ!」
「頼むぞ、大根ちゃん」
くっそー!言い返せないのが悔しいわっ!
しかも楽しそうなその笑顔なんなのよっ。
ちょっと……素敵じゃない。ちょっとだけだけど。
「なんか腹減ったな……」
槙野はお腹を抑えて俯いていた。確かに夕食の時間はとっくに越えている。
「なにか食べる?」
「仕事を残してきてるんだが。まあ、今さらそんな気分でもないな。メシでも行くか?」
腕時計を確認しながら、槙野は美冬にそう尋ねた。
そうなのだ。槙野はとても忙しい人なのだ。
「いいの?」
「集中できないのに会社に戻っても仕方ない。ご馳走しますよ、お嬢さま」
槙野が美冬を覗き込むその顔がいたずらっぽい。
本当にもう、すぐ人をからかって!
美冬は槙野に対して最初の時のような怖さは、もう今は全くなくなっていた。
くすくすと笑うその顔が楽しそうで……悔しいけど魅力のない人でもないわ。
美冬も素直に魅力のある人物だと認めることができない。最初の印象があまりにも悪すぎたのだ。
「とにかくおじいちゃんそういうことなの」
だから社長は辞めないから。
そう言おうと思った美冬に祖父が口を挟んだ。
「美冬、式はするんだろうな?」
「当たり前よ。槙野さんもそこは分かってくれてるもの」
ね?と美冬は首を傾げる。
それにも鷹揚な雰囲気で微笑んで槙野は頷いた。美冬のわがまますら可愛くて仕方ないという感じだ。
「俺も美冬の花嫁姿は見たいしな」
──あっま……。
眼光鋭く人を殺そうかというような視線で見る人なのかと思ったら、恋人にはとても甘い人なのかも知れない。
それか、契約を守り切ろうとしているか。
(……まあ、槙野さんならどちらかというと後者よね)
美冬はそれを契約を守り切ろうとしているのだと判断した。
「では結婚式を挙げて入籍したら、会社のことはちゃんとしよう」
祖父は美冬にそう言った。
「約束よ」
美冬は立ち上がる。
横で槙野も一緒に立ち上がったのが分かった。
その場に槙野の低い声が響く。
「椿さん、僕は美冬さんを守ります。彼女のやりたいようにやらせてあげたい。それに、ミルヴェイユは素晴らしいブランドで、彼女も会社を愛している。それは理解しています」
そうして槙野は美冬の肩を抱いた。
祖父からはとても大事にしているように見えるだろう。
少しだけちくっとしたその胸の痛みには美冬は気付かなかったふりをした。
「ふうん。まあ、幸せになりなさい」
「なるわよ。見てて」
そう言って美冬はぎゅうっと槙野の腕にしがみついたのだった。
槙野は一瞬ぎょっとしていたようだったけれど、ふっと笑って美冬の頭を撫でる。
ほんっとにこんなに甘いの、ズルくない?
「おじいちゃん、また来るね」
笑って美冬は祖父に向かって手をひらひらさせた。そうして二人で病室を出る。
しばらく歩いて美冬と槙野は一斉にため息をついた。
「ごめん!」
慌てて美冬は槙野の腕に絡ませていた自分の手を外した。
「いや? しかしすげー緊張した。さすがに迫力あるな」
「そう?」
美冬にとっては祖父だけれど、槙野にはまた違う気持ちがあるのかもしれなかった。
「ところで……誰が大根だって?」
──んんっ?
「ヤァネ、オジイチャン、ソンナワケナイジャナイって、ドン引くほど棒読み」
槙野が美冬の真似をして笑うから、赤くなった美冬は槙野の肩をポンッと叩く。
「もうっ! やめてよっ」
「これからまだ、美冬ん家の家族にも挨拶はあるぞー」
「槙野さんのお家にもねっ!」
「頼むぞ、大根ちゃん」
くっそー!言い返せないのが悔しいわっ!
しかも楽しそうなその笑顔なんなのよっ。
ちょっと……素敵じゃない。ちょっとだけだけど。
「なんか腹減ったな……」
槙野はお腹を抑えて俯いていた。確かに夕食の時間はとっくに越えている。
「なにか食べる?」
「仕事を残してきてるんだが。まあ、今さらそんな気分でもないな。メシでも行くか?」
腕時計を確認しながら、槙野は美冬にそう尋ねた。
そうなのだ。槙野はとても忙しい人なのだ。
「いいの?」
「集中できないのに会社に戻っても仕方ない。ご馳走しますよ、お嬢さま」
槙野が美冬を覗き込むその顔がいたずらっぽい。
本当にもう、すぐ人をからかって!
美冬は槙野に対して最初の時のような怖さは、もう今は全くなくなっていた。
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