契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら

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5.事情があるんです

事情があるんです③

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 槙野はその池森の言葉を信じて、社長の木崎と連絡を取ったのだ。一度食事でもしながら内容を聞きたいというので、個室の会席料理を予約した。

 現れたのはがっつり化粧の濃い、香水と化粧品の匂いで料理の香りなぞは飛んでしまいそうな妙齢の女性だ。全身をブランド物で包んでなかなかに押しの強そうな人物だった。

(なるほど、池森がアグレッシブだというわけだ)
 納得して、けれどそんなことに負けるような槙野ではない。

 先方もしっかり槙野の話を聞いて了承はもらったものの、なんだか不穏な気がした槙野だった。

 あまりの迫力に押されて失念していたが、こういう時に槙野の勘が外れたことはなかったのだ。

 ◇ ◇ ◇

 コンぺ当日、『ミルヴェイユ』からは三人の人物が参加していた。

 男性一人と女性二人。代表者が女性であることは知っていたけれど、その中でも最も若い女性が代表だったのは意外だった。

 ふと、片倉を見ると全く動揺はしていないので知っていたような気がする。

 企画の内容は甘くてとても使えるようなものではなかったし、槙野の質問にもしどろもどろになってしまって、代表者の女性はそもそもそういう場には慣れていないんだろうと感じた。

 それでも、おっ……っと思ったのは片倉に『次があれば』と言われたときにその女性社長が
「今頂いた宿題を必ずお持ちします」
と片倉をまっすぐに見返したところだ。

 面白くない仕事かと思ったけれど、こういうところがあるならば悪くない。

 プレゼンが終わって会議室の外に出たときだ。
「槙野さん」
 槙野に声をかけたのは、オブザーバーとして参加してもらっていた木崎だった。

「はい」
 槙野は足を止めた。腕を組んだ木崎が槙野に近寄ってくる。槙野の前に立った。
 当然のことながら彼女は全くひるむことはない。

 身長の高い槙野に顎を上げ、話しかけてくる。

「ミルヴェイユには価値があります。50年も続いているアパレルブランドなんて数少ないんです。椿さんを助けて差し上げてくださいね」

「彼女次第でしょうね」
 事務的に返した槙野に木崎は目を細めた。
「では彼女にバックがついたらどうなのかしら?」

「どういう意味です?」
「業務提携。全く違う企業だから意味があると思うのだけれど」

 木崎は『ミルヴェイユ』と業務提携してもいいと言っているのだ。

「なぜそんな……」
「一つにはミルヴェイユは私にも憧れのブランドだからよ。そしてもう一つは……そうね、今日の夜、お時間を頂けないかしら?」

 そう言って妖艶に見つめられたものの、その木崎の目の奥が冷静だったことを槙野は見逃していなかった。

 一体、何を企んでいる?
 木崎に呼び出されたのはおしゃれなバーだ。そこで散々飲まされたのだ。槙野はアルコールには強いほうなので、なんとかそれにはついていったのだが……。

 ──つぶそうとしてないか!?

 意識が朦朧とし始めた頃だ。
「お母さまっ!」
 大福だ。大福が話している。

「こちらの方が私の結婚相手ですか?」

 ちょっと待て……だれが大福の結婚相手だ……?大福と結婚するのは大福か?いや、大福じゃないな、人か?女性?
 なぜ、俺の方をじっと見ている⁉︎ロックオンされてないか?

「そうよ、綾奈ちゃん。ステキな方でしょう?」
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